たそかれの散策

都会から田舎に移って4年経ち、周りの農地、寺、古代の雰囲気に興味を持つようになり、ランダムに書いてみようかと思う。

養殖業大改革? <漁業権 漁協優先廃止 水産庁改革案、企業に養殖開放も>を読みながら

2018-05-25 | 海・魚介類・漁業

180525 養殖業大改革? <漁業権 漁協優先廃止 水産庁改革案、企業に養殖開放も>を読みながら

 

今日は体調がすぐれず、仕事がはかどらないので、少し早めに帰宅しようかと思います。こんなとき、いいニュースがあれば気分も変わるのですが、なかなか無いものです。日大アメフト問題はまだ明るい光が差してくる気配を感じることができません。日大前監督のいくつかの会話を聞いていると、俺のやり方、あるいは日大のやり方なんで、仕方がないといった、その言動・指導を顧みることを避け、ある種自分が描いてきた伝統?みたいなものを自負している感があるように思えます。時代の風をしっかり受け止めるというか、本来、昔だって、一人一人の個人を尊重する指導者がいたと思いますし、それこそが期待されるリーダーではないでしょうか。

 

そんなことを思いながら、毎日記事<漁業権漁協優先廃止 水産庁改革案、企業に養殖開放も>を驚きながら読みました。日本では縄文時代以来、漁業を生活の糧とする、あるいは交易の手段として船や漁獲物などを利用してきたと思うのです。とりわけ沿岸は漁民・漁村が先占権があるといった慣習的利用の対象となってきたのではないでしょうか。

 

漁業法による免許・許可制になっても、地元漁民、漁協は彼らで構成されていますので、実質的には漁協が養殖業など区画漁業権について優先権を有してきました。

 

漁業法17条はまさに明記していますね。

(区画漁業の免許の優先順位)

第十七条 区画漁業(真珠養殖業及び特定区画漁業権の内容たる区画漁業を除く。)の免許の優先順位は、次の順序による。

一 漁業者又は漁業従事者

二 前号に掲げる者以外の者

2 前項の規定により同順位である者相互間の優先順位は、次の順序による。

一 漁民

二 前号に掲げる者以外の者

3 前二項の規定により同順位である者相互間の優先順位は、次の順序による。

一 地元地区内に住所を有する者

二 前号に掲げる者以外の者

4 前三項の規定により同順位である者相互間の優先順位は、次の順序による。

一 その申請に係る漁業と同種の漁業に経験がある者

二 沿岸漁業であつて前号に掲げる漁業以外のものに経験がある者

三 前二号に掲げる者以外の者(以下省略)

 

たしかに漁民が沿岸部の水域を守り、水産物を収穫して生活を送ってきたコモンズ的な権利は保障されてしかるべきでしょう。ただ、養殖業といった区画漁業権について、直ちにそういえるかは気になります。

 

適切な資源管理や水質保全を図っている漁業者であればともかく、場合によっては競争激化で、一時は水質汚濁や過剰な生産もあったかと思います。

 

私が以前、四半世紀以上前に養殖場を見学したとき、そのエサのやり方が半端でないことに驚きました。魚がすべてそれを食べることができるわけでなく、相当程度は海の底に沈み、富栄養化などの問題が起こった可能性があるように思います。最近は、環境保全への配慮が少し行き届くようになり、ひどい例は少ないとは思いますが。

 

少し余分の話が長くなりました。記事に戻ります。

 

<水産庁は24日、養殖業への企業参入を加速し、水産業を成長産業とする改革案を発表した。地元の漁業協同組合に優先的に付与してきた漁業権の優先順位を廃止し、有効活用されていない漁場を洗い出して企業向けに開放する。政府は6月にまとめる「骨太の方針」に盛り込む方針だ。【加藤明子】>

 

農水大臣は斎藤健氏ですね、経産省官僚から、副知事などを経て、国会議員になり、畑違いの自民党農林部会長など農林問題に傾注して、ついに大臣になりましたね。その間、農地法や森林法など、農林問題について、平成の大改革(ま、官僚はよくそういいますが)を行い、今度は漁業法でも大改革を行おうというのですね。

 

これらを一括して表現することはできませんが、ある種、生産の効率化、企業参入を中軸にしている印象です。その前提として、放置されている、あるいは遊んでいる、農地や林地、こんどは沿岸域水面を活用しようというのでしょう。

 

その目的自体は、一定の支持を得られると思うのですが、どうも経産省的な生産性の発想が強すぎないか懸念されます。といっても農林業で大きな前進がいまのところ目立っているとは思えないので、どうも机上の構想が働き過ぎではないかと、失礼ながら思ってしまいます。

 

では養殖業の区画漁業権についてはどうでしょう。

加藤明子記者は、別に水産庁専門ではなさそうで、この記事の取材源が水産庁発表というのですが、ホームページを見た限り、その兆候すら把握できませんでした。

 

ともかく記事では<改革案は漁業権の免許について、地元漁協を最優先すると定める現行の漁業法などの優先順位の規定を廃止する。代わりに「水域を適切かつ有効に活用している場合は、その継続利用を優先する」との基本方針を法改正で明記する。漁場を有効利用していない場合は漁業権の取り消しも行う。漁場の利用状況を理由に漁業権の取り消しを認めるのは、今回が初めてとなる。>と上記の優先順序を定めた大原則を壊そういうわけですね。

 

日本の漁獲量が激減し、世界は増えていて、資源の枯渇、保全の観点からは養殖にシフトしていく可能性が高いかもしれません。そのとき<世界では急速に養殖の生産が拡大しており、20年間で3・4倍に増える一方、日本では94年をピークに減少している。>

 

<養殖には都道府県知事が付与する漁業権が必要だ。小規模漁業者でつくる漁協に最優先で漁業権が割り振られてきたため、技術革新や規模拡大が進まないとの指摘があった。漁協優先の漁業権のあり方が見直されれば、企業が漁業権を取得しやすくなり、長期的な経営計画を立てられるようになる。水産庁は漁場の利用状況について初の実態調査も実施し、企業の参入余地を探る。>結局、目玉は企業参入を容易にするというもののようです。

 

ところで、すでに東日本大震災で特例を認めました。首相官邸の<漁業権の概要>では特区制度として<被災地における漁業権の特例 (制度概要)>を設け、宮城県で<被災地における漁業権の特例 (宮城の事例)>実践しています。

 

この場合は法人と言っても<地元漁民の7割以上を含む法人>といった条件付きでしたが、改正案はどうなるのでしょう。安易な企業参入を認めるようだと、多くの漁民の理解がえられないように思います。

 

また、<改革案は漁協の情報公開も規定した。「漁業権行使料」「協力金」などの名目で組合員から集めている徴収金が、新規参入を目指す企業には高額に設定される可能性があるなど「不透明」との批判があったためだ。>漁協における民主制とか公開制は、いくら法律で定めても、実践するのは容易でないと思います。公認会計士の監査といった手法も、特殊な漁業会計を理解して適切な監査が実施できるようになるには時間がかかるでしょう。

 

資源保全・管理の面にも規制強化が働くようです。<さまざまな魚種が減少していることから、資源管理を強化する。これまで、ごく一部に限られていた漁獲枠の数量管理の対象魚種を拡大し、漁業者には水揚げ後、速やかな漁獲量の報告を義務づける。罰則や割り当て削減などのペナルティーも導入する。>と。

 

ただ、いつも思うのですが、漁業法は「漁業生産に関する基本的制度を定め、漁業者及び漁業従事者を主体とする漁業調整機構の運用によつて水面を総合的に利用し、もつて漁業生産力を発展させ、あわせて漁業の民主化を図ることを目的」(1条)ということですが、この水面の総合的利用について、現代の多様な利用のあり方に対応できていない問題が置き去りにされていると思うのです。

 

改革に熱心な斉藤農水大臣には、課題が多すぎて、そのような意識までもってもらうというのは難題でしょうかね。

 

今日はこれにておしまい。また明日。


海・魚・漁業 <日本漁業のIT化が進まぬワケ>を読みながら

2017-09-11 | 海・魚介類・漁業

170911 海・魚・漁業 <日本漁業のIT化が進まぬワケ>を読みながら

 

今朝はヒノキの梢の上で昨日とは別の鳥がとまって、かわいい声を響かせています。いつものホオジロとも違う、望遠のビデオカメラを取り出しているうちに飛び去ってしまいました。またこんどのチャンスを待ちましょう。

 

漁師がそんなのんきなことをいっていたら、食っていけないと思いつつ、わたしが神奈川で経験した実情はそうでもなさそうな感じでした。当地は海のないところですが、神奈川で仕事をしているときは海に囲まれていることもあり、漁協(漁組ともいいます)との交渉などそれなりに仕事がありました。

 

漁協側ではなく、その構成員の漁民、あるいはダイビングなど海水面利用舎、あるいは漁港周辺の利用者たちの立場でです。ま、漁協側と対立する立場で事件を担当してきました。そんな狭い偏った経験から漁業の世界を覗くと、今日のメールで案内された日経ビジネスの表記の記事を含め日経ビジネス特集「独り負けニッポン漁業」で描かれている漁民の一部はそのとおりと合点がいくこともあります。

 

ただ、昔一緒に議論した研究会のメンバーで、その後ずっと漁民の視点から漁業権問題に取り組んでいる熊本一規さんから見れば、一面的なとらえ方と映るかもしれません。そういえば、熊本さんにも漁業権問題を相談したことがあり、その後彼からその著書『海はだれのものか』をいただいたのですが、体調不調が続いていた頃で、なかなか読めないでそのままになっているのを思い出しました。ダム・原発・空港・港湾など埋め立てをめぐる開発圧力に抗して闘う漁民、その延長線にある漁協の視点で整理された立論をされていると思います。

 

そういうことを前置きにして、上記の日経ビジネス記事を取り上げてみたいと思います。漁業といっても遠洋漁業などではかなりハイテク化しているように思っていますが、実情は知りません。この漁業のIT化で取り上げられているのは沿岸魚漁、地先漁業がメインのように思います。

 

漁業ITの研究者、和田雅昭氏がこの分野に足を突っ込むきっかけが<1990年代に自分の機械を使っていた養殖場でホタテが大量死したことがありました。それは温暖化による水温の変化が顕著になってきた時期と重なっていました。大量死の要因は複合的なものだと思います。ただ、理由がどうであれ、私が問題と思ったのは、そもそも漁業者が水温をちゃんと測ったことすらないということでした。>

 

そうですね、これは銀鮭養殖をやっている漁業者の依頼でその実態を調べたことが昔ありましたが、その感覚わかります。また、漁民は競争意識が強く、他人の収穫量の増減を常に意識しながら、貪欲に収穫を上げようと懸命で、他方で、その全体の収量の保全管理といったことにはあまりというか、ほとんど関心を示さない人がほとんどとも言われています。これは私の依頼人の漁民の一人の弁で、温度管理や収穫場所、時期などをきちんと数値管理して、将来の収穫量を永続的に担保するように、県の研究所とも連携して漁業を営んでいましたが、他の多くの漁民や漁協とはまったくそりが合わない状況でした。異端視されていましたね。

 

和田氏が指摘する<いい漁場を見つけても、それを他人には教えたくないという人が多い。>というのも、漁民のふつうの感覚ではないでしょうか。留萌地区でナマコの競争収奪状況から、資源不足を懸念して、和田氏のアドバイスで、<彼らが航路や漁獲量のデータを共有して、資源管理をしようとルールを決めた。>というのは、理想的な在り方ではないかと思います。

 

和田氏は<日本の漁業者はやっぱり、漁場などの大事な情報を取られる、盗まれるという発想なんですよね。>と述べて、IT漁業の大きな壁となっている趣旨を発言されています。こういう話を聞くと、漁業だけでなく、零細錯圃の農家、小規模林地の林家(こういう人はほとんどが農林家でもっぱら農業のみになっているのでしょう)と似たような印象を受けるのです。

 

<データは取られるんじゃなくて、預けるんです。預けてもらった情報というのは適正な人が適正に管理して、そこから得られた新たな情報を利子としてお返しする。>そして<情報銀行>としてそのIT情報で漁業を行うことで、元本たる資源の枯渇を回避し、利子部分の収穫を拡大するというのは、夢物語のようでもあり、ノルウェー型漁業では実現できているのかもしれません。そういえば林業も北欧はIT化、機械化が抜群に進んでいますね。

 

IT漁業を標榜する和田氏の視点は重要ですが、他方で、私自身は地先漁業、沿岸漁業の小規模な、ITに頼らない漁師の生き様も魅力を感じています。うまく併存できるといいのですが。

 

なお、日経ビジネスは<漁業は世界の成長産業、日本は宝の持ち腐れ>など連載記事で、次のように問題を追っています。

 

「独り負けニッポン漁業」の目次

 

たしかにマグロ、ウナギ、クジラなどなど、次々と厳しい要求が海外から突きつけられ、他方で中国や韓国、北朝鮮あるいはロシアからはどんどん日本近海に大型漁船が大量にやってきて収奪している状況は深刻でしょう。

 

ただ、私の個人的な好みから言えば、それでもわが国ほど、魚介類が美味しいところがないと思っています。骨を抜き取り、さまざまな調味料?で味付けされた魚は、海外では当たり前ですが、これは魚介類の味を壊していると思うのです。この日本流の食べ方を残しながら、

何かに一つの魚などのみを食べ尽くす日本人の消費者にも反省を促したいものです。そういえば、私は最近、マグロもウナギも食べていません。特別欲しいとも思いません。イワシの干し物で十分ですし、他にもその味に負けない魚介がありすぎるほどです。

 

漁業のIT化は、ある意味必要だとは思いますが、日本人の食べ方にもITによるコントロールが必要かもしれません。

 

今日も一時間半を超えてしまいました。この辺でおしまい。