〈健康〉 適応障害
2018年5月27日 聖教新聞
厚生労働省の調査によると、2014年の精神疾患患者数は392万人でした。ストレス社会といわれる現代は、精神科・心療内科の診療やカウンセリングを受けている人が多くいます。今回は、そうした精神疾患のうち「適応障害」について、西伯病院(鳥取県南部町)の院長補佐を務める長渕忠文さん(医学博士)に聞きました。
どんな人であっても、つらいことや思い通りにならないことに直面することは避けられません。こうしたことを私たちはいわゆる「ストレス」として感じます。
ストレスがあると、不安や憂うつになったり、投げ出したくなったりするのは当然のことでしょう。
ですが適応障害では、こうしたストレスに対する反応が、多くの人が感じる以上に強く表れ、仕事や学業など、社会生活に影響を及ぼしてしまいます。つまり、適応障害の症状は、誰もが体験する反応と、重症度が違うと捉えることができるのです。
ある人にとってはストレスに感じることであっても、他の人もそうであるとは限りません。個人によってストレスの感じ方や耐性は異なるのです。従って、あるストレスには極端に弱い人であっても、他のストレスには強いというようなこともあります。
主なストレスの要因は、仕事や家庭・学校生活、恋愛などです。仕事であれば、上司との関係や環境の変化、仕事の量や責任の重さなどがあります。家庭では、夫婦関係、嫁しゅうとめ問題、育児や経済的な問題などです。また、いじめや進学、結婚や失恋などさまざまなものが挙げられます。
世界保健機関の診断のガイドライン(ICD―10)によれば、適応障害とは「ストレス因により引き起こされる情緒面や行動面の症状で、社会的機能が著しく障害されている状態」と定義されています。
さらに、「発症は通常生活の変化やストレス性の出来事が生じて1カ月以内であり、ストレスが終結してから6カ月以上症状が持続することはない」とされています。
つまり、きっかけとなるストレスがはっきりとしている点が、気分障害や不安障害との違いといえます。
そして、頭痛やめまい、だるさや発汗、吐き気など、体の症状が起こることもあります。
先に述べた通り、ストレス因から離れると症状が改善することが多く見られます。これが、同じような症状を呈する「うつ病」との大きな違いです。うつ病では、問題が解決したり、何か良いことがあるなど環境が変化したとしても、憂うつな状態が持続するものです。
周囲に相談できる人や支援してくれる人がいなかったり、多忙であったりすると適応障害になりやすいと考えられています。加えて、元来ストレス耐性が低かったり、経験が不十分だったり、対処能力が低いと、なりやすいとされています。
ただし、こうした観点も、あくまで相対的な見方であり、適応障害の発症には、ストレスの因となる出来事が、本人にとってどのような意味を持つかが重要なのです。
最近は、各事業所での「ストレスチェック」など、メンタルヘルスが義務付けられています。また、「スクールカウンセラー」などが配置されている学校も増えてきています。憂うつな気分が続くと、食欲なども減退し、それが続く(慢性化する)と、「うつ病」へと進行してしまうことが多くあります。
早期に適切な対処や治療をすることで、多くの適応障害は回復します。強いストレスを感じたら、早めに周囲の人に相談するなど、支援を求めることが大切です。
実際の治療としては①ストレス因の除去②本人の適応力を高める③薬物療法などがあります。以下、それぞれについて紹介します。
◇
①ストレス因の除去
まずは、しっかりと休養を取り、原因となっているストレスを回避するようにします。周囲の人による環境改善(調整)も有効でしょう。ですが、ストレス因は除去できるものばかりではありません。だからこそ、悩んでしまう人が多いのです。
また、過剰な配慮は、かえって症状を悪化させることもあります。
加えて、ストレスの安易な回避は、社会適応の機会を失ってしまうことにもつながりますので注意が必要です。
②本人の適応力を高める
その人のストレスの受け止め方には、一定のパターンがあることが多く見られます。こうした捉え方に働き掛けるのが「認知行動療法」です。いわゆる、その人の考え方の癖に着目し、合理的な方向へと修正するのです。
また、ストレスの多くを占めると考えられる対人関係に焦点を当て、感情に変化をもたらせる「対人関係療法」などもありますが、いずれの場合でも、治療を受ける人が主体的に取り組むことが大切です。
③薬物療法
不安や不眠などの症状に対してはベンゾジアゼピン系の薬剤が、うつ状態の症状に対しては抗うつ薬が用いられることがあります。
近年、「SSRI」という副作用が少ないとされる抗うつ薬がよく使われています。ただし、薬剤だけでは根本的な治療とはなりません。
本人が主体的に治療に取り組めるよう、環境を調整したり、サポートをしてあげてください。
特に、ストレスがない時は症状が見られないため、詐病・仮病であると疑われたり、気の持ちようではないかと思われてしまうこともあります。
ですが、本人にとっては、とてもつらい状態なのだということを分かってあげてください。
自分が適応障害と診断されたのは2年半も前になるんだなぁ。
前々職の会社では、社長からして理解されず、結局は退職を余儀なくされたわけだ。
『ストレス因の除去』なんて言われても、簡単に除去できることは少ないんじゃないのかね。