171113 マンションの今後 <マンションの建替と欠陥に関する研修に参加して>
今日は終日、大阪で開催された研修会に参加して、いま事務所に帰ってきたところです。少々疲れ果てたので、ほんとは家路を急ぎたいのですが、このブログを今日も簡潔に30分程度でまとめることで可としたいと勝手に思っています。
この研修は毎年、住宅紛争処理委員を対象に行われていますが、委員でなくても参加できるので、私はここのところ都合がつく限りかかさず出席しています。
ほぼ似たようなタイトルですが、私も忘れてしまいますし、取り扱う対象も少しずつ違っていたり、裁判例も異なっているので、非常に参考になります。
午前中の部はマンション建替等の政策動向を国交省の担当者が話し、関係法令の概要と実際の運用について前者を弁護士が、後者をコンサルタントが解説しました。
マンションの現状および将来は、よくニュースで取り上げられていますが、悲観的な状況です。「築 40年超のマンションは現在63万戸であり、10年後には約3倍の172.7万戸、20年後には約6倍の333.6万戸となるなど、今後、老朽化マンションが急増する見込み。」とのこと。
老朽マンションが充満するわけですね。でもマスコミや広告では新築マンションの宣伝がとどまる気配がありません。皮肉ですね。
しかも「現在のマンションストック総数は約633.5万戸(平成28年末時点)であり、そのうち、旧耐震基準に基づき建設されたものは約104万戸となっている。」ということですので、それが老朽化するとどうなるのでしょうという深刻な状況です。
老朽化するマンション、そこに居住する住民も高齢化、空き室も増大というのは常識です。でも建替はというと、「マンション建替えの実績は累計で;232件、約18,600戸(平成29年4月時点)に留まる。」とのこと。災害国日本に立地しているマンションとしてはとても安全が確保されているとは言えないでしょうね。
「南海トラフ巨大地震や首都直下地震等の巨大地震発生のおそれがある中、生命・身体の保護の観点から、耐震性不足の老朽化マンションの建替え等が喫緊の課題」として、平成26年にマンション建替法を改正して、「マンション敷地売却制度の創設」と「容積率の緩和特例」を新設して建替の選択肢を増やして、その促進を図っています。
たしかに敷地売却が5分の4の同意で可能となったことで制度的には若干やりやすくなったとは思いますが、現実には建替動向に大きな変更はないように思います。
この点、マンション建替を実際にコンサルトして関与してきた方の話では、その手続き自体、理解を得るのは大変ですし、反対者とは最終的は訴訟での解決(時価での買取と断行仮処分)といったしこりの残る結果となるわけです。むろんうまく建て替えできたマンションでは居住者は、従前富士山型(ま、高齢者層がダントツに集中)だったのが、八ヶ岳型(若年層、中年層、高齢者層といくつもの層で多様化)して、居住環境も、周囲の雰囲気もよくなったとかいい話もあります。
ただ、それは多摩ニュータウンとか、従前の容積率に余裕のある建て方をしているマンション団地であったことが、そのようなWin-Winの解決になったといえるのではと思うのです。
では、敷地売却型に未来はあるかといえば、その場合借家人との契約を解除したり、抵当権を抹消する必要がありますが、その対応が一筋縄ではないことは、再開発事業でもこれまで経験されてきたことです。
それでも現在居住しているマンションはどんどん劣化し、居住者の高齢化して、大修繕でも対応できなくなるのはそう遠い先ではないでしょう。そういったマンションはどうなるのでしょう。中古市場やリフォーム活用をすすめることはより重要ですが、それでも耐震性の問題は全体としては残りますね。
次に、建築瑕疵の問題をマンションという構造に関する基礎知識を建築士が説明し、弁護士がその問題に関する裁判例を紹介してくれました。
興味深かったのは、マンション建築は多様な部材の総合ですね。その安全性を確保するために、さまざまな検査を実施し、その結果を基に設計し施工しているのですが、その中に当然スチールの試験結果もありました。そう神鋼の未検査やデータねつ造の問題で採り上げられたアルミ・銅・鉄鋼の一つ。鋼材検査証明書が求められ、鋼材の引っ張り試験で耐力、引っ張り強さ、伸び率などが試験データを個別の鋼材ごと検査証明書に記載されています。
神鋼の場合どんな試験だったのかはわかりませんが、マンションの場合鉄骨造や鉄骨鉄筋コンクリート造といった場合当然、こういった検査結果が必須になるのです。
ところで、鉄骨は引張り力が強く、曲げや圧縮力には弱いため、それを補強するため鉄筋コンクリート造で強度を高めています。
で、裁判例を見ると、鉄骨の引張り力が問題になった事例は一つも紹介されませんでした。たぶんあまり問題にならないのでしょう。むしろ施工現場で行われる作業の問題ばかりです。すると神鋼の鉄関連の検査問題はさほど重大視されるべきではないのでしょうかとふと思いつつ、やはり問題だと複雑な気持ちです。
さて、取り上げられた事例は、鉄骨造だと、溶接不良・溶接割れとか、ダイヤフラム等欠落(接合方法の一種)とかで、後者では解体再築費用を認める裁判例もありました。
鉄筋コンクリート造だと、ひび割、圧縮強度不足、ジャンカ・コールドジョンイト、かぶり厚さ不足や配筋不良といった問題です。
担当弁護士はよく裁判例を整理していて、わかりやすく瑕疵の根拠と瑕疵の程度を解説していました。
頑張って1時間かかりました。今日はこのへんでおしまい。