その日は主も主の内縁の夫も留守だった。
マンション内は本人と私だけだった。
突然私が本人の夕食を作らなければならなくなった。
本人に食べたいものを聞いたら「天ぷら」言われた。
私は生まれて初めて天ぷらを作った。
小麦粉を冷蔵庫で冷やして卵と冷水で天ぷらの衣を作った。
冷蔵庫には野菜しかなかった。
もちろんきちんと天つゆも作った。
天ぷらを揚げる。
野菜だけの天ぷらだった。
初めてにしてはサクサクと揚がった天ぷらだった。
食卓を二人で囲むのは気が引けたので、私は本人が食べるのを見ていた。
玉ねぎの天ぷらが美味しいと言った。
本人は一緒に食べるようにすすめてくれたが私には無理だった。
本人が食べ終わり、私はキッチンの角で食べた。
終始ドキドキしていた。
天ぷらは初めて作ったにしては美味しかった。
その後朝食も一度作らされた。
後にも先にも私がそこにいた1ヶ月と1週間の間に食事を作ったのはそれだけだった。
日々緊張し、馴れない家事に苦労し、夜も思うように寝れなかった。
何しろ隣の部屋は本人の部屋なのだ。
仕事で連日居なくても本人の部屋なのだ。