発達障がい・こころのやまい

専門外ながら相談を受けることがあり、その際に読んだ本や集めた情報を書き留めました(本棚9)。

「苦しいときは電話して」(坂口恭平著)

2020-09-20 15:32:54 | 自殺企図
苦しいときは電話して」(坂口恭平著)
講談社現代新書、2020年8月発行

自ら双極性障害(昔の躁鬱病)であることを公開し、作家活動ほかをしている坂口氏の最新刊です。
補足すると、「死にたいと思っているほど苦しいときは、私(坂口氏)のスマホに電話してください」ということです。
この電話を「いのっちの電話」と名付けています。

エッ?
個人情報保護が重視されるこの時代に、自分の電話番号を公開?

この疑問は、本を読み終わると解決します。
電話で話すことにより、相手を救い、自分も救われているのですね。

著者は「いのっちの電話」でたくさんのヒトと話をする中で、「死にたい」と思うときは驚くほどその思考回路が似ていることに気づきました。
それを「反省熱」とか呼んでいます。

これは一つの“症状”ではないか?
誰でも陥る可能性のあるパターン化した思考回路ではないか?
ならば対処法があるのではないか?
という斬新な発想。

精神疾患は思春期以降に発症することが多いとされています。
なぜ小学生では発症しないのか?
著者は「生活リズムがキチンとしているから」と推察しています。

朝起きて、ご飯を食べて、学校へ行き、
クタクタになって帰り、風呂に入ってご飯を食べて寝る。
この日課が決まっていると、ヒトは体調を維持しやすい。

しかし自由度が高くなればなるほど、かえって生活は乱れて心も安定しなくなるのではないか、と。
これを根拠に、
「調子が悪くてどうしようもないときは、
調子のよかった頃の生活リズムを思い出して真似てください」
とアドバイスしています。

なるほど、一理あるかもしれません。

それから、「死にたい」と悩んでいるときの体の状況は、
「何かを創造するとき」とよく似ている、という発見をしています。

24時間あなたは悩み考え続けられる状態で、
力が有り余っていて、
もうすでにアウトプット状態に入っていて、
 思考は毎秒外にあふれ出ている

悩むことは言葉が涌いてくること、
 だから「書くヒト」になれる

ここにも目からうろこが落ちました。
確かに、後世に名を残す小説家や芸術家は、精神疾患を病んでいる人が多いですね。

現在でも読み継がれている夏目漱石は神経症、
芥川龍之介は統合失調症と言われています。
北杜夫は自他共に認める双極性障害でした。

北杜夫氏の、
どくとるマンボウシリーズは躁状態の時の作品
自伝的な「木霊」「幽霊」などはうつ状態の時の作品
とされています。
私は後者の作品がたまらなく好きなんです。

坂口氏による自己&他人分析がメインのこの本、
今まで読んだことがないタイプです。
いや、現在精神科領域で行われている「当事者研究」(患者さん自身が自分を分析して語る)に似ているかもしれませんね。
悩める現代人の心の病理への羅針盤になり得る文章だと感じました。

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