コラム(378):台湾と中国
北京五輪への外交的ボイコットを米政府が表明したところ、中国は、(新疆ウイグル自治区のジェノサイドについて)「世紀のうそ」と全力で反論し、「もともと招待などしていない」などと必死で体面をとりつくろっています。「面子への強いこだわり」があるからのようです。
中国にとってのもう一つの面子は台湾問題です。異例の三期目の総書記となる習近平氏にとって、台湾統一は事実上の皇帝化するため大義名分になっていることは間違いなく、米軍の抑止力がなければ今にでも軍事占領に踏み切りたいと考えているようです。
威嚇を繰り返す中国軍
このところ中国人民解放軍の台湾に対する示威行動が目に余るほどになりました。しかも示威行動を「訓練」ではなく「戦闘対備警戒巡察」と述べており、11月末には中国軍用機が空中給油機を伴って台湾の防空識別圏(ADIZ)に侵入するという事案を発生させました。
ロシアのウクライナ侵攻計画、中国の台湾侵攻など最近の世界情勢は軍事強国の力による現状変更の意図が露骨に見えてきてコロナ禍と戦禍の二重の苦しみに人類は向き合わざるを得ない状況となってきました。
日本にとって直接影響を受けることになるのは中国の台湾侵攻問題です。多くの解説では中国の侵攻は間近とみる向きがあるようですが、ウクライナ侵攻との同時多発や人民解放軍の跳ね上がりを除いて、米軍などの抑止力が効いている現状と中国人民解放軍の力量を勘案すれば当面は不可能だと予測します。
ただし、それは米軍などの軍事的抑止力が最大の条件で、インド太平洋から米軍がいなくなれば、アフガニスタンがタリバンンに簡単に占拠されたような事態がいとも簡単に達成されてしまいます。
したがって、アメリカのバイデン大統領が台湾有事について「防衛のために駆けつける約束になっている」との発言や安倍元総理大臣の「台湾有事は日本有事、日米同盟の有事」とのメッセージが繰り返し中国政府に伝えられることが前提であることを忘れてはなりません。
威嚇することで屈服をはかる
さて、見方を変えると面白いことがわかります。なぜ、日米側の中国に対するけん制に中国がヒステリックな反応を示すのか、そして、なぜ台湾に執拗ともいえる示威行動をして台湾を脅しにかかるかということです。
前者のヒステリックな反応は、中国が米軍の存在によって台湾に何も手出しができないということを思わず吐露したもので、痛いところを突かれたから怒っているわけです。
人間は一番痛いところを突かれると怒りだして反論してくるのと同じ心理です。かつては東シナ海や南シナ海に遊弋する米艦船を挑発し怪気炎を上げていた中国海軍も今ではおとなしくなり、逆に米艦船の台湾海峡通過を「挑発行為」と非難するほどになりました。中国海軍に彼我の力量差がやっとわかってきた証拠です。
また、後者の台湾に対する露骨な示威行動は、力を見せつければ台湾は必ず屈服すると思っていることによるものです。要は、同じ中国人だから台湾の人びとは脅しに屈し、強い力を持った方になびくと考えておおり、それに基づいて台湾の人びとに恐怖心を一所懸命植え付けようとしているのです。
これ裏返せば、中国人は脅しに弱い民族だということを述べているようなものです。自分がそうだから台湾も同じと判断して威嚇をくりかえしているわけです。
前述のヒステリック反応も、自分より強い国から何か言われたらわめき散らしながら逃げ回る一方、アジア・アフリカ諸国には債務の罠をかけて傲慢不遜な態度でのぞむ、この両極端な姿こそ、中国の最大の弱点をさらけ出している部分で、国際社会から未成熟な国家と思われている最大の原因となっています。
軍事作戦の可能性
中国の台湾進攻問題についてもう一つ重要な視点があります。海を越えて軍事的な侵攻作戦をとる場合、陸路を越えるときよりも装備や補給を万全にしなければならないという点です。その上で、台湾に上陸侵攻し、台湾軍を撃破して占領する必要がある上、来援する米軍とも戦わなければなりません。
しかし、米軍トップのミリー統合参謀本部議長が「中国が台湾への侵攻能力を備えるには長い時間がかかり、その意図もない」と述べているように中国軍の補給能力や士気は脆弱なようです。
しかも、台湾有事となれば、中国は米軍岩国基地や嘉手納基地などを攻撃せざるを得なくなりますが、果たしてそれは可能か。威勢のいいことを言う中国でも現実問題としてありうるのかどうか、甚だ疑問です。
そのうえに、中国は少子高齢化が進み、かつての一人っ子政策が影を落としています。2010年代から「いざ戦争となったら自分が生き残ることだけを考えろ」と親から言われ続けていた兵士たちの士気が極めて低い。威勢がいい発言が多く見受けられるのは、民族特有の建前発言、もしくは戦争状態に至っていない証拠です。
むしろ台湾の人を震え上がらせて親中政権を作って香港化することがベストだと考えていると見た方がいいように思えるのです。
中国が得意なのは内側からカギを開けさせること
安倍元総理が語ったように台湾有事は日本の有事です。軍事的な侵攻は米軍の抑止力がなくなればあっという間に台湾が占領されてしまいますので日米台の防衛体制はこれからも強化していかなければなりません。
さらに、最も重要なことは、中国という国家はプロパガンダを駆使して思想的に人を支配するか、あるいはハニートラップをしかけて内側からカギを開けさせることです。
台湾では馬英九政権のときに、日本では民主党政権のときに内側からカギを開けそうになりましたが、両国ともかろうじてその危機は回避されました。民意の力です。しかし、両国ともに民意とは裏腹に中国の息のかかった政治家やメディア関係者が多数存在し、本質的な危機は回避されたとはいえません。
この危機を乗り越えるには、日台双方とも、政治家とメディアの発言を注意深く観察し、間違いを正す発信を常に続けること以外にはないと思います。
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