月の晩にひらく「アンデルの手帖」

writer みつながかずみ が綴る、今日をもう一度愉しむショートショート!「きょうという奇蹟で一年はできている」

 家をまもるヤモリさんとの暮らしから

2021-07-13 11:26:00 | コロナ禍日記 2021

 

 

6月2日(水曜日)晴れ

 

きょうは、旅立ちの日。記念すべき、自立の日である。誰の? 家に棲みついた爬虫類やもりさんの、だ。

 

 あれは5月5日(水曜日)のこと。

 夜、シャワーを浴びていたら、なんだか熱ーーい視線を浴びて後ろを振り返る。浴室のタイルの角下に、シールのような薄っぺらいもの。誰がこんなところに……?と膝を折ってしゃがんみこみ、のぞきこんでみたら、本当のやもりさんだった。

それから、約1ヶ月。うちの家でやもりさんは過ごしたことになる。

 

 (ここでいう、ヤモリとはニホンヤモリのこと。詳しくはこんな生育や知識が示されている)

 

 最初は、そばにいくのも少し怖くて、大好きな風呂読書もおあずけにし、浴室をやもりさんに譲ったこと幾日だろう。

 そのうち、姿をみせなくなるに違いない、とほったらかしておいたら、確かに2日ほどは姿はみせなくなったが、すぐに現れた。昼間は洗い場の排水溝の中か、浴室乾燥機の上あたりに張り付いていた。

 

 夜。風呂を炊いて風呂場に湿気がこもり居心地がよくなると、す、すーーっ。と姿をみせて。首をかしげていた。不思議そうな顔にみえる。五本指が、小さな枝のようにたよりなく、それなのに吸盤はしっかりついて、きれいな指をぱーっといつも開いてみせてくれていた。

 

 彼(やもり)、へんなくせがある。左脚だけをくの字に内側にまげて、白いのどの上皮を、どきんどきんと鳴らし、そこで呼吸を調整しているようだ。

 

この時期、マンションは大規模修繕工事中だから、周囲はシンナー臭いし外に出すのもかわいそう、と。わたし、そして家人は、夕方から夜にかけて、蜘蛛や我や蠅をさがしてきては生き餌を、やもりさまに捧げるようになった。毎日頑張って捕獲した。

 

 娘のNが小さい頃には、カエルの餌探しに苦心した記憶が残っている。

 

 やもりさんは臆病なのかシャイなのか、カエルは誰がみていようとバクッとやったのに、やもりさんは人がいると絶対といっていいほど、獲物をとらなかったのだ。蜘蛛や小ハエ、羽ありなど聞くところ、やもりは自分の頭より大きなものを口にいれないらしい。家人は虫の羽を切ったり、脚を半分はさみで切ってから、口元らへんあたりに、獲物をおとしてやっていた。

 

 とはいうものの。やはり裸で風呂に入る時には、生唾をのみこんで、勇気をふりしぼって、眼をつむって裸になり、やもりさんとの混浴風呂を覚悟しなければならない。

 

 

 そして、あの大惨事である。わたしが、顔面と眉間、頭を強打して、夜中の救急病院の扉を叩く日になったという例の事件だ(5月9日)。

 家を守ってくれるやもりさんのこと。なぜか、まだ力を発揮していないと思われる。

 わたしは、病院から帰えるや、やもりさんがどうしているのかが気になって仕方なく、すぐに風呂場をのぞきこんだ。

 

 この日は、浴室の壁下にはりつき、「おなかすいたーー」もしくは「どうしたら出られるの」と、なにか訴えるような表情をこちらをむき、すぐに逆さまになって、長いしっぽをぶらーんと垂れ、端っぽをくるりとまきあげて、じっと耐えているようだった。

 

 それから、自身にも小さな問題がいくつか勃発した。週に1度、病院に通い、診察をうけてその後の検査を進める。

 そんな矢先。メーンのマシンであるMacがいきなり、落ちた。この日は提出があったので大慌て。一本のハードでは足らぬと、予備と二本準備して、さらにヨドバシカメラに走る。調子の悪いMacBookAirをなだめすかし、iMacのデスクトップタイプを整える。

 バージョンがあまりに新しく、ソフトが引き継げないジレンマ。結局、ソフトを買い足して、スムーズに機能させるまでに、労力と時間を要した。

 そして、仕事のパートナーと行き違い、人間関係にも悩まされた。これからの仕事のことも、考えるきっかけになった。母のワクチン接種もあった。

 (つづく)

 

 

 

 

 



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