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聖教新聞 (2018/ 4/21) 〈スタートライン×グローバルウオッチ 共生の未来へ〉 NPO法人FDA 理事長 成澤俊輔さん

2018年06月01日 21時24分30秒 | コラム・ルポ

〈スタートライン×グローバルウオッチ 共生の未来へ〉 NPO法人FDA 理事長 成澤俊輔さん

2018年4月21日 聖教新聞

「君は絶対に大丈夫!」と言える社会をつくりたい
働きづらさを抱える人の就労を支援
 

 網膜色素変性症により、20代前半でほぼ視覚を失った成澤俊輔さんは現在、NPO法人FDA(Future Dream Achievement)で理事長を務める。自らの経験を生かし、働きづらさを抱える「就労困難者」と呼ばれる人たちを支援するために日夜奮闘している。人と企業が共に幸せになる仕組み、考え方とは何か、成澤さんに話を聞いた。今回のスタートラインは、現代社会の課題を見つめる本紙「グローバルウオッチ 共生の未来へ」との連動企画としてお送りする。

「できる」に目線を

 ――身体障がい、知的障がい、精神障がい、発達障がい、引きこもり、難病、若年性認知症、犯罪歴、DV被害など、働きづらい理由は多岐にわたり、就労困難者の数は3000万人に上るともいわれる。

 働きづらさを抱える人たちのために、まず親御さんと、がっちりタッグを組むようにしています。そして、「娘、息子さんの強みは何ですか」と、あえて聞きます。ほとんどの親御さんは答えられないことが多い。
 「あれができない、これができない」「こんな配慮をしてほしい」とは、学校でも、病院でも、会社でも言いますが、「うちの子は、これができます!」と日頃、言う機会がほとんどないんですよ。
 病気や障がい、引きこもりの状況に目がいって、日々それに明け暮れて、そこまで気が向かなくなっちゃっている。無理もありません。だからハッとしてもらいたくて、こんな質問をするんです。
  
 ――成澤さんの言う「強み」とは、何も特別なことだけを指すのではない。
  
 「目覚まし時計をセットして毎朝7時に起きられているとか、日々継続できていることでいいんですよ」と説明します。
 そうすると「うちの子がやってることって何だろうな」って探すんです。靴をそろえてるな、あいさつはできているな、新聞をポストに取りに行ってるな、とか。その瞬間、親御さんの気持ちが少し前向きになるんです。「できない」を探していたのが「できる」を探すようになったからです。
 そもそも、支援する側や企業の側に反省する点が多々あります。人の「できる」という強みや特性に、もっと目を向けて、職場環境を整えてあげることもできると思うんです。信頼関係を築いて、社員に力を発揮してもらいたいと願うなら、まず、企業の側が歩み寄ることが効果的です。
 うちに通うメンバーが、ここ2、3年で請け負った仕事は90種類になります(委託元業種には、ITや不動産、弁護士事務所、百貨店、マスコミ、農業、物流、外資など。職種は総務、人事、経理、編集など)。
 「社会とつながっている」「自分は求められている」と感じられるようになれば、誰でも成長できます。

誰かのフリ?

 ――先日、中学生で不登校の子を持つ親が「子どもに社会性だけでも養わせたい」と相談に来たという。

 気持ちはすごく分かります。でも、中高生で社会性を意識している子は、ほとんどいないですよね。お母さん自身は中高生の時、意識していましたかと聞くと、「確かに」と言う。「普通」のフリをさせるために、「社会性」という、あるようでないものにすがろうとしているんです。
 それよりも、外に出たり、いろいろな人と会うことが、社会性を養うことにつながります。“こういう人と長く付き合いたいな”と思う相手が見つかれば、自然と敬語やマナーを覚えたり、距離の取り方などを身に付けていくものです。

自分を示してくれた

 ――成澤さんは視覚を徐々に失う網膜色素変性症により、視野は小学生でサッカーボール、中学生でソフトボール、大学生で500円玉ほどの大きさになり、20代前半でほぼ見えなくなった。鏡を見ても自分の存在が分からない。自分の存在を確かめるように、無意識に自分で自分の手をかくようになったという。いつしか手の甲はボロボロになってしまった。

  
 僕はずっと何かにすがりたかったんですよ。18歳までは死ぬほど勉強していた。偏差値が自分を守ってくれると信じて。
 20代前半は業績や売り上げの結果にすがっていました。「自分はこんなに価値があるんだ、障がいがなんぼのもんじゃい」って。誰も自分を認めてくれないと感じていたので、自分で示さなければいけないと思っていました。
  
 ――しかし、その考えは間違っていたことを知る。
  
 視力を失い、何が一番つらかったか。字が読めないとか、移動が大変とか、いじめられるとか、そういうことじゃない。「答えのない苦しみ」なんですよ。「なんで?」と思うことが、いっぱいあるからなんです。わが家に視力を失う病気の人はいなかったのに、なんで自分がなったんだって。
 でも経営者になり、この「経営」というフィールドに救われました。経営者はもちろん、ヒト・モノ・カネで悩んでいるのですが、何よりも「なんでこんなことに」という答えのない苦しみがあると思うんです。
 「成澤君、また会いに来てよ」と、よく経営者の方に声を掛けられます。これまで試行錯誤してきた僕の姿が、経営者には、身近に感じられるのでしょう。
 それまでは、自分の存在を、売り上げや偏差値を上げることで自分で示さなければいけないと思っていたのが、“ああ、相手が自分を示してくれるんだな”と、失明を通して分かったんです。

社会が人に合わせる番

 ――日本の職場状況も変化し始めている。国籍、年齢、性別、障がいなど、さまざまな違いをもつメンバーを活用しようと、ダイバーシティー(多様性)の推進が進む。

 同じような能力や価値観を持った人が集まっている職場は、一見働きやすそうに見えます。でも、そういった似たような人たちばかりが集まると、どうしても互いを比べ、人は劣等感や優越感に左右され、個々や組織の成長がゆがめられ、停滞してしまいがちです。
 一方で、さまざまな人が集まった組織には、自然と個々の強みを見いだし、それを生かそうとする力が働きます。さまざまな統計や、自分自身が関わってきた企業の例からも自信を持って言えます。
  
 ――「世界一明るい視覚障がい者」をキャッチフレーズにする成澤さんには、つくりたい未来がある。
  
 人生いろいろありました。理不尽に感じたこと、憎しみ……僕の中だけに閉じ込められていたら、それは「不幸」なんですけど、経験が人の役に立った瞬間、過去は「良い経験だった」と言い換えることができる。
 苦しさを今抱えている人の経験は、必ず全て後で生きてきます。将来が不安? 100%大丈夫です!
 こう言うと「何が大丈夫なんですか!」と逆ギレするお母さんもいます(笑い)。“大丈夫慣れ”していないのですから、そこはしょうがない。でも、それでも言い続けます。僕が悩んでいた頃、「絶対に大丈夫」と言ってくれる人はいませんでした。だから、僕は「自分が出会いたかった人」になろうと決めているんです。
 目の見えない1歳児を育てるお母さんに、「うちの子は結婚できるでしょうか」と聞かれたことがあります。僕はこれを、「ずっと寄り添ってくれる人や会社や組織はありますか」という問いだと受け止めました。親はいつか亡くなるし、僕もそうです。でも、理念や哲学というのは死なない。だから経営者として、「みんな大丈夫!」と言える理念、哲学を社会に植え付けたい。
 社会に人を当てはめるのではなく、「社会が人に合わせていく」番が来ています。人の強み、良さを周りが見いだしていかなくてはいけない。多様性とは、比べる相手がいないことだと思っています。一人一人が胸を張って働ける時代をつくりたいですね。

 

 なりさわ・しゅんすけ 1985年、佐賀県生まれ。NPO法人FDA(Future Dream Achievement)理事長。網膜色素変性症により、20代前半でほぼ見えなくなる。2011年、NPO法人FDAの事務局長に就任。16年、理事長に就任。同年、月刊DIAMONDハーバード・ビジネス・レビューの「未来をつくるU-40経営者」に選出される。17年、第31回人間力大賞経済産業大臣奨励賞・全国知事会会長奨励賞受賞。18年、第8回「日本でいちばん大切にしたい会社」大賞実行委員会特別賞受賞。著書に『大丈夫、働けます。』(ポプラ社)。

 【編集】宮本勇介 【写真】石川大樹 【レイアウト】三國秀夫


今なら分かるけど、当事者だったころは精いっぱいだったもんなぁ。

子どもにはなかなかできなかったけど、孫にはできる加点法。

ポジティブシンキングで…といっても分からないかもしれないけど、50歳を超えた今の自分なら言えるよ。

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