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迎えたジロ・デ・イタリアで特に印象に残ったレースは第7ステージの個人TTでした。最後に4級山岳を駆け上がる40.6kmのコースで、アワーレコードホルダーのフィリッポ・ガンナが圧倒的な速さを見せます。第1中間計測(18.6km地点)をトップタイム(21分15秒)で駆け抜け、第2第中間計測(34km地点)も38分43秒をマークするハイスピードで最後の登りへ。平均スピードが47km/hに迫る46.831km/hで駆け抜けたガンナは52分1秒でフィニッシュ。
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このタイムをターゲットに最後にスタートしたポガチャルは、第3ステージに着用して物議を醸し、その後UCI(国際自転車競技連合)から正式に認められた紫のビブショーツを履いたポガチャルは、第1計測をガンナから44秒遅れで前半を終えます。そして第2計測でも47秒遅れで通過したポガチャルが、いよいよ登坂距離6.6kmの4級山岳に入ります。6.6㎞で47秒というタイム差は大きく、誰もがガンナのステージ優勝を考えたと思います。
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そもそもポガチャルはTTが得意という選手ではなかったのです。2020年のツール・ド・フランスの第20ステージでログリッジを大逆転しているものの、グランツールでのTTの優勝はこれだけだったのです。意外に思われるかもしれませんが、ポガチャルはTTに強い選手ではなかったのです。現に第14ステージのTTではガンナに敗れているのです。
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このステージでも平地ではガンナが圧倒的に速かったのですが、ラスト6.6㎞の登りで流れは一変します。重量のあるTTバイクで風のように駆け上がり、12%の勾配の坂を20㎞/hというスピードで走り抜け、上位の選手たちが平均時速29〜30kmで登るなかマリアローザは平均32.4km/hで踏み続け、ガンナよりも1分4秒早い登坂タイムをマーク。その結果トップタイムを17秒上回る51分44秒で駆けたポガチャルが、ガッツポーズする余裕も見せながら40.6kmを走り終えます。6.6㎞で47秒というタイム差を詰めるどころか17秒も上回るという圧倒的な強さを見せつけたのです。
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ポガチャル自身もTTに課題を持っていたようで、ここまでもレース後のクールダウンにTTバイクを使っていました。怪物が学習し進化しているのですから、強いのは当然なのかもしれません。レース後に「昨年のTT世界選手権以来となるTTバイクでのレースとなった。だがこのステージに向けて準備を進めており、前半はTTバイクに慣れるためイージーペースで進んだ。そして最後の山岳を全力で踏み込んだ」と答えています。
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ストラーデビアンケで80㎞を超える独走勝利を見ても、ポガチャルのエアロ対策が進化しているように見ています。あの重量のあるTTバイクであのスピードを出せるのなら、昨年末に発表されたコルナゴのY1Rsをグランツールの山岳ステージで使う可能性も出て来ています。流石に登りゴールでは軽量のV4Rsを使用すると思いますが、ポガチャルにとってバイクの重量よりエアロ性能が重要なのかもしれないのです。
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この勝利でライバルとの差を2分半以上に開いたポガチャルは、この後も4つの勝利を積み重ねジロを征してしまいます。Wツールを狙うポガチャルにとってここはあくまで通過点で、ライバルもツールとは全く違いました。とはいえ、2位のダニエル・マルティネス(ボーラ・ハンスグローエ)に9分56秒という大差をつけるのですから、進化した怪物は本当に強かった。
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