たそかれの散策

都会から田舎に移って4年経ち、周りの農地、寺、古代の雰囲気に興味を持つようになり、ランダムに書いてみようかと思う。

一挙三徳? <「海の砂漠化」、鉄鋼スラグが救世主に>を読みながら

2018-11-30 | 海・魚介類・漁業

181130 一挙三徳? <「海の砂漠化」、鉄鋼スラグが救世主に>を読みながら

 

鉄は古代から有用で幅広く使われてきましたが、精錬の際、鉄以外の産物が残り、鉱滓とかスラグといわれる、現代の大量生産システムでは産業廃棄物が大量に排出されるわけですね。

 

その処理がやっかいな問題です。

 

本日付Bloombergでは、菅磨澄氏が<「海の砂漠化」、鉄鋼スラグが救世主に-人工の藻場でコンブよみがえる>として、世界有数の鉄鋼メーカー・新日鉄住金の野心的な取り組みを紹介していますので、この記事を引用しながら少し言及してみたいと思います。

 

まず<現在、日本で年間約4000万トン発生するスラグ>とのことです。これがすべて鉄鋼スラグかどうか文章からははっきりしませんが、どちらにしても大半がそうであることは確かでしょう。このすさまじい量を単純に最終処分することはできません。むろん以前から鉄鋼メーカーは再利用に取り組み、できるだけ産廃処分を減少する努力をしてきたと思います。

 

菅氏は<大半がセメントの原料や道路用の路盤材などに再利用され、海洋向けはごく一部だ。>とこれまでの再利用が陸上利用にほぼ限定されていたとしています。そうでしょう、なにせ沿岸域は漁業者の反対でとても鉄鋼スラグを海中に入れることなど理解されなかったと思います。

 

もし海中にも再利用できるとなると、処理先が拡大し、さらに多くのスラグについて産廃処理がより適切になされることになるという一徳がありそうです。

 

それは何か。海の砂漠化を防ぐ、ないし減少する機能を鉄鋼スラグがもっているというのです。第二の徳でしょうか。

 

いま日本沿岸域は海の砂漠化が進行していると言われています。<海の砂漠化である「磯焼け」は、藻場が枯死し不毛な状態が続く現象だ。>

 

その原因については<温暖化に加え、森林伐採やダム建設などにより森から海への栄養素の供給が途絶えることなど>とされています。<自然界では落ち葉が土と混ざり腐植土となるが、その中の鉄分が森から川を通じて海に流れ込み、海藻に届く。>と栄養素の中で鉄分が不足することが大きいようです。

 

私が熱帯地方でいくつかの川を見たとき、とても茶色っぽかったりしていたのですが、樹木や土壌からの鉄分が大量に川に染み出していたのですね。それは鉄分が溶けて川の色を染めていたのでしょう。原生自然のような熱帯の森ではよく見かけます。

 

でもわが国の森林と河川では、豊かな森と清浄な河川でも、そのような光景を見ることができません。鉄分以外に他の要素が多いのかもしれません。

 

ともかく鉄分不足が藻場の成長を妨げているようです。

 

<新日鉄住金でスラグ市場開拓を担当する木曽英滋氏は、この仕組みを応用して製品が開発されたと説明する。>海が鉄分をほしがっている、それを鉄鋼スラグで補おうという発想でしょうか。

 

 

<北海道の西岸にある増毛町。約30年前から海藻の消失により漁獲量が減少し、漁業者は悩んでいた。そこで、2004年に同社が実証実験で鉄分を含んだスラグに腐植土を混ぜ合わせた栄養補給剤を海岸沿いに埋めたところ、数カ月後にはコンブ群落が再生された。1年後にはスラグを設置した実験区のコンブ生育量が108メートル離れた対象区と比較して1平方メートル当たり220倍に増えた。>

 

スラグ+腐植土の栄養補給剤を沿岸に埋めたら、コンブが増えたというのですから、見事実証したといえるのでしょう。

 

コンブが増えれば、生態系の連鎖で次々と業界類も増えるでしょう。

<「目に見える効果があり、実験区の海域はコンブでいっぱいになった」。増毛漁業協同組合の相内宏行専務理事は当時を振り返る。14年からは範囲を拡大し別の場所で実証実験を行っているが、「鉄鋼スラグを入れた場所では海藻の繁茂はいい。海藻を餌にしているウニやアワビが集まるので、捕れる魚介類も増えた」と話す。>これで海の砂漠化を防ぎ、他方でコンブや魚介類が増えれば、一石二鳥ですね。合計すれば三徳といえるかもしれません。

 

さらに別の使い道があるそうです。

形態的な側面を活用するようです。浅場造成とか、海藻付着用とかによいようです。

<スラグはまた、浅場造成の材料や、海藻が付着して育つ天然石の代替となる人工石にも活用される。>それは<海藻を育てるには、太陽の光が届く水深まで海底を引き上げる必要があるが、港湾のしゅんせつ土砂は柔らかく固まりづらい。そこで土砂に混ぜると強度が増すスラグが開発された。>

 

そもそも港湾の浚渫は毎年大規模に行われていますが、その処理も困っているのですから、

うか。

 

他方で、東京湾で密かに浚渫する業者がいるとも言われており、あちこちで大きな窪みができて、困っているとの話を聞いたことがあります。余談ですが。

 

さらに本命ともいえる<ブルーカーボン>ですね。

<ブルーカーボンは、09年に国連環境計画の報告書で海洋生態系に吸収・固定される炭素として命名され、新たなCO2吸収源として注目されている。>

 

<日本でも昨年、専門家などで構成するブルーカーボン研究会が設立され、今年3月には日本沿岸で吸収できるCO2の量が、藻場の拡大等により30年までに最大34%増えるとの予測を発表した。>期待したいですね。<東京大学大学院工学系研究科の佐藤慎司教授は「日本は島国で浅い場所も多く、沿岸域のブルーカーボンのポテンシャルは大きい」 と話す。>いいことずくめですね。

 

でも<ブルーカーボンの研究は森林が吸収する「グリーンカーボン」に比べて遅れており、実際に沿岸で吸収できる量を把握するのが難しい。>そうですね。20年くらい前、湿地のCO2吸収が結構研究されていましたが、どうも確立したものではなかったのか、最近あまり取り上げられていない印象です。

 

それに加えて、これまでの有用性・徳は、なかなか漁業者の理解を得ることができない状況にあるように思えます。こういった実験結果の副作用というか、デメリットもしっかり公表してもらいたいと思うのです。

 

漁業者の頭が固いといった先入観ではなく、データをオープンにして漁業者に理解してもらうよう地道な努力も必要だと思うのです。当たり前ですが。

 

<同研究会の委員で港湾空港技術研究所の沿岸環境研究グループ長、桑江朝比呂氏は、沿岸開発を行うには漁業者の了承を得る必要があるが、「スラグに対する漁業者の印象はまだ良くない」と明かす。>それはそうでしょう。スラグといえば、形状も形態も由来も、とてもそのまま海面に沈めることは理解されないでしょう。すでにいくつかの漁協の理解を得ているようですが、今後もよりいっそう頑張って欲しいと思うのです。

 

新日鉄住金は、鉄鋼メーカー以外の幅広い領域で、さまざまな研究開発を進めていて、私のような頭ではとてもついて行けませんが、温暖化削減など新たな事業として取り組むことを期待したいと思うのです。

 

今日はこれにておしまい。また明日。


古代渡来人 <奈良・市尾カンデ遺跡 ・・渡来人定住、4世紀の可能性>を読みながら

2018-11-29 | 古代を考える

181129 古代渡来人 <奈良・市尾カンデ遺跡 ・・渡来人定住、4世紀の可能性>を読みながら

 

新たな遺跡が発見と報道されると、途端に血気盛んになるほど、古代史や考古学といったものに関心があるわけではないですが、それでもどんな発見かと関心はもっています。

 

今回は毎日の昨日の朝刊記事のようですが、私は見逃していました。タイトルは<奈良・市尾カンデ遺跡国内最古の大壁建物跡か 渡来人定住、4世紀の可能性>というものです。

 

遺跡名も初めて聞く名前で初心者クラスではあまり知られていないのではと思ってしまいます。だいたい「市尾」という地域名も初めて知りました。明日香の遺跡群を訪れる場合でもあまり通らないところではないでしょうか。

 

それでもなんとくなく興味を抱きますね。それはこの遺跡の時代と場所です。

 

記事は<奈良県高取町教委は27日、同町市尾の「市尾カンデ遺跡」で、古代朝鮮からの渡来人特有の「大壁(おおかべ)建物」と呼ばれる建物跡が見つかったと発表した。>と大壁建物遺跡をまず取り上げています。

 

<年代は大壁建物としては国内最古の4世紀末~5世紀初めまでさかのぼる可能性があり>ということで、そのことが<渡来人が朝鮮半島からやってきた時期を巡る議論にも一石を投じそうだ。>ということのようです。

 

その時期については、<近くで見つかった土器の分析から遺跡は4世紀末~5世紀初めの可能性があるという。>土器分析で年代を推定したようですね。

 

そしてやはり建物の形状・大きさが特徴です。<大壁建物は溝に立てた柱の間に土を塗り込めて壁にするのが特徴。町教委は今年7~11月、約1000平方メートルを発掘し、建物跡とみられる幅約50センチの溝や直径30~40センチの柱穴を16棟分確認した。>柱穴の大きさからかなりの規模を想定できそうですし、それが16棟分となると、当時としてはその建物規模をあいまって、あまり類例がないほどの集団性ではないでしょうか。

 

<渡来人が日本に来た時期については、雄略天皇時代(5世紀後半)との見方が多い>ということですが、5世紀後半には朝鮮の王族もやってきて、わが国の大王との関係性も議論の焦点になっていると思います。

 

ところで、今回の発見では、4世紀後半に渡来人が来たことをうかがえるというのは面白いですね。日本書紀や朝鮮に残る広開土王碑から、一つの可能性として倭といわれていた日本の軍が朝鮮半島を攻め、高句麗の広開土王から反撃を受けて撤退し、その際、朝鮮の人の一部がわが国に渡来したかもしれないと思っています。西暦390年代後半でしょうか。

 

書紀では神功皇后が神の託宣を受け、魚か何かに乗って船群を連れ朝鮮半島に一挙に攻め入り、朝鮮の人たちは直ちに降伏したような夢物語になっていますが、前記碑の方が説得力が高いというか、比較するのもおかしいくらいかもしれません。

 

ただ、神功皇后は、少なくとも書記の世界では大活躍しており、しかも各地にその伝説が残っています。なにせその子、応神天皇は、仁徳天皇とか著名な天皇名の父親ですし、その後血縁者がいなくなったときもその五代目の子孫として登場する継体大王にとっては唯一の命綱みたいな人ですから、母としても凄いのです。

 

で、書記では、神がかりで朝鮮征伐?をしたという、神功皇后が朝鮮から何も持って帰らなかったような感じで、今度は倭国内の内戦の話に展開しますが、仮に朝鮮に渡ったとすると、朝鮮からの渡来人も結構来たのではないかと推測するのです。むろん神功皇后かどうかは別にして。

 

だいたい神功皇后については、何人かの皇后(こういう名称も当時は存在しなかったので?ですが)を一人として、また一時にまとめてしまっているとの見解もあり、それも興味のそそる考えです。

 

ただ、神功皇后が紀ノ川上流の隅田八幡宮に国宝となった人物画像鏡を下賜されたという伝承があり、そのすぐ東方には紀ノ川から吉野川に名前が変わり、ちょうど飛鳥やさらに纏向に通ずる道があったと思われるのです。すると高取町市尾付近はその途中ともいえますし、高取町付近は渡来人が住んでいたとされる地域の一つですね。

 

書記には神功皇后が紀ノ川を遡ったとか、五条付近からヤマトに入ったといった記載はありませんが、そもそも書記の内容には信頼性の乏しいものですから(以前にも少し触れましたが不比等が藤原氏の基盤固めのために創作したという見解も魅力的です)、上記の議論もそもそも成り立たないかもしれませんが、ちょっと今回の4世紀後半の渡来人、高取付近に住んだ痕跡という発見で、ふと浮かんだ考えを書いてみました。

 

もう少し突っ込んだ話をするつもりが、どうも頭の整理ができそうもありません。不完全燃焼でした。おつきあいありがとうございます。

今日はこの辺でおしまい。また明日。

 

 


自然への畏敬 <eye 母なる森に抱かれて 悠久のアラスカ南東部>を見ながら

2018-11-28 | 自然生態系との関わり方

181128 自然への畏敬 <eye 母なる森に抱かれて 悠久のアラスカ南東部>を見ながら

 

毎日最新ウェブ記事に<大阪万博会場「夢洲」の環境問題 よみがえる豊洲市場の“悪夢”>というタイトルで、会場となる夢洲の現状をリポートし、埋立処分された産廃等の問題を取り上げています。万場会場ですら普通、地下掘削もさほどたいしたものでないでしょうし、豊洲と同レベルの議論というわけにはいかないと思いますが、そういった不安が広がれば元も子もないわけですね。透明性を確保して、客観的な検証をして、結果を随時公表することで、二の舞を避けて欲しいと思うのです。

 

毎日の昨夕で紹介されたのは<eye母なる森に抱かれて 悠久のアラスカ南東部>でした。この地域は一度は行ってみたいと思いつつ、結局、訪れないままでしたが、こういった鮮烈な写真で(写真家・松本紀生氏)十分堪能できます。

 

そこはアラスカが長い尻尾のようにカナダに食い込む形で長く伸びて、太平洋と北米大陸の西海岸がシアトルまで、多彩な島々が浮かんでいて、船乗りというかヨットマン、カヌーイストにとっては憧れの場所の一つでしょうか。

 

ケネス・ブラウアー著(芹沢高志訳)『宇宙船とカヌー』では、そこを舞台に、豊かな自然と人の交流を感じさせてくれます。私の好きなカヤックを一つのキーワードとして。

 

そんなこともあり、私はなんどか近くまで行ったことがあります。アラスカは三度訪れていますが、一度はアンカレッジから東に少し飛んだところにあるバルディーズを訪れました。年間を通して凍らない港で、エクソン社の石油基地があり、80年代後半、油流出事件が起こったところです。それは素晴らしい場所でした。港をチャーター船で走っていると、ラッコの家族が海面でひなたぼっこしたり、貝殻を割ったりしてのんびりした姿を見ることもできました。イルカだったような記憶ですが、ずっと一緒に伴走してくれたり、生物が活き活きとしている姿を間近にしました。ちょっと行くとおおきな氷河があり、一部はどんどん溶けて、氷山の塊が次々と襲ってくるような場面にも出くわしました。このときが600kmくらい北でしたか。

 

でもジュノーは遠かったのです。別の機会にカナダ・ユーコン準州の州都ホワイトホースを訪ねたことがあります。ここでユーコン川の川下りをカヤックですることができました。このときは当時世界でも最先端の環境訴訟法ともいうべき法律を成立したと言うことで、その実情を少し調べるため政府機関を訪問したのです。でもジュノーから東に300kmも離れていましたね。

 

もう一度近づいたことがあります。それはカナダ西海岸の北端に位置するプリンス・ルパートという港町です。ここでもシーカヤックを借りて港を少しだけツーリングしましたが、周囲の山々が迫ってくる感じで荘厳さを感じさせてくれました。でもジュノーははるかかなたでした。450kmくらい北方にあったのですね。

 

そんなわけでケネス・ブラウアー氏の気分を少しでも味わうとしましたが、無理な話でした。

 

話は飛びますが、アラスカ航空はどのくらい航路があるのか知りませんが、少なくともバンクーバー・アラスカ間は飛んでいましたが、往復したときいずれも満員に近い大人気でした。わたしがある環境関係の資料を読んでいると、隣の人だったか面白いの読んでいるねなんて気安く声をかけてくれる雰囲気もよかったです。なんでこんな話になったかというと、あるハーバード大の教授が引用した資料に、航空会社の収益率を比べるグラフがあり、その中に日本航空はじめ多くの航空会社が赤字で苦戦しているのに、アラスカ航空が黒字で安定していたので、あまりきかない会社ですが、結構うまくやっているのかしらと思うのと、他方で、アラスカの自然に魅了された多くの人が訪れている、値段が少し高いけどと思ったのです。そう自然は金銭では変えられないものですが、経済的評価をすることは適切であれば有用性があるということ少し感じたので、取り上げてみました。

 

さてまわりくどい冗長な前置きとなりました。

 

松本氏が撮影した原生自然の森は、クーバノフ島というジュノーがある海岸線に浮かぶ島の一つです。苔が一面に広がり、樹木と土がまるで一体のような雰囲気さえする森ですね。私もこういった森を、バンクーバー島の中央部付近で見たことがあります。太古の森、それはほとんど人が訪れないところとして残されてきた印象を抱きました。

 

松本氏が紙面で指摘していますが、アラスカと行っても、太平洋岸の南東部からカナダにかけては温暖な海流の影響もあるのでしょうか、レインフォーレストが広がっていて、巨大な樹木がいまなお残されて保全されているところがありますね。

 

他方で、氷河も広がっていますので、別の写真のように<氷河内部の空洞。氷が赤色を吸収するため、反射される青い光が内部を青く染めているように見える。溶け去った後に年月を経て森が現れる>という光の造形の妙も見ることができますね。温暖化が進めば、森が広がるのでしょうか。氷河の先端がどんどん崩れて海面に落ちる様子をあちこちで見ましたが、そういった将来も少し不安に感じさせてくれます。

 

<サケを追うヒグマ(奥)>も近い位置だと撮影するのも怖いでしょうね。<研究者によると、あるヒグマは捉えたサケを8時間の間に40匹も森の中へ運んだという>のは驚きです。シープクリークという小川でしょうか、クリークというと小さな川というイメージもあるのですが、実際は川幅が結構あるところが多く、ただ水深はたいてい浅いように思うのですが、地形学的な用語かどうかは知りません。

 

30分を少し回ってしまいました。今日はこの辺でおしまい。また明日。


コマツ方式の普及を <『経済成長の妨げを打開 コマツ坂根氏の処方箋』>を見て

2018-11-27 | 企業運営のあり方

181127 コマツ方式の普及を <『経済成長の妨げを打開 コマツ坂根氏の処方箋』>を見て

 

昨夜のプライムニュースは<『経済成長の妨げを打開 コマツ坂根氏の処方箋』>というテーマで、ゲストにコマツ相談役の坂根正弘氏と元総務相の増田寛也氏を招いて議論されました。とりわけコマツの様々な点で創意工夫ある経営、これからの企業のあり方の一つを示すような内容が提供されました。

 

人口減少時代を前提に、人手不足に対応するために外国人材の受け入れ拡大を目的とした出入国管理法改正案について、緊急対策として一定の合理性を認めつつ、国内における高齢者や女性など多くの雇用の機会が整備されていないことを問題にしたり、現行の外国人を含めた雇用環境に問題があることの改善が必要との指摘があったかと思います。

 

与野党の議論がさまざまな争点があるにもかかわらず、適切な議論がされているか、坂根氏もきっと内心では疑問を感じているのではないかと思いました。

 

日本の労働慣行の特異性を多々問題にしていましたが、私も多く賛同できました。

 

たとえば就活ルールを大企業が統一して決めるというやり方も現在のグローバル経済に適合しないという点もそのとおりだと思います。私自身、45年くらい前でしたが、ああいう就活活動は私にはとてもできませんでした、その結果、弁護士という道を選んでしまったのかもしれません。

 

大学では勉強しなくても、どのような専攻を学んだとしても、就職先では通用せず、会社のルールが優先して、そこから新たにスタートするような状況は最近少しずつ変わっていっていると思いますが、海外の大学で授業を受ければ、いかに日本の大学の実像が奇妙なものかわかりますね。増田氏もそういった指摘をしていました。

 

坂根氏は、就活ルールをとりあげ、年度の一時期に一括採用すること、本社が東京に集中する大企業の問題性を指摘して、通年随時採用、地方分散を提案しています。その場合就職の目安はどのくらい専門知見・技術・伸びしろがあるかといったことが大きなファクターになるのではないかと思います。大学での勉強もそれだけ実質が伴わないと意味をなくすことになるでしょう。

 

コマツは本社を地方の小松市に移転し、地元の地方大学採用を推進し、地域貢献・社会貢献という企業の社会的責任を体現してきたように思います。

 

会社経営のあり方で坂根氏が指摘していた一つ、変動費・固定費・変動費率という指標を用いて経営管理している企業が海外では当たり前であるのに、わが国では少ないという点も同感です。

 

多くの企業は、税務申告用や、有価証券報告書用などで、貸借対照表・損益計算書を作成したり、銀行用に資金繰り表を作成しますが、自社の経営において各事業部門が採算性を有しているか、自社独自の上記指標を作成して判断する必要があるのに、あまり関心のない企業が多いように見えてしまいます。

 

そのような趣旨を坂根氏は指摘していたのではないかと思うのです。坂根氏は社長になったとき、固定費の比重が高いことに注目して、それをいかに下げるかを工夫して、固定費上昇の要因であった終身雇用を改め、収益改善を果たしたそうです。

 

コマツといえばITIOT装備の建設機械が多方面の産業に展開して言っている点が注目されていて、私も気になっていましたが、坂根氏の次の社長が得意分野だったそうです。

 

コマツが石川県で取り組んだ新たな戦略は次の4つが柱ということのようです。

 

<地元での大学卒採用を開始>

<農業&林業への技術支援を開始>

<電力削減~新工場バイオマス発電建設>

<地域交流を目的に「こまつの杜」竣工>

 

地元大学卒採用は先に述べました。建設機械メーカーのコマツが農林業に進出?というと驚きますが、私は農林業に関心を抱きだした10年前くらいから次第に情報を得るようになり、コマツの西欧で使われている機械が農林業分野で画期的な機能を発揮していることを知りました。

 

その点、坂根氏は、地元採用の社員の多くが兼業農家だったことから、その社員たちの雇用環境を整備する中で、自然と農業の現状に目をやるようになったそうです。兼業農家は、普通平日は会社に勤めますが、土日とか、連休などでは農業をしています。ある意味普通の会社員の週末ファーマーとさほど違わないかもしれません。

 

でも兼業農家は基本、伝統的慣行農法をおこなっており、たいていは農協指導でやっているでしょうね。トラクターでも何でも農業機械は自分とこの自由な時間で使いたいため、ほとんどが自前ですね。それが効率的か、生産性を考慮したものかと言えば、費用対効果的には疑問が多い場合が普通ではないかと思います。

 

ITAIを装備した機械でもないですね。コマツはGPSを含めITIOTを搭載した農業機械を開発して、農業の合理化を開拓してきたようです。

 

私が着目したのは林業機械です。林野庁がウェブサイトで取り上げている高性能林業機械といったものの多くは、たぶん90年代のものとさほど大きな変化はないのではと思います。欧米、とくに北欧などで使用されている機械は、坂根氏が話していたように、IT,IOT搭載のもので、樹種、その大きさなどの市況が瞬時にITを通して林業機械の画面に現れ、それに対応する樹種を選んで一本を掴んで枝払いから造材まで一挙にして、さらにネットで近接する運搬トラックを呼び出し市場まで運ぶという一連の切れ目のない作業が行われているのです。

 

コマツは工場の省電力化を行い、90%も削減したそうです。これからの時代、いかに省電力化を図るか、よりいっそう企業力が試されるのだと思います。原発電力を頼ってどんどん電力消費するような体質の企業は淘汰されるのではないかと思うのです。

 

林業に関わっているため、バイオマス発電も手がけ、本来の高性能林業機械で生み出される大量のC級材や枝条も活用可能になるわけですね。

 

その他コマツは企業力を多方面に伸ばしていますが、そこには企業利益を超えた社会貢献を目指す姿を感じます。

 

これからの企業のあり方として多くが模索して欲しい一隅の光のように思えます。あまり絶賛していると、どこかで落とし穴があるかもしれませんが、そういう注意は怠らないと期待しています。

 

今日はこれにておしまい。また明日。


人はいろいろ <映画「いろとりどりの親子」>と<障害者採用 国要請に35自治体応じず>などを見読みしながら

2018-11-26 | 差別<人種、障がい、性差、格差など

181126 人はいろいろ <映画「いろとりどりの親子」>と<障害者採用 国要請に35自治体応じず>などを見読みしながら

 

昨日でしたか朝のNHK番組で、<映画「いろとりどりの親子」>が一部紹介されていました。それはドキュメンタリー映画で、さまざまな親子の姿をそのまま描いていました。

 

たとえば、ろう者の子が親子で登場します。両親が手を焼いている姿も映っています。でもその子がアルファベットの文字盤のようなものを見せられ、一つ一つを知り、それを通じて両親と意思疎通ができるとみんなで大喜びです。ダウン症の子とか、自閉症の子なども似通った体験をしていました。

 

あるいは、手足が極端に短く車イスでしか移動できない男性。でも町の中を堂々と電動車イスで走り抜けています。それだけではありません、たしか大学教授だったように思うのですが、専門分野を教え、そして同じように障害のある女性と結婚し妊娠したことを両親と夫婦で祝っていました。普通の生活を成し遂げているのです。

 

映画化された著作の原作者はゲイで、長く両親から疎まれ、苦しみ、「普通」に生きることの苦しさ、難しさを体験する中で、他の人に感心をもつようになり、様々な親子を300組を取り上げたのです。映画は6組の親子をドキュメンタリータッチで描いたものです。

 

「体は不自由でも心は自由なのさ」と語っています。 

「普通」を超えて、それぞれの個性を認め、いろとりどりであることを認め合う親子として、生きがいをもって生きているのです。

 

私自身が直面したときどうなるかわかりませんが、できればこういったいろとりどりの親子の一人になったり、それを自然に受け入れる一人になりたいと思うのです。そうではなく「普通」という冠付きの親子とか、家庭生活とか、職場生活とか、そういった意識をもつ人間の一人にはなりたくないと思うのです。

 

今朝の毎日一面には<障害者採用国要請に35自治体応じず 種別を限定>という記事が掲載されていました。

 

地味な記事ですが、上東麻子記者の「一隅を照らす」いい内容です(むろん多くの記者の協力があったのだとは思いますが)。

 

<全国都道府県の正職員採用試験の障害者枠で35道府県が採用を身体障害者に限定していた問題で、これらの道府県は2016年8月、厚生労働省から障害種別を限定しない「公正な採用選考」を要請されていたにもかかわらず、門戸を開いていなかった。>

 

むろん<障害者雇用促進法では、精神・知的障害者の雇用も義務づけている。>にもかかわらず、あえて身体障害者のみに限定した採用をしていた道府県が大半であったことに驚きとともに、やはりそうかと思ってしまいます。

 

障がい者と聞いてイメージするのは身体障害者が多いのではないでしょうか。いろいろな障害の人がいます。精神障害や知的障害でもいろんなタイプがいます。でもバリアフリーでも取り上げられるのはもっぱら身体障害者ではないでしょうか。精神・知的障害者の方々に多くの人の注意が払われているとは思えません。

 

記事にあげられたように、職員採用において自治体の対応がそのことを如実に示しているように思えます。国のほとんどの官庁が障がい者雇用において不正をやっていたわけですから、自治体においても同様な結果がでるのも当然かもしれません。国の場合も精神・知的障害者を雇用した例はほとんどなかったのではないかと記憶していますが、この点は明確でありません。

 

<厚労省障害者雇用対策課が総務省を通じ、都道府県や政令指定都市に要請した。・・・地方公務員の募集・採用について「身体障害者に限定することなく、他の障害者にも広く門戸を開き、能力・適性のみを基準とした公正な採用選考の実施」を求め、精神・知的障害者の雇用を促した。>というのですが、厚労省自身が不正をしていたのですから、どの程度本気で伝えたのか危ういですね。

 

実際、地方では<富山県の人事担当者は「特段それ(厚労省からの要請)を受けてしたことはない。他県もやっているところは少ないのでしていない」と話す。>というわけですから、厚労省が1通の通知くらいで、要請したといってもそれは通らないでしょう。

 

でも自治体によってまじめに障がい者採用に取り組んでいるところもありますね。<今年度から3障害に門戸を開いた島根県の担当者は「法改正に加えて要請があったことで、制度改正に至った」と明かす。>

 

ところで、1122日毎日記事では<障害者採用常勤1200人 来年末までに 省庁計画で厚労省>とありますが、ここでは種別が示されていません。やはり心配ですね。厚労省がしっかりリードして自治体だけでなく国の対応について、常勤・非常勤の違いだけでなく、種別を示すべきでしょう。

 

私たちは、障がいがあること、それを多彩で多様な生き方として尊重し、社会で共に生きる道を歩むことこそ、自由平等と人権が保障された未来に向けた社会づくりの一環と考えて、戦後の憲法を大事にしてきたのではないかと思うのです。

 

むろん知的障害や精神障害のある人たちが仕事のできる場、仕事に就くことを支援する場、訓練機関など、まだまだその整備が追いついていない中、急に採用と言ったことが容易でないことも理解できます。どちらが先か鶏と卵ではないですが、対応が遅れている現状を把握して全般的に底上げが必要でしょう。

 

オリンピック・パラリンピックや万博も大事かもしれません。他方で、置き去りにしてはいけない問題について、映画「いろとりどりの親子」は異なる地平線で描きつつも、なにかを鋭く物語っているようにも思えます。

 

今日はこのへんでおしまい。また明日。