ことのはのはね~奈良町から

演劇、アート、短歌他、町家での出会いまで、日々を綴ります。

奈良町にぎわいの家 蔵展示「前登志夫の世界~木々の声」より

2020-04-15 | 短歌
奈良町にぎわいの家は現在、5/6まで休館しています。蔵で開催中の前登志夫展ですが、5/26まで延期としました。現在、お家で過ごされる方も多いと思います。展示の様子を少し紹介して、前登志夫が歌った、山の空気を感じていただけたらと思います。(写真…前浩輔/歌意…喜夛隆子(歌人)



かなしみは明るさゆゑにきたりけり一本の樹の翳らひにけり『子午線の繭』
現代詩から出発した登志夫の第一歌集巻頭の名歌。 明るさのなかにすくっと立つ一本の木の一瞬の翳いに同化する、 いのちの根源的なかなしさ。

森出でて町に入りゆくしばらくは縞目の青く身に消えのこり『子午線の繭』
森にいる時間の方が長い作者は、森に差す陽光や風の匂い、 鳥獣の気配に包まれて野生の縞目を身に着けている。 その縞目は町に出てもすぐには消えない。




森ふかく入り来てねむる 青杉の梢を移る陽のひかり透く『繩文紀』
森へふかく入って眠っている。青杉の梢を移ってゆく透明な陽のひかりにつつまれて。

木を伐りしひと日の疲れいたはれば木伐りし森に月出づるなり『樹下集』
木を伐る仕事を終えた一日の身の疲れをいたわっておれば、その木を伐った山に月がのぼってきた。木も人も月のひかりに包まれる。



こんなにも木木たくましく在る日かな青葉の森にじふいち啼けり『落人の家』
こんなにも木々がたくましく存在する日、その青葉の森にジュウイチが啼いている。ジュウイチはカッコウ科の鳥、 慈悲心鳥ともいう。





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