ある患者さんが、精神のバランスを壊されて・・・
娘さんに抱き抱えられるように連れられて、何とか来院されました。
「怖い、怖い」と下を向いてしきりにつぶやいておられます。
顔を覗き込んで驚きました。以前のにこやかな顔つきとは別人でした。
以前の見慣れた顔貌とはかけ離れた、恐怖に取りつかれた老婆になっておられました。一挙に十数年老けられた印象でした。
表情が無いと言えばいいのでしょうか、生気が感じられません。
暫く向き合って・・・・手を握り暖めながら
「何が怖いのですか」と、お聞きしました。
しばらく間をおいてから、何かつぶやき始められたのですが、全く聞き取れませんでした。何かを強く訴えているのですが、何も聞き取れません。
娘さん曰く
母は、TVでロシアのウクライナ侵攻が報じられるようになってからおかしくなってきました。最近では、TVをつけない様にしているのですが、何か感じ続けているのでしょう、一日中「怖い怖い」と言いながら、家の片隅で丸くなって動かないでいます。ご飯も食べようとしません。このままでは死んでしまうと思って、今日は何とか強引に連れ出して来ました との事でした。
ウクライナの不幸を実感されて、精神的に落ち込まれている!!
私は、半世紀ほど前、ベトナム戦争とそれに対する反戦運動が盛んなりし頃、かのバートランドラッセル卿が反戦運動が盛り上がらないことに業を煮やし、「あなた方は、ベトナムを不幸を感じられない程に不幸なのだ。」と言われたことを思い起こしました。
バートランドラッセル(ビートルズにも多大な影響を与えた数学者、哲学者、文学者、思想家、平和運動家)
私は、私達は、ウクライナの不幸を感じられない程不幸なのかもしれませんね。
目の前でうな垂れている老女は、ウクライナの不幸に共感して怯えています。
その状態を、医学的に「病的うつ状態」と診断し、SNRIなどの薬を投薬することで改善を目指すのが医学的正解なのかもしれませんが・・・・
今現在、ウクライナの製鉄所の地下で、爆撃が続く死臭漂うがれきの中、懐中電灯の一条の光を頼りに、死体や負傷した方に躓きながらトイレへ通わざるを得ない人々に心を重ね得る想像力豊かな方々は、心の安全弁が外れてしまわざるを得ないのでしょう。
何とかならないのかと思い続けています。
自分の出来る、無理のない範囲で、何とかウクライナを助け、ロシアに懲罰的な行為をとり続けようと思っています。そんなことで良いのか?と、思い続けながら・・・
自分の出来る、無理のない範囲で、何とかウクライナを助け、ロシアに懲罰的な行為をとり続けようと思っています。そんなことで良いのか?と、思い続けながら・・・
そうですか。精神科にお任せしたいところですが、行きたくないと言われると困りますね。でも笑顔が戻って来ているならよかったです。
ばらしてしまいます。精神科受診を強くお勧めしたのですが、知らないところには行けないとの事でした。それで、SNRIを処方して2週間ごとに来院していただきました。今では、笑顔も戻って、かなり普通に戻られています。このまま以前の様な素敵な笑顔のおばあちゃんに戻っていただけると良いのですが・・・
普通はそこまで想像力が及びませんが、戦争体験のあるお年寄りの方は恐怖の体験を思い出してしまうのかも知れませんね。
その方はその後どうなったのでしょう。
心配ですね。