経営再建中の東芝は、2016年3月末までに国内外でグループ全体の5%に相当する1万600人を削減する。16年3月期の連結最終損益は過去最大の5500億円の赤字になる見通しで、不適切会計で覆い隠された低収益体質に大ナタを振るう。
部門別業績から東芝の構造的な問題が見えてくる。まず、原子力や火力、水力発電などの「電力・インフラ事業」(14年度の売上高約2兆円・売り上げの約28%)は利益がほとんど出ていない。続いて、半導体の「電子デバイス事業」(同1・7兆円・24%)は利益が出ているものの、その利益は急激に減ってきている。
排水処理システムや昇降機、空調などの「コミュニティ・ソリューション事業」(同1・4兆円・19%)はまずまずの売り上げと利益をキープしているが、パソコン、テレビの「ライフスタイル事業」(同1・1兆円・18%)は思いっきり足を引っ張っている。しかし、CTなどの診断装置を含む「ヘルスケア事業」(同4000億円・6%)は、東芝メディカルシステムズが業界トップ企業だ。
東芝はこのうち、「ライフスタイル」と「ヘルスケア」を売却する予定という。テレビ事業は、インドネシア工場を中国のスカイワースに売却するなど自社生産から撤退する。家電開発拠点の東京・青梅事業所も閉鎖か売却する方針。パソコンは、富士通やVAIOとの統合を検討しているが、弱者連合と揶揄(やゆ)されており見通しは明るくない。
東芝メディカルシステムズは国内ではトップ企業で、国内外の有力企業が名乗り出るだろう。東芝の中では数少ない国内トップの地位を確立している事業で、売却方針自体を見直すべきではないか、とさえ思える。
また、韓国・サムスンなどとの競争が激しい「電子デバイス」部門を別会社化して、独立させることも検討している。
こうなってくると、東芝は「コミュニティ・ソリューション」と、不安定な「電力・インフラ」を中心に立て直すということになる。これでは、何が中核事業かつかめない。将来に向けた布石もできていないのではないか。あれほどしっかりした会社だったシャープが不安定になったのは、中核が何かがわからなくなってしまったからだ。
東芝は2兆円以上の時価総額があったのに、一気に1兆円を切ってしまった。不正会計問題でパンドラの箱を開けてしまった東芝だが、箱の中からいろいろなものが多数出てきたわけだ。中にいる人材や開発力を見極めない数字の字面だけで判断した「焼け跡バーゲン市」みたいな売却方針だが、もう少し時間をかけて粘り強い再生計画を練り上げないと将来に禍根を残すだろう。
一方、金融庁は昨年末、東芝の会計監査を担当した新日本監査法人にも、虚偽の監査証明をしたとして課徴金約21億円の納付と新規契約業務の3カ月停止処分を下した。しかし、これは甘い処分だと思う。20億円の課徴金なんて、すぐに払える。そして、痛みもあまり感じない。本来は「お家断絶」または「取り潰し」くらいの重たい罪を負わせないといけないのではないか。
監査法人は新日本、トーマツ、あずさの御三家が、日本の企業の70%近くを独占している。監査法人は何年かに1回交代するというようなシステムにしないと、いつまでもヌクヌクとして切磋琢磨せず、企業となあなあの関係が続いてしまう。最長でも5年で代えるというルールにしてほしい。こういうことをやらないとカネボウやオリンパスなどでも指摘された業界の体質は健全化しないと思う。
■ビジネス・ブレークスルー(スカパー!557チャンネル)の番組「大前研一ライブ」から抜粋