op's weblog

文字通りのログ。経験したことや考えたことの断片のアーカイブ。

脱出速度を上げるMBAのプランニング

2010年02月16日 02時32分05秒 | Weblog
(エグジットやジョブホッパーの話ではないです。)

最近でもこういうエントリーを見かけることがあって、

米系MBAの人って、確かにこういう考え方の人が多い気がする: 切込隊長BLOG(ブログ) Lead‐off man's Blog

On Off and Beyond: 戦略は文字通りに理解するアメリカ

このゴールから逆算して計画を立てるやり方は、(日本の)ビジネス系の自己啓発本なんかでもスタンダードな処方箋になっているようだが、日本でも裏社会用語?で「絵を描かせる」という隠語があったような、という話はさておき、

別にアメリカのビジネススクールでないと教えないようなものではないのでは?と思った人も少なくないのではと思う。僕の場合はまず1980年代の米豪のトップライダー達のインタビューや、特にケニー・ロバーツ等のライディング教本*でこの“常識”についてさんざん読んできた。

*「ケニー・ロバーツ RIDE TO WIN」「ケニー・ロバーツ ロードレーシングテクニック (SANKAIDO MOTOR BOOKS)」「ハイスピードライディング」 
うわっ、キース・コードの著作、コレクターズ・アイテム化してるな…

コーナーリングのテーマは、立ち上がりでいかに直線的で長い加速ラインをとれるか、というものである。これが実現できるか否かで、コーナーリング・タイム全体が大きく左右されてしまうからだ。

突っ込みのスピードは犠牲にしても、脱出速度を高めていけば、それだけストレイトでのスピードを乗せられるころができるわけで、リーン区間で無理して稼いだタイムなどいとも簡単に埋め合わせて余りあるほどのタイムが稼げるというわけなのだ。

ケニー・ロバーツ 究極のレーシング・テクニック(ケニー・ロバーツ RIDE TO WIN) より

もっとわかりやすく表現した箇所をすぐに見つけることができないのだが、コーナーの脱出速度から逆算して旋回、ブレーキングを決めてゆくプロセスはもちろん、目標タイム(最終的なビジネス上の明確なゴール)の設定から、総合的な視点で優先順位をつけた区間毎の目標タイム(ステージ分けとステージ毎の目標等々)と降りてゆくやり方、PDCA、コミットメント、プロフェッショナルとしてのありかたなど、“問題”解決の手法、事例研究、実践方法について、前掲の教本のいずれにもこと細かに書かれている。

また、レースマシンを走らせるメカニックやエンジニア側のエピソードにも、同様の思考法をうかがわせるものを80~90年代には時々見かけた。但し、マシンや特定のレースにつぎ込めるリソースと要素毎の“限界性能”は予め決まっていることが多いので、「走りながら付け加えてゆく」「ゆきだるま効果」は期待できないところがビジネスとはちょっと違う。これはレーシングチーム運営のレイヤーの話で、これについてはそれこそハイテクベンチャービジネスよりもっとわかりやすくて生々しい事例を、F1関連のニュースサイトで毎日取得できる。

で、この「逆算手法」を学校はもちろん職場で教わることがまずなく、まして文化的遺伝子に刷り込まれているはずもない(「金持ち父さん」がベストセラーになったところを見ると、米国でも似たようなものだと思うが)日本でこれをやると、奇異な目で見られたり反発を買うことが、確かに僕の経験でも多かった。根本的に、日本の組織は、営利企業であっても周辺と中心が不明確で非内発的に定義され、呪術的/儀式的とも呼べる共同幻想に基づいて維持されていることが圧倒的に多いし、失敗したときのリスクが大きいので明確な目標設定も嫌がられるからだ(責任転嫁が可能な場合を除く)。


さらにノウハウの事例をバイクレース関連で挙げるなら、まず「目標の再設定」とフレディ・スペンサーの例が挙げられるだろう。スペンサーは1983年に史上最年少で最高峰クラスチャンピオンを獲得、2年後におそらく史上最後となるだろう同一年2クラス制覇を成し遂げた後、パッとした成績を残さないままフェードアウトしてしまった。当時のインタビューや引退後のレーシング・スクール*のレッスンの様子を見ても聡明さはうかがえるが、ビジョンと新しいステージに踏み出す勇気に関しては、史上屈指のライディングの天才もその後苦労して学ばざるを得なかったようだ。

*あらー、スクールだけでなくドメインまで手放してたのね…


個人的なキャリアだけでなくより大きなビジネスを含むビジョンについては、“史上最高のロードバイク・レーサー”の称号に異論はまず出ないであろう現世界チャンピオンのバレンティーノ・ロッシが傑出している。オートバイレース自体日本ではすっかりマイナーになってしまったが、ローレウス世界スポーツ賞候補の常連で、フェラーリがF1に引き抜きたくてたまらないロッシは世界的なスター・スポーツ選手である。圧倒的な強さだけでなく、業界の慣例やプロスポーツ界でのステータスを(意志を持って良い方向に)変えてみせた点を考慮すると、例えばミハエル・シューマッハやロジャー・フェデラー、タイガー・ウッズさえも凌ぐ存在と言える。ここらへんの話は以下の関連本に詳しい。ビジネス本としても一級品である。キーワードは「チワワ族」かな。

バレンティーノ・ロッシ 史上最速のライダー

バレンティーノ・ロッシ自叙伝(日本版)


今回紹介してきた本を読んでから、最近出た「V.ロッシのコーナリング (エイムック 1853)」を読むと、また色々と感慨深いものがある。



最新の画像もっと見る

コメントを投稿