180303 環境保全型農業(1) <環境保全型農業の推進について>を読みながら
昨夜は望月が漆黒に近い空の中でその輝きがとても冴え渡っていました。紀ノ川の浅い細身の流れの中で、その滑らかな水面に掬い取ることができそうなとどまっていました。
今朝はそのせいか青空が広がり、少し冷えましたが日が昇ってくるにつれて初春の訪れを感じさせるほどで、のんびり散策でもしようかとふと思ってしまいました。結局は、車で出かけて、いつものように隅田八幡宮周辺の農村風景を眺めつつ曲がりくねった小道をのんびりとドライブしました。ここもまた条里制が施行され、いまなおわずかながらその痕跡が残っています。
私は一辺が100mもの条里制は、農民にとって果たして耕作できるようなものであったか、常々疑問を抱いていてきましたが、最近になり河野通明著『大化の改新は身近にあった』を読んで、これは当時の小規模水田を破壊して大規模水田に変えるという大改革であったということを提唱する内容で、とても興味深いものでした。その他農耕具史を長年研究されてきた神奈川大経済学部名誉教授の河野氏ならではの見解で、いつか紹介できればと思います。
ところで、農村地帯を走っていると、道幅もいろいろ、ほとんど直線道路がない、瓦屋根の家塀が道路際にまで建っていて、また田んぼも不連続に並んでいる、そういうなんともいえない景観の中にいるのが好きで、のろのろ運転です。これはカナダ時代もそうでした。むろん高速道路(無料ですから料金所もなく目印も簡単)ではどこまでも続く直線道路をどーんと走り抜けるのも気持ちいいですが、ちょっとした農村集落に入ると少し狭い、いわば林道のような舗装されていない道路で、曲がりくねっていて、並木道のような感じでもあり、牧場のような草原があったりして、こういうときはのろのろと運転するのが好きです。というか早く走るよりのんびり景色を楽しみながら運転するのがとてもいいのです。
これが馬に乗ってならもっといいですが・・・私の滞在していたカルガリーはエネルギー産業の中心地であると同時に放牧の盛んなカーボーイの世界でしたが、ほとんど馬に乗って闊歩するような場面を見ませんでした。むろん広大な牧場内は別ですが。
この話どこまで脱線するかわからなくなってしまいましたが、元に戻せば、わが国の農村をいくと、河はほとんどがコンクリートの3面張りとなっています。これはたいてい排水用の水路機能となっています。かんがい用の水路も、小規模ですが、簡易なコンクリート造りとなっています。
そこには宇根豊氏が強く主張する、生き物と暮らす世界というよりか、灌漑水を水漏れなく水田に供給し、利用し終わった水は残さず排水路に流して、一挙に大河川に排出するという、ある種機能的な姿が見えます。
それが生物多様性国家戦略を掲げて、農水省も環境保全型農業をその一環として進めてきた結果で、一部報道でその趣旨で取りあげられる箇所を除き、たいていの農村風景ではないでしょうか。
で、今日は、先月、つまり平成30年1月に農水省生産局農業環境対策課(だいぶ昔日弁連でもヒアリングさせてもらった部署ですかね)が発表した「環境保全型農業の推進について」というプレゼン用の資料を見つけたので、少しこれから何回かにわけて考えてみたいと思います。あの宇根著作の続きを並行して再開したいとおもっていますので、両者をうまく編み上げることができればいいのですが・・・
この報告では、環境保全型農業の制度の変遷が整理されていますので、簡潔に引用します。
92年はリオサミットで、生物多様性の保全が国際的に初めて合意され条約にもつながり、気候変動問題と同様に、世界的潮流となったように思います。EUはナチューラ2000などを通じて環境保全型農業を明確な政策の主軸にしてその後一貫して進んできたように思います。
他方、わが国も、この報告にあるように、この年<「新政策」で環境保全型農業の推進を明記>したことは確かですが、それが農業政策として基本になったというのとは大いに異なりますね。一部局というか、課がかなり頑張ってきたとは思いますが、自民党農政族などは眼中になかったかもしれませんね。
次の変化は99年ですが、食料・農業・農村基本法および持続農業法でようやく本格的に農薬・肥料の使用制限を意識しだし、「農魚の自然循環機能を維持増進」といったことが提示されるようになったのですね。エコ・ファーマー認定制度もこの年からですか。
06年になると、有機農業推進法、翌07年には農地・水・環境保全向上政策が出され、化学肥料・農薬の5割低減の取り組みへの支援が始まったのですね。それまでに農地には有害な化学肥料・農薬が十分に蓄積してきたわけですね。
そして11年に初めて環境保全型農業直接支援対策が出たのですか。
その後は15年に多面的機能発揮促進法が施行されたのですね。
でもどうでしょう、多くの農民だけでなく、消費者、市民一般の中で、このような制度についてどの程度の方が認識しているのでしょうか。極めて限られた人のように思えるのです。
それはなぜかを、次の機会に考えてみたいと思います。で、EUの環境保全型農業制度との違いを少し触れておきたいと思うのです。私もこの制度を勉強したのは20年前ですので、記憶の彼方で、現在の制度状況はよくわかっていませんから、この報告概要を勉強しながら簡単に触れてみたいと思います。
同じような表現の「環境保全型農業直接支払」は、「持続農業法に基づく認定」や「多面的機能発揮促進法に基づく日本型直接支払制度」などとともに、相まって環境保全型農業を目指す役割を期待しているように見えます。それ自体、機能分化というか、目的に応じた分類で評価できるところがあると思いますが、この細分化で、種類は増えたけど支払額がたいした金額になっていないと感じています。ないよりはましですが、この支援を受けるための書類作業を考えたら、大変だろうなと思います。
農業はこれまで多額の支援で多くは細々と営む、小規模農家によって成り立ってきたと思うのです。その補助金行政の主軸が環境保全になったのかどうか、そのようには見えてこないのです。
「EUの農業環境政策等の情勢」が最後の方に掲載されていますが、そこにありますように、「農業の環境保全に係る公共性が高く評価」されていることはよく知られていると思います。その結果としてグリーンツーリズムも90年代にはすでに盛んになっていたと思います。
EUの田園地帯を行くと、ほんとに景観美のすばらしさを、明治維新前後にわが国を訪れた異邦人と同様の感覚?で堪能することができます。
EUの場合、それには経済的基盤が政策でしっかり支えてきたからですね。「EUの共通農業政策(CAP)」がそれです。農業者の所得保障政策としての直接支払制度と、農業環境支払(環境負荷軽減、景観の保護に資する農法を行う農家に対する助成制度)の2本立てで、その両者の基本的な条件として、「クロスコンプライアンス」が求められているわけです。
これは「環境保全のために全農家が最低限守らないと直接支払を受け取れない基準のこと。」ここが大事なのですが、わが国にはこの環境管理とか保全とかの基準がない点に問題があります。
これを最低基準として全農家に求める必要があると思うのです。宇根氏流にいうと、そんなのは百姓として当然の作法でしょうけど、農家支援をするのであれば、こういった基準が必要ではないかと思うのです。そこがEU政策との根本的な違いではないかと思うのです。
で、もう一ついえば、これが農地制度の根幹を?担っているはずの、農業委員会ではまったく視野に入っていないように思うのですが、そこにわが国の農業政策に大きな問題があると考えています。では自治体の担当部署が担えるのかというと、農地制度と分断した中では統合的な政策推進を進めることには極めて困難ではないかと思うのです。
今日はこのへんでおしまいとします。また明日。
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