
その娘が「もーちゃん」と呼ばれ始めたのは、小学校2~3年の頃でした。
ひらたもえこ
立派な名前があったにもかかわらず。
でも、 もーちゃん自身、決してこの呼び名が嫌いではありませんでした。
たしかに、 もーちゃんの表情はもっさりしてたし、 動きも遅かったし。

だけど、中2の頃から 容姿、様子が変わって来たのです。
もっさり顔はシャープな顔立ちへと、
そして 動きまで俊敏になったようでした。
工業高校に入ると決めた「もーちゃん」は、
建築科を選択し、 二級建築士を目指すようになりました。
さらに‥
爽やかで真面目な彼氏も出来たのです。

それでも「もーちゃん」は やっぱり「もーちゃん」。
親しみと信愛をこめて、「もーちゃん」と呼ばれ続けていました。

高2の夏の日、
もーちゃんと彼氏は、先輩の車に同乗させてもらい 花火大会に出掛けました。
♪ もう少しで到着する ♪
もーちゃんがそう思ったとき、 「事故」は起こりました。
車線をはみ出した 大きな、 とてつもなく大きな トラック が、
もーちゃんたちの乗っていた車と正面衝突したのです。
彼らが乗っていた乗用車は、 まるで悪趣味な ”ねずみ花火”みたいに
いつまでもくるくる、と回り続けていました。
いつまでも、 くるくる、 と。
もーちゃんは、たった1人生き残り、 4ヶ月余りを病院で過ごしました。
後悔、 失望、 恋人・友人たちを失った事実・・・。
「あたし なにか わるいことを したの ?」
4年後、 看護師として働く もーちゃんの姿が外科病棟にありました。
少しでも
ほんのひと握りでも
人の命を救うことができれば。
もーちゃんの『道』は、始まったばかりでした。
もーちゃんは懸命に働くことで、
天使になろうとしていたのです。
- 無意識のうちに -
