ことのはのはね~奈良町から

演劇、アート、短歌他、町家での出会いまで、日々を綴ります。

小町座二人芝居「十六歳」稽古から 中学生おそるべし。

2022-08-21 | 小町座
「生きてきて良かった」というような感覚は、沢山あったら嬉しいけど、稀だからこそ特別にそう思うのでしょうね。
その「生きてきて良かった」的な感覚を、この週末が本番の二人芝居「十六歳」の稽古で持ちました。
だいたい、私の稽古はきついし、こわいし、口癖は「違う」ばかり。役者はどうしていいかわからない。
ただ、さすがに中学生と一緒の稽古は、きついトーンが落ちるか?いや、子供でも大人でも、言うことは一緒。求めるところは細かく指摘します。
今回、小町座代表の西村さんと、このところ、小町座常連の中学生、井原さんが二人でくみます。もちろん、二人とも、プロでないですが、西村さんは15年小町座で公演を続けてきました。また井原さんは小学校の頃から、私の朗読の舞台に立ってきました。
井原さんと初めて出会ったのは、小町座がしている地元小学校の放課後子ども教室でした。小学校低学年の時、毎回、かかさず来てくれて、お話やお芝居が好きな子なんだろうな、と思っていました。そこから、「朗読劇」に出てみる?と誘うと、喜んで出てくれました。
これは、私の好みの話になりますが、「芝居をしています」というタイプの子、つまり、見られることを意識し、きちんと大人の意図を汲めるタイプには魅力を感じません。子どもが、「ミニ大人」のような芝居をする必要はないし、すぐに大きくなってしまう、せっかくの貴重な時期に、本人とかけ離れたことをさせても、その時ならではの空気感や輝きは出ないと思うからです。
井原さんは、元々、型に入るタイプではなく、おっとりとしたタイプで、小学生の時は舞台のうえで、段取り忘れてぼーっとしていて、もう一人の年上の子が「こっちだよ」と面倒を見てくれていたりしました。
演劇をしたい、という子は、目立つことや華やかなことが好きな子も多いと思いますが。井原さんはそうでなく、自分のペースで時間を過ごせる子。自分の時間で絵を描いたり、何か作ったり。普段の会話も「私が」というような前に出るところは全くなく穏やかなので、舞台に上がった時の振り幅の大きさに、彼女を知っている者たちはびっくりします。もう、すごい飛び方なんです。書いた世界に共感して、自分でどんどん物語の中に入り、この作品の一員として、世界を作りたいと思っている、そういうタイプなんだ、ということが、本日の稽古ではっきりしました。
これは「演じることが好き」ということだけでないのでは、と感じています。私の書いた世界に共感し井原さんという肉体が共鳴し、思考し、外に向かって響きを与えてくれているということかなと思います。
こういうのを、作家冥利につきる、というのでしょうね。こんな経験をこの年になって中学生がもたらしてくれることの至福。
本日の稽古は、10日ほど間があいてのものでした。彼女が病気になり、稽古ができず、その間、オンラインで西村さんが一緒に稽古してはいましたが、稽古再開まで、10日以上たっていました。
それでフタをあけたら…今まで指摘していたことができていて、しかもきちんと「井原さんの役」になっていて、もうびっくりしたわけです。
どれだけ努力したのでしょうか、大変だったと思います。
井原さんは、アメリカの十六歳の少女を演じますが、そのキャラは天然で、しかも何事も善意にとり、少しおバカさんで、ひたむきで。井原さん自身のタイプとは、また違うのですが、出来てゆくんですね、作品を理解したいという気持ちが、役を作り上げていく。
パンフに彼女の言葉があり、決して、彼女は楽観論者でなく、今の世界の現実を、中学生なりに捉えていることがわかります。演劇がそんな明るいことばかりでない世界に向き合い、学びの場所になっているなら嬉しいのですが。
全く、今回の芝居は、決して明るくもなく、二人のキャストが、演じるというよりは、自分の肉体でしっかりと、「戦争」へ進むような世界へNO!と伝えてくれます。時に笑い、叫び、二人の(年齢がかなり違う!)「十六歳」は生き生きと舞台にいます。
たったの2回の公演にどれだけの力を二人が向けてくれていることか。
27日(土)の午後5時は、まだ少しチケットがあるとのことです。是非、二人のドラマをご覧ください。

稽古中。