ことのはのはね~奈良町から

演劇、アート、短歌他、町家での出会いまで、日々を綴ります。

奈良町にぎわいの家 つし2階アート企画&町家美術館レポート

2020-07-04 | アート
昨年度までの5年間、奈良町にぎわいの家で開催された展示企画をまとめた冊子を製作し、発行しました。以下、冊子冒頭の挨拶をまま、掲載します。(写真は冊子の一部)

奈良町にぎわいの家~展示企画の取り組み~ つし二階アート企画&町家美術館から

2015年4月に開館した奈良町にぎわいの家は、奈良町の目抜きにある、大正6年(1917年)に建てられた町家です。裕福な古美術商が建てたこの町家は、一般の奈良町家とは違い、規模も大きく、間取りも個性的です。2017年に、国の登録有形文化財に指定されました。
当館は節気ごとの行事や茶会、かまど体験など、昔ながらの暮らしの知恵や心地よさを、発信する町家で、美術館ではありませんが、町家ならではの空間を活かした展示企画を年間を通して行っています。この冊子はその中から、以下の二つの企画を中心にまとめたものです。

①つし二階アート企画…「つし二階」は通りに面した「店の間」の真上にあたる天井の低い部屋で、一般的に、物置や使用人の寝泊まりに使用されていた場所です。当館には、手前と奥の二部屋をつなぐ「にじり口」のようなものがあります。どのように使われていたのかはよくわかっていません。天井の低さとこの謎の出入口もあって、子どもたちには「忍者屋敷?!」と言われるような空間です。この企画は、当館、藤野正文事務局長の発案で、2015年10月より始まり、通算、20回を数えます。地元奈良の団体にコーディネートをお願いしました。2015~2017年度は、「奈良アートプロム」、2018~2019年度は、(一社)はなまる にお世話になりました。予算も少なく、登録有形文化財での難しい展示を、親身になって考え、挑んでくださったことに感謝しています。特に、野村ヨシノリ様、津嘉山裕美様、内田千恵様にはお世話になりました。御礼申し上げます。

②町家美術館…一階の広々とした座敷を中心に江戸時代後期の蔵や離れまで、館内全体を使っての展示企画です。伝統美術から現代アートまで様々ですが、作品を展示する度に、この町家の力に驚かされました。作品を活かしながら、家の空間も引き立つ…。作品も建物も見事に調和するのです。大正期、古美術商が建てたこの家は、今、新たな作品により、次の「美術」のありようを見せてくれているのかもしれません。

町家での作品展示は、美術館と違い、ガラス越しでなく、身近に鑑賞できます。「家」で見ることに価値があるのだと思います。それは、アートが特別なものでなく、私たちの暮らしと共にあるということ。作品の形と感性に日々触れる中で、新しい発見や発想が生まれ、考える力を耕してくれるということ。それが、この5年間、展示作品を鑑賞しながら感じたことでした。
最後に。展示専門施設でない当館が、これだけの展示を開催できたのは、関係者の熱意と愛があったからこそ。こうした創造への熱意に頼るだけでなく、私たちが作品の価値を理解し、日々の生業の中で、「必要なもの」として意識できるような文化を、「家で鑑賞する」ということから探っていけたらと考えています。
作家、及び関係者の皆様、本当にありがとうございました。
これからも「家」の可能性と、新たな町家空間での出会いに期待して。
多くの皆様の来館を今後もお待ちしています。 
                               奈良町にぎわいの家 総合プロデューサー  おの・こまち


 表紙


 町家美術館


 つし2階アート企画


ローレン・カペリ作品展&朗読会

2019-09-08 | アート
登録有形文化財「奈良町にぎわいの家」は、百年前に建てられた、エレガントで個性的な奈良町家ですが、町家空間とコラボした現代アート展を数多く企画しています。つし二階という天井の低い空間での展示は、今回で19回。そのつし二階と江戸時代の蔵で、現在展示中の作家が、ローレン・カペリさん。フランスのイラストレーターで絵本作家です。「Cap!」という新作絵本がフランスで出版されたばかり。その絵本の朗読会を9/7、開催しました。
朗読のスタイルは、ローレンがフランス語で読み、続いて、小町座の満田さんが日本語で読むというもの。というわけで、日本語訳を読む稽古を事前にしました。「Cap!」という絵本作品は、ジュニア向けの絵がふんだんにある、とてもぶ厚い本です。登場するのは1人の女の子。その女の子が人工物(人間の作った世界)のアスファルトの道を歩きながら、ふと、別の方へ、人間がいた元の世界、自然の中に入っていって…というお話です。読むにあたっては、大人になる前の女の子の硬質感、それと、怖れを知らない前に進むような気持ち(計算のない)、それから何より「絵」の広々とした感覚を大事に読んでほしい。芝居はしないで空気を伝える。そんな難しいことを短時間の稽古で、満田さんはなんとも自然に読みました。彼女の声は少し固く、たっぷり息を中々含まないのですが、その「含まない」感じが、女の子の硬質感が出たようで、リハーサルと本番の3回、よいものを見させてもらいました。
さて、リハーサルで初めて、ローレンが読み、ページをめくり、それにあわせて、満田さんが日本語を続けます。が、なんともローレンが良くて、私はフランス語はわからないけれど、発音が心地良くて、それを受けて満田さんが読むと、あらら、こういう時間が今、ここにあるなんて…と、ちょっと胸が詰まりました。ローレンの絵本はセリフが少なく、絵をたっぷり見せるのですが、その一ページをめくるまでの時間がもとてもゆっくりなのです。つまり、言葉がない絵をたっぷり、見られるのです。この「たっぷり」な時間、すっかり忘れていました。そういえば…生まれたぱかりの息子に聞いていようがいまいが、絵本を読んでいました。その時はもう、たっぷり時間があったので。こうした、絵本をゆっくりめくる手のことをすっかり忘れていたのです。ローレンの「絵」は、こうしたゆっくりとした時間の中で、生き生きと投げかけてきます。人が大きくなる時間、子どもがゆっくりでいい時間…。
ローレンを招いてくれたのは、キュレーターの内田千恵さん。フランスと往き来しながら、アーティストの発掘しています。朗読会には、この絵本の翻訳者やフランス語が堪能なお仲間も来館され、ローレンを囲んで、フランス語の心地良い響きが町家に満ちてました。
ローレンの展覧会は9/24(火)まで。蔵のドローイングはわくわくしますよ。ローレンの手の感触、いっぱいです。
お別れする時、背の高い彼女とハグしながら「フランスに来て!」と言われました。今の私には中々難しく…。
けれども、私たちはどこへ行かなくても、フランスの女の子に会えたり、その空気を感じることができます。優れた絵本や作品が、こうして日本に、奈良に来てくれるからです。是非、皆さま、ローレンの世界を体感しに、にぎわいの家にいらしてください。




















連休は~クリスチャン・ボルタンスキー展、フェルメール展、東洋陶磁美術館へ

2019-05-11 | アート
折に触れ、手にとる美術パンフレットがあります。フランスの現代美術家、クリスチャン・ボルタンスキーの冊子。二十代のころ、現代アートを見る機会がわりとありましたが、ボルタンスキーを初めて見た時、かなりはまってしまいました。手元のパンフには1990年とあり、ボルタンスキー最初の日本での展示だったとのこと。名古屋まで見にいったなあと懐かしく思い出します。作品はいわゆる「インスタレーション」、空間全体で作品を見せるのですが、ライティングや、影を意識した展示方法は、当時、まるで舞台美術を見るようで、私の演劇的なアンテナが、ピピピと反応したのだと思います。それは表面的なこととして、何より心に残ったのは、今回の展覧会にもあった、「モニュメント・オデッサ」のような作品でした。オデッサというと、あの名作、映画「戦艦ポチョムキン」のオデッサの階段のシーンはあまりに有名ですが、第二次世界大戦下で、ナチスが大勢のユダヤ人を虐殺した地でもあります。ボルタンスキーの作品は、その迫害された子どもたちの写真を掲げ、そこに灯りを照らします。ホロコーストによって命を絶たれた人たちの、白黒の写真がこちらを見つめ、光があてられている…。空間全体が「祈り」の場所になっている…というとありきたりな感想ですが、そのような空間であることは間違いありません。けれども、写真の1枚1枚や、金属箱の腐食の感触や、照明のコード…全体から受ける印象は、たしかに「死」を私たちの前に連れてくるのです。今、平和な場所にいる私たちとは違う、遠い人たちの「死」を身近に連れてきます。このあたりが、ボルタンスキーの作品の秀逸なところと勝手に思っていますが、「死」に対する独特の感触は、不思議なノスタルジーと透明感と、故人の写真がこちらを試すように私たちを見ている怖さ…は「人類の「死」の歴史を語るかのようです。優れたフィクションは「歴史」の核心を語る…と思うのですが、ホロコーストという、人類は素晴らしいことばかりしてきたわけでもないし、立派なわけでもない、という真実を、白黒の亡くなった人たちの、ぼんやりした眼差しの奥に見て、どきっとするのかもしれません。
今回の展示は、二十代のころ見た作品群と、それ以降のものも加わり、ボルンタスキーの集大成として、全体像を知るには良い展覧会でした。けれど、30年前に見た彼の作品が抱く「死」のもつメルヘンのようなイメージが、薄まっているような気もしました。今回、カラフルな電飾もあり、若い人たちはその前でスマホで撮影していました。全体の空間が、ボルタンスキー劇場のような劇空間として、ある種楽しめる場だったので、「死を静かに思索する」というところからは、かけ離れてしまったのかもしれません。が、彼の回顧展が開かれたことは、活気的なことでした。

同じ日に、後二つ、美術館のハシゴを。一つは大阪市立美術館のフェルメール展。当日チケットに長蛇の列が。多くの人でしたが、ガラスの奥の作品でなく、直接、フェルメールを見られたことは良かったです。が、東京のみの出品作品も多かったようで、レイアウトも含め、全体がやや散漫な印象を受けました。

最後は、中之島の東洋陶磁美術館へ。連休半ばでビジネス街はひっそり。でも、いやあ、もうすごく良かった!安宅コレクションが多いのですが、大大阪の富豪たちの審美眼のすごさ、大阪の商売人は、藤田美術館もそうですが、素晴らしいものを、ビジネスで得た財で購入したのです。本当にありがとうございました、と言いたい気持ち。もちろん、私など全く、専門家でも何でもないですが、通えるところにこんな場所があり、なんとも有り難い。今回の特集展の「朝鮮時代の水滴」は、かつての文人官僚たちのたたずまいが感じられるような…「書」の世界のお道具の楽しみというか、とにかくずっと見ていたい感じでした。常設の中で面白かったのが、「沖正一郎コレクション鼻煙壺(びえんこ)」。中国は清の時代に流行したもので、嗅ぎ煙草を入れておくための容器、つまり喫煙具です。装飾の細やかさ、色の華やかさ、材質の妙など、小さな鼻煙壺は、それ一つで世界を形づくっています。東洋陶磁美術館は本当にお薦めします。…あれ、ボルタンスキーが一押しだったんですけど…。

ボルタンスキー展


 朝鮮時代の水滴



 エレガントな鼻煙壺!




奈良町にぎわいの家・町家美術館企画「現代和みアートフェス」10/14まで

2018-10-11 | アート
にぎわいの家の町家美術館企画の第2弾、開催中です。キュレーターのイチゴドロボウさんが選んで下さった作家さんは、切り絵、絵画、イラスト、工芸、映像など、多様な作品を展示下さいました。現代アート、というと、何だか難しいイメージもありますが、今回はそんな概念を特に意識しなくても、わかるし、楽しく、身近に感じる作品が並びました。以下、参加下さった5名の方の紹介を。
①切り絵の下村優介さんの切り絵の「鳩」は、土間と座敷を飛んで?!います。額装の大作は床の間に。皆さん、その細やかで力強い切り絵の線に、びっくりされています。紙なので、雨の日には、鳩も少し曲がったり?!町家に鳥が飛ぶ景色は必見です。


②イラストと立体作品の鈴木ひょっとさんの特徴は、一見、伝統的なモチーフを使いながらも、現代のスマホや電気製品がアイロニーをもって、ちょっとこわく描かれていて、こちらは高校生に受けていました。色使いの鮮やかさもひかれるところ。


③蔵には、山本大也さんの絵画作品が。遠近感を強く感じる絵は、描いているものが手にとれそうな感覚になりますが、こうした手法のみの面白さに終わらないところが、山本さんの作品の特性でしょう。蔵全体の空気感が、山本さんの世界に。現代の静物画、「語らないもの」がただそこにある感覚、とでもいうような。このあたりが現代的であると感じました。


④代々続く鋳物師の家系の若手工芸作家、江田朋哉さん。新たな視点で作られた「茶釜」作品が、当館の茶室に並びました。また、スタッフによる、江田んさんの茶釜を使った茶釜披露茶会も開催され、展示とお茶と二度おいしい?!企画となりました。茶会に使われた茶釜には、小さな兎の顔がついていて、トランプの模様もあります。江田さんが茶会のお客様に「不思議の国のアリスから」と解説下さいました。茶釜で沸かしたお白湯もいただきましたが、とても美味しかったです。


⑤映像作品、メディアートの早川翔人さんの作品は、仏間と離れに。どちらも「フショ舞」というタイトル。金箔の仏間に鹿を従えた人物が踊る映像が。
離れの障子には、部屋に入った人の動きをセンサーが感知、それを反映して、ロボットのような影が現れ、歌が流れる中、踊ります。要は、作品を見た人が一緒に参加できる仕掛です。今回、この「フショ舞」について、早川さんに聞いて調べてみると、奈良は都祁に伝わる、ユネスコの文化遺産に登録された「題目立」の中で舞歌われるものだと知りました。展示の歌は、その歌詞を、早川さんと仲間たちが歌ったり、セリフも言いながら、障子の影が動くのですが、この「歌」が耳について離れないのです。これは私だけでなく、他のスタッフもそうで、何度も作品の前に立っていました。私は、この歌やセリフの「感じ」にまず驚きました。演劇のように大げさでなく、「ただ、歌っている」感じなのです。この歌と踊りの前に、「ずっとそこにいたいな」といった、大げさな感情でもなく、けれども不思議に感動している私がいて、早川マジックの温度感というか質感というか、ユーモアも兼ねた感覚は、これはすごいぞ、と思ったわけです。歴史や民俗を現代アートに落とし込むのは難しいと思うのですが、もしか、この歌が歴史的なものと知らなくても、全く今をこの歌が自立して生きている!といった、新たな体験を、この映像作品は与えてくれた気がしています。



この5名を選んで下さった、キュレーションのイチゴドロボウさんに御礼申し上げます。
この楽しい展示企画も14日まで。是非、ご覧ください。


つし2階アート企画vol.16「つうず_れ_る」開催中~9/30

2018-09-10 | アート
・奈良町にぎわいの家 つし2階のこと。
当館玄関すぐ表屋の2階は、つし2階と言って天井の低い部屋があります。時代劇のドラマで女中さんたちが寝起きするような天井の低い部屋を見ますが、そんな空間に良く似ています。ただ、当館の場合、空間を仕切る壁に茶室のにじり口のようなものがあり、一体、どのような意図で使われていたのかが、よくわかりません。そんな不思議な空間は、子どもたちにとってはまるで忍者部屋、思わず盛り上がってしまうようです。また、背の高い海外のお客様は、頭を下げないと天井についてしまい…。隠れ家のような、魅力的な空間です。

・つし2階アート企画
この狭くて天井の低い空間で、現代アート展示を始めてから、この秋で3年たちました。奈良アートプロムのサポートで、奈良や関西で活躍するアーティストの皆さんが、平面、立体、写真、音、などなど、この空間を使って実験的な展示を繰り広げてくれました。
9/30まで開催中の「つうず_れ_る- Communication / Miscommunication -」は本企画では二度目のキュレーションとなる、中野温子さん。中野さんの作業は、作品コンセプト、デザイン、制作進行上の言葉のやりとり、全てひっくるめて、それが最終展示にまで丁寧に反映されていきます。今回の企画は中野さんがイギリスで学ばれた折に出会ったアーティスト2名の展示ですが、「コミュニケーション」をテーマに、「つうじる」ところ、「つうじない」ところも含め作品にというあたりから、始まりました。ローラさんとは、奈良の小学生、中学生がスカイプを通じて、ローラの住むイギリスの朝と当館の夕方、映像の互いの顔を見ながら、子どもたちは、自分なりの「ホーム」(作品テーマ)を伝え、それを受けてローラが制作します。もう一人の作家、ルイーズには、来館者の方に手紙を書いてもらい、そこから「ホーム」を作品化する試みです。

・ローラ来日!
ローラさんは8月終わりに来日、実際につし2階で制作作業をされました。町家の2階の暑いこと…。本当にお疲れ様でした。作品は是非、見ていただくとして…。ローラとの出会いは私にとっては、とても大きいものでした。何が素敵かというと、何でも美味しくよく食べる!海苔、コンニャク、冬瓜?!
何というか彼女には変なバリアがなく…食だけでなく、佇まいや作品への向き合い方も、まさに今回の「つうず_れ_る」の作品テーマを、ローラ自身が体現され、それを私たちとの関わりにおいて還元してくれる、そういった感覚です。すっかりファンになりました。9/2にはローラと中野さんのアーティストトークも開催、制作までのノートも公開し、その中には、交流した子どもたちの言葉も沢山ありました。つし2階の奥にローラの作品が、そして、ルイーズさんの「ホーム」は階段上がってすぐの空間に。どうぞ、皆様、お見逃しなく!!

以下のホームページから、動画や制作過程をご覧いただけます。
https://tsushi2-art.wixsite.com/tsuzureru

奈良テレビで紹介した作家二人の写真

 ローラ・トンプソン

 ルイーズ・ローランド