自民党総裁選（２６日投開票）は、石破茂前政調会長（５５）と、安倍晋三元首相（５７）、石原伸晃幹事長（５５）の３人が激しく競り合い、体調を崩して検査入院した町村信孝元官房長官（６７）と、林芳正政調会長代理（５１）が追う展開となっている。
事実上、「次の首相」を決める戦いといわれるが、日本のリーダー候補の懐具合はどうなのか。国会議員の収支報告書や資産等報告書、所得等報告書などをもとに、５候補の軍資金を探った。
５候補の主な資産は別表に記載した。
まず、給与所得は、議員歳費（１５４５万円）中心のためほぼ同じだが、個人献金や政治団体からの寄付、政治資金パーティーの収入などが入る資金管理団体の収入総額では差が付いた。
トップは、安倍氏で１億７８８９万円。政治団体からの寄付２９０３万円のほか、東京や大阪、名古屋でパーティーを５回開き、計９９２０万円を集めた。
２位は、２０日にも検査結果を踏まえ、総裁選を継続するかどうか最終判断する町村氏で１億８６７万円。派閥の領袖であり、個人献金が１３１６万円あるうえ、東京や北海道でパーティーを５回開き、計６４７７万円の収入があった。
３位は、党長老グループに寵愛される石原氏で７３８３万円。個人寄付６５３万円と、パーティー３回で計６１９９万円が主な収入。４位は唯一の参院議員である林氏の５６５１万円。パーティー５回で計５０４１万円を集めている。
最下位は石破氏の２０１８万円で、個人献金がゼロのうえ、パーティー３回で計１３９８万円。「防衛・安保のスペシャリスト」も、軍資金集めは苦手なのか。
土地・建物は、５候補全員が「二世議員」だけに、地元や都内に所有している。祖父の岸信介元首相や父の晋太郎元外相の地盤を引き継いだ安倍氏は、山口県内に多数の土地（２万２９８１平方メートル、固定資産税評価額３８４９万円）を相続している。石破氏は地元・鳥取市に土地（７０５平方メートル、同１１７３万円）、建物（床面積３８６平方メートル、同６２６万円）を所有している。
石原氏は、東京都杉並区の自宅（土地１７７平方メートル、床面積１９９メートル、同２３４６万円）以外に、趣味のヨット（共同所有）を楽しむためか神奈川県葉山町に高級リゾートマンション（床面積１４４平方メートル、同２３２３万円）を所有している。葉山町に近い逗子海岸は、父で東京都の石原慎太郎知事の芥川賞作品「太陽の季節」の舞台でもある。
株式は興味深い。
石原氏以外の４候補はいずれも多数所有しているが、特に、石破氏は、新日本製鉄（２万１１４０株）や住友金属工業（９２２４株）といった鉄鋼・金属系のほか、三菱重工業（１万６２５株）や川崎重工業（５０００株）などの防衛産業、福島第１原発事故を引きずる東京電力（４８１３株）も持っている。
通産官僚出身の町村氏は、三井物産（３３９９株）を筆頭に、旭硝子（２３５０株）、松下電器産業（現パナソニック、２３１０株）、三菱電機（２０００株）、日産自動車（１８３１株）、日本軽金属（１３７２株）など、多種多様な業種の株式を所有。
林氏は、大学卒業後に入社した三井物産（３８７２株）をはじめ、ファミリー企業である山口合同ガス（１２万２５５２株）、宇部興産（３０００株）、東京電力（２４４株）を所有している。
ゴルフ会員権は、町村氏以外は全員が持っている。
安倍氏は、日本ゴルフ場事業協会の会長も務めており、地元・山口県の下関ＧＣのほか、静岡県の東名厚木ＣＣ、千葉県の鎌ヶ谷ＣＣなど９つを所有。石破氏も、地元・鳥取県の三朝ＣＣ、鳥取ＣＣのメンバーだ。
石原氏は、神奈川県の箱根ＣＣのほか、所有するリゾートマンションに近い葉山国際ＣＣの会員権を所有。林氏は、地元・山口県の山口ゴルフ＆ＣＣと、静岡県の富士ＣＣを持っている。
最後に、「借金も財産のうち」といわれる借入金だが、トップは林氏の３８６７万円、石原氏の２３００万円、町村氏の２１０１万円、安倍氏の４５３万円と続き、石破氏はゼロとなっている。
懐事情を見て、総裁選をどう判断すべきか。
政治評論家の小林吉弥氏は「全員が世襲議員で、いずれも莫大な資産を持っている。親の七光りの争い、若殿の争いというべきか。『異形の総裁選』というしかない」といい、こう続ける。
「資産の大半は親から継承したもので、自分で額に汗して得たものではないだろう。金銭スキャンダルとは縁遠いだろうが、これで国民の生活実態が理解できるのか疑問だ。それが分からなければ、政策は机上の空論になりかねない。今回の総裁選は、国民が本当に聞きたい原発政策やＴＰＰ（環太平洋戦略的経済連携協定）について各候補とも口をつぐんでいる。もっともっと本音で論争すべきだ」
