陽だまりのねごと

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みちのくの鉄砲店 (私家版詩集)  須藤洋平

2007-04-30 00:52:49 | 
山口の湯田温泉では中原中也生誕百年祭を行っている。
この百年目の第12回中原中也賞に252詩集の中から選ばれた。
トゥレット症候群と障害もある30歳の青年と言うことで
ずっと詩集を読んでみたかった。
自費出版で手にすることが出来ず、中也記念館での公開を待っていた。

企画点として愛用の万年筆やハーモニカ、お気に入りCD
生育を追った写真等の展示の中にお目当ての詩集が一冊。
B5で緑色の自分で製本したといっても通りそうな
素朴な薄い小冊子風だった。
何人もがめくったのか少々ページがふくれていた。

難解な風景を醸しだしていることの多い現代詩のイメージを払拭する
ストレートな言葉で
過去のいじめと今の青年期の孤独が綴られていた。

いじめには
青い3段切り替えのお兄ちゃんの自転車が壊される場面が出てきた。
息子は中学の時、自転車通学だった。
通学路途上の自転車屋から
「壊れ方と修理に立ち寄る回数が尋常ではない」と
通報があったことなど思い浮かんできた。


実は、記念館へは
チェルフィッシュの『三月の5日間』を観てからだった。

演劇は
イラク空爆の日から5日間、渋谷のラブホで過ごした
名も素性もしらない二人の事を中心に
何事も熱くならないで、何事もはっきりと断言しないで
性にはやたら大っぴらな若者会話のオンパレードだった。

詩には
一生そんなことはないかもと言う
障害ゆえの絶望の中の性欲が綿々と綴られていた。

私は記念館内であるにもかかわらず、
息子とオーバーラップして不覚にも涙があふれてきてしまって相当あわてた。
しかも、ひとりじめしては悪いと思いつつ
結局、最後まで読み通した。

授賞式で須藤氏は
 『おかぁさん 産んでくれてありがとう』と言われたそうだ。



~以下、中原中也記念館 館報から抜粋~

中也賞の最終選考委員会では
<障害をもった身体が引き起こす孤独を引き受け、その病気に負けない、
 人間としての感応力の強い詩の世界を展開している。>
と、評され、表現としてのレベルの高さが評価されました。


 頬の痛み

  「無償の愛」を敷いて
  その上で寝ころんでみる
  頭の中で僕を蝕む
  思い出たちが
  苦しみから経験に変わり
  心地好いそよ風に流されてゆく
  それでも我が者顔で「でん」と
  あぐらをかいた大きな傷もある
  僕はそれらと柔らかに足を絡めあう
  そして僕はしなやかに拘束され
  四の五の言わずとも慰撫される…

  その時
  泣き叫びながら
  何度も強く頬を引っ叩く者がいる
  遠く意識の中で思った
  無償の愛なんてものは
  この世にあるわけがない
  でもそうだとしたら
  この頬の痛みを僕は何に例えようかと