170222 土地利用の来歴と処分の公正さ <大阪・豊中の国有地売却 8億円減額、根拠示さず>を読んで
今朝もかなりの寒さ、痺れる感じで、温度はマイナス5度でした。温度計自体はそれほど信頼していませんが、体は十分冷え込みを感じます。空は晴れ渡り、旭日の朱色の輝きが紀伊山脈の峰々の隙間から強く差し込んできます。
さて今日は午後から法律相談で、それまでに仕事を仕上げるには少し時間が足りず、ブログを書き始めようかと思っています。いろいろなニュースや毎日記事を見ながら、あれこれ考えつつ、先日も取り上げた見出しのテーマ、ちょっと重要な点を見落としていたことが気になっていましたので、これをとりあげることにしました。
毎日記事では、<小学校建設のため、学校法人「森友学園」(大阪市淀川区)に売却された大阪府豊中市の国有地を巡る問題で、民進党議員の調査チームが21日、売却に関わった近畿財務局と大阪航空局への聞き取り調査をした。議員は、売買価格の大幅な減額要因となった地下ごみの撤去費用約8億円の根拠を追及。国側は「適正な算定で売却した」としたものの、あいまいな説明に終始した。>としています。
その調査でも、ごみの撤去費約8億円を算定した具体的な根拠については、<みが出た場所や深さなどの詳しい確認方法は明言しなかった。>と疑問が解明されないままとなっています。
他方で、国は売却前に地価調査を行っており、その結果を踏まえて、<この土地には売却前の国の調査(2009~12年)で、ヒ素や鉛による土壌汚染と地下ごみがあった。学園側は土地を取得する前の借地契約の段階で、いったん撤去費約1億3200万円を負担。後に国が支払ったことが分かった。>という経過を一旦とったということです。
で、私が気になっていたのは、国が元々、どのような条件で当該土地を購入したか、そのときの土地利用はどうだったのか、地下調査が行われたのか、適正な価格で買い受けたのかといった問題です。
民衆党福島伸享議員の<豊中市野田町の国有地(8,770 ㎡)売却をめぐる経緯>(以下「豊中資料」と略称します)というファイルが偶然、ウェブ上で見つかりましたが、これによると、昭和49年(1974年)3年以降に、騒音対策区域の指定を受けて、住民の求めに応じて土地の買い入れを行う中で、当該土地も購入したとのこと。
当時は、むろん土壌汚染対策法といった規制は想定されていない頃ですが、すでに土壌汚染問題は首都圏をはじめ主要都市では発生していました。78年にアメリカに激震が起こったラブキャナル事件ではスーパーファンド法など一連の強力な土壌汚染対策を含む廃棄物法制が成立しましたが、わが国ではその後も長い間、せいぜい共同命令といった政令でお茶を濁す土壌汚染対策で、放置されてきた大きな負の遺産が残っています。
たとえば、国が土地購入を開始した前年の昭和48年に東京都が日本化学工業(株)から買収した江東区大島9丁目の都営地下鉄用地及び市街地再開発用地で大量のクロム鉱さい埋め立てが判明したことを発端として、長年にわたり六価クロムによる土壌汚染問題が続きました。また、前に指摘した川崎市鷺宮のマンション敷地での土壌汚染事件も、元々の発端は東京オリンピックの建設ラッシュやその後の再開発の際に発生した廃棄物が大量に周辺に不法投棄された氷山の一角です。
つまり、本来、土地購入に当たり、国は適切な地下調査を行い、汚染処理の必要性などを吟味して、価格を算定し、購入すべきであったのに、そうした形跡は見当たらないようです。そして上記の豊中資料によれば、平成21年から24年の間に調査を行ったところ、鉛、ヒ素、廃材、コンクリート殻などの地下埋設物が発覚したと言うことで、それは購入時に調査しておけば売主の責任として対応できた可能性があったのです。換言すれば、国としては、そういった財産管理上の問題をクローズアップしたくないという意識がなかったといえるか疑問を感じたのです。
そしてもう一つは、上記の鉛・ヒ素は土壌汚染物質ともいえる一方、自然由来のものかもしれません。その検出濃度などデータが明らかでなく、他の廃材などとの関係性も不明です。少なくとも、土壌汚染防止法上、一定の有害物質濃度であれば必要とされる周辺井戸などの調査が行われたといった情報は出されていないようですので、問題にするほどの有害性はなかった可能性が高いと思われます。
そもそも元の土地利用が明らかにされていないので、発生源も分かりません。少なくとも平成21年以降に調査したのですから、土壌汚染対策法上の調査義務によるかは別として、国の財産管理として、どのような調査を行ったか、またその調査データは開示されるべきでしょう。その内容次第で、どの程度の汚染対策が必要か、また土地利用としてはどのようなものが適切かが判断されてしかるべきだと思います。
その場合、小学校用地として適切かも、十分検討した上で、売買ないし貸付の対象として妥当か、どのように判断したかが問われるべきです。上記程度の廃棄物や土壌汚染物質であれば、公共用のビル建設などであれば、その廃棄処理といっても撤去処分までする必要がなかった可能性があるでしょう。他方で、学校用地であれば校庭など土壌汚染対策が基準内はもちろん不安を払拭できる配慮も必要でしょうから、豊洲問題まで厳正でなくても、相当な汚染処理が必要となるでしょう。そのような配慮が売却に当たって検討されたのか疑念が残ります。
これらの問題とは別に、国有地の売却の原則は<国有地の管理処分手続きの原則>原則として一般競争入札によることとされています(会計法第29条の3第1項)。例外は地方公共団体への売却のような場合です。今回の売却は、当初は定期借地権設定で、すぐに売却に変更となっていますが、一般競争入札ではなかったようです。なぜ民間の学校法人に、しかもこのような異例の措置を講じたかも疑問が提示されています。
もう一つ、この学校法人の代表者は、それまで幼稚園を経営していて、そこでは教育勅語を全員に唱和させているということや、憲法改正運動を推し進める組織の役員をしているとかで有名だそうです。
<教育勅語>それ自体は、以下の通り明治天皇のお言葉として、それなりに格調もあり、内容も異論は理解できるものの、それなりの価値を有するものと、むろん批判の対象としても学習する意味があると、私自身は思っています。それを個々が学習することはもちろん問題ないですし、学校の精神・意図として、適切な段階で適切な方法で行うことも、教育の自由の一要素ではないかと思います。以下<教育勅語とその精神>から引用します。
教育ニ関スル勅語
朕惟フニ我カ皇祖皇宗国ヲ肇ムルコト宏遠ニ徳ヲ樹ツルコト深厚ナリ
我カ臣民克ク忠ニ克ク孝ニ億兆心ヲ一ニシテ世世厥ノ美ヲ済セルハ此レ我カ国体ノ精華ニシテ教育ノ淵源亦実ニ此ニ存ス
爾臣民父母ニ孝ニ兄弟ニ友ニ夫婦相和シ朋友相信シ恭倹己レヲ持シ博愛衆ニ及ホシ学ヲ修メ業ヲ習ヒ以テ智能ヲ啓発シ徳器ヲ成就シ進テ公益ヲ広メ世務ヲ開キ常ニ国憲ヲ重シ国法ニ遵ヒ一旦緩急アレハ義勇公ニ奉シ以テ天壌無窮ノ皇運ヲ扶翼スヘシ
是ノ如キハ獨リ朕カ忠良ノ臣民タルノミナラス又以テ爾祖先ノ遺風を顕彰スルニ足ラン
斯ノ道ハ実ニ我カ皇祖皇宗ノ遺訓ニシテ子孫臣民ノ倶ニ遵守スヘキ所之ヲ古今ニ通シテ謬ラス之ヲ中外ニ施シテ悖ラス
朕爾臣民ト倶ニ拳拳服膺シテ咸其徳ヲ一ニセンコトヲ庶幾フ
明治二十三年十月三十日
御名 御璽
現代訳も上記のウェブサイトにありますので、関心ある方はのぞいてください。
で、幼稚園児にこの教育勅語を唱和させることが妥当かとなると、私自身は疑問を感じますが、それもそういう教育を受けることを求める両親がいれば、それも教育を受けさせる自由、権利の一つかと思います。ただ、たまたまTV放送で見た学校代表者の発言、その挙動、姿勢は、とても教育勅語が理想とするような人物とは思えませんでした(これは偏見かもしれませんが、瞬間的な感想です)。
そのTV放映ですが、たしか韓国人の子息が入園していて、その子に対して先生も他の園児も差別的態度をとり、その子が園を止めざるを得なくなったという事実について取材を受けて、代表者の籠池氏は当然のことだという顔で、韓国人らへの蔑視の姿勢をあからさまにする態度を露骨に示していましたが、これが教育者かと思い、驚きを禁じ得ません。と同時に、このような軽い姿勢をとる人が問題の法人をほんとうに運営しているのだろうか、影に誰かがいるんではないかと感じてしまいました。毎日の<理の眼 差別者に教育の資格なし>でもの差別態度などについて、より鋭く問題を指摘していました。
明治天皇に対する私の狭い歴史感では、韓国併合を含め他国への侵略的な行為について、批判的であったと理解しています。少なくとも韓国人を蔑視したりするような、差別的な思想は持っていなかったのではないかと考えています。この理解が誤りであれば、その点はいずれ検討したいと思います。
ちょっとこの学校法人の代表者の話を土地売買の適正さの問題に付け加えたのは、このような他国民との平和的共存を図るべき憲法秩序の元で、とりわけ日韓の共存を図ることが喫緊の課題であるのに、このような代表者が経営指導する学校に、疑惑のある土地売却をすること自体、公正さに疑念を抱かざるを得ないだけでなく、あるべき国有地の財産処理といえるかはなはだ疑問を感じてしまいます。
そしてこの学校法人の名誉校長に安倍首相の昭恵夫人がなっていることも、ファーストレディーとして、憂慮される事態ではないかと懸念します。神道を教えることもそれ自体は結構なことだと思います。しかし、代表者の上記言動を見てしまうと、教育者としてふさわしいか、また、その代表者について、<籠池先生の教育に対する熱き想いに感銘を受け>、名誉校長を引き受けたというのですから、余計、驚きです。昭恵夫人は、代表者の差別的言動を知った上、これを是認して、就任し、現在もその地位にあるのだとすると、安倍夫妻、それぞれの対応に疑問を感じざるを得ません。
安倍首相は、国会の質疑で、この土地売買について、関与があれば辞任するといっていますが、妻の名誉校長就任自体が、果たして今回の土地売却に影響がなかったといえるか疑問を感じます。これもまた李下に冠を正さず、必要があるように思うのです。
安倍首相は、世界のリーダーの中で、唯一か、数少ない、破天荒なトランプ氏と肌が合うようです。トランプ氏の差別的言動にとどまらない、それを実践する各種の大統領令への署名は、世界中に差別的取扱を是認するかのような風潮を醸し出しているともいえます。そのようなトランプ氏と同じような態度を、この学校法人への土地売買をめぐって、無意識にとってきたようにさえ思えるのです。
安倍首相は、土地売買の適正さ(買主の選択、貸付・売買の選択・価格の設定・汚染処理費用の算定など)といった問題に限って、国会答弁していますが、仮にこの学校代表者の差別的言動を承知しつつ、それを黙認するような姿勢であるなら、トランプ氏の入国禁止令への対応以上に、彼の差別感が顕在化したと糾弾されてもやむを得ないかもしれません。
私は、一国のリーダーとしての誇り、自負を持つ人物として、安倍首相にはそのような差別感や差別意識がないと信じたいですが、その期待を裏切らない態度を明確に示してもらいたいものです。