労働者派遣における登録型派遣は労働者をモノのように切り捨てる法的な仕組みであります。これが日本において貧困と格差を拡大する重大な要素となっていました。そのために、労働組合、そのほか各分野から労働者派遣法を登録型派遣禁止の方向へ改定せよという要求が上がっていました。
ところが、民主党、自民党、公明党三党の合意した内容というのが政府案をさらに骨抜きにしたものでした。政府案は、日本共産党としては穴だらけであり穴をふさぐことを国会において提起・要求してきました。とはいえまがりなりにも政府がもともと出していた労働者派遣法改定案は、製造業への労働者派遣及び登録型派遣を禁止する内容がありました。これにたいして、民主党、自民党、公明党の三党で合意して出来上がった内容が製造業への労働者派遣及び登録型派遣を原則容認というものでした。
労働者派遣法における製造業への労働者派遣や登録型派遣は、小泉構造改革路線(新自由主義政策)がもたらしました。労働者を安くこき使い、いつでもクビを切れるようにまるで機械の部品のように扱うようなことを認めるような労働者派遣法のあり方は、働いてもまともに食べていかれない、働く貧困層=ワーキングプアを増大させていき、社会を荒廃させていきました。このことが、貧困と格差を拡大する自民党政治への国民の怒りを高めて現在の民主党中心の政権が誕生する要因でした。私自身は、民主党の本質は自民党と変わらないとみなしていたので政権発足当初から現在の民主党政権をあてにはしていませんでしたが、それはともかくとして、現在の政権が誕生する背景に貧困と格差を是正して欲しいという国民要求があったことは一つの真実です。
労働者派遣法の改定案が製造業への労働者派遣及び登録型派遣を原則容認では小泉構造改革への逆戻りであります。これは同時に、国民への重大な裏切りです。志位委員長が会見で指摘しているように、労働者派遣法の骨抜きの背景にTPP(環太平洋連携協定)の影を感じざるを得ません。
TPP(環太平洋連携協定)は、例外なき関税撤廃と非関税障壁撤廃が締約国に要求します。TPP(環太平洋連携協定)は農業、漁業だけの問題ではなく国民生活のすべてに及んできます。市場原理万能主義に基づきなんでもかんでも市場原理にぶち込むことを要求するTPP(環太平洋連携協定)は新自由主義思想に根ざし、アメリカの経済帝国主義の反映です。
労働者の使い捨てを許さず、人間らしい生活をしていくためには国内の労働法制の改悪を許さないだけではなく充実が必要です。同時に、TPP(環太平洋連携協定)加入への支配層の策動を粉砕することが現在の日本では、欠かせない戦いです。
沖縄県与那国町では、自衛隊配備をめぐって町民の世論が二分しています。11月17日の夜に公民館で行われた自衛隊配備について町と防衛省が行った説明会では、町民無視、(自衛隊)誘致ありきではないかと自衛隊配備に反対する町民から猛烈な抗議が出て事態が紛糾しています。
http://www.okinawatimes.co.jp/article/2011-11-18_26174/
このような状況下で町内の中学生のなかには島の未来を守るのは自分達であり自衛隊に任せるのはおかしいと自衛隊配備に反対する趣旨の集会に参加する人さえいます。そして、島の未来を憂えて自衛隊配備に反対する中学生は自主的に署名活動を進めています。ところが、与那国町立与那国中学で校長が無断で署名活動の用紙を取り上げていたのです。
http://www.okinawatimes.co.jp/article/2011-11-18_26180/
与那国町では高校がなく、そのために中学を卒業すると若者は島を出て行かざるを得ません。この状況があいまってさらに自衛隊が配備されるとなるとよけに島の人口が減ってしまうのではないかと心配した中学の生徒が自主的に自衛隊配備に反対する署名活動に取り組み用紙も自ら作成したのです。自衛隊に使うお金があるのならば島の振興にお金を使うべきだというのが自衛隊配備に反対する中学生の言い分です。
中学生にもなれば、年配者から見て未熟なところが多く見えたとしても社会と政治に関する不条理や矛盾に気づき始めます。少なくとも社会と政治の歪みと矛盾に気づき始める中学生がいてもおかしくはないし、社会と政治の問題に気づく中学生がまったくいないほうがむしろ問題です。というのは、少なくとも現在の法体系を前提とする限りは義務教育は中学までであり、主権者として社会と政治の形成者としての自覚ある国民としての素養について義務教育の中で国と地方自治体が培っていかないといけないからです。
以上のことを考えれば、どこから言われたのかあるいは校長の判断によるのかということを私には知る術がありませんが、校長がやったことは、明らかに公権力による国民に対する思想弾圧としての意味を持ちます。学校、とくに公立学校は母体が公的機関であるだけに国民・住民から見れば公権力の具現化した姿でもあります。その公的機関の職員としての校長が中学校生徒が自らの判断において自主的にとりくんでいる署名活動の用紙を取り上げるのは、明らかに公権力による国民・住民に対する思想弾圧、政治弾圧としての意味合いを持ちます。署名活動は言論によって主権者国民が国民・住民の世論を形成する手段の一つであり、日本国憲法によって保障されていることです(日本国憲法第19条、第21条)。沖縄県与那国町立与那国中学校校長がしたことは公権力による国民・住民にたいする思想、政治弾圧に該当し、日本国憲法の民主的原則を真っ向から蹂躙する暴挙です。
日本国政府は、1994年に子どもの権利条約(児童の権利に関する条約)を批准しています。子どもの権利条約では、締約国政府に対して子どもの思想信条、表現の自由を尊重するべき事などの義務を課しています(子どもの権利条約第12条、第13条、第14条、第15条)。表現の自由の権利行使に関しては第13条第2項において制限を課すことができる旨が定められていますが、これは「(a) 他の者の権利又は信用の尊重」および「(b) 国の安全、公の秩序又は公衆の健康若しくは道徳の保護」に該当する場合だけです。与那国町の中学生が自衛隊配備に反対する署名活動にとりくむと他の者の権利や信用が侵害されるでしょうか。そんなことは、まず考えられません。与那国町の中学生が自衛隊配備に反対する署名活動をすると国の安全、公の秩序または公衆の健康若しくは道徳の保護に反するでしょうか?これも考えられません。よって、沖縄県与那国町立与那国中学校校長の行為は、子どもの権利条約を蹂躙する行為であって条約義務違反に該当します。
沖縄県与那国町立与那国中学校校長に具現化された、公権力による国民・住民への日本国憲法及び子どもの権利条約を真っ向から蹂躙する暴挙、未来を担う若者の主権者国民としての成長と発達を蹂躙する暴挙に対して、私は満身の怒りを表明するものであります。
追記
日本国憲法及び子どもの権利条約(児童の権利に関する条約)は以下のサイトに全文が掲載されています。
〇日本国憲法
http://www.houko.com/00/01/S21/000.HTM
〇子どもの権利条約(児童の権利に関する条約)
http://www.mofa.go.jp/mofaj/gaiko/jido/zenbun.html