公開:2012年
監督:トム・フーパー
出演:ヒュー・ジャックマン、ラッセル・クロウ、アン・ハサウェイ、アマンダ・サイフリッド、エディ・レメイン、サマンサ・バークス、サシャ・バロン・コーエン、ヘレン・ボナム=カーター
上映時間:152分
あらすじ ヴィクトル・ユゴー原作のミュージカルを映画化。19世紀フランスが舞台。飢える姪のためにパンを盗み重い刑が科されたジャン・バルジャンは、脱獄で刑が加算され徒刑場で19年服役し、ようやく仮釈放される。
見所 ①美術が凄い。貧困に苦しむ民衆の暮らしがリアルに描かれ、壮大なミュージカルに仕上がっている。②感情がのった歌と演技(パフォーマンス)がすばらしい。後から歌を取り直すのではなく、歌って撮影している。ほぼ全編セリフがすべて歌なので、突然歌いはじめることはなく自然である。ミュージカルが苦手な私でも文句なしに楽しめた。
私の評価 ★★★☆☆3.0
お家観賞
※【以下ネタばれあり】
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小説を読んでないので、映画のみの感想です。
民衆は貧困と無慈悲な世間に苦しんでいる。かなり悲惨なのに見ていてしんどくならなかったのは、ミュージカルだからと思う。踊らないけれど、ミュージカルだから動作が大きく現実味が薄まる。しかし映像が重厚で迫力があるのでリアルに迫ってきた。
ジャン・ヴァルジャン(ヒュー・ジャックマン)は、長期間の服役で激痩せしているときでも、体が大きいので自らの力で生き抜く強さを感じる。気の毒なのは娘を養うために必死になる未婚の母フォンテーヌ(アン・ハサウェイ)。少女のような彼女が髪を売り歯を抜かれて、なすすべなく落ちぶれていく様子は衝撃的でミュージカルじゃなかったら見ていられなかっただろう。
152分の中にたくさん物語が詰め込まれているのでしかたないのだけれど、展開が早かった。ジャン・ヴァルジャンに大切に育てられるフォンテーヌの娘コゼット。コゼットと恋に落ちるお金持ちのマリウス。マリウスに恋をする貧困層のエポリーヌ。マリウスを含む学生たちが暴動を起こす。子供が殺される。エポリーヌも殺される。たくさんの血が流れ鎮圧された。
生き残ったマリウスは家に帰って、令嬢のようなコゼットと幸せになる。貧しい人たちと共に革命を目指していたのに、結局は反発していた裕福な実家へ戻ってしまった。仲間が全員、死んだのはなんだったのかと思ってしまう。コゼットのために、マリウスはもう危ない運動はしないだろう。男のような格好をして革命に参加し、命を落としたエポリーヌがせつない。
ジャン・ヴァルジャンを執拗に追う警察官ジャヴェール(ラッセル・クロウ)は権力を笠に着る悪人ではなく、職務を全うする人だった。極悪人と思っていたジョン・ヴァルジャンに命を助けられ信念が揺らぎ、自死してしまう。なんでこんな危ないところで歌っているんだろうかと思っていたら、激流に飛び込んでしまった。人の心の中は起こった事実で推し量るしかないのか。
相手の信じられない行動で自分の心に変化が起きる。かつてジャン・ヴァルジャンも司教の思いも寄らぬ慈愛に満ちた行為に救われ、生まれ変わった。司教のように相手をゆるせるようになった。ジャヴェールにはゆるす生き方はもうできなかったのかもしれない。
人生で何を信じるかは難しい。愛を信じてもフォンテーヌみたいに男に捨てられるかもしれない。娘コゼットが幸せになったから、フォンテーヌは報われたとしても死ぬことによって苦しみから解放されたのはつらい。
誰かを愛し幸せを願うことで、自らも幸せになれる。悲しいのは必ず幸せになれるわけではないことだ。フォンテーヌや、エポリーヌの苦しみは愛が得られなかったからだ。それでも愛あればこそ幸せになれる。ジャン・ヴァルジャンがコゼットを愛したことで幸せになったように。
愛に見守られてジャン・ヴァルジャンは、幸せな死を迎えた。しかしその急激な老い方には驚いた。まだ衰えぬ体力でマリウスを救い出したのに、あっという間に老いて、神が迎えに来てしまうとは人生は儚い。
犠牲を厭わない愛の姿に感動したいところだが、私は不確かな愛よりも、最低限、パンと自由が必要だという現実的なことを考えた。貧困は悲惨である。ハッピーエンドで終わったのに、こんな感想でちょっともうしわけないが、かわいそうな人たちが心に残る。世間は厳しい。原作はもっと悲惨らしい。
追加 ヘレナ・ボナム=カーターが宿屋を経営する女性を演じている。また変わり者の役だ。乱痴気騒ぎっぷりが上手い。『眺めのいい部屋』のお嬢さん役で彼女を知ったから、変わりようにいつも驚く。楽しそう。