年初から世界の資本市場は大荒れとなった。日米共に株価が大きく下がり、株式投資家にとっては散々な新年だ。
中国共産党は「市場」が苦手科目のようだ。空売りの禁止やサーキット・ブレーカーなど、「売り」を一時的に止める措置は、むしろ「規制するぐらいなのだから、売りの圧力が大きいのだろう」「売れる時に売っておかねば心配だ」と投資家に思わせて不安にさせるだけで、かえって逆効果だ。
冬場に流行るウイルス性胃腸炎で、下痢だけ止めることが、ウイルスの排出を抑えて逆効果であるのと同様に、売りたい物は売らせてしまうことが回復には必要なのだ。
この点、1990年代に大規模なバブル崩壊を先に経験している日本の政府は、十分学習済みのはずだが、さて、大丈夫か。
今回の世界的な市場の混乱で興味深かったのは、通貨の動きだ。
昨年12月30日時点と今年1月8日時点を比較すると、日経通貨インデックスを構成する25通貨のうち、最も値上がり率が高かった通貨は日本円だった(週間上昇率は3・58%)。次に、米ドル、ユーロと続く。
逆に同期間の下落が大きな通貨は、第1にオーストラリアドル、第2にブラジルレアルだった。これらは、投資信託の分配金をかさ上げするために使われることが多い高金利通貨だが、年明け早々痛い思いをされておられる投資家もおられよう(注:分配金の大きな投信で、投資家にお勧めできるものは1本もない)。
下落の大きな通貨の主な変動原因は、資源に支えられた経済で中国経済の減速の影響が大きいことと、原油をはじめとした資源価格が現実に下がったことだと理解される。
それでは、市場が混乱する時に、日本円(または円建ての資産。国債など)がいわば「安全通貨」として世界の投資家に買われるのは、なぜなのだろうか。
まず、デフレ自体は日本経済の長年の悩みであり、現在脱却に向けて努力中の状況だが、円のインフレ率が他の通貨に比べて低いことは、通貨価値が安定しているということであり、相対的な安全性が高いとみなされる。
また、日本には巨額の外貨準備があり、しかも主な出自は貿易黒字なので、資本流入の黒字を多額に含む中国の外貨準備よりも対外支払いへの準備としてより盤石だ。
また、本紙の読者なら高橋洋一氏の連載コラムの解説でもよくご存じだろうが、日本国政府の債務はバランスシートで考えると現在いまだ過大ではないし、国債の9割方が国内で消化されている。
通貨は国の債務であり、究極的に「国」というものは絶対的信頼に足るものではないが、相対的に日本円はマシなのだ。
もっとも、現時点での大幅な円高は経済への悪影響が大きいので、頼りにされるのは困ったことだ。 (経済評論家・山崎元)