親戚の叔母さんに霊能系の僧侶がいる
母から7つ8つ下の妹さん、私が産まれた時には我が家に住み込んで家事洗濯で世話になったらしい
私の記憶では、若くてキレイで楽しくて、どこまでもイケてるYお姉ちゃんだった
母の実家は貧乏子沢山で、祖父は常に病弱で稼ぎが悪かったそうな。
戦後の混沌がまだ冷めやらぬ復興の中
子どもたちは磁石を巻き付けた紐を腰からぶら下げて歩いてはクズ鉄を集めて売りにゆき
また山に入っては食べれらる野草を採取したりして食の足しにする暮らしだったようだ。
夫の病気と貧しさが原因か、祖母は当時の新興宗教にも色々と通ったたらしい。
私が知る頃の祖母といえば、すでに拝み屋のような事をやっていた。
ちんちん電車で小一時間揺られた街に祖母の家があり、
坂道の古い階段を上って崖にへばりつくように家が建っている。
眺めは良く、工場排水で真っ黒に濁った湾が異臭を醸し
その湾岸にある製鉄所の煙突からは、黒い煙が濛々と立ち上るのが間知かに見えた。
しかし家の中に入ると工場から匂い立つ油臭は消え、常に線香の香りが漂う不思議な家だった。
家のレイアウトは二階建ての母屋に隣接する形で六畳ばかしの四つの部屋がズラズラと並んでいる長屋風。
どの部屋にも流しが設置されていて、でもトイレは共同という造りだ。
各部屋に子供夫婦、私からすると叔父さんや叔母さんの若夫婦が住んでいた記憶が微かに残っている。
ある時「貧乏だけど仲の良い家族だった」と母が寂しそうにつぶやいたことがある。
子供たちが結婚した後も一つ屋根の下に住まわせようとした祖母
自分王国でも作ろうとしたのだろうか、今となっては調べようもない。
そんな仲の良い兄弟だとしても、それぞれ結婚すれば条件が替わる。
奥さんや旦那さんの気持ちも影響してくるわけで
いつしか一つ、また一つと空き部屋が増えてゆき、
その代わりに線香の香りが充満し、不動明王の怖い顔が睨みを効かす空間へと姿を変えていった。
中学生の頃だったか、大祭イベントに出くわしたことがあった。
狭い部屋にたくさんの信者さんが集まって、輪になって大きな数珠をぐるぐる回している残像。
次男であるTおじさんの息子、私からすると従弟のユタカ君は当時小学5年生だっただろうか。
幼少の頃に母親が育児放棄をしてしまい突然失踪したまま
母親の愛情知らずで育ったユタカ君とその兄弟は祖父母の家に預けられていたが
そんな不幸な境遇でも明るく健気なユタカ君は世話焼きでもある。
「muga兄ちゃん!こうやって回すんよ!」
数珠の回し方などイベントをレクチャーしてくれるのは決まって彼の役目
まだ声質まで鮮明に覚えている。
はっきり言って10人はいる従弟の中でも、あいつは最高にイイヤツだった。
タイムマシーンでもあれば子供時代の彼に会いにゆき「安心しろ、必ず俺が守る」と言ってやりたいほどだ。
そうやって周りの大人が精神的な助けになれば、のちの絶望から刑務所行きになる様な惨状など無かったかもしれないと、今でも悔やみの念が残る。
当時のイベントで記憶に残るのは、中央に鎮座する地蔵さんにお願い事をしてはOKかNOかを確かめる儀式なんてのがあった。
NOならば小さな地蔵さんがズッシリと持ち上がらない、OKならば軽々ひょいっと持ち上がるという儀式だったと記憶。
またお地蔵さんと会話しているだろうか「うんうん、やーやー、わははは~」
一人で話し続ける祖母を見て、子供心に芝居じみたショーに感じたものだ。
そんな不思議な光景を目にしたのは一度きりで、拝み屋稼業を毛嫌いした母が私たち三兄弟をなるべく実家に近づけないようにしていたらしい。
遠ざけた理由は大人になってから知らされた
「お前も拝み屋になりなさい、これなら食いっぱぐれがないから」
そう祖母からのアドバイスがあったらしくて、貧困に苦しむ母はカチンときたのだそうだ。
もっと込み入った話があったかもしれないが、それは他言せず墓場までもってゆくのだろう。
その後、長男であるハルオおじさん(母の弟)が山伏のような姿になり、滝に打たれたりして拝み屋として独立したのを知った。
やはり祖母からレクチャーされたのだろうか、ほどなくして貧困から脱出したようなそぶり
三人の子持ちとなって住処も一軒家になっていた。
若い時は縄を腰に巻いて日本中をヒッチハイクで練り歩いたらしいハルオおじさん、私の子供時代は実家から少し離れた掘っ立て小屋をねぐらにクラッシックギターを教えていたようだ。
私からすれば、珈琲の香りと音楽をこよなく愛するモダーンなお兄ちゃんだった。
それに前後して、冒頭のY姉ちゃんが商売に失敗して、今度はねずみ講まがいの商売に手を出した。
旦那のヒサシ兄ちゃんは寝坊癖があって農協をクビになり、室内装飾の稼業を始めるも生来の怠け癖がぬけず、いつまでたっても稼ぎが悪くて子供三人の育児もまま成らない生活苦。
そうこうするうちにアメリカ式のねずみ講商売で破産した。
商売繁盛の稲荷信仰からはじまり、雪崩式に拝み屋業へシフト
その後は裕福な信者さんとの不倫? 家庭崩壊へ…、
3人の子供たちのうち、長男はヒサシ兄ちゃんが、弟二人はY姉ちゃんが引き取った。
再婚相手とは、彼女の信者だった男
聞いてみると、男の親父さんは元代議士、地元ヤクザの親分だった。
高学歴の彼は親と意見を衝突させて、ついには勘当されたと聞いた。
この頃の彼女といえば統合失調症が炸裂したような生き様で、親戚の結婚式に現れた姿は十二単のような着物姿で厚化粧、態度もお姫様気取りだったらしい。
大学生の頃だったか、一度だけ再婚相手との愛の巣にお邪魔したことがある。
それはそれは昼でも暗い部屋の中
幼い従弟の二人が敷きっぱなしの布団の上でテレビゲームに集中していた。
こちらには見向きもしない二人は画面とのにらめっこ。
今思えば、大人たちの理不尽を丸かぶりしてテレビゲームに逃げ込んでいたのかもしれない。
二人の保護者は、親はなくとも子は育つとばかりに自分自身への愛情注入にかまけているのは確実。
あのY姉ちゃんの明るく屈託のない家庭は、もうどこにも存在していなかった。
在りし日の崖っぷちの家
右から二番目の女性がY姉ちゃん まだ美しい頃ww
下の子供右端がユタカ君 その右上が失踪した母親
それから時が過ぎ、私が東京から都落ちして再起を模索してた時
Y姉ちゃんが高野山から得度を授かり正式な僧侶となる話を聞いた。
商売感の鋭い彼女のことである、
拝み屋のままではラチが開かないと察して転進を試みたのか?と思ったが
お姫様気取りは消失して、自慢の長髪も剃ってしまったという
心を入れ替えて、真面目に仏道修行や神道修行を行ったと聞いた。
旦那の家族がヤクザとはいえ地元名士の息子ということもあるし、
高野山からのバックアップもあっただろう。
あれよあれよと大躍進、山を削って寺院の賢隆にまで至った。
それはもう飛ぶ鳥を落とす勢いだった。
各宗派もスター不足なのだろうか、霊能が売りだと正式な手筈をすっ飛ばして免罪符を授けるようだ。
もう仕入れは必要ないし、在庫に税金も掛からない
新規の顧客獲得は容易だ、なにせ彼女には人生を掛けて、全てを投げうち習得した霊能がある
元手タダの魔法の泉
バックには高野山、伊勢神宮といったビッグネームが揃っている
もはや恐れるモノは何もない
ズタボロのボロ雑巾のような負け犬ではない
かつて、彼女に唾を吐き、捨てごまのように切りすてた人たちを逆に見下す時は近い
大逆転の人生の始まりだった
つづくかもしれない…
母から7つ8つ下の妹さん、私が産まれた時には我が家に住み込んで家事洗濯で世話になったらしい
私の記憶では、若くてキレイで楽しくて、どこまでもイケてるYお姉ちゃんだった
母の実家は貧乏子沢山で、祖父は常に病弱で稼ぎが悪かったそうな。
戦後の混沌がまだ冷めやらぬ復興の中
子どもたちは磁石を巻き付けた紐を腰からぶら下げて歩いてはクズ鉄を集めて売りにゆき
また山に入っては食べれらる野草を採取したりして食の足しにする暮らしだったようだ。
夫の病気と貧しさが原因か、祖母は当時の新興宗教にも色々と通ったたらしい。
私が知る頃の祖母といえば、すでに拝み屋のような事をやっていた。
ちんちん電車で小一時間揺られた街に祖母の家があり、
坂道の古い階段を上って崖にへばりつくように家が建っている。
眺めは良く、工場排水で真っ黒に濁った湾が異臭を醸し
その湾岸にある製鉄所の煙突からは、黒い煙が濛々と立ち上るのが間知かに見えた。
しかし家の中に入ると工場から匂い立つ油臭は消え、常に線香の香りが漂う不思議な家だった。
家のレイアウトは二階建ての母屋に隣接する形で六畳ばかしの四つの部屋がズラズラと並んでいる長屋風。
どの部屋にも流しが設置されていて、でもトイレは共同という造りだ。
各部屋に子供夫婦、私からすると叔父さんや叔母さんの若夫婦が住んでいた記憶が微かに残っている。
ある時「貧乏だけど仲の良い家族だった」と母が寂しそうにつぶやいたことがある。
子供たちが結婚した後も一つ屋根の下に住まわせようとした祖母
自分王国でも作ろうとしたのだろうか、今となっては調べようもない。
そんな仲の良い兄弟だとしても、それぞれ結婚すれば条件が替わる。
奥さんや旦那さんの気持ちも影響してくるわけで
いつしか一つ、また一つと空き部屋が増えてゆき、
その代わりに線香の香りが充満し、不動明王の怖い顔が睨みを効かす空間へと姿を変えていった。
中学生の頃だったか、大祭イベントに出くわしたことがあった。
狭い部屋にたくさんの信者さんが集まって、輪になって大きな数珠をぐるぐる回している残像。
次男であるTおじさんの息子、私からすると従弟のユタカ君は当時小学5年生だっただろうか。
幼少の頃に母親が育児放棄をしてしまい突然失踪したまま
母親の愛情知らずで育ったユタカ君とその兄弟は祖父母の家に預けられていたが
そんな不幸な境遇でも明るく健気なユタカ君は世話焼きでもある。
「muga兄ちゃん!こうやって回すんよ!」
数珠の回し方などイベントをレクチャーしてくれるのは決まって彼の役目
まだ声質まで鮮明に覚えている。
はっきり言って10人はいる従弟の中でも、あいつは最高にイイヤツだった。
タイムマシーンでもあれば子供時代の彼に会いにゆき「安心しろ、必ず俺が守る」と言ってやりたいほどだ。
そうやって周りの大人が精神的な助けになれば、のちの絶望から刑務所行きになる様な惨状など無かったかもしれないと、今でも悔やみの念が残る。
当時のイベントで記憶に残るのは、中央に鎮座する地蔵さんにお願い事をしてはOKかNOかを確かめる儀式なんてのがあった。
NOならば小さな地蔵さんがズッシリと持ち上がらない、OKならば軽々ひょいっと持ち上がるという儀式だったと記憶。
またお地蔵さんと会話しているだろうか「うんうん、やーやー、わははは~」
一人で話し続ける祖母を見て、子供心に芝居じみたショーに感じたものだ。
そんな不思議な光景を目にしたのは一度きりで、拝み屋稼業を毛嫌いした母が私たち三兄弟をなるべく実家に近づけないようにしていたらしい。
遠ざけた理由は大人になってから知らされた
「お前も拝み屋になりなさい、これなら食いっぱぐれがないから」
そう祖母からのアドバイスがあったらしくて、貧困に苦しむ母はカチンときたのだそうだ。
もっと込み入った話があったかもしれないが、それは他言せず墓場までもってゆくのだろう。
その後、長男であるハルオおじさん(母の弟)が山伏のような姿になり、滝に打たれたりして拝み屋として独立したのを知った。
やはり祖母からレクチャーされたのだろうか、ほどなくして貧困から脱出したようなそぶり
三人の子持ちとなって住処も一軒家になっていた。
若い時は縄を腰に巻いて日本中をヒッチハイクで練り歩いたらしいハルオおじさん、私の子供時代は実家から少し離れた掘っ立て小屋をねぐらにクラッシックギターを教えていたようだ。
私からすれば、珈琲の香りと音楽をこよなく愛するモダーンなお兄ちゃんだった。
それに前後して、冒頭のY姉ちゃんが商売に失敗して、今度はねずみ講まがいの商売に手を出した。
旦那のヒサシ兄ちゃんは寝坊癖があって農協をクビになり、室内装飾の稼業を始めるも生来の怠け癖がぬけず、いつまでたっても稼ぎが悪くて子供三人の育児もまま成らない生活苦。
そうこうするうちにアメリカ式のねずみ講商売で破産した。
商売繁盛の稲荷信仰からはじまり、雪崩式に拝み屋業へシフト
その後は裕福な信者さんとの不倫? 家庭崩壊へ…、
3人の子供たちのうち、長男はヒサシ兄ちゃんが、弟二人はY姉ちゃんが引き取った。
再婚相手とは、彼女の信者だった男
聞いてみると、男の親父さんは元代議士、地元ヤクザの親分だった。
高学歴の彼は親と意見を衝突させて、ついには勘当されたと聞いた。
この頃の彼女といえば統合失調症が炸裂したような生き様で、親戚の結婚式に現れた姿は十二単のような着物姿で厚化粧、態度もお姫様気取りだったらしい。
大学生の頃だったか、一度だけ再婚相手との愛の巣にお邪魔したことがある。
それはそれは昼でも暗い部屋の中
幼い従弟の二人が敷きっぱなしの布団の上でテレビゲームに集中していた。
こちらには見向きもしない二人は画面とのにらめっこ。
今思えば、大人たちの理不尽を丸かぶりしてテレビゲームに逃げ込んでいたのかもしれない。
二人の保護者は、親はなくとも子は育つとばかりに自分自身への愛情注入にかまけているのは確実。
あのY姉ちゃんの明るく屈託のない家庭は、もうどこにも存在していなかった。
在りし日の崖っぷちの家
右から二番目の女性がY姉ちゃん まだ美しい頃ww
下の子供右端がユタカ君 その右上が失踪した母親
それから時が過ぎ、私が東京から都落ちして再起を模索してた時
Y姉ちゃんが高野山から得度を授かり正式な僧侶となる話を聞いた。
商売感の鋭い彼女のことである、
拝み屋のままではラチが開かないと察して転進を試みたのか?と思ったが
お姫様気取りは消失して、自慢の長髪も剃ってしまったという
心を入れ替えて、真面目に仏道修行や神道修行を行ったと聞いた。
旦那の家族がヤクザとはいえ地元名士の息子ということもあるし、
高野山からのバックアップもあっただろう。
あれよあれよと大躍進、山を削って寺院の賢隆にまで至った。
それはもう飛ぶ鳥を落とす勢いだった。
各宗派もスター不足なのだろうか、霊能が売りだと正式な手筈をすっ飛ばして免罪符を授けるようだ。
もう仕入れは必要ないし、在庫に税金も掛からない
新規の顧客獲得は容易だ、なにせ彼女には人生を掛けて、全てを投げうち習得した霊能がある
元手タダの魔法の泉
バックには高野山、伊勢神宮といったビッグネームが揃っている
もはや恐れるモノは何もない
ズタボロのボロ雑巾のような負け犬ではない
かつて、彼女に唾を吐き、捨てごまのように切りすてた人たちを逆に見下す時は近い
大逆転の人生の始まりだった
つづくかもしれない…