190320 五輪と森林 <五輪会場建設、転換材を禁止>を読みながら
来年開催を間近にした東京五輪・パラリンピックはあかるいわだいばかりではないですね。最近注目されていたのはその主体であるJOC会長の去就でした。今朝の毎日記事は<20年東京五輪・パラリンピック招致疑惑 五輪の「顔」無念の退場 竹田JOC会長「世間騒がせた」>や<クローズアップ2019 五輪役職、退任表明 外圧、竹田氏に引導 IOC、リスク回避>などで大きく取り上げています。
招致疑惑は不明朗ですが、会場建設や運営にも気がかりがあります。たしかコンパクトで環境に優しいことを標榜していたのではないかと思いますが、その実態はどうでしょう。たとえば今朝の毎日記事<くらしナビ・環境五輪会場建設、転換材を禁止>では、9つの会場建設で使われた型枠材が東南アジアの熱帯林破壊を招いている危険を訴えるNGOの指摘を取り上げています。
一部を除き懐かしい名前のNGOばかりです。30年くらい前にそのメンバーとは一緒に調査に出かけたり、議論したりしていました。同じような問題状況が指摘されています。当時は丸太そのもので輸入されていましたが、その後世界的な熱帯林伐採ルールが確立したのと、付加価値を上げるため現地で木材加工工場が建設され、合板材として輸入されてきたようですが、供給源は同じで森林伐採して農地転用するものです。私はすっかりこの問題から遠ざかってしまいましたが、持続的に根気よくこれら団体は頑張ってきたのですね。
新国立競技場は、木材を多用して和の伝統文化を体現し、周囲の環境とも調和した景観的にもすぐれた評価がされているような印象です。たしかに競技場に使われる木材はその生産現場やルートについて適切に管理されているのかもしれません。でも型枠材となるとどうでしょう、十分な監視の目が行き届いていないのではと心配します。
さて最近の情報に疎いので、記事から情報を得たいと思います。
ここでは、木材調達基準を改定して、「転換材」の使用禁止をうたったことが中心に述べられています。
<東京五輪・パラリンピック組織委員会が木材を調達する際の基準が見直され、今月から運用が始まった。大きな変更点は、農園開発などのため皆伐された森林から産出される「転換材」の使用を禁じたことだ。五輪会場の建設現場では、こうした木材が使用され続けてきた実態がある。>
「転換材」って耳慣れないことばですね。上記表現からは、森林を皆伐し、その跡地をアブラヤシなどの農園にする土地利用で、「転換」というのは森林から農園などの土地利用を転換するということでしょう。その目的のために伐採された木で加工して木材となったものを「転換材」と呼んでいるようですね。
で、問題となっているのは<会場建設で大量に使われるコンクリートを固める際に型枠として使用される合板>ですね。これは30年以上前から同じパターンです。
<組織委の木材調達基準には「国産材を優先的に選択するよう努めなければならない」という項目>があると指摘されていますが、そもそも基準といえるか疑問です。型枠に<熱帯材の合板は強度が高くて質もよく、何度も繰り返し使える>ことや、ここには書かれていませんが値段も低廉であることが、国産材や他の外国材の利用を凌駕しているのではないでしょうか。
真剣に国産材の優先利用を考えたのであれば、実効性のあるルールを作る必要があったと思います。
その使用料は半端ではないです。<新国立競技場など九つの会場建設で使われたコンクリート型枠合板は、24万1400枚(昨年11月末現在)。全て広げると東京ドーム約8・6個分の面積(約40ヘクタール)にもなる。このうち7割超にあたる17万1900枚がインドネシア産とマレーシア産>というのですから、熱帯林使用に傾いていることは明瞭です。
組織委の木材調達基準は、従来<(1)合法であること(2)計画的に管理・経営された森林からの木材であること(3)生態系保全への配慮--など>があったとのことですが、今回<(2)に「農地などへの転換に由来するものではないこと」が明記された>とのこと。
環境NGOが指摘するように、従来の基準も(2)(3)はとくに抽象的で、採りようによってはその指摘するとおり、転換材の利用は基準違反といってよいかもしれません。国産材利用を努力目標というように、この基準もきちんと検証システムが確立していないと、絵に描いた餅になりますね。実際の基準はもっと詳細なのかどうかはこの記事だけでは分かりません。
RANというと当時は、世界的に名前が轟くほど強力な活動を展開していたと思いますが、JATANも負けずに頑張っていました。ともかくそのRANの調査では<調査によると、会場建設で使用された合板を製造しているインドネシアの工場では、原料の約4割がアブラヤシ農園開発などのため、天然の熱帯林を伐採した木材だったという。>
この工場を特定したり、約4割の算定根拠を示すことができるか、気になるところですが、それでもそれなりの蓋然性を感じます。
次の記事から工場は特定されたものと理解できます。ただ輸入元の住友林業と総合商社・双日とでは、転換材の利用が持続可能性基準?に適合するかいなかで、前者は是とし、後者は非とするようです。前者はインドネシア政府がOKならそれを鵜呑みにするような判断のようで、それでよいか、日本独自の調達基準の実効性を検討できていない印象を受けます。まあ組織委自体、基準見直し前まで、住友林業と同じ判断だったようですから、その判断の妥当性が今後問われるかもしれません。
熱帯林とアブラヤシなどの農園とは生物多様性や自然環境の点で、大きな違いがあることは多言を要しないと思います。いくら計画的な管理といっても、なにを「計画」し「管理」するか、それが問題でしょう。計画・管理といえばOKなら、天網恢恢疎にして漏らさずでいう理を妄信しているだけと言われるかもしれません。
とはいえインドネシアやマレーシアの国情もあり、簡単にはいえないことではありますが。
<環境団体「地球・人間環境フォーラム」専務理事の坂本有希さんは「転換材を排除した基準が持続可能な木材調達の土台となって、公的機関の調達基準がより厳しくなることを期待したい」と話した。【伊藤奈々恵】>というように、少しでも改善することを望むことでしょうか。
他方で、国産材をより利用する方策を生み出す方が国内の荒廃した森林の持続的利用に資することにもなりますし、調達基準適合性を適切かつ容易にチェックすることができると思うのですが、そういう方向への舵取りする流れにはなかなかならないようです。
今日はこれにておしまい。また明日。
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