161130 保釈・執行猶予制度について ASKA覚せい剤使用を考える
一昨日、執行猶予中のASKAが覚せい剤を使用したとして、逮捕されたことが大きなニュースになりました。著名人の薬物使用による逮捕事件は、時折、大きな話題となります。他方で、各地でさまざまな人による多様な薬物事件が頻繁に発生し、また、薬物の影響による悲惨な被害事例が起こっています。薬物事件と同様に依存性・執着性のある性犯罪も多いですね。
こういう事案、発覚して逮捕に至るまでも、捜査側も簡単でないと思われます。逮捕しても否認して争う人も少なくないですね。むろん誤認逮捕やそこまで行かなくても証拠が十分でないのに逮捕に至る事案もあるでしょうから、争うこと自体は一つの手段でしょう。
このような被疑者に対して、捜査側は逮捕後48時間、最大72時間、取り調べすることができ、その上で検察官に送致して、勾留する必要がある場合(多くはそうでしょう)裁判所に勾留請求して、通常10日間の勾留決定を得て、取り調べを継続できます。さらに必要であれば10日間の延長が認められています。その後、検察官が起訴するか否かを決定して、起訴しない場合は釈放され、起訴する場合はそのまま公判手続き終了まで勾留が継続されます(この段階になると拘置所に移管という形で移ります)。
その勾留場所ですが、刑訴法上は、拘置所となっていますが、施設不足という名目で警察署で勾留されているのが普通です(留置施設の構造や制度は警察庁のパンフがわかりやすい)。拘置所だと取調官のいる警察署とは別の施設などで、取り調べの環境や雰囲気、被疑者の意識も違ってきますが、同じ警察署だと、ずっと取調官の支配下にあるといった印象をもつのもやむを得ません。
アメリカではたいていの州では、別の施設になっていますし、実態はよくわかりませんが、勾留段階で否認していても保釈が簡単に認められているような印象をもっています(映画でくらいしか知りませんが。)なお、わが国の保釈制度の運用では否認事件では容易に認めないし、認めるとしても相当公判審理が進んだ段階ではないか思います。
わが国の刑事訴訟はアメリカ法を相当程度手本にしていますし、アメリカにおける公民権運動やヒスパニックへの差別的取扱を前提とした不当な刑事手続きに関する裁判例が紹介され、理論的・実践的に、被疑者・被告人保護の方向が進展してきたように思います(といっても私のこの知見は40年くらい前の話)。
で、長々と前口上を述べましたが、保釈制度が最近、運用面でだいぶ変わってきたように思うので、少し触れてみたいと思った次第です。保釈が割合、認められる傾向になり、相当増えているようです。これは裁判員制度の下、取調の可視化を進め、取調内容をビデオ収録して残すケースが飛躍的に増大したのと同時に、起訴後は被告人側の防御の必要性を認め、刑訴法本来の原則保釈の運用に一歩前進した感じです。
これは、従前は私選弁護人がつくようなときは、保釈保証金の用意もできることが多かったのですが、他方で、国選弁護人の場合、被疑者段階でつくようになってからでもなかなか保釈金の用意ができないことが想定され、あきらめる傾向があったかのように思います。
ところが、日本保釈支援協会という団体が、簡単な手続きと、割合安い手数料で、保釈記保証金の立替をするようになり、それが全国的に広がっていったことにより、各地で経済的に厳しい人も保釈申請して認められるケースが増えているように思います。また全国弁護士協同組合連合会の保釈保証書制度も最近事業化し、これも今後利用が拡大するのでしょう。
私も前者は利用したことがありますが、非常に簡単で、起訴が見込まれる場合、事前に協会の審査を受けておれば(これも迅速で簡単、ただし複雑な案件は別かも)、保釈請求、保釈許可決定、保釈保証金相当の支払、納付、そして保釈がほぼ一日で可能になります。
そんなわけで、ごくわずかな人しか保釈の恩恵を受けなかった状況から、さまざまな犯罪、多様な人にも、保釈が認められる状況が生まれているように思うのです。ま、これが刑訴法上の保釈制度本来の姿と思いますが。
で、問題はここからです。保釈は、裁判で実刑判決を受けなければ、公判出頭している限り、割合自由な行動が許されます。多くは逃げたりすると保釈保証金が没収されるので、そういった危険は少ないと思われます。しかし、同じような犯罪、つまり依存性のある犯罪の被告人については、用心が必要です。その間に、再度犯罪を冒す危険もあるのです。ASUKAの場合は執行猶予中でしたが、保釈中は大丈夫だったのでしょう。
現在の保釈制度は、そもそも無罪推定の基本原理の下、被告人の立場ですので、いくら犯罪を認めていたとしても、適切な管理や更生に向けたシステムは成立しにくいでしょう。しかし、保釈中はもちろん、その後執行猶予を受けた場合は当然、再犯防止のために適切な管理システムというと言葉がよくありませんが、更生を確保するシステムを構築しておかないと、単に自由を確保するということで、かえって脆弱な状態の本人にとっては行き場のないことになり、追い詰められる危険性が高いのではと思うのです。それはASUKAをはじめ多くの著名人が繰り返していることからも理解できるかと思います。
私自身、懸命に保釈許可をとり、やっと保釈できよかったと思った矢先、保釈中に、同種犯罪を繰り返され、結構落胆したことがあります。精神的な疾患を抱えていると言ってよいかもしれません。この人の場合は執行猶予判決をなんとかとり、病院に入院させましたが、もっと適切な対応を考えら得なかったか、反省ばかり残ります。
執行猶予判決で、保護観察を付する場合というのは、私自身、一定の事件では必須ではないかと思うことがあります。とはいえ、保護観察制度も重要な役割を果たしているものの、現在の状況では、人手不足と、保護観察官一人では十分に対応できません。通常は、一定期間ごとに、遵守事項等について、報告義務を課しているので、たいていの保護観察中の人はきちんと守っていると思います。とはいえ、報告とそれに対する指導だけでうまく行く人なら、容易に立ち直ることができるでしょうが、とくに依存性の犯罪を犯したような場合、そういう人は希かもしれません。社会的に連携した取り組みが必要でしょう。それはかなり前から言われ続けて、あまり変わっていないように思いますが。なお、アメリカでは一定の刑事犯に対してGPS監視(Electronic tagging)をする場合があるようですが、これはどうかと思います。
とはいえ、ダルクなど、こういった依存性のある犯罪を犯した人たちを支援する組織があり、大きな力になっていると思いますが、まだまだこういった取り組みが経済的にも制度的にも確立しておらず、再犯を減らす方向にはなかなか進んでいないように思えます。精神医療の支援も、また、就職支援制度との連携も不可欠ではないかと思います。
少し調べてから書こうと思っていたのですが、時間が無く、記憶の範囲で走り書きをしてしまいました。