〈幸齢社会〉 オジサンの「孤独」が危ない
2018年5月30日 聖教新聞
オジサン研究家 岡本純子さん
孤独は、たばこや肥満よりも病気になりやすく、日本の中高年男性が危ないと語るコミュニケーションの専門家・岡本純子さん。著書『世界一孤独な日本のオジサン』(角川新書)が話題です。男性には少し耳が痛い話ですが、岡本さんに孤独の解消法を聞きました。(写真は本人提供)
近頃は医学的な研究でも、心疾患や精神疾患のリスクを高め、認知機能が衰えることも明らかに。孤独は“万病のもと”と憂慮され、英国では今年1月に「孤独担当相」の新設が公表されました。
欧米に比べ、日本では「おひとりさま」の言葉に代表されるように、孤独を肯定的に捉えるケースが目立ちます。否定的な捉え方は「孤独死」くらいでしょうか。
孤独には、独居など物理的な孤立と、ロンリネスと表現される主観的な思いの、二つの意味があります。問題は、後者の“頼れる人がいない”などの精神的なもので「1人=孤独」ではありません。
誰かと一緒だが孤独な人もいれば、独居だが人と交流し孤独を感じない人もいます。ただ、日本は友人との交流が少なく“世界一孤独な国民”とも。福祉などが恵まれていても、幸福度は高齢な人ほど下がる傾向で、中年期が最も不幸で高齢になると幸福度が増す欧米とは違います。
要因には、ボランティア活動や地域での人とのつながりを示す「ソーシャルキャピタル(社会関係資本)」の数値が、日本は低いことが挙げられます。幸福と健康に影響する注目すべき点です。
働き盛りの男性会社員に尋ねると、「仕事以外で人との付き合い方が分からない」という人も。経済的な理由より“定年後の孤独”が怖くて、いつまでも働きたいと考える人もいます。たとえ「仕事が生きがいではない」と働いてきた人でも、いざ退職すると「何を目的に生きればいいか分からない」と途方に暮れる人が少なくないのです。
一方、妻は地域に密着して暮らし、夫が定年を迎える頃は習い事や趣味なども充実。親しい“頼れる人”の数は、夫の何倍もいるもの。そんな中、退職後の夫が頼りにするのが妻だけでは、夫婦関係も危うくなるでしょう。
退職して職場を失い、家庭にも「居場所がない」と嘆く男性たち。現役時代、会社は“社会の一部”だという認識が甘く、社会にいたつもりで“会社にいただけ”だったのかもしれません。
今からでも、地域やコミュニティーで、勤務先や肩書を言わずに自分が何者かを表す練習を始めましょう。便利な「名刺」は使わないように。
例えば、サラリーマン経験者は名刺がないと自己紹介ができず、「私は〇〇している(してきた)者です」と説明しても、相手が「だから?」と思う言い方が多いです。
コミュニケーションの基本は、相手に対して自分は何ができるのか――一方的な自己紹介ではなく“思いやり”が大切です。模範にすべきは、喫茶店や道端で展開される、中高年女性たちの何げない会話。どんな話題でもお互いに共感し、褒め合い、おしゃべりを延々と楽しんでいます。
とかく男性は、何か目的があって会話しますが、女性は話すこと自体が目的のようなもので、高いコミュ力の表れです。人とつながるのが不得手な男性は“オバサン化”することこそ、孤独を解消する処方箋といえるでしょう。
おしゃべりが苦手な男性は物作りや運動、趣味等のコミュニティー参加から始めてもいいですね。自ら「夢中になれるもの」「得意なもの」や「社会が求めているもの」を基にすれば、人とつながるのは難しくないでしょう。
コミュニケーションとは、サイエンス(科学)であり、アート(芸術)であり、スポーツのようなもの。学校で、「読む・書く」は教わっても「話す」教育を受ける機会は少なく、上手にできなくて当然です。少しコツを覚えたら自分らしくでいいのです。
最近、高齢者の孤立を防ぐ「サロン活動」が各地で活発です。でも、参加者の大半がオバサン。勝手なお節介ですが、オジサンたちも人とつながって生き生きしませんか。
自分は大丈夫だと思うけどね…って、この考え方が危ない!