財務省解体論(第四回)——政治家よりもえらい財務官僚
まだまだ話は続きます。講演者の特別の許可を頂いて掲載しています。(なお、本講演録は岸田首相在任期間に収録されたものです。)
財務省のブラックボックス
さて、財務省がハシゴを外しかけているのではないかという冒頭の話(第一回)に戻って、岸田さんも押し切れずにいるんですね。そうはいっても今回、補正予算が国会で成立しましたけれども、総額約13兆円というのは、当初言われていたよりも10兆円くらい低いんですね。
とにかく財務省は金を出したくない。金を出すことによって、景気が良くなって税収が良くなるなんてことは考えない。特に聖域なのが消費税。これだけは絶対に触れさせないで、将来的にはもっと増税するというのが彼らの考え方です。
もちろん、日本は今少子高齢化にあって、社会保険料などの負担が大きいので、 それをどういうふうにするか、社会保険料を減らして消費税を上げるかとか、いろいろな論点はあります。あるけれども、しかし考えてみたら全然おかしなことも いっぱい残っていて…。
例えば、日本だけにあるルールというのがいくつもあるわけですね。国債償還の 60年ルールというものがあります。聞いてみたらこれは、海外ではそんなことはしていないと。つまり、予算の中で国債を一定額返すための額が、あらかじめ引かれてしまうわけですが、海外はそんなことしていないと言うんですね。
60年ルールで すから、その60年で返すために毎年16兆円だとか、そんな金が用意されてしまう わけです。
もっと大きいです、間違えました。60年ルールを例えば80年ルールにし て、償還期間を延ばせば、1年間に払う額は減るわけです。それで14兆円か16兆円ぐらい予算が出てくるわけです。防衛費増の分なんて簡単に出るわけですね。あるいは、外為特会にもお金をためこんでいて、それも出そうとしない。
こういうのは、財務省の天下りが使うんじゃないかとか、いろいろ言われていますが、はっきりしませんが、そういうブラックボックスをいくつも持っていて。しかし、税下げだけはいやだと。財務省の中では税を上げることに功績があったら、 評価されて出世するという、そういうふうな図式になっているそうです。
国税庁という最強の捜査をもつ財務省
だから、こうした構図から本来はもっと政治家が戦わなければならないんだけれども、その政治家自身が財務省に洗脳されているし、あるいは財務省の力が及ばない。何といっても財務省はさっき言ったように、国税庁を持っています。
国税庁というのは東京地検特捜部よりも上の、最強の捜査官庁と言われています。今、自民党の派閥のお金がどうのこうのと言われていますが、経費とかお金の問題を言われると、会社でも個人でも徹底的に探られたらいやなものですよ。何か出てくるかもしれないという心配があります。まして政治家なんて、今までかなりどんぶり勘定 の世界で生きてきた人たちですから、そういう問題で足をすくわれかねないという ことも、当然あるわけですね。
今、財務省が岸田さんに取っている態度というのはどうかというと、もう一つ言 えるのは、積極的に逆らうわけにいかないからサボタージュしているという部分を感じ取れるわけです。
例えば、つい先ほど辞めました神田財務副大臣が税金を滞納していたという問題がありました。財務副大臣が滞納していてはだめだろうという話なのですが、これを財務省があらかじめ知らないかというと、そんなはずないだ ろうとなるわけです。何せ国税庁を持っているわけですから。そういう情報を知っていても、首相官邸に上げていないのではないかという疑念が、当然抱かれるわけ ですね。
官僚がさぼろうと思うと、それはたくさんいろいろさぼれるわけです。まだ時間 かかりますとか、今調べている最中ですとか、何だか資料がなくなっていましたとか、何でもできるわけですね。
世間の人は、政治家が悪党で官僚が善だと思っているけど、そんなことはまったくないわけです。政治家にもいい人から悪い人までいるように、官僚にもやはりいい官僚もいれば、ずるいことを考えている官僚も当然いると。これは日本社会というよりも、人間全体がそうですから当たり前なんです ね。なのに、片一方を善にして片一方を悪という図式的に描きたがる。これは問題 だと思います。
自民党バーティ券問題
小説なんかを読んでいても、政治家ってだいたい悪者として扱われるのですが、私 はずっと政治の世界を見てきて思うのは、政治家なんて本当にか弱い存在ですよ。 選挙に落ちればただの人どころか、借金まみれですしね。金の問題も、やはり今、 国民の目が非常に厳しいのですが、彼らに金が必要な理由があるんですね。
ちょっと脱線しますカヾ、少し話をさせていただきたいのは、今、例えば秘書さんは公設秘書は3人まで国が金を出します。しかし普通、ちゃんと政治活動を地元も 含めてやろうと思えば、東京にもあと2人ぐらい欲しい。地元には事務所を3つ4 つ、地域ごとに置くとする。その事務所ごとにやはり2〜3人ずつ欲しい。
まして事務所の家賃もいる。契約料更新とかの家賃も当然必要ですし、雇った秘書の福利厚生、あるいは社会保険とかいろいろな保険料もかかる。こんなものが歳費2,000万 の政治家の資金で賄えるかというと、賄えるわけないんですね。もちろん、文書交通費とかで月100万、それにプラスされたとしても到底足りないんです。
ではどう するかというと、政治資金パーティーを開いて1,000円ぐらいのつまみでI万円取るとか、そういうことをやるしかないわけですね。それでもホテルにもちやんとホテル代を借りなきやいけませんし、今は派閥のパーティーのことが批判されています。
本当になんてバカなことやってるんだろうと思ったのは、自分がパーティー券 売って派閥にノルマ分以上渡せば、派閥がそれを「ああ、ご苦労さんだね」と言って戻して。本来は何の問題もないんですね。なぜ問題化されているかというと、政 資金収支報告書になぜか記載していなかったという、それだけなんです。
これは アホと言うしかないんですが、おそらくこれはもう何十年も前からの習慣で、書く習慣がなくて。道理で考えれば書かなきやいけないんだけど、まあ面倒くさいしい いやみたいな、そんなことになっていただけだと思うんですね。
そういうふうなことで、いろいろな形でお金を集めなきやいけない。その中で、中には不正を犯す人とか、筋の良くないお金をつかまされる人が出てくる。そういう流れになるわけで す。
だから私が思うのは、 秘書なんて国から雇う秘書を今の3人から倍増して6人にして、歳費を今の2,000万 から5,000万にして。そのかわり、もっと政治に専念できるようにするとか、そういうことも考えていいなんじやないかと本当は思っています。
話が脱線しましたけれども、だから第2次安倍内閣でやったことの一つが、内閣人事局というものをつくって、局長とかいわゆる幹部級の官僚の人事には官邸の許可が要るようにしたわけですね。これも官僚にとっては自分たちの聖域を侵されるようなもので、非常に抵抗があったといいますが、そういうこともあって今政治と官僚との関係が少しずつ様変わりしてきている過渡期なのかなという感じもあります。
ただ面白いことに、今SNSの時代になりまして、さまざまなことをいろいろな人 から発信できるようになりました。辞めた官僚が官僚の実態をSNSで詳細に明かすとか、そういうこともできるようになりました。
ですから今までなら隠しおおせたことも、隠せなくなってくるんじゃないかなとは思っています。官僚にとっては人事が全てという部分が本当に大きくて、だから面白いことに自分自身の自己評価よりも出世できずに出身省庁を去ったような官僚って、だいたい出身省庁と政府の悪口をずっと言い続けて評論家になるんですね。
これは不思議に本当に面白いもので。逆に、出世してたら何も言わないんだろうなと、そんな感じがいたします。
今後、では財務省なり何なりをみんな安倍さんのように抑えつけてやれる政治家がいるかというと、今現在はいません。正直、いません。
その安倍さんも第1次政 権の時はそんな意識はなかったし、第2次政権になってやはり強い総理になったから、財務省も逆らえなかった。
例えば岸田政権の時に、先ほど防衛費を上げたと言いましたが、年末の予算編成に向けて5月6月ごろに「骨太の方針」という大枠を 決めるものがあるのですが、そこに財務省が作ってきた当初のペーパーには、「NATO並みに防衛費をGDPの2%に引き上げる」という方針は一切書かれていなかったのです。それを安倍さんが、説明に行った財務官僚たちに「こんなののめないからね」と言ってはねつけて、結果的にそれが入るようになったわけです。
やはりそういうふうに、強い政治家がそれなりの役割を果たさなければ、政治主導というのは夢のまた夢ということになります。
(つづく)