グダグダ cobamix

グダグダと書いています

〈ライフスタイル Woman in Action 輝く女性〉 極北の地で犬ぞり使いになる夢を実現

2016年07月30日 23時10分09秒 | コラム・ルポ

〈ライフスタイル Woman in Action 輝く女性〉 極北の地で犬ぞり使いになる夢を実現

2016年7月8日

困難を乗り越えゴールを目指すのは しんどいけど楽しい!
マッシャー(犬ぞり使い) 本多有香さん
 
ゴールで笑顔を見せる本多さん(2015年3月「アイディタロッド」) 
ゴールで笑顔を見せる本多さん(2015年3月「アイディタロッド」)
      

 北米二大犬ぞりレースの「ユーコンクエスト」と「アイディタロッド」は、厳冬期に全長1600キロを約2週間で横断する過酷なレース。この二大会で日本人女性初の完走を勝ち取ったのが、本多有香さん。本年「2015植村直己冒険賞」を受賞した本多さんに、電気も水道もない極北の原野での犬たちとの暮らしや、レースに懸ける人生について聞きました。

犬が笑顔で走っていた

 宮沢賢治が好きという理由から岩手大学農学部に進んだ本多さん。在学中にオーロラツアーでカナダ旅行へ行くと、偶然出合った犬ぞりに大感動。オーロラ以上に心をつかまれた。
 「犬ぞりのことを知らず、そりを引かされてかわいそうと思っていたら、犬がすごい笑顔で走ってきたんです。『引きたくてしょうがない!』という感じ。うれしそうに走る姿に、私もいつか犬ぞりレースに出てみたいと思いました」
 いったん就職したものの、犬ぞりの夢を諦めきれず2年半で退職。何のつてもないためインターネットで犬舎を調べ、家族や友人が反対する中、1998年、単身カナダへ渡る。
 その後、カナダやアラスカで修業を重ねた。弟子入りしたマッシャー(犬ぞり使い)から住居と食料を支給してもらう代わりに、無給で犬の世話など労働力を提供し経験を積んでいく。ある犬舎では、厳しい労働条件から男性でも1年もつ人がほとんどいない中、4年間という最長記録を作った。
 「日本に帰ろうとは思いませんでした。父が厳しく、小さいころから物事を途中で辞めると怒られたので、自分が決めたことは貫くようにしていますが……ただの意地で、あんまりカッコイイ話じゃないんですよ(笑い)」
 アラスカにいる間は夏だけ日本に出稼ぎ、バイトで資金調達。ありとあらゆる職種を経験した。全て「自分で育てた犬と一緒にレースに出たい」という夢のため。だが、ビザの問題で自分の犬舎が持てない。資金力もない。「ユーコンクエスト」に出走するには、エントリー料の他に経費を含めると3万米ドル以上必要だ。現実と格闘し、他のマッシャーから犬を借りて出場するなど「今できること」に全力を傾けた。すると友人から、カナダなら永住権が取得できると聞く。

マイナス45度の世界で

 2009年、カナダ・ホワイトホースの森を自らチェーンソーで切り開き、念願の犬舎を何と手作り(写真参照)。住まいとなるキャビンはログハウスを購入し、知人と完成させた。翌年には永住権を取得。現在、29頭のアラスカンハスキーと暮らしているが、本多さんは一瞬でどの子か判別する。家族であり、チームの大切な仲間たちだ。
 ここは一年のうち約半分を雪で覆われる極北の地。年々雪が減少しているが、冬にはマイナス45度になる時もあり、マイナス20度だと暖かく感じるほど。プロパンガスはあるが、電気、水道はない。携帯電話も電波がなかなか通じず、充電はソーラーパネルで行うが、冬は日照時間がほとんどないため使えない。そんな中、毎日の犬の世話やトレーニングをたった1人で行っている。
 「ろうそくがあれば、電気は必要ないです。水は毎日車でコミュニティーセンターにくみに行きます。約23リットルのポリタンク8個。ほとんど犬に使いますね。老犬、レース犬、イヤリング(1歳前後の犬の総称)、子犬とトレーニングが異なる4層を1人で訓練するのは大変ですが、夏とか仕事が終わって家の前に座り、かわいい犬たちを見ていると、あぁ幸せだな~と思います」
 12年、夢だった長距離犬ぞりレース「ユーコンクエスト」を、12日間と1時間28分で完走。1600キロというと、直線距離で東京から沖縄までとほぼ同じ。それまでの挑戦は猛吹雪など途中で断念せざるを得なかったため、感無量だ。犬は出発時13頭だったが、途中ケガなどで外し、最後は7頭でのゴールだった。

好きなことをしているだけ

 15年には「アイディタロッド」1600キロも完走した。犬にも個性があり、リーダー気質の子や楽をしたがる子などさまざま。16頭2列縦隊の順番を途中で入れ替え、リーダーが疲れないよう気を配る。レース中は誰かに手伝ってもらうことはできず、各チェックポイントに犬の食料やわらが置いてあり、そこで1人で世話をする。
 「チェックポイントに着いたら、1頭ずつ足の裏に手作りのクリームを塗り、肩など軽くマッサージしてあげます。寝る前にすると疲れが取れやすいんです。その間にお湯を沸かしておき、全て効率よく行うと、自分の寝る時間を少しでも長く確保できます」
 何より犬の休息に心を砕く。6時間休憩なら犬の世話3時間、雑用2時間半、自分の睡眠は約30分。
 その上、凍った川や海岸沿いの強風など厳しい自然と対峙し、レース中は常に難しい判断を迫られる。
 「困難にぶつかった時、このままゴールを目指すか撤退するか、犬の健康を第一に、その年のチームの出来で判断します。ギリギリのところで『もう少し頑張れる!』と挑むのは、しんどいけど楽しい。犬たちも他チームを追い越す時は『ワーイ!』という感じで、うれしそうに走ります(笑い)。本当にレースが好きなんですよね。私も全然苦じゃないし、辞めたいと思ったこともありません。犬と一緒に自然の中を走るのが大好きなんです」
 今、日本人のマッシャーは本多さん一人。今年の「ユーコンクエスト」は9位で完走し快挙を成し遂げた。読者へのメッセージと今後の展望を聞くと――。
 「メッセージ性のない人間なので……すみません。人に恵まれて、ただ好きなことをやってるだけなんです、ホントに。いつか恩返ししたいです。……できないんだろうなぁ(苦笑)。
 今後しばらくはレースに出て、この子たちが年老いたら引退。それまでは楽しみます。心の持ちようで、真っすぐいかない時は、それを面白おかしく楽しむようにしています。でないと前に進めません(笑い)」
 ありのまま、飾らず自然体の本多さん。今もビル掃除をしながらこの生活を続けている。キャビンは宮沢賢治にちなみ「銀河エクスプレスケンネル」と名付けた。入り口には彼をまねて、来訪者に書かれた板が掛けてある。「下ノ犬舎ニ居リマス 有香」――。

 ほんだ・ゆか 新潟県生まれ。岩手大学農学部在学中、カナダにオーロラを見に行き犬ぞりに出合う。卒業後、就職するもマッシャーになるため退職、1998年、単身カナダへ。カナダ、アラスカで修業を重ね、2012年「ユーコンクエスト」、15年「アイディタロッド」と日本人女性初の完走を果たす。本年「2015植村直己冒険賞」受賞。

 【編集】加藤瑞子 【レイアウト】左納悟 【インタビュー写真】宮田孝一 【写真提供】佐藤日出夫

 ご感想をお寄せください life@seikyo-np.jp


読んでいてワクワクする記事でした。

おし、明日も頑張るぞ! 

コメント