民主党が党分裂の最終局面に突入した。消費税増税を柱とする「社会保障と税の一体改革」関連法案をめぐり、野田佳彦首相は党内多数を押さえたが、小沢一郎元代表は「増税反対」の旗を降ろさず、21日午前、輿石東幹事長と国会内で会談し、「増税法案に反対する」と通告した。
その後の緊急会見で、事実上の新党結党宣言を行った。今後の焦点は、小沢氏が、党執行部による切り崩し工作のなか、与党だけで過半数(239議席)に届かなくなる54人以上を確保できるかどうかに移った。
「私どもの大義の旗は『国民の生活が第一』。約束したことを守り、実行し実現するにはどうすればいいかだ。長期デフレや、ユーロの金融不安から世界経済の悪化が懸念されているときに、増税とは聞いたことがない。野田首相もあの選挙の時、『シロアリ退治を徹底的にやる』と言ったはず。われわれの主張は国民のための正義。曲げることはできない」
小沢氏は21日、輿石氏との会談後、国会内で記者団にこう語った。「離党して、新党を立ち上げるのか?」と聞かれると、「現時点で、離党や新党を具体的に計画しているわけではないが、(増税法案の)採決後に仲間と相談して最善の道を選びたい」と答えた。
ただ、小沢グループは今週初めから、東京・赤坂のホテル内に拠点を構え、新党結党を視野に多数派工作を展開している。この日の小沢発言は、事実上の「離党・新党結党宣言」に他ならない。民主党分裂は刻々と迫っている。
これに先立ち、民主、自民、公明3党幹事長が同日午前、国会内で会談した。民主党内で増税法案などの修正合意が了承されたことから、3党は法案成立で正式に合意した。自公両党側の要求を受けて、輿石氏は「(22日の衆院採決に)最大限努力する」と述べた。
永田町が注目するのは、小沢グループ中心に何人が衆院採決で造反し、小沢新党に参集するかだ。
民主、自民、公明3党が合意したため、増税法案などの衆院可決は問題ないが、もし、小沢氏が54人以上を確保すると、野田首相や民主党にとっては面倒になる。与党過半数を失い、野党が内閣不信任案を提出した場合、小沢新党が同調すると可決されかねないのだ。
小沢グループ幹部は先週末、「選挙区では『増税反対』の反応がいい。現状で、反対投票が50人弱、棄権が約20人で、計70人は固めた。造反者はもっと増える」と豪語していた。21日昼、小沢氏を会長とする勉強会「新しい政策研究会」にも衆院70人、参院23人が参加。小沢氏は「何のために政治家になったのか、思い起こして欲しい」と呼びかけた。
54人以上の確保に自信があるように見えるが、官邸筋はまったく違った見方をする。
「20日夕の段階で『反対41人、棄権20人』という数字を得ている。小沢グループの多数派工作はそれほど進んでいないようだ。41人の中には、19日に小沢氏と会って説得された鳩山由紀夫元首相も含まれているらしい。この程度なら、41人については厳しく除名処分に、20人は温情で厳重注意だけにして、小沢グループを分断する」
つまり、小沢新党が40人程度なら、「小沢グループは消費税でもTPP(環太平洋戦略的経済連携協定)でも『反対、反対』ばかり。党内融和を乱すだけだから、離党してもらって構わない」(党執行部周辺)という姿勢のようだ。
21日の小沢発言についても、首相周辺は「大した影響はない」といい、こう語った。
「実は、小沢氏は同調者が集まらずに、焦っているのではないか。週刊文春が先週報じた『(東日本大震災後、小沢氏は)放射能が怖くて逃げていた』という小沢夫人の手紙が効いているのだろう。
大体、選挙目当てのバラマキ政策を並べたのは、小沢、鳩山両氏。メディアで『増税反対』『国民の味方』をアピールして、劣勢挽回を図っているように見える」
小沢グループは21日夕、都内で会合を開き、今後の対応を協議する。小沢氏に近い議員は「もう後戻りすることはない」と述べた。
一方、野田首相は「私は党を割るつもりはない」と語り、少しでも離党者を減らすため執行部による説得・切り崩し工作を進めているが、「選挙区や資金などの問題で、小沢氏に逆らえない議員も多い」(同)という。
次期衆院選も見据えた、野田首相と小沢氏による大攻防の行方は-。