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時事評論ブログ
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唯一の被爆国がなぜ“核兵器の非人道性”も指摘できないのか

2016-04-13 21:17:15 | 政治・経済
 広島でG7外相会議が行われ、「広島宣言」が採択された。
 その宣言自体については、G7が一致結束して核軍縮、核不拡散に取り組むというのだから結構なことだろうが、しかし、「核の非人道性」を宣言のなかに盛り込まなかったという点については被爆者団体などから「失望した」という声も出ているそうだ。
 また、宣言のなかに「非人間的苦痛」という文言があるが、これについても外務省の強引な「意訳」ではないかという指摘がなされている。朝日新聞電子版の記事によると、原文の英語ではhuman suffering という語句が使われているが、これは「人的苦痛」とでも訳すのが妥当で、“非人間的”と訳するのは無理があるというのである。日本の国内世論に配慮して「唯一の被爆国として主張するべきことは主張した」という体裁を取り繕うために外務省がそういう苦し紛れの“意訳”をしたのではないか……という疑念が出てくる。
 実際には、先述のとおり「非人道性」という言葉は核保有国に配慮して盛り込まれなかった。
 そして、残念ながら、これは驚くべきことでもない。日本はこれまで、核兵器禁止条約の交渉開始を求める国連決議採択に棄権し続けているし、NPT準備委員会といった場での「核兵器の非合法化」の試みに賛成しないという態度を一貫してとりつづけてきたからだ。これは、日本がアメリカの「核の傘」に守られている、という考え方からきているわけだが、唯一の被爆国として恥ずべきことといわなければならない。

 そして、さらに恥ずべきことは、日本国内の政治家などがここにきてまたぞろ核保有論を口にしているということだ。お騒がせの米共和党トランプ候補が日本や韓国の核武装を容認するような発言をしたことで、日本でも核武装論を唱えるような論者が勢いづいてきている。たとえば、先月は、松井一郎大阪府知事が「何も持たないのか、抑止力として持つのか、という議論をしなければならないのではないか」と述べ、今月には、政府が「憲法は核兵器保有を禁止しているわけではない」という答弁書を閣議決定した。
 私にいわせれば、これはもう狂気としかいいようがない。
 核保有論者の主張は「核による報復を準備しておくことで核兵器によって攻撃されるのを防ぐことができる」というものだ。そっちが核攻撃をしてくれば、こっちも核で応戦する。双方が破滅する。それが抑止力となって核攻撃を防ぐことができる……という発想である。
 この仕組みは、その筋の人たちの専門用語では“相互確証破壊”と呼ばれる。英語でいうと、Mutual Assured Destruction――略してMADで、文字通り「mad=いかれてる」とよく揶揄されるのだが、まさにそのとおりで、これはもう『博士の異常な愛情』の世界、狂気以外のなにものでもないのである。

 核抑止力というものを別に否定はしないが、しかし、日本が核武装するというのはまったくばかげた話だ。よくいわれることだが、たとえば核実験をこの日本のどこでやるのか。その一点を考えただけでも、日本の核武装は非現実的である。

 そして、核攻撃を防ぐという点においても、核抑止力は必要ないという意見を唱える論者が、核大国アメリカで政権に関与していた元軍人のなかにもいる。
 コリン・パウエル元国務長官である。
 そのパウエル氏について、今から三年前に日本の朝日新聞が取材した記事を以下に引用しよう。(電子版2013年7月10日の記事より)


《米国の核戦略の最前線にいた元軍人による核兵器不要論として注目される。
 パウエル氏は、核武装したインドとパキスタンの間で2002年に緊張が高まった際、パキスタン首脳に広島、長崎の被爆後の悲惨な写真を思い起こすよう説いて、対立緩和に導いた秘話も明かした。被爆地の記憶が、実際の国際政治に影響を与えたとの証言だ。
 この対立では、両国が核による威嚇も辞さない恐れがあった。国務長官だったパウエル氏はパキスタン首脳に電話し「あなたも私も核など使えないことはわかっているはずだ」と自重を促したという。さらに「1945年8月の後、初めてこんな兵器を使う国になるつもりなのか。もう一度、広島、長崎の写真を見てはどうか。こんなことをするのか、しようと思っているのか」と迫ると、パキスタン側は明確に「ノー」と答えた。インド側への働きかけでも同様な反応だった。こうした説得の結果、危機は去った、と振り返った。
 パウエル氏は、かねて核兵器は不必要との考えを示していた。今回その理由を詳しく問うと「極めてむごい兵器だからだ」と明言し、「まともなリーダーならば、核兵器を使用するという最後の一線を踏み越えたいとは決して思わない。使わないのであれば基本的には無用だ」と強調した。
 核実験やミサイル実験を繰り返す北朝鮮への抑止策としては「(米国の)通常兵力は強力であり、核兵器を使わなければならないことはない。もし北朝鮮が核兵器を使ったり使おうとしているとみたりした場合、米国はすぐ北朝鮮の体制を破壊するだろう」と主張。
 核の抑止力そのものは否定せず、「政治的な意味」があるため北朝鮮は核に頼っているとした。ただ、使えない兵器である核を持つことは、彼らを守ることにはならず、むしろ自殺行為だと強調した。》


 パウエル氏は、ブッシュ政権のイラク攻撃に関与した(もっとも、最後まで慎重姿勢を示したといわれる)人物であるが、この核兵器不要論に関しては、私もほぼ同意する。まともな思考力をもっていれば、核兵器など使えない。そして、まともな思考力をもっていなければ、そいつはMADなのだからたとえ自分が破滅するとわかっていても核兵器を使うだろう。したがって、核兵器による抑止は絶対的なものにはならない。核を保有しているから絶対安全などということはない――というのが私の考えだ。

 いずれにせよ、日本が核兵器をもつことなど考えられない。
 こんな当たり前のことをことさらに主張しなければならないというのは、唯一の被爆国としてじつに情けないことといわなければならない。

安倍総理はスタッフも多いからガソリン代も多くて当然?

2016-04-10 17:41:27 | 安倍政権・自民党議員の問題行動
 先日、安倍総理側のガソリン代支出にも不透明な部分があり、その額は山尾氏の側よりも多い……という報道を紹介する記事を書いたところ、コメントが寄せられたので、それに対する回答を書いておきたい。
 コメントは、以下のとおり。

《スタッフが多けりゃガソリン代も多くなるだろうからと、人件費で割り算をしてみると、 
山尾さんのガソリン代は、安倍総理の7倍くらいになるそうですよ。》 

 これはたぶんスタッフの人数で割ったら、ということをいっているのだと思うが、そういう計算をする理由がまったく理解できない。
 この件では、「ガソリン代という名目で政治資金が不適切に使用されていたのではないか」ということが問題なのであって、ガソリンの使用量の多寡を問題にしているわけではない。問題は、政治資金が適切に管理されていたかどうかであり、その観点からすれば、スタッフ一人当たりに換算していくらかなどということを計算することにはなんの意味もない。安倍総理が代表をつとめる自民党の山口県第4選挙区支部に関しては、一日あたりの給油量があまりに大きすぎて不自然だというような指摘がなされていて、仮にそれがなんらかの不適切な会計処理(たとえば裏金作り)などにつながっているのだとしたら、問題なのはその総額であって一人頭の額を計算するような話ではそもそもない。それに、山尾氏の問題は――本人の説明が正しいとすれば――たった一人の秘書が行った不正である。関与した人間が一人しかいないのであれば、スタッフの人数で割って一人当たりの額を計算するというのはまったくナンセンスだ。
 さらに、『日刊ゲンダイ』デジタルの記事によれば、山尾氏の側が巨額のガソリン代を計上しているのが2012年ごろの一年ほどにかぎられる話であるのに対して、安倍総理側は11年から14年までの収支報告書で毎年同じぐらいの額が計上されており、それらを合計すると、地球換算でいえば50周ぶんを超える。しかも、「山口県第4選挙区支部」という地域的にきわめて限定されたところでこの額なのだ。どちらがより問題にされるべきかは自明だろう。
 また、『日刊ゲンダイ』の記事では「スタッフが多けりゃガソリン代も多くなるだろうから」という点にもちゃんと答えている。収支報告書を精査したところ、自動車保険の代金が10万円ぐらい計上されているという数字があって、その金額からすると自動車の台数もそれほど多いとは考えられず、あきらかにガソリン代が巨額すぎるという話だ。もっといえば、件の記事では自民党のほかの閣僚らにも同様の不審なガソリン代が計上されていることを取り上げている。どこからどう見ても、自民党のほうが問題があるのだ。
 
 そして、仮にこの件について山尾氏のほうが問題だと認めるとしても、全体としてみればやはり“政治とカネ”をめぐる問題は自民党の側に噴出している。
 以前の記事では今年に入ってから発覚した問題だけを取り上げたが、もっと前にさかのぼれば、高木復興大臣の香典疑惑や下村元文科相が暴力団関係者からカネを受け取っていた件、武藤貴也氏の詐欺疑惑など、自民党のカネをめぐるスキャンダルは続発している。

 そして、目下“政治とカネ”で大きくクローズアップされているのは、いうまでもなく甘利問題である。
 東京地検特捜部が関係先を捜索した。ときを同じくして、市民団体が新たに甘利氏を告発するという動きもあった。これは、実際に権力を行使しうる立場にいる人間がカネを受けとって口利きをしていたという疑惑である。それに比べれば、野党議員の秘書がガソリン代名目で私腹を肥やしていたことなど取るに足りない話だ。

TPP――ウソと秘密と矛盾の化合物

2016-04-09 21:12:37 | 政治・経済
 国会ではTPPに関する審議が行われているが、野党の要求に対して政府が出してきた資料がタイトル以外すべて黒塗りだったことで紛糾している。というわけで、今回はTPPに関して書きたい。以前書いた記事と重複する部分もあるが、政府の問題行動をときどき思い起こそうという当ブログのコンセプトにしたがって、あらためて書いておく。

 まず第一にいっておきたいのは、自民党がかつてはTPP断固反対といっていたことだ。
 2012年の衆院選で自民党が「ウソつかない。TPP断固反対。ブレない。」というポスターを掲げていたということは、去年の大筋合意の際にも取り上げられ、画像が拡散されていた。

 この「約束を破ったと」いうことにくわえて、「黒塗りの文書」に象徴される交渉経緯の不透明さも大いに問題だ。
  政府の説明によれば、交渉の過程は4年間は公表しないことになっているそうだが、その取り決め自体がそもそもおかしいわけである。4年間も隠しておかなきゃいかんようなことをやっているのかという話になってくる。
 しかも、それでありながら自民党の西川議員が出版予定の本にはその交渉経緯が書かれているというのだから、いったいどうなっているのかまったく理解不能である。国家間の取り決めで秘密にしておかなければならないというのなら、その内幕を本に書いた人物が特別委員会の委員長を務めているというのは、問題があるのではないか。

 そして、政府が主張する「経済効果14兆円」という数字も、じつに胡散臭い。
 というのも、この数字は政府が数年前に試算として出した数字から跳ね上がっているのである。この点に関しては、昨年12月にこの数字が出てきたときに共産党の小池晃議員が辛らつに批判しているので、その発言を紹介したい。

《2年前、環太平洋経済連携協定(TPP)の経済効果を内閣が試算したときは、実質国内総生産(GDP)が3・2兆円増加するとしていたのが、今回は約14兆円。4倍以上になった。びっくりしましたね。同じ内閣で2年たってなんでこれだけ変わるのか。キツネにつままれた気分です。「この内閣が計算するものは信用しないでくれ」と、言っているような感じがする。ほとんど手品師の世界。》


 さらには、アメリカ側の大統領候補者は、民主党・共和党いずれでも、勝ちそうな見こみのある候補はほとんどTPP反対もしくは慎重姿勢という問題がある。仮に日本国内での手続きが進んだとしても、このまますんなり行くかは不透明なのだ。

 また、TPPは食糧安全保障という観点からも問題があるといわれている。
 TPPによって、日本国内の農林水産業は大きな打撃を受け、食糧自給率は低下する可能性が高い。その状況で、海外で食糧危機が発生したら、食糧供給が滞るおそれがある。

 さらには、コミケなどいわゆる「二次創作」の世界からも懸念の声が出ている。
 TPPによって、著作権侵害が親告罪でなくなると、二次創作の描き手がある日突然起訴されるというような事態が生じるおそれがあるともいわれている。そういうおそれから、これまではオリジナル作者の側が黙認することで成り立っていた二次創作の世界が萎縮してしまうという懸念だ。二次創作の世界は、海外でも高く評価されている日本の漫画・アニメ・ゲームといった業界を下支えする広い裾野をになっているといわれていて、そこが萎縮していけば、いわゆる“クールジャパン”にも悪影響を与えるかもしれない。


 最後に、「TPPによって輸入品の価格が安くなる」というのも、アベノミクスにとってよいこととはいえない。
 リフレ派の主張というのは、たとえ輸入品価格の上昇によるものであろうと物価が上昇すればそれはそれでよしとする発想に立っているはずである。その考え方が正しいかどうかはともかくとして、そういう前提に立つなら、輸入品の価格が下がるということは経済にとってむしろよくないということになる。輸入品の価格が下落して倹約志向を強めている消費者がその輸入品に殺到すれば、国内の生産者は大きな打撃を受け、デフレ基調が強くなっていくだろう。そうなれば、ただでさえもう不可能観がただよってきている物価上昇2%の目標が遠のくばかりだ。現状での物価上昇はほとんどが円安による輸入品価格の上昇によるともいわれていて、そうすると「TPPによって輸入品の価格が安くなる」というのは「よいこととはいえない」どころではなく、リフレ政策に致命的な一撃となるかもしれない。

地球6週ぶんと地球13週ぶんはどちらがより問題か? ガソリン代問題について

2016-04-07 18:27:15 | 安倍政権・自民党議員の問題行動
 自民党議員に、新たな金銭疑惑が浮上した。 
 公益認定を取り消された法人が、西村康稔衆院議員のパーティー券を購入していたというのだ。問題の「日本ライフ協会」は、高齢者らから葬儀代などとして集めた多額の預託金を流用したとして公益認定を取り消された団体だが、この協会が昨年6月、西村議員のパーティー券を購入していたという。これは内閣府が流用問題について調査しているさなかのことで、この調査について西村氏の秘書は、内閣府に事実確認したという。疑うなというほうが無理なシチュエーションだが、西村氏側は「圧力などはなかった」としつつも、代金は返却するそうだ。

 ついでに、ここでもう一つ、これまで書き損ねていた件をここに書いておく。
 それは、松島みどり元法相にまつわる金銭問題だ。
 昨年11月に朝日新聞電子版が報じたところによると、2012年と14年の選挙期間中に、松島氏は国の事業を随意契約で受注している企業から計120万円の寄付を受けていたという。朝日の取材を受けた松島氏は、「国と随意契約している企業とは知らなかった。寄付は返金した」と説明したとのことで、西村氏やほかの同種の例とまったく同じパターンである。
 うちわ問題で辞任し、最近では国会の審議中に携帯、読書、居眠りで問題になった松島氏だが、こういう金銭疑惑もあったのだ。
 以前当ブログでは安倍政権の金銭スキャンダルをまとめ的にとりあげ、その後そこに書き損ねていた一件があったという記事も書いたが、それでもまだ書き尽くせてはいなかった。これはつまり、すべて網羅するのが難しいぐらい自民党では金銭問題が噴出しているということなのだ。

 いっぽう、民進党の山尾政調会長にもガソリン代問題がもちあがっている。
 数百万円という金額がガソリン代として計上され、地球6週ぶんだというのである。
 しかし、昨日の記者会見でもあったとおり、この件に関しては、むしろ山尾氏は被害者である。ガソリン代に関していえば、自民党の側にも似たような、そしてより大きな問題がある。
 なぜだかテレビではほとんど話題になっていないようだが、一部メディアでは、安倍総理の事務所のほうがはるかに多額のガソリン代を計上していることをとりあげている。それらの報道によれば、安倍総理側のガソリン代は距離に換算すると「地球13週ぶん」だそうで、「6週ぶん」とされる山尾氏の倍以上になっている。しかも、山尾氏の場合は問題の秘書が在籍していた数ヶ月にかぎられているが、安倍総理側は毎年巨額のガソリン代を計上しているというのだ。

 ことの軽重をとりちがえてはいけない。
 民進党議員にもこのところぽつぽつ金銭疑惑の話が出てきていたりするが、どう考えても自民党のほうが問題が大きく、しかも多岐にわたっている。
 今年問題になった例だけでいっても、甘利前経済再生担当大臣や松村参院議員など、彼らの疑惑で出てくる金額は1000万円単位なのである。安倍政権のもとで公共事業が拡大し“利権政治”の復活がいわれているが、相次ぐ金銭スキャンダルはこの動きとつながっている部分もあるだろう。景気刺激のために財政出動といいながら、それが実際には政府与党関係者に近い企業などに流れているだけなのではないか。そして、それが選挙対策として利用されているのではないか。そういう疑念がぬぐえない。最近安倍総理は予算執行の前倒しを打ち出し、10兆円規模の新たな財政出動などという話もあるが、こういう動きが選挙前に出てくるのはただの偶然なのだろうか。もしそうして出てくるお金が一部の企業にしかまわらないとしたら、景気刺激効果があがらないのも当然である。最近アベノミクス失速がはっきりと目に見えるようになってきているが、その背景にはひょっとしたらそういうこともあるのかもしれない。

北朝鮮、ミサイル発射止まらず――やはり安保関連法に抑止効果などなかった

2016-04-03 17:41:09 | 安全保障
 北朝鮮が、狂ったようにミサイルを連射している。
 今年になってからミサイル発射は何度も繰り返されてきたが、3月29日に安保法が施行されても、やはりその行動は変わることがなかった。3月29日には、元山からミサイルが発射され、今月1日にも日本海にむけてミサイルが発射された。

 私はかねてから、「北朝鮮の核実験やミサイル発射は安保関連法に抑止効果などないことの証拠だ」と主張してきたが、今回、ますますその思いを強くした。
 世の中には、「やっぱり安保法制は必要だ。軍事や国際情勢を熟知している人たちがいっているからそのとおりなんだろう」と思っている人がいるかもしれないが、そうした人たちにいっておきたいのは、軍事や国家間の問題に携わっている政府関係者の見通しなど、そんなにあてになるものではないということだ。アフガン攻撃やイラク攻撃を決定したとき、それを決定した人たちは、アフガンやイラクが10数年後にいまのような状態になることを予測していたのだろうか? 予測できなかったのなら彼らの見通しはその程度のものということになるし、もし予測していたとしたら、アフガンやイラクを混沌状態に陥れてテロや難民問題を引き起こすと知りながら看過しがたい犠牲を伴う無益な戦争に足を踏み入れたということになり、これはもはや犯罪である。このように、政府において軍事や国際問題にあたっている人たちの認識というのは、まったく的外れなのである。

 また、日本の安保法に関しては次のようなエピソードを紹介したい。
 昨年、安保関連法が“成立”した直後、稲田朋美政調会長が訪米し、ワシントンを訪れている。その際、アメリカ国務省のソン・キム北朝鮮政策特別代表は「北朝鮮に強いメッセージを発信することになる」と発言したという。この発言を素直に受け取れば、「日本に安保関連法ができたことによって北朝鮮もいくらかはおとなしくなるだろう」ということをいっているのだと思うが、現実にはまったくそうなっていない。安保法が“成立”してから数ヵ月後に北朝鮮は核実験を行い、ミサイルを立て続けに発射し、五度目の核実験を近く行うともいわれている。つまり、“抑止力”などまったく働いていないのだ。

 関連報道によれば、北朝鮮の相次ぐミサイル発射はミサイル燃料の使用期限が近づいているということが背景にあるそうだが、もちろんそんなことは言い訳にはならない。これはすなわち、北朝鮮が「このミサイル、そろそろ消費期限切れだからいまのうちに撃っとこう」と思ったときに、日本が集団的自衛権を行使できるようになったことなどまったく考慮していないということである。つまり、北朝鮮がなんらかの行動を起こそうというときに、安保関連法はまったくその抑止になりえないことが、この半年ほどで証明されているのだ。

 ここで、当ブログでは何度か紹介してきたエピソードをもういちど紹介したい。
 それは、かつての日英同盟について当時のドイツ皇帝ヴィルヘルム2世が「これで戦争は回避された」といったという話だ。日英同盟によって日本は強大なロシアに並ぶだけの力をもち、それが抑止力となって戦争が防がれる――という理屈である。しかし、実際にはその2年後に日露戦争が勃発する。後からふりかえってみれば、むしろ日英同盟締結は開戦にいたる最後の決定的一歩だった。
 このエピソードが示しているのは、同盟や軍備の強化は戦争を防ぐことにはならない、ということと、にもかかわらず、強権的な政治家はなんの根拠もなく軍事力を盲信しているということである。私には、安保法が「北朝鮮に強いメッセージを発信することになる」というソン・キム代表の言葉は、ヴィルヘルム2世の日英同盟に対する誤った評価と重なってみえる。二度の世界大戦や、ベトナム戦争、アフガン戦争、イラク戦争……といったこの100年間の戦争の歴史をみれば、軍事の“専門家”と称する人たちは見通しを誤り続けてきたのであり、その誤りの結果、世界は悲惨な戦争を経験することになったのだ。こんな人たちのいうことを真に受けていたら、泥沼の戦争に巻き込まれることになるのは請け合いである。今からでも、有害無益な安保関連法は廃止するべきだ。