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みどりの日:命のゆりかご 奄美

2015-05-04 08:53:38 | 日記

 

天を覆う巨大なガジュマル=鹿児島県の奄美大島で、須賀川理撮影

奄美のクロウサギ

 国内有数の豊かな生態系で知られる鹿児島県の奄美大島。政府は徳之島(鹿児島)と沖縄本島北部、西表島(沖縄県)を含めた4島を「奄美・琉球」として、世界自然遺産の候補地と決め、2017年の登録を目指している。独自の進化を遂げた多様な生き物が息づく「命を育む島」を訪ねた。【河内敏康】

 大雨を降らせた鉛色の雲が立ち去り、南国らしい青空が顔をのぞかせた4月下旬、奄美大島中部の奄美市住用(すみよう)町の山に入った。

 「ギャー、ギャー」。けたたましい声に驚いて振り返ると、瑠璃色の羽をした鳥が頭上を飛び去った。その美しさにしばし見とれていると、「国指定の天然記念物のルリカケスですよ」とガイドで写真家の常田守さん(56)が教えてくれた。

 さらに急流沿いを歩いて上ると、小指の先ほどのフンが大量に落ちていた。国の特別天然記念物のアマミノクロウサギのものという。ヒゲのように木から垂れ下がっているように見える黄緑色の植物は、絶滅危惧種のヨウラクヒバ。岩上で薄黄緑色の花を咲かせていたのは奄美大島にしか生息していないフジノカンアオイという。目の前に飛び出してきたカエルも奄美群島の固有種、アマミハナサキガエルだった。次々に姿を現す多様な生き物たちに圧倒された。

 出発から1時間半。突然、目の前に巨大なガジュマルが現れた。亜熱帯から熱帯にかけて広く分布する常緑高木だ。別の木の上で発芽し、気根を木に複雑に絡みつけながら地面に向けて伸ばし、成長していく。

 その高さは優に30メートルはあり、幹から伸びた幾筋もの気根が岩石にがっちりと絡みついていた。土台となる元の木がみられないため、数百年は経過しているだろうか。木の根元から見上げると、まるで天空が緑のじゅうたんで覆われているかのように美しかった。

 緑にあふれ、生命がみなぎる神聖な森。奄美の生き物たちにとって、この森こそがまさに「命のゆりかご」だ。

 絶滅の恐れのある野生生物をまとめた環境省のレッドリストによると、奄美群島には国内の哺乳類や鳥類など絶滅危惧種の1〜3割が生息している。

 なぜ生態系がこれほど豊かなのか。

 200万年も昔に大陸から切り離された奄美群島は、その後、新たな捕食者の脅威にさらされず、生き物が独自の進化を遂げた。東京大医科学研究所の服部正策(しょうさく)・特任研究員(医動物学)は「大陸で絶滅した貴重な生き物も、奄美でなら見られる。タイムカプセルのようだ」と言う。加えて、沿岸部を流れる暖流の黒潮が奄美に東京の倍に当たる年3000ミリもの降雨をもたらし、湿潤な亜熱帯性の森林を育て上げ、生き物たちに安住の地を提供している。

 戦後、奄美大島はインフラ整備が急激に進んだ。山が削られ、森に林道が造られ、やがて貴重な自然が失われていった。1995年には住民がアマミノクロウサギなどを原告にして、ゴルフ場建設に反対し、県に森林開発の許可の取り消しを求める訴訟を起こした。

 これをきっかけに、開発を抑え、環境を保全する運動の機運が高まった。あれから20年。奄美大島は世界自然遺産の正式な候補地に決まった。訴訟にかかわったNPO法人「環境ネットワーク奄美」代表の薗博明さん(80)は「先人たちは自然を敬い、水をためる山や森を大切にして、豊かな生態系を持続させてきた。人は自然によって生かされているという原点に今こそ立ち戻り、協力しなければならない」と語る。


2015年05月04日

 

<所感>

◆森の美観づくりを森林経営に取り入れる「森林美学」という思想に光があてられている。環境保全はもちろん文化や教育、健康やレクリエーションなど、森がもたらす多彩な恵みを人々の暮らしに結びつけるうえでも求められる。森林を管理する林業が衰退する今日の日本だ。「美しい森の国」へ知恵を集めたい。現在、全国の60の森が森林セラピー基地となっている。もっと増やしたいものだ。

 

奄美大島の画像  http://www.ritou.com/information/gallery-amami.shtml

白神山地の画像  http://dlift.jp/photo/photoDisplayWorldHeritage178

屋久島の画像    http://dlift.jp/photo/photoDisplayWorldHeritage177