発達障がい児(現在は“神経発達症“)は小学校入学前に、普通学級か支援学級か、選択を迫られます。
私もその就学前相談を担当していたことがありました。
保護者は「支援学級」を希望されることが圧倒的に多いです。
「レッテルが貼られて本人がかわいそう」
「将来、姉(妹)の縁談に支障が出る」
など、理由は様々です。
しかし障がい児本人にとって、不適切な振り分けをすると、つらい日々が待っています。
例えば、IQ80のお子さんがいたとします。
小学1-2年生時は何とかなるかもしれません。
でも四年生になってクラスのみんなが10歳になったとき・・・彼には8歳の知能・理解力しかないのです。
当然、授業にはついて行けず、
授業はじっと座って意味不明の話を聞き流す苦行と化します。
それが1日中、そして毎日続くのです。
▢ 教科書破り、爪はがし…発達障がい児が「通常学級」で見せたSOSと「特別支援学級」への壁
(2025/1/19:NBC長崎放送)より一部抜粋(下線は私が引きました);
小さい頃から「手のかからない子」だったA君。4歳半で自閉スペクトラム症(ASD)と診断された。IQは120。知的障がいを伴っていないため、小学校は「通常学級」への入学を選択した。しかし1年半後、A君は不登校となった。A君が不登校になるまでの過程を追いながら、診断のタイミングや学校・学級選びにおける課題を考える。
▶ 「静かすぎる子」の違和感
A君は幼い頃から「手がかからない子」だった。公共の場で騒ぐことはなく、おむつを替えている時には近くにあるベビーベッドの「使用法・注意事項」をじーっと見ているような子だった。 ただ、母親の心には小さな違和感があった。公園で他の子の輪の中に入らない。他の子が遊ぶ声を「うるさい」と言う。「…少し変わっているのかな?」―そう感じていた。
転機は3歳の時に訪れた。幼稚園の集団健康診断で、医師から「指示が通らないことがある」「足を引きずるような独特の動きをしている」との指摘を受け、障害福祉センターの受診を勧められた。 センターの予約を取り半年間の待機期間を経て受診。その結果、4歳半の時に自閉スペクトラム症との診断を受けた。
発達段階の確認(評価)をする長崎市障害福祉センター(もりまちハートセンター)。相談は完全予約制で、センターによると小児科の予約件数はここ数年右肩上がり。予約しても「半年待ち」の状態が続いているという。
▶ 「通常学級で大丈夫」
小学校入学を前にした発達障がいの診断。学校の選択はどうすべきなのか?両親は入学を前に、通学区域の小学校の教頭と面談した。A君は面談時とても落ち着いていて、教頭からは「通常学級で大丈夫だと思います。もし通常学級が難しいとなっても、通級指導教室には年度途中でも入れますから」との言葉をもらった。 通級指導教室とは、通常学級に在籍しながら週1〜2回、個別・小集団で自立活動を行う教室だ。 「先生が言うなら、きっと大丈夫」。教頭の言葉に安心し、さらに後押しされて、両親は通常学級での入学を決断した。
▶ 入学から5か月―担任の提案
しかし入学から5か月後の面談で、A君は担任から通級指導教室の利用をすすめられた。 担任: 「クラス全体に出した指示がA君に伝わらず、個別に指示を出す必要があります。夏休み後から週1回ペースで通級指導教室に通ってはどうでしょうか?」 担任の提案を受け、両親は「特別支援学級」への転籍を検討した。しかし壁にぶつかる。年度途中で「通常学級」から「特別支援学級」に変更することは原則できない、という制度的な制約だった。
▶ なぜ年度途中の転籍はできないのか
長崎市教育委員会によると、小学校の学級形態には以下のような選択肢がある。
(1)通常の学級
(2)通常の学級+通級指導教室
(3)特別支援学級
特別支援学級や特別支援学校を希望する場合、前年度の9〜10月頃までに申請書類を提出しなければならない。申請を受け、市は医師や臨床心理士らで構成する「教育支援委員会」で適切かどうか審議する。年度途中での変更は原則できない。 理由は、「文部科学省が定めたカリキュラムが異なるため、年度途中での変更は子どもの負担になる」。
【長崎市教育支援委員会】―長崎市教育委員会の審議機関。学識経験者、医師、公認心理士、臨床心理士、保育・福祉関係者、教員等で構成され、就学先などについて判断するが、あくまで参考意見。最終的には保護者と就学相談担当者で合意形成を図りながら決定する。
▶ 始まった自傷行為
夏休み明け、A君は通常学級に在籍したまま、週1回ペースで通級指導教室に通うようになった。しかしA君は次第に心身のバランスを崩していく。 ペースを乱されるのが苦手なA君は、片付けの時間に女子児童から世話を焼かれるたび、パニックを起こすようになった。 授業中には「ワーッ!」と大声で1時間ほど叫び続ける。ストレスで、左手の人差し指・中指・薬指の爪を剥がすようになる。 毎夜うなされ、歯ぎしりを繰り返し、犬歯はまっ平に。歯茎には白い水泡のようなものができ、前歯の神経を抜いた。
▶ 崩れていく心身のバランス
学年が変わると状況はさらに深刻化していった。 他の子どもたちの騒ぎ声に耐えられずパニックになると、教科書を床に投げたり、机をひっくり返したり、叫び続けたりする状態が続くようになった。静かな場所を求めて、廊下で本を読んだり、教師が使用する教卓の中に隠れて過ごすようになった。 ランドセルの中からは、ビリビリにページを破った音楽の教科書やマジックで塗りつぶされた漢字ドリルが見つかった。 そしてA君は母親に告げた。「もう無理です。教室が怖い。1年頑張ったから、もういいよね?」教室に入ることができなくなり不登校になった。
▶ 不登校、そして新しい一歩へ
不登校になったA君。自宅で過ごす中で、減っていた体重も5キロ戻り、笑顔をみせることも増えてきたという。今は、自宅や屋外施設でクロムブックなどを使って母親と勉強をしたり、ポケモンのゲームをしたりして過ごしている。 A君と両親は「特別支援学級」への転籍を市に申請、「教育支援委員会」での審議をへて、来年度から特別支援学級への転籍が決まった。
多くの同級生と同じように、できるなら「通常学級」に通ってほしい―、親としては誰しもそう願うと思う。でも今A君の両親は入学前の選択を後悔しているという。
A君の母親: 「年度途中であっても、通常学級から特別支援学級への変更に対し、柔軟に応じてもらえたら、もしかしたら二次・三次障害を防げたかもしれない…」
※二次障がい(自信低下・反抗)、三次障がい(不登校・引きこもり・反社会的な考えや行動)
A君の母親: 「入学前に子どもの話をたくさん聞いて欲しい。発達障がいの特性や状態を一番理解しているのは親です。その子にとっての‟普通”を先生に伝え、親が子の気持ちを代弁してあげてほしいのです。入学後も、子どもが発するSOSのサインを見逃さないよう、学校での様子を親子で話す時間を作ってください」
特別支援学級では、少人数での授業や個別の支援計画を通じて、A君が自分のペースで学ぶ環境が整えられる。音への敏感さを軽減するためのヘッドホンの活用や、対人関係の築き方やコミュニケーション取り方などを学ぶ機会も設けられる予定だ。
A君の両親は、彼が「できた!」という喜びを積み重ねていく姿を見るのを心から楽しみにしている。