181130 一挙三徳? <「海の砂漠化」、鉄鋼スラグが救世主に>を読みながら
鉄は古代から有用で幅広く使われてきましたが、精錬の際、鉄以外の産物が残り、鉱滓とかスラグといわれる、現代の大量生産システムでは産業廃棄物が大量に排出されるわけですね。
その処理がやっかいな問題です。
本日付Bloombergでは、菅磨澄氏が<「海の砂漠化」、鉄鋼スラグが救世主に-人工の藻場でコンブよみがえる>として、世界有数の鉄鋼メーカー・新日鉄住金の野心的な取り組みを紹介していますので、この記事を引用しながら少し言及してみたいと思います。
まず<現在、日本で年間約4000万トン発生するスラグ>とのことです。これがすべて鉄鋼スラグかどうか文章からははっきりしませんが、どちらにしても大半がそうであることは確かでしょう。このすさまじい量を単純に最終処分することはできません。むろん以前から鉄鋼メーカーは再利用に取り組み、できるだけ産廃処分を減少する努力をしてきたと思います。
菅氏は<大半がセメントの原料や道路用の路盤材などに再利用され、海洋向けはごく一部だ。>とこれまでの再利用が陸上利用にほぼ限定されていたとしています。そうでしょう、なにせ沿岸域は漁業者の反対でとても鉄鋼スラグを海中に入れることなど理解されなかったと思います。
もし海中にも再利用できるとなると、処理先が拡大し、さらに多くのスラグについて産廃処理がより適切になされることになるという一徳がありそうです。
それは何か。海の砂漠化を防ぐ、ないし減少する機能を鉄鋼スラグがもっているというのです。第二の徳でしょうか。
いま日本沿岸域は海の砂漠化が進行していると言われています。<海の砂漠化である「磯焼け」は、藻場が枯死し不毛な状態が続く現象だ。>
その原因については<温暖化に加え、森林伐採やダム建設などにより森から海への栄養素の供給が途絶えることなど>とされています。<自然界では落ち葉が土と混ざり腐植土となるが、その中の鉄分が森から川を通じて海に流れ込み、海藻に届く。>と栄養素の中で鉄分が不足することが大きいようです。
私が熱帯地方でいくつかの川を見たとき、とても茶色っぽかったりしていたのですが、樹木や土壌からの鉄分が大量に川に染み出していたのですね。それは鉄分が溶けて川の色を染めていたのでしょう。原生自然のような熱帯の森ではよく見かけます。
でもわが国の森林と河川では、豊かな森と清浄な河川でも、そのような光景を見ることができません。鉄分以外に他の要素が多いのかもしれません。
ともかく鉄分不足が藻場の成長を妨げているようです。
<新日鉄住金でスラグ市場開拓を担当する木曽英滋氏は、この仕組みを応用して製品が開発されたと説明する。>海が鉄分をほしがっている、それを鉄鋼スラグで補おうという発想でしょうか。
<北海道の西岸にある増毛町。約30年前から海藻の消失により漁獲量が減少し、漁業者は悩んでいた。そこで、2004年に同社が実証実験で鉄分を含んだスラグに腐植土を混ぜ合わせた栄養補給剤を海岸沿いに埋めたところ、数カ月後にはコンブ群落が再生された。1年後にはスラグを設置した実験区のコンブ生育量が108メートル離れた対象区と比較して1平方メートル当たり220倍に増えた。>
スラグ+腐植土の栄養補給剤を沿岸に埋めたら、コンブが増えたというのですから、見事実証したといえるのでしょう。
コンブが増えれば、生態系の連鎖で次々と業界類も増えるでしょう。
<「目に見える効果があり、実験区の海域はコンブでいっぱいになった」。増毛漁業協同組合の相内宏行専務理事は当時を振り返る。14年からは範囲を拡大し別の場所で実証実験を行っているが、「鉄鋼スラグを入れた場所では海藻の繁茂はいい。海藻を餌にしているウニやアワビが集まるので、捕れる魚介類も増えた」と話す。>これで海の砂漠化を防ぎ、他方でコンブや魚介類が増えれば、一石二鳥ですね。合計すれば三徳といえるかもしれません。
さらに別の使い道があるそうです。
形態的な側面を活用するようです。浅場造成とか、海藻付着用とかによいようです。
<スラグはまた、浅場造成の材料や、海藻が付着して育つ天然石の代替となる人工石にも活用される。>それは<海藻を育てるには、太陽の光が届く水深まで海底を引き上げる必要があるが、港湾のしゅんせつ土砂は柔らかく固まりづらい。そこで土砂に混ぜると強度が増すスラグが開発された。>
そもそも港湾の浚渫は毎年大規模に行われていますが、その処理も困っているのですから、
うか。
他方で、東京湾で密かに浚渫する業者がいるとも言われており、あちこちで大きな窪みができて、困っているとの話を聞いたことがあります。余談ですが。
さらに本命ともいえる<ブルーカーボン>ですね。
<ブルーカーボンは、09年に国連環境計画の報告書で海洋生態系に吸収・固定される炭素として命名され、新たなCO2吸収源として注目されている。>
<日本でも昨年、専門家などで構成するブルーカーボン研究会が設立され、今年3月には日本沿岸で吸収できるCO2の量が、藻場の拡大等により30年までに最大34%増えるとの予測を発表した。>期待したいですね。<東京大学大学院工学系研究科の佐藤慎司教授は「日本は島国で浅い場所も多く、沿岸域のブルーカーボンのポテンシャルは大きい」 と話す。>いいことずくめですね。
でも<ブルーカーボンの研究は森林が吸収する「グリーンカーボン」に比べて遅れており、実際に沿岸で吸収できる量を把握するのが難しい。>そうですね。20年くらい前、湿地のCO2吸収が結構研究されていましたが、どうも確立したものではなかったのか、最近あまり取り上げられていない印象です。
それに加えて、これまでの有用性・徳は、なかなか漁業者の理解を得ることができない状況にあるように思えます。こういった実験結果の副作用というか、デメリットもしっかり公表してもらいたいと思うのです。
漁業者の頭が固いといった先入観ではなく、データをオープンにして漁業者に理解してもらうよう地道な努力も必要だと思うのです。当たり前ですが。
<同研究会の委員で港湾空港技術研究所の沿岸環境研究グループ長、桑江朝比呂氏は、沿岸開発を行うには漁業者の了承を得る必要があるが、「スラグに対する漁業者の印象はまだ良くない」と明かす。>それはそうでしょう。スラグといえば、形状も形態も由来も、とてもそのまま海面に沈めることは理解されないでしょう。すでにいくつかの漁協の理解を得ているようですが、今後もよりいっそう頑張って欲しいと思うのです。
新日鉄住金は、鉄鋼メーカー以外の幅広い領域で、さまざまな研究開発を進めていて、私のような頭ではとてもついて行けませんが、温暖化削減など新たな事業として取り組むことを期待したいと思うのです。
今日はこれにておしまい。また明日。