赤峰和彦の 『 日本と国際社会の真相 』

すでに生起して戻ることのできない変化、重大な影響力をもつ変化でありながら一般には認識されていない変化について分析します。

ウクライナに関する二題

2025-01-20 00:00:00 | 政治見解
ウクライナに関する二題





ウクライナ戦争について、日本の報道はウクライナが善戦しているように見えるのですが、どうも真実はウクライナは危機に瀕しているようです。この真実を国際政治学者に解説していただきました。

また、アサド政権後のシリアとウクライナが手を組む可能性についても言及していただきました。かつて、平沼騏一郎内閣は「欧州情勢は複雑怪奇」と声明して総辞職しましたが、まさに国際情勢は理解するのに苦労します。


崩壊寸前のウクライナ トランプで和平を急げ

ウクライナ政府は崩壊寸前です。トランプが早くそこの和平をやらないと、ウクライナが下手するとロシアに全領土を取られてしまうようなこともあり得ます。前線でウクライナ側が非常に不利な状態です。前線が崩壊するだけならまだいいのですが、軍だけでなくウクライナ政府が崩壊してしまうかもしれません。大臣級の人事が全く安定しておらず、年中、首をすげ替えている状況です。日本のマスコミはウクライナ政府に不利なことを言わないものだから、この辺りはちゃんと見ておく必要があります。

トランプは12月12日発売のタイム誌で「ウクライナがアメリカ製のミサイルでロシア領内を攻撃しているのは大反対である。こんなことをやったら戦争がエスカレートする。今やっていることは常軌を逸している」と言っています。

その他のところでも同じような発言をしていました。12月12日のタイム誌のインタビューで、この言葉を言っていますけど、翌12月13日にロシア大統領府のペスコフ報道官という方がいます。これはいつもプーチンを代弁している人がトランプの言った言葉に対して「ロシアと、この問題に関しては完全に立場が一致している。そして、発言自体は我々の立場と完全に一致している。エスカレートの原因に関する我々の見方に沿ったものである。私達の心に訴えかける」とまで言っていました。

それとタス通信が12月18日に報道したところによると、ロシアのリアップコフ外務次官は「アメリカとの関係正常化に向けて、あらゆる提案を検討する用意がある。1月20日のトランプの米大統領就任後、ロシアは間違いなく新政権と協力できる」と言っています。

こういった発言からも、ウクライナ和平に関しては水面下で話が進んでいると考えて良いでしょう。ウクライナは非常に厳しい戦争となっています。兵隊に関しても軍からの脱走兵が多いようです。そして、死傷者が多いだけではなく、下手すると戦線が総崩れになってしまう危険性もあります。そうすると、ゼレンスキー政権自体が崩壊してしまうかもしれません。そういう危機にあるわけです。

大臣レベルでも更迭が続いて、大臣の首のすげ替えが連続して起きています。そもそもウクライナの中には、ウクライナの人は認めたくない親ロシア派も結構いるのです。その人たちもいるし、ウクライナ国民が一致団結してロシアと戦おうとしているわけではありません。

ロシアが極右と言っている反ロシアの人たちも多いのですが、それに該当しない人たちもたくさんいます。国が元々分裂しているというのが実態です。今、そこで戦争を止めないと、むしろウクライナが崩壊してしまう危険性があります。

この両国の和平のことを言い出すと、ウクライナに対して武力侵略したロシアの侵略を認めるのかと問いてくる人がいますが、今、和平へと持っていかないとロシアの占領地が次々と大きくなっていってしまう危険性があるのです。ロシアも苦しいが、ロシア以上にウクライナの方が戦争を続けるのは厳しいと思ってください。そういう状況にあるので、今のロシア側の発言を見ると、和平に対するアメリカ新政権と間の根回しは進んでいると考えられます。




ウクライナとシリアが戦略的パートナーに?

12月30日にウクライナと新生シリア政府が戦略的パートナーシップを組むという宣言をしました。これはジャウラニ代表にウクライナ代表団が会って、両国の外務大臣が記者会見を開いて、そういうことを言ったのです。これは意外なことのように思えます。現在もウクライナはロシアと戦争していて、現シリア政権はロシアにバックアップされていたアサド政権を倒したのですが、決して反ロシアではありません。

そこと仲良くするのは変だなという感じもいたしますが、この真相としてズバリこういうことであるというのはわからないのですが、私が類推することを話したいと思います。今後のウクライナがロシアと和平・停戦協議をすることの前提条件になっているのではないでしょうか。この水面下でウクライナとロシアが和平を探っていることの一つの証拠なのではないかなと、私は今のところポジティブに解釈しています。

シリア政府はロシアに支援されていたアサド政権を倒したけど、反ロシアではないという話を冒頭でもしています。これはジャウラニ新政権のトップも確認しているのです。ロシアとは友好国だから提携していくということを言っています。

それから「ロシアが持っている空軍基地・海軍基地に手をつけて出て行け」ということは言っていません。この件に関しては傍証もありまして、12月8日にアサド政権が倒れていますが、これを一番露骨に支援していたのはトルコでした。トランプは「トルコが陰にいてUnfriendly Takeover( 敵対的買収)をやったのだろう」と言っています。

もちろん、トルコ側はそれに反発しているのですが「乗っ取りという言葉は適切ではない」と言ったのです。トルコにも理由があって、トルコにはおそらく300万人以上のシリア難民がいます。トルコもそこまで豊かな国ではないので、その人たちに早く帰ってほしいということです。

これはヨーロッパの防波堤になっているトルコが、この人たちを国内に留めていたことに原因があります。ヨーロッパとしても、これ以上のシリア難民に来てもらったら困るというのでストップさせていました。それで経済支援するからトルコで止めておいてほしいということになって、辛いところですが受け入れていたのです。だから、難民に早く帰ってほしいとトルコは願っています。

トルコが支援した勢力によって、今回アサド政権が打倒されてシリアの新政権になりました。しかし、シリアを支援していたイランとロシアが怒っているわけでもありません。実はイランとトルコが通商協定を結んでいます。これは12月11日にイランとトルコは2国間貿易を推進する覚書に署名して「今後の貿易をどんどん増やしましょう」という話をしているのです。

本当にトルコが支援したジャウラニ新政権に対して腹を立てていたら、イランがこのようなことをやるわけがありません。HTS(ハヤト・タハリール・シャーム)という勢力に対して、決して腹を立てているわけではないというか、水面下でイランとトルコとロシアはちゃんと利害関係を調整していて、実を取ったということだと思います。これ以上、アサド政権を支援していても先行きがないと考えたのでしょう。

アサド政権は覚醒剤輸出で周りのアラブの国からも見放されていたからだと思います。ハヤト・タハリール・シャーム解放機構(HTS)の新首相はモハンマド・アルバシールという人です。

アルバシールは、以前ロシアのガス会社のシリア子会社のエンジニアとして精密機械部長で働いていました。この人の人脈を見ても親ロシアであるということは理解できます。このシリア政府のジャウラニ最高指導者は12月30日にウクライナ政府代表団とダマスカス(シリアの首都)で会っていました。シリアとウクライナの両外務大臣が会談して「両国間の戦略的パートナーシップの構築を望む」と公言しています。親ロシアなのに何故ウクライナと仲良くしているのか謎です。これは「ズバリこうだ」という確信が私にはありませんけど、食料が足りないシリアに対して食料輸出国であるウクライナが食料を500t輸出したことも背景としてあるのではないでしょうか。その他も引き続き食料援助すると言っています。

やがてロシアとウクライナが停戦交渉・和平交渉する前提として、シリアとの関係を改善して友好的な関係を結ぼうとしているのかもしれません。これは一見すると矛盾した動きのようにも見えます。

一方でこれはシリアをロシアから引き離すためにウクライナがそういうことをやっているのではないかという考え方もあると思いますが、親ロシア派のジャウラニは基本的にロシアとの関係を重視していくと言っているのです。

逆にウクライナがシリア援助を通じて、ロシアとの和平交渉を水面下で始めた証拠ではないのかなと私は前向きに捉えたいと思います。この推測が当たっているのかどうかはわかりません。

②日本製鉄のU.S.スティール買収は無理筋 ——日鉄が中国や韓国に買収されると考えたら——

2025-01-19 00:00:00 | 政治見解
❷日本製鉄のU.S.スティール買収は無理筋
——日鉄が中国や韓国に買収されると考えたら——




昨日からの続きです。

U.S.スティールの買収問題は、米国の安全保障政策に関する重要問題にも関わらず、例によって日本のメディアも的外れであるため、国際政治学者に登場を頂いて、根本の問題は何なのかというところから解説をしていただきました。許可を得て掲載します。


【前日解説の概要】

日鉄のU.S.スティールの買収が非常に難しくなってきました。これは国防問題の重要性というのがわからないと「なぜこのような企業間のものに政府が口出しをするのか」という話になるのですが、石破首相の責任も非常に大きいと私は思います。

今はまだ現役大統領であるバイデンが反対して中止命令を出したのですが、トランプも反対しているのです。だから、はっきり言って、民主党も共和党も両方反対しているので、この買収を実行するのはものすごく難しいと言えます。この件については、日鉄の読みが非常に甘かったとしか言いようがありません。

日本製鉄は、ポンペオ氏を当問題の弁護士として雇いました。日鉄の幹部はアメリカの政治情勢が何もわかっていないということだと思います。ポンペオ氏は反トランプであり、トランプに嫌われている人です。次期大統領に嫌われている人を弁護士として持ってきて、この問題を通そうと日鉄は考えています。アメリカの政治が残念ながら見えていません。非常に残念です。



日本製鉄が中国や韓国に買収されたら日本人はどう思うか?

やはり、商売の論理・ビジネスの論理・経済の論理だけではなく、この世には「国家の論理」というものもあります。安全保障や国防という問題があるので、それは一企業など業界の利益を超えているものです。いざというときに国防で大事な産業は、全て自国の資本に置いておきたいということが背景にあります。これを逆に考えてみたら、仮に日本製鉄が韓国の会社に買収されるとなったら、どうなると思いますか?チャイナの会社に買収されるとなったらどうなるのか考えてみてください。

あるいは、そこまで反日ではなくてもいいですけど、インドの会社に買収されたらいかがでしょうか。そのようになると、日本人は安心していられません。そういう逆の立場に立ってみれば、よくわかることです。ここの部分は日本の政治力も低いので、日米関係は対等な関係ではありません。私は対等の関係に早くすべきだと思います。

いざとなれば、アメリカは鎖国してもやっていけるような国なのです。アメリカには希少金属も含めて全ての国内資源が賄えます。そして、食料もエネルギーも輸出できるほど持っているのです。2023年にアメリカは世界一の産油国になっていました。サウジアラビアよりもロシアよりも石油を掘っていたのです。そういう国ですだから食料もハイテク機器も輸出できるし、いざとなれば外国から輸入しているものも全て国内で賄えます。自給自足どころか輸出ができる国なのです。

その国に日本は国防をおんぶされているレベルであり、そういう状況においてアメリカの国益にならないと大統領が言っているものに抗ってひっくり返すことは日本の国益にもならないと思います。

実際、U.S.スティールの競争力は落ちているのです。日本製鉄が買収しなければ、向こう側から「助けてほしい」と言ってくるでしょう。それは技術供与などが大きいと思います。国内で妨害したと言われているクリーブランド・クリフスという会社がありますけど、ここが買収すると独占禁止法違反になってしまうのではないかという危惧もあるようです。クリーブランド・クリフスの方は、この買収を露骨に反対しました。要するに、自分たちがU.S.スティールを買収したいのです。

向こうも国内的にもできにくい状況があるということです。放っておけば向こうから「助けてほしい」と言ってくるので、そういう状況を待っていた方が日本としては得だと思います。

しかし、ここまで踏み込んでしまったので、今の日米関係を非常に悪くする材料になってしまっているのです。ハイポリティクスとローポリティクスという言い方があります。ハイポリティクスというのは国防や安全保障の問題です。ローポリティクスというのは経済の企業間の利益の問題のことを指します。

これがハイポリティクスであるということは国家の存亡がかかった問題だから、こちらの方を優先するのは当然のことだと理解してください。また、石破の打つ手が悪いのです。トランプ政権と仲が悪いのですけど、バイデン政権が現役であった11月下旬に「日鉄のU.S.スティール買収を承認してほしい」という手紙をバイデンに書いていました。



安全保障という考え方を日本人はもっと真剣に考えるべき

石破首相は1月6日の年頭の記者会見でも、バイデン大統領が日本製鉄によるU.S.スティール買収を禁止したことに関して「政府として重く受け止めざるを得ない。個別企業の経営に関する案件にコメントするのは控えたいが、米政府には懸念払拭に向けた対応を強く求めたい」と強調していました。なぜ買収に安全保障上の懸念があるのか、アメリカ側からきちんと述べてもらわなければ、これからの話し合いにもなりません。

いかに同盟国であっても今後の関係において、この点は非常に重要と考えているそうです。これはトランプに対して喧嘩を売っているとしか思ません。これは、まずいでしょう。こういうことをやるなら外交官僚ではなく、それこそ安倍元首相のように個人的な関係(パイプ)を持って、そういうところも表に出さず水面下で根回しをしておくべきことです。

このようなうまくいっていないときに、こういうことを言ったらもっと問題がこじれてしまいます。日米関係全体に悪い影響が出てくるというか、悪い影響を現実に与えているのです。これは石破外交の失敗でもあると言って良いでしょう。

これは日鉄側の一つの言い方なのですが、すでに日本製鉄が契約してしまったので買収を実行しないと大きな罰金が取られると言っています。これも要因なのかもしれません。しかし、考えてみると会社同士で決めたものを国家安全保障上の理由だと言って、大統領が中止命令を出したということは不可抗力でしょう。

こういった場合は契約を履行しなくても、罰金はないということが通ると思います。それは、アメリカの裁判所でも通る常識ではないでしょうか。これが禁止されるなら、全て罰金の条項は無効にしてほしいという裁判を起こすことは当然だと思います。これはビジネス上の判断ではなく、国防上の判断で大統領が介入したわけだから不可抗力です。私は、そのように思います。

(了)

①日本製鉄のU.S.スティール買収は無理筋——安倍さんなら可能性も、石破政権では絶対無理――

2025-01-18 00:00:00 | 政治見解
①日本製鉄のU.S.スティール買収は無理筋
——安倍さんなら可能性も、石破政権では絶対無理——




日本製鉄によるU.S.スティールの買収計画についてはバイデン大統領が国家安全保障上の懸念を理由に禁止命令を出しました。これに対し、日本製鉄とU.S.スティールはバイデン大統領などを相手取って禁止命令を無効とすることなどを求める訴えを起こしていて、日本製鉄は買収の実現を目指す方針を重ねて示しています。

この問題は、米国の安全保障政策に関する重要問題にも関わらず、米国の雇用とか企業の存続の問題として論議する意見が多く、例によって日本のメディアも的外れであるため、ここはまず国際政治学者に登場を頂いて、根本の問題は何なのかというところから解説をしていただきます。許可を得て掲載します。


【問題の概要】

日鉄のU.S.スティールの買収が非常に難しくなってきました。これは国防問題の重要性というのがわからないと「なぜこのような企業間のものに政府が口出しをするのか」という話になるのですが、石破首相の責任も非常に大きいと私は思います。

今はまだ現役大統領であるバイデンが反対して中止命令を出したのですが、トランプも反対しているのです。だから、はっきり言って、民主党も共和党も両方反対しているので、この買収を実行するのはものすごく難しいと言えます。この件については、日鉄の読みが非常に甘かったとしか言いようがありません。

日本製鉄は、ポンペオ氏を当問題の弁護士として雇いました。日鉄の幹部はアメリカの政治情勢が何もわかっていないということだと思います。ポンペオ氏は反トランプであり、トランプに嫌われている人です。次期大統領に嫌われている人を弁護士として持ってきて、この問題を通そうと日鉄は考えています。アメリカの政治が残念ながら見えていません。非常に残念です。




【詳細解説】

U.S.スティールは、原子力潜水艦の原料の鉄を作っている企業

日本製鉄のU.S.スティール買収が非常に困難となってきました。これは安全保障・国防問題なのです。その重要性がわかっていないと、なぜビジネスに政治が介入するのかという小さな視点になってしまいます。大きな視点から見ないと駄目です。

これに関して、私は石破の責任が大きいと思っています。バイデンが反対していても、次期政権のトランプが賛成しているならいいのです。トランプはアメリカへの投資は大歓迎だと言っています。

ところが、この件に関しては国防上も非常に大事な企業のことであり、かつて「鉄は国家なり」という言葉があって、今はそれほどでもないですが鉄は国家の産業・工業化社会の一つの中心です。アメリカでは、その競争力がなくなってしまって外国から大量に鉄鋼を買うようになっているのですが、それが故に守らないといけません。

例えば、U.S.スティールというのは、原子力潜水艦の船体を建造する原料の鉄を作っている企業でもあるわけです。今は、そこまで規模の大きな会社ではありませんが、アメリカにとって元々「U.S.」という名前がついている大事な大きな会社でした。

日本製鉄側にも言い分はたくさんあるし、言うことを聞いていると最ものことが多いのです。しかし、これは政治的に引っくり返されてしまえば、それまで大統領に抗って買収を通すことは非常に難しいと思います。

アメリカの政治状況が日本製鉄もよくわかっていなかったのでしょう。ビジネス的には日本製鉄とU.S.スティールはお互い助け合う良い関係でした。しかし、U.S.スティールには競争力がなくなってしまっているのです。そこに儲かる特殊鋼の部分で技術がないため、日鉄がそれを教えて競争力をつけていこうとしていました。


反トランプのポンぺオを顧問弁護士にしたところで

ポンペオ氏という第1次トランプ政権時代の元国務長官だった人を顧問弁護士に雇って、この問題解決を進めました。これは日本製鉄の経営陣がアメリカの政治のことを何もわかっていないという証拠です。

ポンペオはトランプの腹心のような人でしたが、第1次トランプ政権が終わったあとトランプ批判を始めました。トランプの悪口を言い始めて、今はハドソン研究所に所属しています。このハドソン研究所から、主要なメンバーが新しいトランプ政権にほとんど入っていません。

そして、トランプも「ポンペオが政権に入るような噂があるけど、それはありません。第1次政権では協力していただきまして、ありがとうございました。でも第二次政権ではないです」と明確に言っているのです。ポンペオは大統領選挙にも出ようとしたのですが、人気がないので出られられませんでした。

そして、またトランプ批判をやったのです。トランプにしてみれば、単なる敵というよりも裏切り者に値します。そのような人に日鉄が頼んで、新しくできるトランプ政権との仲を取り持ってもらおうというのは無理でしょう。

日本でも一部で「ポンペオはトランプの懐刀で、未だにトランプの側近である」という間違ったことを言っている人たちがいました。日本製鉄はそういう間違ったオピニオンに騙されてしまったのでしょう。その辺りをよく理解していません。この買収に関して、私は非常に難しいと思っています。

はっきり言えば、早く諦めたらよかったと思うのです。日本製鉄の方がバイデン大統領の決定(大統領命令)が不当介入であるということで「裁判を起こす」と言っています。U.S.スティールは日本製鉄から買収されることに同意していますから、両者が裁判を起こすと1月6日に発表しました。

同時に両者だけでなく、アメリカの鉄鋼会社にクリーブランド・クリフスという会社があります。この会社はU.S.スティールのライバル社です。ここが実はU.S.スティールを買いたかったということもあるのですが、ここが妨害工作をやってきました。

クリーブランド・クリフスのCEOと全米鉄鋼労働組合の会長たちを相手にして、妨害したことに対する訴訟を起こしたのです。対米外国投資委員会(CFIUS)は、外国企業が大きな買収をやるときに、アメリカの国益に適うかどうか決めるところです。ここが審査無効だと言っているだけでなく、陰で妨害したと思しきライバルと全米鉄鋼労働組合のトップを裁判で訴えます。次はトランプ政権だから、最終的にトランプが駄目と言っている以上、これは成功する見込みは非常に少ないです。


安倍さんだったらうまく行ったかもしれない

それから裁判をやって勝つ可能性はあると思います。ゼロとは言いませんが、極めて勝つのは難しいでしょう。それまでに、ものすごく高い裁判料というか弁護士料が取られます。弁護士が自分たちの仕事のためにやっている裁判になってしまうでしょう。

日本製鉄としては、何のためにそこまで高額のお金を払うのかという裁判になってしまうと思います。トランプも交渉上手だから、アメリカに外国の企業がお金を持って投資してくれるのは歓迎であるとの発言は今までもしているのです。孫正義が1000億ドル投資するというのも大歓迎だと言って、マール・ア・ラーゴの記者会見にまで同席させていました。

そういうことで、最終的にうまくいく可能性がないことはないです。それまでにトランプから、日本製鉄にとって自由な経営を縛るような条件を大量に飲まされてしまうのではないでしょうか。トランプは交渉上手で交渉術の本を執筆しているくらいの人です。やはり、これに関しては石破の責任も大きいと私は思います。これは石破の就任前から話が進んでいて、2023年末に大体は決まっていました。そして、U.S.スティールに対しても日本製鉄は今の株よりだいぶ高めにお金を出して買うと言ったので、U.S.スティールの株主総会でも賛成であるという話になったのです。

しかし、皆さんも考えてみてください。今の石破は反米・親中外交をやっています。そういった国の会社にU.S.スティールを買わせると思いますか?逆に考えてみて、お亡くなりになった方ですが、仮に今、安倍晋三が総理大臣だったら、この問題はうまくいっていたかもしれません。

ちゃんと根回しもしてくれて、トランプと仲のいい人が「こういう理由でこれはアメリカの国益にも産業界のためにもなる。安全保障上の心配もない」ということが説得できれば、うまくいっていたかもしれないです。

ところが石破首相は、現在の新政権のトップであるトランプに嫌われています。その人は単に嫌われているだけではなく、親中的かつトランプに楯突いているイギリスの左派労働党政権と手を組み、習近平とも手を組んで反米スタンスをとっているのが石破政権です。そこがトップを務めている今の日本国の日本製鉄に買わせるわけにはいかないということになっているのではないでしょうか。

これを詳しく見ていくと、労働組合の人たちとも日本製鉄の人とも話したり、あるいは地元の町長と幹部の方が何回も話して、街が寂れないようにするということを話したりして、本当に長い時間をかけて日本製鉄としては一生懸命やってきたのは事実です。

(続く)

石破政権の媚中、大連立、増税方針は国益無視の悪政

2025-01-17 00:00:00 | 政治見解
石破政権の媚中、大連立、増税方針は国益無視の悪政




——新年早々の記者会見で石破首相が憮然とした表情をしていました。「俺は一生懸命やっているのに評価されていない」とか言っているのですが、「🐴🦌なのか」としか言いようがありません。出来の悪いガキのような人間を首相にしておいたら、日本が駄目になるのは目に見えています。早く引きずり下ろさないといけません。そもそも総理大臣はもとより、このようなことを言っていたら国会議員になる資格もないです。どういう育ち方をした人なのでしょうか。この酷い石破政権が続く限り、残念ながら日本に未来はないと思います。――

こんな辛辣な言葉を、新年早々、国際政治学者が投げかけています。石破政権の愚かさをこの国際政治学者は以下の様に語っています。許可を得て掲載します。



大連立、増税、訪中に傾く石破首相

石破首相が訪中と大連立に傾くということで、この大連立とは増税推進なのです。そして、トランプに相手にされないので親中外交に没頭しており、日本にとっては非常に危険な形になっています。

石破首相が訪中したいと言っていて、大連立にも積極的だそうです。しかも、増税のための大連立をしようとしています。昨今は企業の倒産でも、いわゆる「社保倒産」というのが増えているのです。社会保険料を納めきれなくて倒産してしまう企業が出てきています。これも事実上の増税です。

石破首相は国民の人気がないことと、野党の立憲民主党が増税党なので、この点に関しては党首の野田も増税派で財務省から完全に指令された通りに動いているような政治家です。だから、その両党が組まれると国民が、ますます増税で苦しんで悪性になってくると思います。

さらに、石破首相が昨年の12月29日のTBSテレビ番組で、チャイナへの訪問に意欲を重ねて示していました。

訪中に関して「日本の首相がチャイナに行くのは極めて大事なことだ。指導者同士の信頼関係は上辺だけではできないので、回数を重ねないといけない」と言っています。一方でトランプには、なかなか会ってもらえません。

それと大連立に関しても石破自身が1月1日放送のラジオ番組で「少数与党の打開策に関し、大連立をする選択肢はあるだろう」という認識を示していました。その番組は12月24日に収録されたものだったそうです。ただし、何のためにやるというものがない大連立は、一歩間違うと大政翼賛会になってしまうと言っています。これは彼にとっての大義と言いますか、政権安定と増税のためということになるでしょう。


石破政権の確信的反米親中外交

石破が確信的反米親中外交をイギリスのスターマー労働党政権と連携してやっています。その辺りで「英米はアングロサクソンで一体である」という馬鹿なことを考えていると、そういう古い枠組みで物事を考えず全くわからないことになるでしょう。

これは以前も説明したように、イギリスは“左の労働党政権”ですけど“左のナショナリスト”ではなく“左のグローバリスト”なのです。だから、反トランプということも当然なのですが、そこで反米のスターマーが石破を抱き込んだというか、石破の方がイギリスと蜜の関係になったと言って良いかもしれません。そして、日英で組んでアメリカのトランプ政権に対抗しようという態度を見せているのです。

これは以前に話しましたが、11月にブラジルでスターマーが習近平とけ妥協して仲良く会って、そこに石破も居合わせました。石破とスターマーが仲良く会っているということです。そこで「反米的/反トランプ的な形で日英連携していこう」ということを話しています。

それと岩屋外相の媚中売国外交がひどいです。トランプの対応としては12月15日に安倍昭恵夫人に会い、12月16日には孫正義と一緒に記者会見までやっています。孫氏が1000億ドルをアメリカに投資するという話をして、それを本当にできるのかなとも思っていますが、約束しておいて破ってしまうといけませんから、是非とも約束は守っていただきたいです。安倍元首相とは仲良しだったし、日本という国は大事に思っているということを盛んに最近述べています。

これからアメリカは法人税も安くなりますし、景気も良くなりますから、孫氏のようにアメリカへ来て雇用を作って投資もしてくれる人はビジネス界の人も大歓迎であると言っています。

しかし、石破には会わないということです。記者会見でも、しつこく聞かれたので「会いたいなら会う」と言っていました。それと岩屋の媚中外交と言っていいと思うのですが、媚びへつらうような外交を中国とやっているのです。すなわち石破が媚びへつらうような外交をやっているということに繋がります。

はっきりと言えば石破はイギリスと組んで、堂々とトランプ(アメリカ)に喧嘩を売っているのと全く同じことです。ペルーのリマでやったAPECの閣僚会議のときに、外務大臣同士としてブリンケンと岩屋は会っていました。そのときは30分程度の立ち話と言いますか、ご挨拶程度の話だったのです。

12月25日の日中外相会談において、ブリンケンは王毅と会って3時間も話していました。これは日本の外交の一番大事なのはチャイナがパートナーであり、アメリカは第1のパートナーではないということを世界に向けて宣言したようなものです。

そして、ご存知のようにアメリカはチャイナのカジノ開発業者の500.comという会社の元COOを海外腐敗行為防止法違反で起訴しています。日本でもIRを開設するために、日本の国会議員に向けて190万ドルの賄賂を支払っていたというのでアメリカで起訴されているのです。

アメリカの方の書類では出てくる日本の国会議員の名前が伏せられていますが、岩屋もお金をもらっていたのではないかと言われています。本人は否定していますが、そういった人間を外務大臣にするということが今の石破首相の形式であると言えます。そういった程度の人間であるということなのです。

この岩屋外務大臣はフェニックステレビというチャイナのテレビのインタビューを受けています。そこで「自分としては、台湾有事は日本有事という言い方は好まない」と言って、いかにも媚中的な態度をとっているということです。

もっと具体的に言うと、いくつもやらなくてもいいような妥協をしているのですが、チャイニーズ向けのビザの発給要件の大幅緩和を日本は打ち出しました。しかし、チャイナで人質になって捕まっている人が5人もいるのです。

そして、日本の排他的経済水域でのブイの問題もあります。おそらく軍事用と思われるブイを、いくつも海上に配置してきているのです。こういった問題を解決してもらわないといけないのに、岩屋外務大臣は向こう側に取り除いてほしいと抗議したと言っていますが、これが取り除かなければ何の意味もありません。

チャイナは気象観測用とか、そういうことをやっているだけだから問題ないと言い張っています。そういうときに、ビザの発給要件の大幅緩和というのも本当にふざけた話です。

最近のチャイナでは新種の伝染病が流行っていて危険だと言われているようなときに、このようなことをやっていては日本の外交の実益にもならないし、メンツも立たないのではないでしょうか。日中外交は、ひどいことになっていると思います。

チャイナ側は日本の今までなかったような、1回禁止にしていたビザをまた出すようにしたと言うから、こちらもやると言っていますが、それは向こう側が日本を取り込みたいから勝手にやっていることです。それを日本側が妥協する必要は全くありません。自分たちの欲しいことが合致して、そのためにこちら側も妥協する“ギブ&テイク”という内容であれば理解できるのですが、日本が一方的に“ギブ&ギブ”しているだけです。

そして、日本から中国へ旅行に行けと言われても、いつどこで日本人が捕まってしまうかわからないようなところに、そこまで行きたい人もいないでしょう。さらに外国の資本も引き上げているようなときに、このような妥協をする必要は全くありません。

イギリスに関しては、12月16日のロイター電において「スターマー政権がチャイナとの関係を改善し、対中審査の批判トーンを抑える方向とすることで侵略を一変させた」と伝えられています。選挙のときには厳しく臨むと言っていたのですが、貿易面で重要なチャイナとの関係立て直しに向けて姿勢を優先するということです。

⑧日本が取るべき経済安全保障政策——エコノミック・ステートクラフト

2025-01-16 00:00:00 | 政治見解
⑧日本が取るべき経済安全保障政策
——エコノミック・ステートクラフト



昨日からの続きです。最終回です

(本ブログは著者の特別の許可を得て掲載しています。なお、収録時は対中宥和の岸田政権下です。)


外資系の調査コンサルティング会社をしめつけた結果、そして、先ほどお話をした反スパイ法。何が起きているか。

実際に反スパイ法に基づいて中国政府が外資系企業の取り締まりを始めたのです。例えば、外資系の調査コンサルティング会社、これは日本でいったら帝国データバンクとか東京商エリサーチみたいな会社なんですね。彼らは何 をやっているかというと、日本のある会社にインタビューをして、中の資料をもらってレポートを出しているわけですね、会社の。

そういった仕事をやっている会社が、アメリカではミンツ、ベイン、キャッ プビジョンなんていう会社があるのですが、彼らの中国法人に国家安全当局は強制調査に入っちゃった。そして資本構成とか経営陣とか売上推移などのデータを、日本でいえば帝国データとか東京商エリサーチで売っているようなもの、これの調査をスパイ行為だということで、そこのミンツ、ベイン、キャップビジョンの従業員が捕まっちゃったんです。だから、もうみんなこういった会社は怖くて、中国企業の調査ができなくなっちやったんですね。

そうすると、では日本の会社がどこかの中国の会社と取引をしますと。相手がどんな会社化、調べもしないで取引する会社なんてないです。だけど、中国のその会社がどんな会社かというのが、調査できなくなっちやっているんですね。こんな状態に今陥りつつあります。

そして、不当拘束のリスクが脱中国を加速しているんですね。このハルタという法律事務所のジョン・ミラクさんがインタビューに答えていますけれども、彼のまわりでは中国に投資したいという会社は一つもないよと。中国の事業を売却するか、もしくは中国以外で別の調達場所を探しているかのどちらかだ。もう状況は5年前と比べて様変わりしているということなんですね。

だから、今申し上げたように、中国企業の中身というのをブラックボックス化しているわけですから、そういったものを調べようとすると反スパイ法が適用される可能性が出てきている。非常に危ない状態になっているわけです。



アメリカの対中認識

そして、アメリカはどう反応しているかというと、実はこのアメリカの国務省は中国をレベル3、旅行を再考しなさい、よく考え直せという渡航勧告を発令しているんですね。中国政府は法律に基づく公正かつ透明な手続きなしに、米国の国民および他国の国民に出国禁止令を発令するなど、法律を恣意的に施行している。国務省は中国政府によるアメリカ人の不当な拘束のリスクが中国に存在すると判断している。

中国への旅行もしくは中国に居住するアメリカの国民は、アメリカの領事館のサービスや犯罪容疑に関する情報が不明なまま、拘束される可能性がありますと言っています。そして、中国にいる 中国国民は、公正かつ透明な扱いがなく尋問や拘束を受ける可能性がある。これはホームページです。 レベル3。Reconsider travel to CHINAと書いてあります。

アメリカの認識というのは、非常に参考になります。ここに書いていますけれども、ビジネスマン、元外国政府の職員、学者、報道関係者などの在中外国人は、中国の国家安全法違反の疑いで中国当局 により尋問され、拘留されています。2,000人ぐらいいるみたいですね。

そして中国は在中のアメリカ国民を尋問・拘留・追放している。中国政府は広範囲の文書、データ、統計、そして資料を国家機密と扱い、スパイ容疑で外国人を拘留および基礎する幅広い裁量権を持つ。これは国家安全機関のことですね。

そして中国で事業を行うアメリカおよび第三国の専門サービス、これはさっき言った帝国データと か東京商エリサーチみたいな会社に対する監視が、公式に強化されている。国家安全部は中国国内で 調査を行ったり、公開情報にアクセスしたとして、アメリカ国民を拘留したり起訴したりするリスクがあります。

通常、渡航者は中国を出ようとしてはじめて出国を禁じられたことに気づく。つまり、飛行機に、空港に行ったらいきなり捕まるわけですね。それまで自分がスパイ扱いされているなんて、全然気づいていないわけです。だけど、この禁止措置がいつまで続くのか、調べようにも抗議しようにも、 中国には信頼できる仕組みや法的手続きカヾ存在しない。これはアメリカの認識ですけど、これはアメリカという米国を全部日本置き換えても、十分通用する話です。 

そして、アメリカの政府は不当拘束から国民を守ろうとしています。バイデン大統領は去年の11月に 習近平国家主席との首脳会談で、この不法拘束問題を採り上げて議案に出しています。これはアメリカ。



アステラス製薬の日本人拘束の理由

ところが日本を見てください。レベル1、問題なしです。皆さん、信じられますか。これが日本の外務省です。私は命か、利益か、と言っています。つまり、日本政府というのは日本人が拘束されたことすら公表しないんです。だから拘束とか拘禁された日本人は、外部に拘束された事実すら伝えられずに、中国の非公開司法手続きに委ねられる。こんな理不尽なことカヾ現実なのです。日本政府は、誰々が 拘束されましたと公表しません。だからこういうあてにできない日本政府ですから、自分の身は自分で守ってください。

そして繰り返しですけど、改正反スパイ法は日本企業の中国事業への影響なんていうのは、まったく 視野にありません。関係ないです。職務上、中国の実態を知ってしまった日本人は、反スパイ法で不当拘束されるリスクが高いです。

これはどういうことかというと、この前報道されましたアステラス製薬の中国法人にいた日本人、この人は不当拘束されましたが、なぜかこれはアステラス製薬は、実は臓器移植手術の時に使われる非常に世界的に良い薬を持っているんです。それは当然、中国でも売られます。その人は中国でアステラス製薬のビジネスの幹部だったわけで、この臓器移植手術に使われる薬の動きを全部知ったわけです。

ということは、仕事を通じて中国の臓器移植の実態を知ってしまったんです。そうすると何が起きるか。この人が中国にいる間は大丈夫です。だけど、日本に帰ったら何を言うか分からん。だからお前はスパイだと言って、中国に拘束されているんです。

これ、アステラスの人だけじゃないです。日本人で中国のビジネスを一生懸命やって、中国人と仲良くなって、中国のために一生懸命やって中国の実態をよく知ってしまった人、こういう人が危ない。

特に台湾有事とかで国防動員法なんかが発令されると、中国から日本への帰国は不可能になります。反スパイ法も非常に恣意的に使われてしまっていますから、中国の事情をよく知っている人は危ないです。 だから経営者にとっては従業員の命を守るのか、会社の儲けを優先するのかという問題を突きつけられているわけです。

日経の社説は、またこんなことを言っているわけです。「一部の日本企業は安全を重視する観点か ら、中国出張を見合わせている。このままでは、中国から他国に事業・生産拠点を移す動きが加速しかねない。負の連鎖を断ち切るためにも、即時解放を重ねて中国に求めたい。」と社説で書いたんだけど、とんでもないですよ。

あなた方は中国で働いている日本人従業員の命を、どう考えているんだと。まさに逆です。

この中国の反スパイ法のリスクをしっかりと伝えて、日本人の従業員の命を守れ、 脱中国を推進せよと言うべきじやないんでしょうか。どこの国の国益を代弁しているんですか、日経新聞。


結論

まとめに入ります。まず習近平体制が第3期に入って、規制と統制へ路線変更しました。そしてプロテクト&プロモートでデカップリングは進んでいます。そして反スパイ法で従業員の不当拘束リスク が起きます。日本政府は、不当拘束された従業員を救出しません。

ただし、中国政府の商務省が日本の企業に対して投資しろというのは、裏には双循環戦略があるからです。でもこれに乗っかると、生殺与奪の権を握られます。そして中国製造2049では自動車部品メーカーの話をしましたけれども、技術だけ盗まれてポイ捨てされます。そして不動産の話とかしましたけれど、中国経済の先行きは悲観的なのです。

中国全体に、会社全体の売上の中で中国が占める比率が高ければ高いほど、いきなり中国は「俺はこれは買わないよ」というエコノミクス・ステートクラフト【※1】による影響が大きくなります。簡単に言うと、会社の売上のうち、6割が中国向けの会社は、エコノミクス・ステートクラフトをくらうとつぶれます。だけど売上に占める割合が3%の会社は、被害は軽微です。

【※1】エコノミック・ステイトクラフト(Economic Statecraft)」とは「政治的目的を達成するため、軍事的手段ではなく経済的手段によって他国に影響力を行使すること」を意味します。Economicとは「経済的」の意味。Statecraftとは「政治的手腕、外交術」といった意味がありますが、より広義には「人を巧みに欺く策略」というニュアンスがあり、「他国へ経済的な手法を用いて自国の地政学的な利益を確保する」ともとらえることができます。今日の世界では、武力行使は国際法上違法であり、最近ではロシアによるウクライナ侵攻もあり、手段としての軍事力は極めてハードルが高くなっています。しかし、国家間の争いが終わるわけではなく、国家間争いにおける経済的手段への依存がより高まっています。欧米では、概念として政策に活用されており、アメリカではオバマ政権末期あたりから、多くのシンクタンクが中国を対象にしたエコノミック・ステイトクラフを用いた政策を提言していました。国際的な商取引である海外ビジネスに携わる方にとって、国家間の経済争いに深く関連する「エコノミック・ステイトクラフト」の大まかな概念を理解しておくことは非常に有益であることは間違いありません。

つまり、売上を一国、特に独裁国家に重点を置くのではなくて、適切なポートフォリオを組むことが必要だということです。ですので、中国からこの3回の説明を通じていろいろなことをお話ししてきましたが、やはり中国から開発とか製造拠点に対して、国内とか東南アジアに移転する。そしてどうしても中国に物を売りたい人は、売上の比率を考えながら、完成品を中国向けに輸出するというような 形に、ビジネスモデルを変えていくことが状況の変化に対する対応だと思います。 

恐竜が滅んだのは、限石の話もありますが、環境に適応できなかったからです、急激な。小さい動物は生き残りました。新しい環境の中でもね。今大きな環境の変化が起きつつあります。それに対して、サラリーマン社長になって自分の任期中の売上だけ認知できれば、あとはどうなってもいいやというのは、経営者としてだめですよ。

やはり自分が社長にしてもらった会社が、50年、100年続いていくため には、今どんな手を取るべきなのか。これを考えることが経営者にとって求められているんじゃないで しようか、私の話としては以上です。

(了)

⑦日本が取るべき経済安全保障政策——対中投資の減少

2025-01-15 00:00:00 | 政治見解
⑦日本が取るべき経済安全保障政策——対中投資の減少




昨日からの続きです

(本ブログは著者の特別の許可を得て掲載しています。なお、収録時は対中宥和の岸田政権下です。)


対中投資の減少

ただし、この双循環戦略というのは一帯一路と一緒に、今後長く言及されるだろうと。そして中国は内需拡大、経済を基盤として、ロシア、中東などの友好国とサプライチェーンを構築しようとしているけれども、このサプライチェーンはアメリカとか欧州中心のサプライチェーンとは、質的な差が大きいことは言うまでもない。

そして、こういった動きを見て何が起きているかというと、中国の直接投資が激減しているわけですね。

まず対中直接投資というのがどういう意味を持っているかという話をしますと、企業の設備投資 というのは、企業が生産基盤、工場を建てて設備を入れて設備を充実していくわけですが、この生産基 盤を確立して生産規模を拡大するに連れて、もうこの設備投資というのはより強く安定したものとなっていくわけです。

ところが、直接投資が揺らぐと経済に大きな影響が及ぶわけですね。中国への直接投資というのは徐々に減ってはいたんですが、今年の第二四半期に急速に加速して、25年前の統計開始以来の水準に落ちこんだ。具体的な数字で言うと、第二四半期に中国への対内投資は49億ドル弱に減少したと。

逆に 中国から出てくる投資が341億ドルに達している。それから1月から5月の対内直接投資は5.6%減少し て、過去3年間で最大の減少幅。それからグリーンフィールド投資というのがあります。これはM&Aが 例えばもうそこにある会社を人・物・金ごとガバッと買うのと違い、ゼロから営業所とか支社をつくり、 そこからコツコツ会社を伸ばしていく、事業を伸ばしていく投資のことを言うんですが、2010年から 2011年は中国では年1,000億ドルあったんです。ところが昨年は180億ドルに減少。8割以上減っているというのが、数字から分かります。



つまり、こういったものが減った原因は何かというと、まず中国と西側諸国との間の政治的な対立があって、繰り返しますが、人・物・金・情報は国境を越えて自由に往来するという、もう今となっては伝説というのは、もう過去のものになってしまって。今は国境のない経済から国境のある経済へ、変化しているわけですね。

そして、日本とか欧米諸国が中国向けの先端半導体装置を制限して、それに対して中国は対抗措置をとっている。そして半導体に限らず,西側諸国は脱中国にアクセルを踏んでいることは、今お見せした数字から明らかなわけです。

そして、中国に対する直接投資というのは、世界貿易の確固たる一部と今までみなされてきたんですけれども、その数字が急速に減っているということは、脱中国という地殻変動が起きているということを示唆しているわけですね。


脱中国という地殻変動が起きている

それは今のデータから明らかになっていて、これは冒頭申し上げたように設備投資が減っているということなので、今後数年間の資本フローの基調が変わっているんだというふうに見なければならない。

対中投資が減っている。では中国14億人の市場はどうなのということなのですが、では不動産市場 はどうなっているか。ちょっと流れを整理すると、2010年、中国全体のGDPに不動産が占める割合が 5%を超えました。

そこで中国政府は住宅購入規制を導入したので、不動産の市場価格帯が鈍化したわけですね。これはまずいということで、2014年に中国政府はこの規制を緩めたわけです。そして2015年 には外資向けの規制も緩めました。これに対して2019年に不動産関連のGDPは中国全体の17%になって、不動産の動向というのが中国経済全体に大きな影響を与えるようになったわけです。 

しかしこれはちょっとバブルの意味でまずいなということで、2022年、中国政府は不動産企業向けの 融資規制に踏み切ったわけです。今話題の恒大集団を例に挙げますと、この恒大集団が2020年の不動産 企業向けの融資規制に該当したんですね。そして融資を制限されちゃったわけです。

そうすると負債が 過大だった恒大集団は、融資が制限されて新しくお金を借りられなくなっちゃった。そうすると新しい 開発ができなくなったり、今までの債務を返済する原資の確保が厳しい状況に陥ったんです。恒大集団以外にも巨額の赤字を抱える不動産企業はたくさんあることは、もう皆さんご存じのとおりですね。

そして、じゃあどうなっていくかという話なのですが、まずよく中国経済崩壊論とか言う人がいるのですが、そこで見落としてはいけないのは、中国は独裁国家です。我々西側諸国と違う経済システムなので、我々と同じような透明性がある倒産処理は行われないのです。だから恒大集団はいまだに生き残っているわけです。

あれが西側の会社だったら、とっくに会社更生法になっているわけです。これがならないのは、政治体制がまったく我々と違うからなんです。

では、恒大集団などの不動産大手が経営破綻すれば、当然金融機関は不動産企業とか他の企業とかへの貸し出しを抑制します。そうすると資金が不足します。それによって市場の流動性が失われる、いわゆる信用収縮という状態になるわけです。

信用収縮になるとどうなるかというと、金融危機とか不良 債権処理などを背景に、貸し渋りが起きるわけです。貸し渋りが起きると、金利が上がります。そうすると企業は適切な金利で借り入れすることができなくなってしまいます。今度適切な借り入れができない企業とか、借り入れそのものができなくなった会社の中には、事業継続ができないものが出るわけです。

事業継続ができないというのは、西側でいえば倒産になるわけですけど、あちらは我々とは別世界なので、どうなるか、それは独裁者の胸先一つなんですね。だけど事業継続できないものが出たり、事業継続できても経営を圧迫する状態になります。

そして、それは西側の倒産処理があろうがなかろうが、経済は悪いんです。そうすると経済が悪くなると、当然物は売れなくなります。そうすると消費量が減るから、14億人の市場の魅力がなくなるんですね。

だから思いだしていただきたいのは、双循環戦略では中国の内需拡大の主眼を消費によって行うと言ったわけですけれども、この不動産市場の低迷、そしてそれが金融に与えるインパクト、こういつ たものを考えると、消費は伸びなくなるのです。そうすると、外国人投資家は中国での投資に魅力を感じなくなってくるわけです。こういうのが対中直接投資の変化に現れているのです。





中国製造2049

次に、中国製造2049がどんな影響を与えていくかについて話します。まず、自動車産業 を例にとって言うと、中国政府は外資系の自動車会社に、中国の自動車会社と合弁会社をつくって中国国内で新車を製造販売することを規定したんですね。

それに応じて、日本も含めて自動車会社は中国と合弁をつくっていくわけなのですが、最初は日本の自動車会社も含めて海外の自動車会社は、中国へ自分の会社の技術が流れる、もしくは盗み取られることを警戒して躊躇したんです。

ところが14億人の市場があるからというエサにつられて、まずフォルクスワーゲンカヾ先鞭を切りました。そのあとヨーロッ パ、そしてアメリカ、そして日本という順で後追いしていったんですね。

その後2015年、中国政府は中国製造2049を掲げたわけですけれども、その中には省エネとか新エネ ルギー自動車というのが入っているわけです。そして何が起きているかというと、2023年9月中旬に、中国政府が中国の電気自動車メーカーに対して、半導体などの電子部品について、中国企業の国産品を使うように内部に指示をした。外資系のものを使うなということです。

つまり、これから中国製造2049 に掲げられた10の産業分野では、外資排除の動きが出てきます。

つまり、14億人の人がいても、独裁政府の命令で日本企業や西側企業の部品や製品は売れなくなるということです。14億人の市場が魅力的だというのは、そこはあたかも日本やアメリカやヨーロッパの市場のように、頑張れば売上が伸びるという前提なんですけれども、そういう市場ではないんですよ。中国というのは。

そして先ほど言いましたように、強制技術開示の対象になっている複写機とか、化粧品こういったと ころは何を彼らは言っているかというと、中国で全部技術を開示しなければ、中国で売らせないと言っているわけです。それが魅力的な市場ですか、ということなんです。 

こういった影響も、つまり外資締め出しの動きが中国製造2049との関連で出てきますよということも考えなきやいけない。つまり、双循環もあり、そして不動産不況が本格化していくと、中国で物は売れなくなる。しかも、中国製造2049との関連で、政府の命令で外資系企業が閉め出されるというような 動きを想定しなければいけないということなんです。

(つづく)

⑥日本が取るべき経済安全保障政策——「中国製造2049」で技術だけを盗まれる日本企業

2025-01-14 00:00:00 | 政治見解
⑥日本が取るべき経済安全保障政策
——「中国製造2049」で技術だけを盗まれる日本企業




昨日からの続きです

(本ブログは著者の特別の許可を得て掲載しています。なお、収録時は対中宥和の岸田政権下です。)


失速する中国経済、もはやジリ貧

これからの中国がどうなっていくのか、こういったようなことをまとめ編みたいなことをお話ししていきたいと思います。

まず、この中国の経済がどうなるかという前に、これまでの流れというのをお話ししていきたいと思います。中国が本性を現したね、というところから話をしていきますね。

まず背景としては、我々一般消費者が使う製品の技術というのが、どんどん進歩して、いわゆる民生 技術と、そういう技術を呼ぶんですけれども、今度は民生技術と軍事技術の差がすごく縮まっちゃったんです。民生技術を軍事技術に転用するような動き、これがはっきり中国で起こり始めた。これは2017 年頃から顕著になってきていて、彼らは軍民融合政策というふうに言っているわけです。

そして2015年、中国政府は中国製造2025、2035、2049というのを発表し、2049年 には世界最強の製造強国になるよということを公言し始めた。

そして、こういった流れの中で、2019年12月、武漢ウィルスの患者が発見されて、世界中にパンデミックを引き起こしたわけです。そのパンデミック禍で何が行われたかというと、生産拠点が中国に集中していたわけですね。これはグローバルサプライチェーンということで、人・物・金・情報は自由に国境を越えて行き来するから、14億人の中国にみんな工場を持っていきましょうという流れがあって、生産拠点が集中していた。

今度は生産拠点が中国に集中していたので、中国政府は中国の意見に同調しない国に対して、マスクや消毒液の輸出を止めるということをやったわけですね。マスク外交とか戦狼外貨と言われました。こういう行為をエコノミック・ステート・クラフトと言います。

例えば、武漢ウィルスの責任を追及したオーストラリアのモリソン首相に対して、中国はものすごく反発し、小麦とか牛肉とか石炭、鉄鉱石、こういったものの輸出をしない、こんな動きをした。それから台湾とかリトアニアに対しても、同じような行動を取った。最近では、これはウィルスとは関係ありませんけれども、日本の福島原発から処理水を流すということに反発して、ホタテなどの海産物の輸入を禁止した。ですから、これが中国の本性なわけですね。

この軍民融合を進めたと言いますが、これも令和5年の『防衛白書』に書いていますが、ポイントは、 中国は軍も民もないのだということなんです。つまり、緊急事態に限られない平素からの民間資源の軍事利用や、軍事技術の民間転用などを推進していると。そして、海洋・宇宙・サイバー・人工知能、これはこういった新興領域で軍民融合を重点的に行っている。平素からの民間資源の軍事利用って何だろうと思う人がいるでしょうけど、例えば中国には民間というか、海運会社というのがありますね。

ところが台湾有事を想定して、こういった企業の船も人民解放軍と一緒になって、ロジスティックの演習をやっているような例があるわけです。つまり、もうこれは民間の船が軍用の運搬船なんかに使う、動員とか、こういうようなことをやっているわけです。こういう演習をやっている。これが民間資源の軍事利用ということなんですね。

米中の対立激化というところのおさらいをすると、今言った軍民融合政策とか、中国製造2049に対 して、アメリカは当時のトランプ政権が2019年度の国防権限法を皮切りに、対中制裁を強化する法案を どんどん作って、今でも執行しているわけです。バイデン政権によって。そして2020年に民主党のバイ デン政権へ政権交代したわけですけれども、アメリカの議会は超党派で対中規制の法案を審議・成立、そして審査中ということで、アメリカ議会の流れは変わっていないわけです。 



これに対して、中国は双循環戦略というものを打ち出しています。この双循環戦略を理解することが、中国の動きを理解する上で大事です。

2020年、米国は対中半導体規制を実施して、中国の兵器近代化の阻止に動いている。さらにTikTokに代表されるような中国製アプリとか、国家安全保障の脅威とする5社、これは具体的にはHUAWEI、ZT、ハイクビジョン、ダーファテクノロジー、ハイテラという無線会社、この5社ですけれども、こういったものをアメリカで使えなくするために、新規の認可を停止するとか。こういった工作員用のソフトとか機器の締め出しに着手しているわけです。

では、中国の国内はどうかというと、今年の3月の全人代で習近平主席の第3期目に入ったわけです ね。そして人事面では習近平の古くからの側近が抜擢された。

そして公安省とか新旧の国家安全省も異例の重用をされているとか。それから習近平氏が重視する総体国家安全官というのは、経済・貿易・ 外交の優先度合いは低くて、共産党独裁の維持が根幹なわけです。そして人事を見ると、中国政府とか共産党の中枢から、改革開放派は一掃されていて、そして先ほどのセクションで言いましたが反スパイ 法が施行されている。

そうすると、西側諸国と独裁国家の価値観対立ということなんですね。つまり、独裁者を個人崇拝する社会と、民主主義社会の価値観が、もう安全保障とか経済に至るまで、あらゆる側面でもう対立して先鋭化している。

では、この独裁者を崇拝する価値観と民主主義の価値観が、手を打つ落とし所があるのかというと、落とし所はないよね、ということなんです。つまり、この問題は、価値観対立は落とし所がないということを、頭の中で理解していくこと。

具体的に言うと、アメリカなどの自由・資本主義の価値観と、中国の王朝、今の王朝は共産党ですね。王朝と奴款を容認するような価値観とは、相容れない。水と油なわけです。


双循環戦略

脱中国の話に入っていきます。その前に、まず双循環戦略とは何か、お話ししますと、2020年当時と いうのは武漢ウィルスがパンデミックを引き起こして、世界経済は低迷し、中国は戦狼外交を行い、そ して中国によるエコノミクス・ステート・クラフトなんかがいろいろ起きていて、じゃあや、っぱりこの グローバルサプライチェーンを見直そうと。脱中国の動きが始まったわけです。

それで中国政府は、こうした西側諸国の脱中国の動きに対応するために、まず中国には14億人の国内市場がある、というエサをちらつかせました。そして、この14億人の国内市場に物を売るためには、 技術を持ち込みなさい、そして生産は中国でしなさいと。

つまり、中国に生産拠点を置くサプライチェーンを拡大させる。そして技術を持ち込ませることによって、西側の技術を移転させて、そして西側に対する技術の依存度を減らしていくということをしたわけです。これで西側諸国の生殺与奪の権を握る、これを双循環戦略というわけですね。

具体的には三本柱ということで、国内の巨大市場を形成すると言っているわけですが、とにかく双循環に外国企業を呼び込む大事なエサなわけです。そして、中国の内需拡大を投資から消費にした。それから今言いましたように、サプライチェーンの海外依存度を下げましょうということをやった。そのために、外国企業による投資を呼びかけをしている。

これを見てお分かりのように、中国の商務部が反スパイ 法が施行されたにもかかわらず;必死に中国への投資をしてくださいと言っているのは、この双循環戦略を達成することが、商務部とか外交部のミッションだからなのです。彼らは彼らで、自分たちのノルマを果たさなければいけない。

だから反外国制裁法で国家安全部門が「お前はスパイだ」と言えばスパイとして不当拘束することができるけれども、それは心配しなくていいですよと。今までと変わりませんと。中国にどんどんいらっしやいと言っている。これはこの双循環戦略というものが背景にあるからなのです。この存在と目的を知っていれば、だまされることはないわけですね。 

ですから、注意点は、西側の対中強硬政策に対する切り崩しの一つなんですね。そして国内の市場を海外企業へのエサとして活用しつつ、口先だけの対外開放を通じて、世界経済への貢献性を示そうとする姿勢を取っているんですけど、これには注意が必要だと。

そして双循環戦略というのは中国政府に とって、中国製造2049を実現するために必要なのです。とにかく西側からどんどん技術を盗んで軍事転用しつつ、自分たちの技術改良に使い、そして2049年に世界最強の製造強国になると言っているわけで すから、西側との遮断が起きると甚だうまくない。

(つづく)


⑤日本が取るべき経済安全保障政策——反スパイ法で自滅する中国 

2025-01-13 00:00:00 | 政治見解
⑤日本が取るべき経済安全保障政策
——反スパイ法で自滅する中国 



昨日からの続きです

(本ブログは著者の特別の許可を得て掲載しています。なお、収録時は対中宥和の岸田政権下です。)



そしてさらに、データを証拠収集への協力を拒否した場合は、処罰の対象になる。しかも、データ 安全法、さっき言ったデータ三法の一つですけれども、これを利用して反スパイ法の執行手段とするの で、中国にいる日本企業とか日本人へ重要データを移転することが規制されます。そして重要情報を受け取る日本企業とか人を、反スパイ法で摘発できる。

では、国家安全と利益にかかわるものとして、データ三法で例示されているものはここにあるように、もうほとんどの物だと考えていただいていいと思います。こういった法律ができたんですね。

そして、国家安全機関というところがスパイ行為によって、スパイと組織およびその代理人が得たすベての利益を没収することができますし、また企業情報とか学術論文、こういったものも従前は西側並みにアクセスできたんですけど、今はアクセス制限の対象になっていて、抵触すればスパイ行為に問われる。中国共産党の歴史に関する研究も、調べるとスパイ行為だと。

こういったものが何かというと、我々西側諸国はウィーン条約というのを持っていて、それが法治国家とか法の支配を前提に作られたものなんですけど、中国の反スパイ法は国家安全法制で恣意的な拘束・処罰を行うことができるわけです。

対応ポイント、これからじゃあ実務的な話をしていきますと、まず習近平総書記の第3期目に入って、政府、共産党の中枢から改革開放派が一掃されたわけです。前の胡錦濤さんがテレビカメラの前で退場させられましたよね。あれが象徴です。つまり、習近平氏のまわりはイエスマンで固められている。そして、改革開放派が権力から一掃されてますから、これまでの人脈は役に立たないと考えること が必要なんですね。

国家安全機関が狙うのは、中国で行われる展示会、交易会、会食懇談、こういったもので「お前スパイ行為をしただろう」と言って捕まるリスクが高いわけです。



国家安全部門というのは、改革開放とか、それから西側諸国との交流を損なうかどうかということは、まったくそういうのは視野にないわけですね。しかも、中国の国家安全部門は具体的なスパイ行為とか、国家安全と利益を害する行為というのは、はっきりこういったものが該当するというのは明確にはしないわけです。

その他注意すべきというのは、さっき言ったデータ鎖国化ですね。今までは企業情報を、日本でいったら東京商エリサーチとか帝国データバンク、こういったものが海外からのアクセスが制限されている。それから学術論文のデータもアクセスが制限されている。それから最近は日本の大学とか研究機関や図書館へアクセスを制限するよという通知もあったんです。

それから、中国企業との軍との関連情報を収集すると、スパイだろうと言われる。それからウィグルの人権侵害サプライチェーンの情報も、調ベるとスパイだと。その他メディアの報道とか、外国メディアとの接触とか、コンサル会社の設立や運営なんかもスパイ行為だというふうにみなされます。



ところが、日本の親中企業とか親中知事というのは、飛んで火に入る夏の虫なんですね。これは7月 4日、河野洋平さんを団長とする経済団体、日本国際貿易推進協会というのが、玉城デニー知事と一緒 に中国を77名で訪問して、商務相とまず会談しています。そしてに対して 「駐在員が不安に思っているし、それを払拭してくれ」と。そうしたら担当部署を読んで、日本商会に説明して誤解を解消したいとか言っているわけですね。

そして、翌日は李強首相と会談をして、アステラスの従業員が中国の反スパイ法で拘束されたことを 念頭に、中国と経済交流をした人たちのモチベーションを下げないようにお願いしたい、なんて言っているんです。

ところが、それを受けて商務相は、日中投信促進機構と意見交換をしていて、誤解があるとか、そういうことを言っているわけなんですが。背景には、この双循環戦略というのがあります。

4月21日には 中国商務部が改正反スパイ法に関して、商工会議所を説明会を開催し、我々は従来どおりの外資導入を 重要な位置に置いていて、公平で透明、そして予測可能なビジネス環境の構築に尽力しているんだ、な んてことを言っているわけですね。心配するなということを言っているわけです。 

それで日本企業の典型的な反応としては、中国政府が法に違反しなければ大丈夫と言うから、スパイ 行為に該当する行為を明確化してほしいなんていう人がいるんですが、国家安全当局側にとっては、裁量でスパイとして捕まえることに意味があるので。こういったスパイ行為が何かとか、国家安全と利益 を害する行為を明らかにする意味がないわけです。「お前はスパイだ」と言って捕まえることに意味が あるわけです。



この商務部の度量を一蹴する発表が、8月4日に国家安全部からあった。WeChatから回答したのは、 ここにあるように改正反スパイ法の施行後、国内外の世論が一層関心を寄せており、大多数の意見が 「スパイ行為は重大な違法犯罪行為であり、法に基づき厳しく取り締まられなければならないと考えている。国家安全部は、一部の海外メディアが改正反スパイ法に懸念を示し、投資ビジネス環境に影響 を与えるだろうと誇張し、さらに悪意をもって曲解し、我々の正常な立法活動を攻撃中傷する者すらあると認識している」というふうに、もう一蹴したわけです。密告社会と相互監視社会がますます加速 している。

そして、ここに公式説明ですね。4点を強調すると言っているんですが、反スパイ活動を強化して本国の国家安全を守ることは、世界各国の一般的慣行であると。よその国でもやってるだろうと。日本にはスパイ取締法はまだないです。それから改正反スパイ法は中国の国家安全を守るために必要だと。

反スパイ法の規定はオープン透明で、明確、明解だと。そして中国は法治国家であり、厳正なる処理を 堅持しているということを話をしています。つまり、俺たちはやるよということを言っているわけで す。

国家安全当局は自由自在に活動して、こいつを捕まえようと思ったらスパイとして捕まえる。ところが、それは台湾有事とか沖縄有事とか、こういったことが起きた場合に、日本人の恣意的拘束を行う ことが法に基づいてとして、具体的な説明を行わないまま正当化してやられてしまうよ、ということなのです。誰でもスパイ行為とされるリスクを負っているということなんですね。

これは何度も言いますけれども、国家安全当局が「あなたはスパイだ」と言えばスパイになってし まう法律なので、非常に気をつけなきやいけないし、そういったリスクのある法律が施行されてしまったと。ですから、日本企業とか日本政府がやらきゃいけないのは、とにかく中国にいる日本人の数を減らしていくことです。これに取り組まなきゃいけないわけです。

そして、もう一つ中国の問題としては、改正反スパイ法ではいわゆる中国がまだ自分に移転していないというか、盗み取り切れていない技術、例えば半導体製造装置とか半導体の材料、それから複合機 とか化粧品、こういったようなものは強制技術開示というような動きをして、これを全部ノウハウを教えないと中国で売らせないみたいな動きをとっているわけですね。


ですからこういった事業をやっている会社は、早く中国から抜けることが必要です。

まとめていくと、経済界や企業は商務部や外交部などを相手に今まで交流してきたのですが、彼らは貿易投資とか文化交流の促進を進める役割をしているわけです。ところが、反スパイ法を管理しているのは国家安全部門であって、彼らは中国国内での力関係は国家安全部門が商務部や外交部を 監督・監視・指導する位置づけ、上なのです。だから国家安全部門が、何が国家の安全と利益を損なうかを最終判断するわけなんですね。

だから、いくら商務部や外交部が大丈夫だと言っても、彼らは国家安全部門に監督され、監視され、指導される立場なわけですから、彼らがいろいろ言っていたこと、 それから日本企業がこういった人たちと築いてきた人脈はもう役に立たないと、発想の転換が必要になります。

今ずっとお話ししてきましたけれども、こういった反スパイ法というものが施行されて、中国というのは非常に危ない、誰でもいつでも捕まるような状況。そして、規制と統制の法律がたくさん成立して 施行されたというのは、前段でお話ししたとおりなのですが、こういったところで事業を展開するというのは、いかにリスクが高いことなのか、お分かりいただけたと思います。

ですから、我々がやらなければいけないことは何かというと、中国から開発拠点、そして生産拠点 をもう設備を捨ててでも帰ってきて、東南アジアに移転するとかして、そういった技術が盗まれないこと、それから日本人従業員が不当に拘束されないようにすること。こういったことがとても大事になってくるわけです。これが今の中国の法制、そしてビジネスの実態ということです。 

これで、いかに脱中国をしていかなきやいけないのか。中国経済は今非常に大きく失速してきていて、先行きが見通しが厳しい状況になっています。この中で中国にこれ以上コミットすることはリスクだということを申し上げてまとめといた します。

(つづく)

④日本が取るべき経済安全保障政策——中国共産党の罠に落ちる親中日本

2025-01-12 00:00:00 | 政治見解
④日本が取るべき経済安全保障政策
——中国共産党の罠に落ちる親中日本



昨日からの続きです

(本ブログは著者の特別の許可を得て掲載しています。なお、収録時は対中宥和の岸田政権下です。)


中国共産党の罠に落ちる親中日本

まず最初に、中国というのは改革開放の国だと思っている人がいたら、これは大きな時代錯誤でして、今や規制と統制の国なんですね。それを裏付けるのは何かというと、中国で2010年以降、特に習近平氏が国家主席に就任して以降は、国防動員法、国家情報法とか、ここから始まって今年の反スパイ法まで、非常に強力な規制と統制の法律が成立して施行されていのです。


国防動員法

では国防動員法とはどういう法律なのというところから話をしていきますと、まず1点目は中国が有事だと認定した時に、この国防動員法というのが発動されるのです。そして人民解放軍に参加するために、日本企業の中国工場にいる従業員が中国の人民解放軍に行ったとします。そうした人に対して、すべての賃金、手当、福利厚生まで全額支給せよと。何も働いていないんですよ。だけど金を払えと。

それから、日本企業の中国にある資産が政府によって差し押さえをされたり徴用されたり凍結されたりしますよというのが、54条で書いてある。それを拒否することはできませんという法律が2点目。

それから3番目は63条です。ズラズラ書いていますが大事なことは、物流は止まる、インターネットも止まる、それから航空便も止まる、輸出入も止まると、ここにいろいろ書いてますけどね。何を言いたいかというと、中国にいる日本人は、まず日本に帰ってこれません。非常に深刻です。どうなるかも分かりません。安全に滞在できるかどうかの保証はまったくありません。


国家情報法

そして、2つ目の国家情報法。これはすべての中国の国民とか中国企業などに、中国政府の行うスパ イ活動への協力を義務づけている法律なんです。そこの規定があるのが、ここに書いてある第7条です。

日本の企業で中国の国籍を持った人を採用して、会社の重要な情報とかにコンピューターでアクセスできるようにしている会社もありますが、非常に危険だと申し上げておきます。なぜならば、中国政府がその会社のその技術を欲しいと思ったら、そこで従事している中国人の従業員に「これを盗んで 持って来い」ということを命令することができるわけです。

そして、そこの日本の会社に勤めている中国人は、それを拒否することはできないのです。なぜなら国家情報法7条による法的義務を負担しているからです。こういう法律があるんですね。

それから工ンティティリスト、これはブラックリストのことです。中国もアメリカに対抗してこういったものを作りました。




輸出管理法

そして、輸出管理法というのがあります。これはサプライチェーンの前提を崩壊させた法律です。それまでグローバルサプライチェーンのお約束事というのは、人、物、金情報は国境を超えて自由に行き来して経済を発展させると言われていたのですが、そういった前提をぶつ壊した法律です。

なぜかというと、この多くの製品とか技術、それから戦略物資などを管理品目に指定して、それを輸出するためには国務院の中央軍事委員会が管理する事前輸出許可になったからなんですね。そして中国政府が「こいつ は反中国的だ」とすると、こういった輸出を不許可にしたり、中国版のブラックリストに掲載することもできるようにした。そして、輸出とかみなし輸出という制度も入れてきた。 

では、これは何かというと、ここに出ていますが、再輸出制度ですね。日中合弁会社で作っているものは、中国国内での販売は自由にできますが、日本に輸出してそこから懸念国へ輸出する、もしくはその合弁会社から懸念国へ直接輸出する場合に、中国の事前許可が必要になる。

それからみなし輸出というのは、これは技術のことです。みなし輸出ですが、これは技術のことです。これは日中の合弁会社で製品を開発していたとします。そして、これを中 国人以外の技術者、例えば現地採用された日本人技術者なんかに話す時には、技術の移転だということで事前許可を取れと言います。

それから、この合弁会社で働いている日本人技術者が日本に帰ってきたと。そして懸念国の技術者に、例えば合弁会社でこういう技術やってるんだよね、というような話をする時は、事前許可を取れということなんですね。こういう仕組みが入ったと。


反外国制裁法

それから、反外国制裁法というのもできました。これは中国政府の判断一つで制裁を発動できる法律です。中国の内政に干渉なんていうのは、何か中国は気に入らないと「内政干渉するな」と言いますけれど、要はどんな理由でもいいから発動できると。

そして、中国が大事だという確信的利益の中には、沖縄県の尖閣諸島も入っている。そして、この反外国制裁法の報復対象は、日本企業とか国会議員とかその家族、それから日本企業とかその幹部、 親会社、子会社、そして家族にまで及ぶと。そして反外国制裁法に基づいて中国の国民とか組織は、人民法院に転送できると。こんなような法律ができています。


データ三法

そして、データ三法というものもできました。これは一言で言うと、中国で開発した技術データとか 重要なデータは、中国から実質的に持ち出しができなくなったということなんですね。持ち出しができなくするために、データ安全管理対象というものを設けて広範な技術とか研究成果をその対象にしている。

そして、その重要データの管理は非常に厳格な手続きを求めて、相対国家安全官という、一言で 言うと中国共産党の体制に脅威になるようなもの、こういったものを包括情報にして適用が不透明である。そして、輸出管理とは異なる厳しいデータ管理が求められていて、今言いましたように中国国外に 研究成果とか技術を持ち出すことが困難になっています。



反スパイ法

反スパイ法が改正されました。中国の国家安全部というのは WeChatに公式アカウントを開設して、こう言っているわけです。

「反スパイ闘争の現状は厳しく複雑であって、中国全社会の動員が必要だ。中国の政府機関や人民解放軍、企業、団体などにはスパイ行為を 防ぎ国家の安全を守るという法律上の義務がある。そしてすべての中国の国民と組織は、反スパイ活動 を支援協力し知り得た国家秘密と反スパイ活動の秘密を守る。そして中国は反スパイ活動を支援協力 する個人と組織を守る。そして、スパイ活動を通報して大きな貢献をした人は表彰しますよ」というようなことが主な内容です。

国家情報法については先ほど話しましたが、これでセットになって、要は、スパイを全中国国民はやらなきやいけないし、反中国的なスパイ活動をしている人は通報しないといけないよ、ということを義務づけたわけですね。そして、一言で言うと監視密告社会が強化された。中国のすべての組織が反スパイ安全防止活動の責任を負って、国家安全を守るための教育を行い、組織を総動員してスパイ活動を防止・制止するのだと。

先ほど言いましたように、スパイ行為を発見次第、速やかに国家安全機関に通報することを義務づけたので、日本人に対するえん罪とか恣意的拘束・立件ができるようになったわ けです。

また、外国人への質問とかスパイ行為の疑いのある者への持ち物検査ができる権限が法律に書かれたので、日本企業の事務所とか事業所を捜索とか没収ができるようになったんですね。反スパイ活動に使用した疑いのある場所、設備、あるいは財物に対して封印、留置、凍結することができるようになって、状況捜査とか証拠を収集する際にありのままに提供して、拒絶してはならないと規定したので、物流とか通信が監視されますし、中国は日本企業の企業秘密、知的財産を手に入れることができるわけです。

「これ、スパイやっただろう」という口実で入ってきて、全部ありのままに提供しろということで、欲しかった技術とか企業秘密を根こそぎ持ち去ることができる。それから、もちろん日本企業にスパイ行為を名目とした捜査などを行うことができるわけですね。 サイバースパイ活動の阻止を掲げていますから、常に通信、それからDHLとかそういった郵便とか、こういったものを物とか書類のやりとり、それからデータのやりとりは日常的に監視・傍受されていますと。

(つづく)

③日本が取るべき経済安全保障政策——もう中国に技術を一切与えないという方針のアメリカに学べ

2025-01-11 00:00:00 | 政治見解
③日本が取るべき経済安全保障政策
——もう中国に技術を一切与えないという方針のアメリカに学べ 



昨日からの続きです

(本ブログは著者の特別の許可を得て掲載しています。なお、収録時は対中宥和の岸田政権下です。)


アメリカの対中プロテクト&プロモート戦略

その背景にあるのが、アメリカの対中戦略の転換なんですね。アメリカは中国の国交回復以降、関与政策というのを進めたわけです。この関与政策とは何かというと、中国が豊かになればいつかは民主化するだろうという妄想ですね。これに基づいた関与政策をいうのを進めたわけですけれども、結局それが機能しなかったという結果に終わったわけです。

もうこれは、中国は民主化しないと判断したアメリカ政府と議会は、超党派で米中の経済関係を大きく見直して、中国の 軍民両方技術開発を制限する戦略に転換しています。これを知らない日本の経営者が多すぎる。

そして、アメリカの政府は、今までは中国の技術の成長をアメリカが管理して、アメリカの数世代遅れた技術を中国が確実に持つことでよしとしていたんですけれども、新しい対中政策は、アメリカ政府の対中アプローチが根本的に変わったということなのです。

つまり、アメリカは中国に対して、先端半導体、コンピューティング分野、人工知能、そしてバイオテクノロジーとグリーンエネルギー分野における中国の技術進歩を止めるという、新しい戦略に変わったということなんですね。

それを今、バイデン政権ではプロテクト&プロモート戦略と呼んでいます。これが守りというのはプロテクトで、今申し上げたような輸出規制を駆使してアメリカの先端技術を盗まれたり、不法な移転などを防いで、中国が力で国際秩序の現状維持をしようという試みを阻止する。これがプロテクト。

そしてアメリカの産業政策を通じて、アメリカの産業の競争優位を強める。これがプロモートですね。この二つのプロテクト&プロモートという戦略を、アメリカ政府は進めています。


オランダのASML、日本のキャノンとニコン

鍵となったのは、露光装置というもので。これは専門的な話なのですが、半導体の前工程の中で使われるウェハーというものに回路を描く装置です。ここで押さえてほしいのは、世界でこの露光装置を押さえているのは3社しかない。これがオランダのASML、そして日本のキャノンとニコンなんです。この3社が物を出荷しない、露光装置を出荷しないということになると、先端半導体を作ることはできません。



アメリカと足並みを揃える日本という国と書きましたけれども、日本も当然アメリカの同盟国とし て、アメリカの対中半導体制裁に足並みを揃えることになります。

そして今年の3月31日に先端半導体 の製造装置等、23品目を輸出管理の規制対象に加えると発表して、7月に施行したと。そしてこれは、 回路幅で言うと10〜14ナノ以下の先端半導体の製造に必要な装置なんですけれども、これをもう出さないということになったわけです。原則、出さないよということにしたわけですね。原則といっても、もう出ないと考えていいと思います。

今、一つ問題が出ていて。中国が実は7ナノの線幅のものを使ったんですね。量産したと。これは恐 らく14ナノクラスの装置を使っていろいろ工夫をして作ったんだろうと言われていて、これでアメリカはものすごいショックを受けていたんですね。今までの規制が甘かったというふうに彼らは反省していて、おそらくこの14ナノというのがもっと規制が強化されると思います。
オランダも同じく ASMLがありますから、西側と足並みを揃えて露光装置の輸出規制を強化していま す。


アメリカはもう中国に技術を一切与えない方向に切り替わっている

では、それによって何が影響を受けるかというと、中国の産業政策である中国製造2049なんですね。 これは文民融合政策という政策の下に、ここにあるような3段階を経て2049年に世界の製造強国のトッ プ入りをし、中国の夢を実現するというものです。これに影響が出てきています。

つまり、ここに第1 段階で中国製造2025という、製造大国の地位確立と書きましたが、ここで習近平国家主席は知能化戦 争に着眼していて、昨年10月に行われた共産党大会でAI開発とAIを活用する知能化戦争を強調していま す。そして半導体がこの知能化戦争に重要だという話をしましたけれども、半導体の自給率を2020年ま でに0%、2025年までに70%に引き上げる計画をとっています。

ところが、2025年までに計画を達成するということカヾ、非常に危ぶまれる状況になっていて、中国の覇権への動きに対して大きな打撃を与えている。非常に有効に働いているのですが、中国もさるもので、2世代ぐらい古い装置を駆使して、しかもここで言われているのが西側の技術者を高額なお金で引っこ抜いてきて、それをどう活用するかを教えさせているという情報もあります。

そういうような西側の裏切り者技術者の活動などもあって、7ナノを作ったようなんですけれども、この規制がさらに強 化されるだろうと私は思っています。

そして、今年度の国防権限法では、この3社、エスミック、CXMT、YMTCという3社、グループも含めて、これを対象とした非常に強力な規制を実施しています。それはどういうことかというと、この3社から半導体を買ってきた輸入している日本のA社があるとします。この3社の半導体の、まずB社という会社があって、この3社の部品などを組み込まれたユニットなんかを使っている会社があったとします。これをB社と呼びます。

このB社の製品とかサービスは、アメリカ合衆国の政府機関には入れることができません。そしてもっと深刻なのは、この3社のメモリーとか半導体を買ってきて、日本にあるC社という会社が重要なこのシステム、コンピューターシステム、ネット ワークに使っていたとします。



そうすると、ここの半導体にはどんなバックドアとか仕掛けがあるか分からないということで、もちろんこのC社は納入できませんし、C社全体がこういった情報システム、 この3社の部品やユニットを使った情報システムを使っているのはリスクだということで、C社全体の製品がアメリカ合衆国の政府機関には取引ができなくなっていると。こういう規制が法律で導入されました。まだ施行はされていません。

こういった話をずっと話してきましたが、いかにハイテク技術というのが知能化戦争という次世代の戦争に関連しているか、本質的に関連しているか。それを使って世界秩序を変えようとしているのが中国であって、その中国の世界秩序を変えるという野望を止めるために、アメリカ、そして西側諸国は半導体の規制に入った。

そしてプロテクト&プロモートという新しいアメリカの戦略の下、さっき言ったハイテクの半導体とかスパコン、それからAIを使うようなもの、他にグリー ン技術とかそういったものでアメリカはもう中国に技術を一切与えない方向に切り替わっているんだと。これを頭に入れておくことが大切です。

(つづく)

②日本が取るべき経済安全保障政策——中国系アメリカ人に対するアメリカの対処法に学べ 

2025-01-10 00:00:00 | 政治見解
②日本が取るべき経済安全保障政策
——中国系アメリカ人に対するアメリカの対処法に学べ 



昨日からの続きです

(本ブログは著者の特別の許可を得て掲載しています。なお、収録時は対中宥和の岸田政権下です。)


AI半導体の新星、エヌビディア

例えば、最近売り出されたAppleのiPhone 15Proの中には、A17Proという半導体が入っています。この A17ProというCPUの中には、約190億個のトランジスタが入っているんですよ。iPhoneの中にね。

そして、このトランジスタの回路の幅は3ナノメートルなんです。こういう我々の身近なものにも、ものすごくハイテクなものが使われていて、そしてスパコンの脳である先端半導体は、この微細化を競っているわけです。

ところが、このCPUというのは一度にーつのタスクしか処理できないんですね。AIでは知覚、認知、行動などの領域に入ってくると、マルチタスク、つまり並列処理にCPUが弱いということが表面化 して問題になった。

そこで大規模な並列計算ができるプロセッサーが要るねということになって、GPU ——これはもともとゲームなどに使われていたんですけれど、Graphics Processing UnitというものがAI 研究者によって広く使われるようになって、AI開発の重要なツールとなったのです。

つまり、AIのこの 計算するスパコンの心臓部が、微細加工されたCPU。そしてAIを開発するための重要なツールは、GPU というものなんですね。
これを使っている代表的な会社が、エヌビディアというアメリカの会社です。ここはA100というこう いった、GPUを販売していたんですけれども、これをアメリカの規制対象になってしまったのでA800というのを作っています。

ところが、これでもそこそこで きるので、今、バイデン政権が検討している追加規制では、こういったA800の販売も禁止しょうということを検討しているようです。


ウクライナ戦争と半導体



ウクライナ戦争における半導体の重要性ということですけれども、結局今申し上げたように、戦争において高性能な半導体は欠くことができない。ところが欧米諸国が半導体をロシアに対して禁輸にしたものですから、ロシア軍はウクライナ戦争で使う兵器の補給能力がすごく落ちたんですね。

結局、先端半導体が手に入らないから、ミサイルに組み込むことができないのでミサイルが足りない。中国は 最先端の半導体を製造していないので、ロシアに密輸とか回すことができない。だからこれが経済安全保障の肝なんですね。

そして、アメリカの輸出規制に違反して、ロシア軍にアメリカ製の集積回路を供給したということで、2023年10月、49の事業者がアメリカのエンティティリスト、ブラックリストに追加されています。 どんな会社かというと、ほとんど中国。あと他にエストニア、フィンランド、ドイツ、インドとか、いろいろあります。こういったところが追加でブラックリストに追加されています。

こういったような覇権争いに関係があるので、アメリカが昨年10月に輸出管理を強化した時に、なぜ この輸出管理を強化するのかという理由を説明しています。


中国への規制を強化

この昨年10月の半導体規制というのは、COCOMという対共産圏輸出規制というのが昔あったんですね。東西冷戦の頃は。

それが東西冷戦が終わって解散した後、最大の規制になっています。そしてまず先端半導体分野では、スパコ ン分野、特定重要分野というのを対象にして規制をかけた。それから特定の指定企業でなくても、そういった半導体の開発製造をする企業全般を、これは純粋な民生用とですよと言っても禁輸にした。

それからさらに、この規制の前に成立していたアメリカのチップス法という法律がありますが、中国の半導体工場が先端半導体を開発製造しているかどうか分からない場合は、原則、輸出を不許可にしています。基本的には、もう出さないよという規制を取ったわけですね。

この規制の要点を説明する、これはちょっと輸出管理的な専門的なことなのでさらっと言うと、エンドユース規制に半導体製造関連エンドユース規制とスーパーコンピューター関連エンドユース規制というのを新たに設けた。

それから直接製品規制というのがあるのですが、ここに新たに3類型を設けた。それからアメリカの商務省の既製品リストで、中国への規制を強化した。それからすごいのは、アメリカの企業とか中国系のアメリカ人ですね。中国系に限りませんけれども、主に対象になっているの は中国系アメリカ人などによる、中国の先端半導体の開発・製造への一切の関与を禁止した。

これはどういうことかというと、今言いましたように中国系アメリカ人という方々がいて、彼らはアメリカの会社に就職をして、そして中国に行って中国の半導体企業の工場の立ち上げなどを手伝っていたわけです。これを、もう原則不許可にするという措置を執ったわけですね。



そこでどういうことが起きているかというと、YMTCとかDRAMのCXMT、それからスパコンの半導体を開発している会社などに所属している米国人、アメリカの従業員はアメリカへもう帰国しています。

それからアメリカの主要 半導体製造装置メーカーは、このメモリーを作っているYMTCに派遣している製造装置の立ち上げをやっているエンジニアも引き上げちゃったと。それからオランダのASMLという露光装置の大手の会社 がありますが、アメリカにあるASMLと子会社の従業員へ、中国顧客への装置の販売とかサービス提供 を停止するように指示をしている。
こういったのは非常に中国系のアメリカ人にとっては、もう帰国の選択肢しかないわけです。つまり、一切のサポートとか指導を禁止するということは、口頭を含む一切の技術提供その他の支援の関与も規制されているわけです。

つまり、この中国の半導体メーカーとか製造メーカーに勤務している多数の中国系アメリカ人というのは、もうそこの中国の会社を退職してアメリカに帰るか、もしくはアメリカの国籍を捨てて中国の半導体会社で勤務を続けるかという選択を迫られたわけですね。

仮に米国籍を捨てたとすると、もう再び取ることは極めて難しいわけです。そうすると、もう彼らにしてみれば 帰らざるを得ないということで、それも強制的に接触ができなくなりますから、日本でもそうですが ハニトラとかマネトラとか、千人計画で行っている人たちに対しては非常に強力な手段なんです。

日本も導入するべきなんですよ。ハニトラとかマネトラでズブズブになっている人が、たくさんいるわけです。彼らに、もう日本の国籍を捨てて中国に残りますかと。それとも日本に帰りますかという選択肢を迫るというのと同じことなわけです。これは非常に有効な手段です。

日本企業への影響というのは、アメリカの企業とか、あとアメリカ以外の企業ですね。日本企業などの米国以外、日本なども含めて、からの輸出も含めて、包括的に規制対象になっています。それから中国にある外資系企業、例えば日本企業の中国工場などの半導体工場向けの輸出も、規制の対象になって います。

(つづく)


①日本が取るべき経済安全保障政策——中国共産党vsアメリカの半導体戦争に学べ

2025-01-09 00:00:00 | 政治見解
①日本が取るべき経済安全保障政策
——中国共産党vsアメリカの半導体戦争に学べ



本日から「日本が取るべき経済安全保障政策」をテーマに、経済安全保障に関するコンサル業務を行う専門家による解説をお届けします。 8回にわたっての掲載ですが、今まであまりどこにも語られていない真実に読者も驚かれると思います。

(本ブログは著者の特別の許可を得て掲載しています。なお、収録時は対中宥和の岸田政権下です。)


今日は「脱中国が進む世界経済——日本が取るべき経済安全保障政策」ということでお話をさせていただきたいと思います。お話の内容としては大きく三つ。

まず、アメリカの対中半導体規制というのは、安全保障の問題だという話を最初にします。それから二つ目に、今年施行された改正反スパイ法で、中国はどういうような影響を、自滅の道を行くかどうか。それから最後に、失速する中国経済ということでお話をしていきたいと思います。


アメリカの対中半導体規制は、安全保障の問題

それではまず、アメリカの半導体規制がなぜ行われたかという、その背景からお話をしていきます。半導体はスマホから自動運転車だけではなく、高度なコンピューターとか兵器製造まで、あらゆるものに不可欠です。そして、もう当たりますけど、半導体なしでは電卓も動かないし、スマホ、コンピューター、自動車、航空機、船からミサイルまで、まったく動かないわけです。

そして、最先端の半導体というのは軍事品の開発性能を左右するため、アメリカは安全保障を目的に 対中規制を導入しました。中国は特に高度なプロセッサーと呼ばれる半導体、そしてメモリーチップ、関連機器の製造装置などは外国に依存しています。

逆にアメリカは、半導体供給網の中でもっとも重要な部分、特に高度な研究開発が必要な分野はアメリカが優位に持っているわけです。

そして、アメリカにはそういった優位だと申し上げましたけれども、先端半導体の設計大手、それから半導体を製造するためのソフトウエアを開発している会社とが、半導体の製造装置の会社の大手が存在しているわけです。


情報化戦争はもう古い?

安全保障問題といった理由は、まずハイテク技術というのは新しい戦争形態を生み出して、米中覇権争いの勝敗を決するんですね。ではこれまではどうだったかというと、 戦争の形態というのは軍事技術革命がもたらした成果を軍事分野が採用して、これを新たな戦争システムとして形づくって進化してきた。最近は情報化と呼ばれるんですね。

では具体的にどうかというと、1991年に湾岸戦争が起きました。アメリカをはじめとする多国籍軍はデジタル化、情報化されたシステムを使って迅速な意思決定を行って、イラク軍を圧倒したんです。情報が作戦を立てるという基本的な手段ということになって、それ以前は物質とかエネルギー、たくさん大砲を持っているとか、飛行機をたくさん持っているとか、そういった物質とかエネルギーが勝敗を決するというルールから、情報をいかに正確に押さえて戦争をするかというふうに変わったわけですね。



AIを利用した知能化戦争へ移行中

今、この情報化戦争が知能化戦争と呼ばれるものに変わろうとしているわけです。

そこでの主役は AI、人工知能なんですね。人工知能が軍事利用されると、人工知能の補助を受けて指揮とか意思決定が行われるようになる。そして、それに対応してAIを搭載した兵器システムが戦闘を行うようになりま す。従来の情報化戦争から、質的な変化が起きちゃう。AI技術の進化に連れて、作戦方式や軍事理論な ども変わっていくわけです。

今言いましたように、情報化戦争からAIを利用した知能化戦争へ移行して、新たな戦争システムカヾ形 成されて、この知能化戦争の戦場というのは陸海空、そして宇宙。だから宇宙軍なんですね。そして電磁波を使ったもの、それからサイバー、認知領域で戦場がものすごく幅広く展開されていきます。
人民解放軍は、もうこれに取り組んでいるんですね。令和5年の『防衛白書』を見ますと、新技術によって将来の戦闘の速度とテンポが上昇して、また戦場での不確実性を低減して情報処理の速度と質を向上させます。新技術というのはAIのことですね。そして潜在的な敵に対する意思決定の優位性を提供するためには、AIの運用化が必要である、と人民解放軍は認識しています。

それから知能化されたスウォームによる消耗戦。スウォームというのはドローンを何十機から何百機、バーツと飛ばして目標に向かって襲わせるような、それを制御する技術なんですけれども、数百機飛んでくるうち、9割以上撃ち落としても数機がくぐり抜けると、レーダーを壊されたり滑走路を壊されたり、いろいろなことがあるわけです。もちろん民間インフラにこういった数百機のドローンがまとまって攻撃をしてくる、このようなことも想定されるわけですけれど、これを制御していく、コントロールしていくのがAIであり、知能化された戦争なんですね。こういった知能化された戦争のための次世代の作戦構想を模索していると。



そして無人システムも重要な知能化の技術と考えており、今言ったスウォーム攻撃、それから最適化された兵站の支援、分析された情報収集、警戒監視、偵察活動などを可能にするために、無人の陸海空からのアセットの自律性を高めることを追求している。ここで無人の陸とか海というのを見落とさないでほしいですね。だか ら日本の無人島が買われているんですよ。ドローンを持ち込んで。こういうようなところを見落としてはいけないということなんですね。


軍事力は計算力

その知能化戦争を支える三種の神器が、人口知能、スパコン、半導体なんです。今申し上げたように、知能化戦争では人工知能が重要な役割を果たすのですが、人工知能AIの基礎は計算なんですね。

つまり、スパコンなどを使って数学の演算とか推論を行い、認知や運動を実現させるには、まず強力な計算能力の支えが不可欠です。つまり、今の軍事力=計算力と考えていいと思います。

そして、このコンピューターの計算能力を決めるのが、CPUという中央演算装置と言いますけれども、こういう半導体なわけです。そのCPUの大きさというのは決まっているわけです。

その決まった大きさの中でCPUの動作速度を向上させ、消費電力を低減し、半導体装置であるトランジスタ1個あたりの製造コストを削減して高性能化を果たすには、同じ面積は決まっているわけだから、1本あたりの回路の線の幅を細くしていくしかないわけです。だから微細化ということが重要になってくるわけなんですね。

つまり、微細化して集積化していくと、単位あたり、面積あたりの計算処理性能が上がっていくわけです。だから半導体を組み立てるファウンダリーは、微細化に注力しているわけです。


(つづく)

追補 トランプ次期大統領の人事——エネルギー長官他

2025-01-08 00:00:00 | 政治見解
追補 トランプ次期大統領の人事——エネルギー長官他




引き続き、日本メディアでは報じられることが少ないトランプ政権の布陣について、米政治に精通する専門家に、人となりを含めた詳しい解説をお願いしました。これほどまでに詳しい解説はないと思いますので特別に公開させていただきます。


トランプ政権の人事がほぼ固まりました。閣僚人事については上院の承認が必要ですが、主要な省庁のトップである長官の選任が進み、それに続く補佐官クラスの人事もほぼ大筋が決定しています。異例のスピード感で進められており、非常に好ましい展開と言えます。

その中で特筆すべき人物として挙げられるのが、エネルギー長官に指名されたクリストファー・ライト氏です。この人物は、1965年以来のエネルギー省長官として注目されています。ライト氏はCO2削減論を全面的に否定する立場を取っており、その背景には彼の経歴が大きく影響しています。

彼は、シェールオイルやシェールガスの採掘に用いられる水圧破砕法(フラッキング)の分野で、北米第2位のクラッキング会社のCEOを務めていました。そのため、石油や天然ガスの採掘を推進し、「人間活動がCO2排出によって地球温暖化を引き起こしている」という主張を完全に否定しています。経済成長を重視したこのような姿勢は、アメリカ経済のさらなる発展を期待させるものと言えるでしょう。

第2次トランプ政権の閣僚名簿はすでに完成しており、その速さは異例と言えるでしょう。他の大統領の政権移行チームと比較しても、非常に迅速に作業が進んでいます。

トランプ氏が11日に発表したメッセージでは、次のように述べられています。

(ここは前日の『⑤トランプ次期大統領の人事——司法長官、財務長官他』と重複している部分があります。)

「ここに私の政権移行に尽力してくれたハワード・ラトニック氏とリンダ・マクマホン氏に感謝の意を表したいと思います。」



このラトニック氏とマクマホン氏は、政権移行チームの中核を担い、各省庁の長官や要職を決定する役割を果たしました。新人事チームの中心メンバーである二人について、トランプ氏はこう続けています。

「私達は史上最高の、最も多様性に富んだ内閣を記録的な早さで任命しました。今後彼らは非常に重要な省庁である商務省と教育省の仕事に集中的に取り組みます。」

ラトニック氏が商務長官に、リンダ・マクマホン氏が教育省の主要業務を担うということです。

さらに、トランプ氏はこう述べています。

「現在、閣僚を決めましたし、閣僚の副官および補佐官ポストの任命も予定より早く行っています。まもなく米国史上最もアメリカファーストの政権が誕生します。ご期待ください。最高のときはまだこれからです。「The Best is Yet to Come.」というふうに結んでいます。

エネルギー省の長官に任命されたのは、クリストファー・ライト氏です。1965年生まれの59歳で、北米で2番目に大きな水圧破砕会社「リバティ・エナジー」のCEOを務めています。

「水圧破砕」とは、一般的に「フラッキング」と呼ばれる手法で、地中に高圧の水を注入し、地層を破砕することで天然ガスや石油を採掘する技術です。このフラッキング手法の確立によって、「シェールガス」や「シェールオイル」の生産が可能となり、北米、特にカナダやアメリカでのエネルギー産業の発展に大きく貢献してきました。



クリストファー・ライト氏がCEOを務めるリバティ・エナジーは、その業界で第2位の規模を誇る企業です。また、同氏は興行権のロイヤリティを管理する会社の取締役や、原子力関連技術企業の重役も務めています。

注目すべきは、ライト氏の環境問題に対するスタンスです。彼は、人間活動によるCO2増加が地球温暖化の原因であるという議論を完全に否定しています。そのため、CO2削減のために原子力推進を訴える論者とは異なります。

トランプ氏は「脱原子力」を掲げていますが、その理由として「原子力は規模が大きすぎ、仕組みが複雑で、費用がかかりすぎる」と非常に的確に指摘しています。ただし、原子力関連業界を完全に敵に回すつもりはないようです。その一環として、原子力技術会社の取締役も務めているライト氏を指名したことは、原子力推進派への配慮と考えられます。ちなみに、イーロン・マスク氏は原子力推進派として知られています。

ライト氏は2019年に興味深い行動をとっています。それは、水圧破砕液を自ら飲むことで、その液が人体に無害であることを実証したというものです。この出来事は、2019年にLinkedInに投稿された動画で紹介されています。水圧破砕には、特殊な化学物質を含んだ水が使われており、その水が地下水を汚染する可能性が指摘されていました。しかし、ライト氏はリバティ・エナジーの仲間とともにこの液体を飲み、その安全性を証明したのです。

さらに、ライト氏は2023年1月にLinkedInに投稿した動画の中で、「気候危機は存在しない」という考えを明確に表明しました。彼は「人間が化石燃料を燃やすことでCO2が増加し、それが地球温暖化を引き起こす」という一般的な見解を否定し、「エネルギー転換の必要性もない」と主張しています。


こうした考えを背景に、アメリカはシェールだけでなく、天然ガスや石油の採掘を積極的に進めていく方針です。安価なエネルギーを利用してインフレを抑制し、経済発展を促進する。その結果、AI革命を支える電力も確保し、さらなる進化を遂げようというスタンスを取っています。 

(了)


⑤トランプ次期大統領の人事——司法長官、財務長官他

2025-01-07 00:00:00 | 政治見解
⑤トランプ次期大統領の人事
——司法長官、財務長官他




前回に引き続き、日本メディアでは報じられることが少ないトランプ政権の布陣について、米政治に精通する専門家に、人となりを含めた詳しい解説をお願いしました。これほどまでに詳しい解説はないと思いますので特別に公開させていただきます。



司法長官に指名されたパム・ボンディ氏

今回の人事の中でも特に重要なのが司法長官のポジションです。トランプ氏は、優秀な下院議員であるマット・ゲイツ氏を指名しました。しかし、ゲイツ氏に対して「17歳の少女と交際していた」などの非難が持ち上がりました。この件について調査が進むと、事実無根のでっち上げであることが明らかになっています。

トランプ氏自身も様々な冤罪で4件の刑事裁判を抱えていますが、これらと同様にゲイツ氏に対する非難も根拠のないものです。それにもかかわらず、ゲイツ氏は司法長官としてディープステートと戦う覚悟を持ち、国会議員を辞任しました。しかし、反対意見が非常に多かったため、トランプ政権がスタートする際に混乱を避けるべく、自ら辞退することを決断しました。


共和党の上院議員は53名いますが、そのうち約5名がゲイツ氏の司法長官就任に反対しました。その理由は、ゲイツ氏が議員の不正行為を徹底的に調査していたことに起因します。彼は株取引やウクライナ戦争に関連した疑惑を含む、不正行為を暴いてきました。これには共和党議員も含まれており、ゲイツ氏が司法長官になると自身の不正が明るみに出ることを恐れた議員たちが反対に回ったと見られます。これが反対の背後にある真相ではないでしょうか。

結果として、ゲイツ氏が辞退したことで、トランプ氏は11月23日にパム・ボンディ氏を司法長官に指名しました。ボンディ氏は元フロリダ州の司法長官であり、医師の資格を持つ人物でもあります。トランプ氏の弁護団にも加わっていた経験があり、ディープステートとの戦いを公然と宣言している人物です。このような経歴を持つ彼女の指名は、予想外の強力な一手であったと言えるのではないでしょうか。

ゲイツ氏と同等、あるいはそれ以上の実力を持つ、司法省のディープステートと戦う新たなファイターが現れたということですね。非常に力強い出来事だと思います。トランプ陣営は人材が豊富で、頼もしい限りです。

現在、司法省では辞任が相次いでいます。アメリカでは大統領が交代し、政党が変わると、中央官庁の人員も大規模に入れ替わります。その数は約4,000人に上ると言われています。この仕組みは政治方針の転換を反映したものですが、日本に例えると、局長や課長といった中枢の人員が総入れ替えになるようなものです。

こうした状況の中、職を失うことがほぼ確実な人たちは、自ら辞任する動きが加速しているようです。さらに、司法省の前にはシュレッダー機能を備えた大型トラックが止まっているのが目撃されています。これについては、コンピューターのデータを削除し、書類をシュレッダーで処分することで、証拠隠滅を図っているのではないかという憶測が広がっています。


財務長官に指名されたスコット・ベッセント氏

11月22日にスコット・ベッセント氏が財務長官に指名されました。これは、明らかな妥協による人事といえるでしょう。この方は同性愛者であり、同性婚をしている人物です。トランプ陣営にはLGBTQの方々も存在しており、こうした個人の性的指向は個人主義の範囲内の問題であり、保守の陣営に属していても何ら問題はありません。

アメリカの保守思想は、個人の自由を最大限に尊重することを基本としています。以前、アメリカで開催されたCPACに参加した方をリモートでインタビューした際、同性愛者の男性がこう述べていました。「これまでは同性愛者は民主党を支持しなければならないと思っていたが、それは思い込みだった。政策的にはトランプの主張は理にかなっており、個人の自由を尊重している。」トランプ運動は、一言でいえば経済ナショナリズム運動です。LGBTQの権利を尊重する姿勢は非常に寛容で、そうした理由からトランプを支持する同性愛者も多いのです。

この点は非常に良いことだと思います。しかし、ベッセント氏に関しては「ソロス・コネクション」という懸念があります。彼は長年ジョージ・ソロス氏の下で働いており、ソロス氏から20億ドルの資金提供を受けて自身の会社を立ち上げた経験があります。現在はソロス氏との関係を否定していますが、過去の経歴が問題視される可能性は否定できません。


一方で、彼はどのような経緯かは不明ですが、トランプ氏に高額の献金を行い、今回の選挙で尽力した結果、財務長官に指名されました。しかし、個人的には商務長官に指名されたハワード・ラトニック氏が財務長官にも適任だと思っていました。この話は以前にも触れたと思いますが、ラトニック氏は対中国政策において非常に強硬な姿勢を取る人物であり、中国共産党に対して高関税を積極的に導入する方針を掲げています。

商務長官としてラトニック氏が内閣にいることは非常に心強いですが、もしベッセント氏が財務長官として問題を起こすようなことがあれば、ラトニック氏がその役職に移ることも十分に考えられるでしょう。

財務長官というポジションは政権の「顔」とも言える重要な役割を担っています。予算編成に関与するだけでなく、アメリカのドルをどのように管理するかという極めて重要な責務を負っています。そのようなポジションにかつて敵対していた人物を起用するというのは、非常に興味深い判断です。この背景については今後さらに掘り下げて調査し、分かったことを皆さんにお伝えしていきたいと思います。


商務長官に指名されたハワード・ラトニック氏

さて、ハワード・ラトニック商務長官については特に問題ないとの評価です。また、この方がUSTR(米国通商代表)も兼任する可能性があるのではないかという見方もあります。というのも、トランプ氏は具体的に明言しなかったものの、「この人にUSTRとしての責任も持たせる」と発言しているためです。




この発言が「米国通商代表を兼任させる」という意味なのか、それとも「商務長官が通商政策を完全に掌握し、USTRを指揮下に置く」という意味なのかは明確ではありません。ただし、特に対中強硬論を実践するという意図があると考えられ、大変良い人事だと感じます。


教育長官に指名されたリンダ・マクマホン氏

さらに、リンダ・マクマホン氏が教育長官に指名されました。これらの人事はすべて11月19日に発表されています。マクマホン氏は第一次トランプ政権で中小企業庁長官を務めた経歴を持ち、プロレス団体の経営者としても知られています。これは、トランプ氏が格闘技好きであることが影響しているのかもしれません。

ラトニック氏とマクマホン氏はいずれも政権移行チームの一員であり、トランプ氏と直接協議しながら、どのような人物をどのポジションに指名するべきかを検討してきた人物です。



次に、連邦教育長官という役職についてですが、保守派の間では教育省の廃止を議論するほどの意見があります。保守派の考えでは、教育の主導権は各州や自治体に与えるべきであり、さらに根本的には親に教育の主導権を持たせるべきだというものです。そのため、連邦教育省が教育現場に干渉するのは望ましくないとされています。

特に、LGBTQ関連の教育方針をワシントンD.C.の教育省が上から押し付けるような状況が問題視されています。保守派としては、連邦教育省は必要なく、各地の教育委員会や州・自治体で対応すれば十分であるという考えが強くあります。また、自分たちの身近な場所で教育方針を決めたいという思いが強く、自分たちから遠いワシントンD.C.の官僚に子供の教育を委ねたくないという意識が根底にあります。

このような背景から、教育省の役割を縮小することがリンダ・マクマホン氏の重要な任務となるでしょう。また、教育関連の補助金の中には、LGBTQ教育など特定の利権に結びついたものが多く含まれているため、これらを削減していくことも彼女の仕事になると考えられます。

2024年の大統領選挙では、マクマホン氏はトランプ支持のスーパーPAC(政治行動委員会)を設立し、活動に大いに尽力しました。このように、政治資金団体を通じてトランプ氏を支援する役割も果たしてきた人物です。


運輸長官に指名されたショーン・ダフィー氏

ショーン・ダフィー氏が運輸長官に指名されました。彼は電気自動車の補助金や税金控除といった政府の補助金をすべて廃止する方針を決めています。ただし、それに対してイーロン・マスク氏が抗議したという話は特に聞かれていません。


また、トランプ氏の考えとしては「CO2削減は必要ない」という姿勢を取っています。そのため、ダフィー氏の役割はこうした補助金の削減を進めることにあるといえます。

さらに、アメリカ国内の空港や港湾、高速道路といったインフラが老朽化している現状も問題視されています。これらのインフラが戦後、特に1950年代から1960年代にかけて整備されたものですが、現在ではすっかり劣化が進んでいます。この状況はレーガン時代から指摘されてきた課題です。

そのため、ダフィー氏のもう一つの重要な仕事は、当時十分な予算の中で作られたこれらのインフラを再構築することです。

(了)

④トランプ次期大統領の人事——大統領首席補佐官、国境管理責任者他

2025-01-06 00:00:00 | 政治見解
④トランプ次期大統領の人事
——大統領首席補佐官、国境管理責任者他




前回に引き続き、日本メディアでは報じられることが少ないトランプ政権の布陣について、米政治に精通する専門家に、人となりを含めた詳しい解説をお願いしました。これほどまでに詳しい解説はないと思いますので特別に公開させていただきます。


大統領の議会承認を必要としないポジションについても、数名を紹介します。


大統領首席補佐官に指名されたスージー・ワイルズ氏

まず、大統領首席補佐官に任命されたのはスージー・ワイルズ氏です。彼女は女性であり、1957年生まれの67歳です。見た目は上品で落ち着いた年配のアメリカ女性といった印象ですが、その実、極めて優れた戦略家でもあります。

スージー・ワイルズ氏は、今回の大統領選挙において、トランプ氏の最高参謀の一人として選挙戦を指揮し、彼を勝利に導いた功労者の一人とされています。ホワイトハウスの首席補佐官としては、ホワイトハウス全体の運営を取り仕切る役割を担います。今後、トランプ氏に面会を希望する者は、彼女の承認を得なければならないという、大統領の右腕ともいえる存在です。


トランプ氏は、女性差別主義者だと批判されることもありますが、ワイルズ氏のように優秀な女性に最も重要な役職を任せていることからも、そうした主張が事実ではないことが明らかです。同様に、トゥルシー・ギャバード氏のような人物を国家情報長官(Director of National Intelligence)のような重要なポジションに任命するなど、性別ではなく能力を重視する姿勢を一貫して示しています。これがトランプ流の人事方針なのです。


トランプ氏は、過去にトランプタワー建設の際、現場監督に女性を起用したというエピソードがあります。彼は「仕事ができる人」を重視し、当時としては珍しく、大規模な建設プロジェクトの最高責任者に女性を任命しました。これはアメリカにおける建設業界でもほぼ初めての試みであり、トランプ氏の先進的な姿勢を象徴するエピソードの一つといえるでしょう。


国境管理の最高責任者に指名されたトム・ホーマン氏

次に、国境管理の最高責任者についてですが、この役職は特定の省庁の長官ではなく、国境管理そのものを統括するポジションです。ここに指名されたのがトム・ホーマン氏です。1961年生まれの彼は、写真からも伺える威厳のある風貌で、「国境管理を任せるには最適な人物」と評価されています。



ホーマン氏は、アメリカの移民税関捜査局(ICE)の局長代理を務めた経験があります。このポジションには、トランプ氏自身が彼を指名しました。しかし、正式な局長としての任命には上院の承認が必要で、その過程で承認が得られませんでした。これは、ホーマン氏が仕事において極めて厳格で、違法移民に対する取り締まりや帰還プログラムの実施を強力に推進していたことが理由とされています。

彼はトランプ氏と同様、違法移民の本国送還計画を全面的に支持しており、この方針に基づいて強力な国境管理を実現する役割を果たすと期待されています。


国家安全保障問題担当大統領補佐官に指名されたマイケル・ウォルツ氏

非常に重要な役職の一つとして挙げられるのが、国家安全保障問題担当大統領補佐官です。このポジションは英語で「National Security Advisor」と呼ばれ、かつてヘンリー・キッシンジャー氏が務めた役職としても知られています。大統領に対する外交、安全保障、軍事政策の最高顧問としての役割を担います。このポストに指名されたのは、元下院議員のマイケル・ウォルツ氏です。



ウォルツ氏は、1974年生まれのフロリダ州選出の連邦下院議員で、MAGA派として活動してきました。特筆すべきは、彼の軍歴です。陸軍特殊部隊「グリーンベレー」の隊員として、アフガニスタン、中東、アフリカなどの地域で戦闘任務に従事し、その後、陸軍の退役大佐となりました。さらに、グリーンベレー出身者として初めて連邦下院議員に選出された人物でもあります。

ウォルツ氏は現場経験を持つ軍人であり、戦場でのリアルな知識を活かして活動しています。特に、中国のスパイ活動に対して厳しい姿勢を示しており、中国共産党の浸透を防ぐための法律を次々と提案してきました。また、2020年のアメリカ大統領選挙における不正選挙の疑惑に関する意見書を最高裁に提出した議員126人の一人としても知られています。このように、トランプ氏の活動に忠実に寄り添い、裏切ることなく支援を続けてきた人物です。


内務長官に指名されたダグ・バーガム氏

一方、内務長官にはダグ・バーガム氏が指名されました。内務長官(Secretary of the Interior)は、一般的に地味な役職と思われがちですが、実際には非常に重要な役割を担っています。アメリカ連邦政府が所有する広大な土地や国立公園の管理が主な業務です。しかし近年、内務長官の役割はエネルギー問題とも密接に関連してきています。

バーガム氏は、この分野でどのような活躍を見せるのか注目されています。彼の指導のもと、連邦政府の資産管理やエネルギー政策がどのように展開されるかが、今後のアメリカのエネルギー戦略において重要な鍵となるでしょう。

カナダからメキシコ湾岸までを結ぶ石油パイプライン「キーストーンXL」、通称「Xパイプライン」このプロジェクトは、一時オバマ政権によって中止されましたが、トランプ政権で復活。その後、バイデン政権により再び停止されるという経緯をたどっています。このパイプラインには、アメリカのエネルギー政策において非常に重要な意義があります。



この計画に深く関わるのが、1956年生まれでノースダコタ州知事を務めるダグ・バーガム氏です。キーストーンXLパイプラインは、国有地を通過するだけでなく、ノースダコタ州内も横断します。そのため、国有地の利用許可を管理する立場として、内務省の役割が非常に大きいのです。

アメリカでは、連邦政府が所有する土地をエネルギー開発業者にリースし、その土地で石油や天然ガスの採掘が行われます。大手石油会社が直接土地を所有している場合もありますが、広大な国有地をリースすることが一般的な手法です。このリース許可の管理を担う内務省は、エネルギー政策の中核をなす機関といえます。

トランプ氏は、エネルギー政策において積極的な姿勢を示し、「石油も天然ガスもどんどん採掘し、エネルギー輸出国としての地位を取り戻そう」と提唱しています。実際、トランプ政権時代にはアメリカがエネルギー輸出国となり、国内物価の安定にも寄与しました。エネルギー価格、特にガソリン価格の低下は、経済全体にポジティブな影響を与えるとされています。このような背景から、ダグ・バーガム氏の役割は一見地味に見えますが、非常に重要かつ責任の重い仕事といえるでしょう。

バーガム氏の経歴も注目に値します。ノースダコタ州立大学を卒業後、スタンフォード大学でMBAを取得。その後、家族が営む農業関連ビジネスに携わり成功を収めました。また、ソフトウェア企業やベンチャーキャピタル企業を自ら立ち上げ、いずれも大成功を収めた実業家でもあります。地方のビジネス界で築いた財閥の出身でありながら、自力で起業家としての道を切り開いた人物です。

彼がこのような重要な役職に就くことには、アメリカのエネルギー政策と経済において大きな意味があります。


まだ正式に決定はしていませんが、財務長官候補として最有力とされているのがハワード・ラトニック氏です。ラトニック氏は、今回のトランプ政権の人事チームにおいて、5人いる幹部の1人であり、トランプ氏から非常に厚い信任を受けています。ユダヤ系の彼は、債券市場で叩き上げのベテランとして知られ、現在、名門証券会社キャンターフィッツジェラルドのCEOを務めています。

キャンターフィッツジェラルドは、アメリカ連邦準備制度(FRB)のプライマリーディーラーに指定されている24社のうちの1社です。プライマリーディーラーとは、財務省が発行するアメリカ国債を直接購入できる特別な資格を持つ証券会社のことを指します。通常、財務省が発行する国債は、まずこれらのプライマリーディーラーが買い付け、その後、一般の投資家や企業に販売されます。この仕組みにより、キャンターフィッツジェラルドはアメリカの財政運営に深く関与する重要な立場にあります。

ラトニック氏は、債券市場の全体像を深く理解している人物として評価されています。トランプ政権が掲げる予算削減や無駄遣いの排除において、彼の知識と経験は極めて重要な役割を果たすと期待されています。イーロン・マスク氏やビベク・ラマスワミ氏らと協力し、連邦予算の効率化を進める中で、国債の発行残高を徐々に削減し、国家の財政健全化を図ることが目標とされています。

ラトニック氏のように債券市場に精通した人物と協力することで、アメリカの財政運営における課題の克服に向けた大きな一歩を踏み出せるのではないかと期待されています。

(つづく)