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本当にちょこっとレビュー:『火星の人』(アンディ・ウィアー 著)

2015年08月13日 18時03分09秒 | Weblog
最近特にまずいなーと思うのは、「自分以外の要素」に生理的な部分まで左右される度合いが高くなっていることで。例えばPCの画面が不眠を誘発すると言われているけれども、僕の場合はそれを通り越してPCいじってないとすぐに眠くなるので困っている。他にも半年ばかり定期的に激しい運動する機会がなくなってから、夏バテがひどくなった、とか。まあこうなるのも自分自身の生物的な衰えによるものでもあるわけだが。


そんな僕とは対照的な生き方をしているとも言える方々のお話である『火星の人』(原題:The Martian)は、ある意味「本当のエリートの凄さ見せてやる!」のひとつの究極の形なわけだが、もちろんそこに妬ましさを感じることもなく楽しめる作品である。

先に書いてしまうと、有名なところでは映画にもなった『アポロ13』や、リアリティよりも疑似体験的な娯楽面が強かったが『ゼロ・グラビティ』の系譜に連なるだろう本作(映画版はどうなるんだろう)には、うってつけの「副読本」がある。国際宇宙ステーション(ISS)でデヴィッド・ボウイの『スペース・オディティ』を演奏したことでも有名なクリス・ハドフィールド氏が書いた『宇宙飛行士が教える地球の歩き方』(An Astronauts' Guide to Life on Earth)だ。プロの宇宙飛行士として宇宙へ行くために必要な要素(絶え間ぬ努力とそれを可能にする個人的素質、外的要因、そして若干の幸運、さらにそれらを有効に用いるためのノウハウ)について、自伝の形で記してある。もちろん、タイトルにあるように、宇宙飛行士への道のりで得られた知見はそのまま「充実した人生を送るコツ」として誰でも応用できる形でフィードバックされている。

さて、そんな「最先端の現場労働者」のほんのちょっとだけ未来を描いた『火星の人』についてまず驚くのは、作者が宇宙飛行士「ではない」ことである。全く宇宙開発に関係がないかどうかは不明だが、科学技術的側面のみならず、「宇宙飛行士として訓練を受けてきた人間らしい」心理描写まで効果的に描かれている(「副読本」を参照)。

そして、文庫版の解説でも指摘されているように、「余計な味付けなしで最高の料理」になっている。地球での陰謀も宇宙人も奇想天外な災厄もなし!「豊富な事実に裏付けられたリアルな(ちょっと先の)世界」を高解像度で描くことでこんな瑞々しい感触を味わえる作品ができるのだ。

ここらへん、僕がよく取り上げている『ベイビーステップ』に通じるものがある。まあ、ギミックや非現実的要素を慣例的に要求する読み手が多い漫画は小説より大変だが。

昔からシミュレーション小説に近いハードSF作品はあり、僕が序盤で脱落した『竜の卵』のように「ゴリゴリ」のものも少なくないのだが、『火星の人』はあくまで人間を中心に描いたことと、マニアックな題材ながらもバランス感覚がとても優れた書き手によって、感情移入しやすく楽しめる作品になっている。

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