僕は喜多方の町が大好きだ。事ある度に立ち寄っている。今回も旅の岐路に立ち寄った。喜多方ラーメンの老舗「あべ食堂」のラーメンを食べようと決めていた。行列ができる有名店で、その行列に並ぶ根気がなく、一回も食べたことがなかった。一度、台風の時だったか、コロナ禍だったか、喜多方に立ち寄った際に、最大のチャンスがあった。実はどうせ混んでいるだろうと別の店でさっさとラーメンを食べた。食後に散策すると、あべ食堂に行列はなかった。滅多にない奇跡だ。喜多方ラーメンはあっさりしているので、2杯くらいは食べることはできると思う。だが僕はカロリーとか塩分のことを思い悩み、絶好の機会を逃してしまった。どこかで「ここで食べないと一生食べることが出来ないかも」という想いがあった。
今回はそんな想いを払拭すべく、例え1時間でも並んで食べようと、並々ならぬ覚悟を決めていた。そして店に行くと・・・・。嗚呼、営業していない。というか店は廃業していた。知らなかった。移転したのかもと思ったけど、聞けば間違いなく廃業だった。仕方なく僕はいつも通りの喜多方の町の巡回を続け、いつも通りの写真を撮り、あべ食堂の代わりに別の知らない店に入った。こうして旅のおまけも終わってしまった。
追伸:代わりに入った店でのことである。外から見ればラーメン店だけど、既存の別店舗と内部で繋がっていて、どちらも高齢の店主がみていた。若い女性の先客がいた。聞くともなしに聞こえる会話から、いまは県外に出ている元地元民で、店主とは小さな頃から顔馴染みのようだった。女性客は「おじちゃんがラーメンやるなんて思わなかった。凄いね」という意味のことを言っていた。それに対するおじちゃんの応えが衝撃的だった。
「何にも凄くないよ。指導するコンサルタント(多分商工会?)はいるから、誰でも作れるようになる。メニューなんかも考えてくれる。でも本当のラーメン屋は喜多方でも数えるほどで、うちみたいな店は底辺中の底辺だ。客も知らずに来る観光客くらいで(おい!)、数人しか来ない日ばかりだよ。本当にゼロの日だってある。正直、味も底辺だから仕方ない」。・・・・。確かにそうかもしれない。そして自虐ユーモアで大げさに言ったのかもしれない。でも数少ない客である僕がいる前では言うなよ(笑)。でも、おじちゃん。言うほど悪くなかったよ。専門店からの高品質麺はいまいちだったけど、スープは独特のコクがあった。この揺らぎが食の面白さでもある。
X-PRO3 / XF23mm F2R WR