福岡高裁宮崎支部が不当判決
石綿肺労災不支給取消川名訴訟の控訴審判決が3月19日、福岡高裁宮崎支部(田中哲郎裁判長)であり、原告の控訴を棄却する不当判決でした。
判決には、川名さんを支援してきた建交労宮崎農林支部、建交労九州支部宮崎分会、川名さんの友人など36名が傍聴にかけつけました。
控訴審に至る経過
原告の川名勝代さんの夫である故川名國男さんは、1948(昭和23)年1月から1964(昭和39)年8月までの16年7か月間、旭化成延岡工場で塩素ガス土管の継ぎ目やひび割れ、電解槽蓋の隙間を石綿リボンと目地材で目詰めをする作業に従事し続け、2006(平成18)年8月に死亡しました。
國男さんは、生存中に延岡労基署に休業補償等の請求を行い、死亡後は妻の勝代さんが遺族補償請求等を行いましたが、死亡原因は「血管炎症候群に伴う間質性肺炎」であり、石綿ばく露との因果関係は認められないとして労災不支給決定され、審査請求も再審査請求も斥けられました。そこで、勝代さんは、2010(平成22)年4月、宮崎地方裁判所に不支給処分の取り消しを求めて提訴しましたが、2013(平成25)年5月24日請求が棄却されたため、福岡高等裁判所宮崎支部に控訴していました。
原審の枠を一歩も出ない判決
控訴審判決は、「原判決と同旨の判断をして、これを棄却するものである」と原審の枠を一歩も出ない、まったく不当で無責任なものです。
高濃度ばく露でなければ石綿肺ではない
石綿ばく露について原審は、故國男さんが石綿作業に従事したことは否定できず認めたものの職業的(高濃度)でなかったとして否定しましたが、これもそのまま踏襲しています。もうもうとした石綿ばく露でなかったにしろ16年以上も石綿作業を続けているわけですから、相当なばく露をしていることは推察できるはずです。
典型的な胸膜プラークでない
石綿肺の要件である胸膜プラークについては、原告側が石綿肺の第一人者であり故國男さんの特徴ある胸膜プラークの存在を指摘している海老原勇医師の証人採用を要求したにもかかわらず、採用を拒否しました。これは、厚労省側の医師たちが主張する典型的な胸膜プラークがなければ石綿肺とは認めないという主張に裁判所も迎合したものと思われます。
石綿肺が先に発症しMPO-ANCAは後に出ていることは明らか
死亡原因である血管炎と石綿肺の関係については、「海老原医師の研究においても石綿肺とMPO-ANCA陽性を併発した事例は1例しか報告されていない」から認められないというわけのわからない主張で、切り捨てています。
原告側は、MPO-ANCA関連疾患と石綿肺の機序が重要だとして「石綿肺が先に発症し、MPO-ANCA数値の上昇は後に出てきているという証拠を示したにもかかわらずそのことにはまったく触れていません。疫学調査でも石綿ばく露者や結晶質シリカばく露者にMPO-ANCA関連疾患が優位に発症していることは明らかで、控訴審判決も関連を否定できないとみて原審判決に「ただし、MPO-ANCAが珪肺患者に高率に認められ、血管炎になっているとの報告もあり、亡國男の経過は石綿暴露や石綿肺の罹患との関連性が強いと考えられる」を補充しています。
石綿関連疾患の調査研究を国の責任で行え
判決後、宮崎弁護士会館で開催された「判決報告集会」で、成見暁子弁護団事務局長は「故國男さんのような事例は、まだまだたくさんあるはずです。石綿関連疾患について適切に診断ができる医師、医療機関はまだ限られており、長い潜伏期間を経て発症する石綿関連疾患の調査、研究が国の責任においてよりいっそう進められることが求められる」と述べました。
上告するかどうかは十分検討する
報告集会で上告するのかとの質問に対し、成見事務局長は「弁護団として検討し、(するかどうか)決める」と述べました。
勝代さんが支援者に悔しさと感謝を表明
原告の勝代さんは、報告集会の最後に「最初に申請してから7年、裁判を起こしてから4年が経ちます。認められず、本当に悔しい。毎回毎回裁判を傍聴していただき本当にありがとうございます。これからもよろしくお願いします」と胸の詰まる悔しい思いを表明しました。
建交労九州支部長崎分会 中里研哉