2016年11月24日
リスクを語る報道、授業の壁に
「風評被害? どういうこと? 誰が、どんな被害を受けたことになるの」
ロシアのチェルノブイリ被災地から来た市民団体職員のカーチャさんには「風評被害」という言葉が理解できなかった。
カーチャさんは子どもたちへの放射線防護教育を担当しており、今年8月に来日した折に、福島県内の学校の教員と意見交換する機会があった。
県内で放射線防護の授業をやりにくいと感じる先生から、次のようなエピソードが紹介された。
ある学校の先生が、その地域の「汚染度が高いこと」を授業で話したところ、保護者で農業をしている方から「“風評被害”を助長するからやめてくれ」とクレームがあったという。
筆者は通訳者として、このエピソードを訳そうとしたが、「風評被害」という言葉がロシア語にないことに気付かされた。
「悪いうわさで、地域の人々に害を与える」と訳してみた。
「なぜ? 汚染があるのは事実でしょう。なぜ、それが“悪いうわさ”なの?」とカーチャさん。
「不正確な情報で、地域のネガティブなイメージをつくり、地域の人を苦しめたり、経済的な損失を与える」と訳し直すと、「授業で汚染があると話すことで、その農家の人はどんな損害を受けたの? この地域の物を買うなとプロパガンダしたわけじゃないでしょう」
まったくその通りだ。
どうもこの「風評被害」という言葉にトリックがあるようだ。外国語のできる人は前述のエピソードを訳してみてほしい。気付くはずだ。
インド・ヨーロッパ語であれば、「誰が誰にどんな損害を与えたか」について明確に定義が求められるはず。「風評被害」なんて言い方をそもそもしないのだ。
日本では「風評被害がある」というあいまいな言葉で、リスクを語る報道や授業が萎縮させられてきた場面があるのではないか。
「その農産物を買う買わないは、消費者の権利でしょう。私も地域のキノコや葉物は買わない。でも、住んでいる地域が嫌いなわけではないし、声高にプロパガンダしているわけでもない」
チェルノブイリ被災地の教育者たちは「風評被害」という言葉を使わない。
地域の汚染度を測り、ホットスポットは避ける。汚染のたまりやすい食品を避ける。基準値以下の食品でも避ける場合がある。そうして余計な被ばくを避ける方法を子どもたちに教え続けている。
風評被害って…