2023年7月 京都童心の会 通信句会結果
【選評】前半
○中野硯池
52 醒井や瀬音と霧と梅花藻と 三村須美子
醒井の景色を流れよく詠んでいる。かつての宿場も時代とともに忘れられつつある。近頃は、ます寿司と農家の新鮮な野菜市場で賑わっているようだ。
○金澤ひろあき選
特選 天 59 紫陽花の昼はと金の将棋かな 中野硯池
将棋の「歩」が敵陣で「と金」になると、鮮やかに変化します。紫陽花の劇的な色の変化を、将棋の歩からと金への変化で表現されています。この表現・発想が、前例がなく、新しい切り口であり、新鮮です。
地 44 山百合や弥勒菩薩の結ぶ印 三村須美子
広隆寺弥勒菩薩の、柔らかい頬にそっとあてる手や指の形。山百合の柔らかい佇まいの表現として生きています。
人 19 雨季終わる朽ちた戦車の笑い声 青島巡紅
ウクライナの戦地の映像を見る度に虚しい思いが起こるのです。戦争が終わった後も、その傷跡は残るのでしょう。この句にある「朽ちた戦車」のように。
他、気になる句です。
16 一日語ることなく桜桃忌 野谷真治
桜桃忌は太宰治の忌。六月一三日です。
太宰治本人は饒舌で賑やか(回りへのサービスかもしれないのですが)だったそうですが、作品は「一日無口」が似合います。作品世界と呼応していますね。
35 女医の顔芙蓉花似し微笑みて 野原加代子
こういう笑顔で、患者さんの心を和ませているのでしょう。こういう方にかかりたいですね。
○野谷真治特選
2 和平交渉ぱくぱくぱくと鯉の口 金澤ひろあき
和平交渉・・・。戦禍は、なお続く。哀しい日々。
鯉ぱくぱくと悲しい。ウクライナとロシアのことだろう。
○蔭山辰子特選
21 雨上がり駆け出す子供虹かかる 青島巡紅
明るい元気な子供たち。虹の色が目に浮かびます。
52 醒井や瀬音と霧と梅花藻と 三村須美子
53 高山植物無心に喜ぶ夫かな
54 伊吹山拒むや行くて霧の層
醒が井、伊吹山、びわ湖、なつかしい景色です。
○野原加代子特選
9 亡くなった人の追憶 蛍の明滅 金澤ひろあき
近所にある洛西小畑川公園に毎年蛍を見に行きます。蛍が飛び舞う姿は明かりが点いたり消えたりで、何とも言えない美しさを感じますが、同時に亡くなっている母や父が飛んでいるのではないかと面影が浮かびます。蛍の明滅は子どものころから慣れ親しんだ風情があります。私は父や母のように年老いてしまいましたが、父母を一瞬思い出す風景です。
○青島巡紅選
特選 2 和平交渉ぱくぱくぱくと鯉の口 金澤ひろあき
シリアスを笑いに変える。この句は川柳かも知れない。「ぱくぱくぱくと鯉の口」実に軽妙な言い回しなのに、妙にリアルにかつ皮肉に聞こえる。相互に自国の都合でしか語らない当事国の口そのものだ。利権が餌というわけで、調停役が餌撒く人だ。どんな問題にもシンプルな解答があるといった社会学者がいるが、現状では否である。
並選
5 幸せを絵に描いたら乳母車 金澤ひろあき
言い得て妙。母は生かすとは思わず嬰児も生かされているとも思わない。無償の不思議な平行線が何処までも続くことはない。その刹那が愛おしい。
6 胸の中通過列車ばかりが行く 金澤ひろあき
何かしたい、何かされたい、そのどちらもが特急か急行のように行き交う。自分ではどうすることも出来ない歯痒さが感じられます。
8 一緒に暮らさなかった年月が二倍になった 金澤ひろあき
家族と一緒に過ごした歳月、或いは一緒に暮らした相手との歳月、別離であれ、死による別れであれ、時の経つのは早いものだと気付かされる一瞬がある。
9 亡くなった人の追憶 蛍の明滅 金澤ひろあき
意識的に思い出しているのでない限り、ふとしたきっかけで思い出が単発或いは連続して蘇る。蛍火を持ち出したところに切なさと儚さを覚える。
11 しっぽ捨て敗者復活戦に出る 金澤ひろあき
尻尾を切り落とすのは逃げるためだが、この句では、肉を切らして骨を断つのような言い回しになっているところが面白い。
13 蝸牛のゆくストロベリームーン 野谷真治
アメリカ圏の6月の満月の呼び方。苺の収穫時期で月が赤く染まることが多いとか。別名「恋を叶えてくれる月」。蝸牛の恋はきっと成就したことだろう。そんなロマンスの夜。(雌雄同位体なので生殖器をお互いに受け入れ両方が卵を産みます。)
15 あまつぶつやつやつるんとつぼみ 野谷真治
言葉の音遊びだろうか。語呂は良い。酔い? フィルムのコマ送り、或いは4コマ漫画を見ている気になる。「あまつぶ/つやつや/つるんと/つぼみ」鉛筆の代わりに言葉で描いているのかもしれない。
16 一日語ることなく桜桃忌 野谷真治
6月13日。ファンなら知る太宰治の忌日。太宰忌とも。一日中黙して、彼の自殺に対して是も非もなく、そうなのだと答えのない自問自答の日となるのだろう。
32 初夏迎え生きていると深呼吸 野原加代子
巡る季節を当たり前として享受する年代とは真逆に年を重ねるとああまだここにいるありがたやとなりますね。
37 入道雲遠く空まで澄み渡り 野原加代子
僕の感覚で言うと宇治や城陽から車で京都市内に帰る時のそれである。特に朝一で墓参りを済ませ帰る時の大空は、この句の通りである。
40 梅干しの種舌で丸めて過ごす午後 三村須美子
口が淋しいときにふとしている。一人の時間の潰し方の一つとも取れるが、さて何をしようかと考えてちょっとした刺激が欲しいとそうしているとも読める。僕も意識的では無いがやっていることがある。
53 高山植物無心に喜ぶ夫かな 三村須美子
長年連れ添ってお互いに隠しているものがない、隠しきれない関係性はいいなと思う。
59 紫陽花の昼はと金の将棋かな 中野硯池
雨上がりの昼の紫陽花がより一層目を惹く色鮮やかを放っていることを詠っている。「と金」は将棋で「歩」が裏返って「と」と書いてある面になり、「金将」と同じ働きをする。駒の変化からすれば、上のような読み方が出来る。見事な言葉の選択です。
61 本堂の裏手に群れしシャガの花 中野硯池
作者の生き様が見え隠れする句です。矍鑠したお姿。飄々としたお姿。僕の勝手な理想を押し付けているだけかもしれませんが、死ぬ瞬間まで自分でいられる可能性を体現しているお一人に僕には見えるので。さて、シャガですが、葉っぱの形が鋭い剣を思わせ、人が踏み入らない日陰に花を咲かせます。それにちなんで「反抗」という花言葉があります。また、種も作らないにもかかわらず根茎が地下を這って沢山の花を咲かせることから「友人が多い」という花言葉もあるようです。
63 海鳥に臓物与へ沖膾 中野硯池
沖で取った魚を船中ですぐなますに作る。残ったはらわたは海鳥の餌とする。情景が目に浮かぶ。海原で食べる生きの良いなますは格別だろう。
○三村須美子特選
9 亡くなった人の追憶蛍の明滅 金澤 ひろあき
暗闇でゆっくり、ゆっくり移動しながらお互いを求めて明滅、その蛍を追いながら亡くなった人のことが思い出される情景が素直に表現されています。年を重ねるごと亡くなった親、こども、友のことが思われます。
※写真は高麗青磁の水差し。
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【選評】前半
○中野硯池
52 醒井や瀬音と霧と梅花藻と 三村須美子
醒井の景色を流れよく詠んでいる。かつての宿場も時代とともに忘れられつつある。近頃は、ます寿司と農家の新鮮な野菜市場で賑わっているようだ。
○金澤ひろあき選
特選 天 59 紫陽花の昼はと金の将棋かな 中野硯池
将棋の「歩」が敵陣で「と金」になると、鮮やかに変化します。紫陽花の劇的な色の変化を、将棋の歩からと金への変化で表現されています。この表現・発想が、前例がなく、新しい切り口であり、新鮮です。
地 44 山百合や弥勒菩薩の結ぶ印 三村須美子
広隆寺弥勒菩薩の、柔らかい頬にそっとあてる手や指の形。山百合の柔らかい佇まいの表現として生きています。
人 19 雨季終わる朽ちた戦車の笑い声 青島巡紅
ウクライナの戦地の映像を見る度に虚しい思いが起こるのです。戦争が終わった後も、その傷跡は残るのでしょう。この句にある「朽ちた戦車」のように。
他、気になる句です。
16 一日語ることなく桜桃忌 野谷真治
桜桃忌は太宰治の忌。六月一三日です。
太宰治本人は饒舌で賑やか(回りへのサービスかもしれないのですが)だったそうですが、作品は「一日無口」が似合います。作品世界と呼応していますね。
35 女医の顔芙蓉花似し微笑みて 野原加代子
こういう笑顔で、患者さんの心を和ませているのでしょう。こういう方にかかりたいですね。
○野谷真治特選
2 和平交渉ぱくぱくぱくと鯉の口 金澤ひろあき
和平交渉・・・。戦禍は、なお続く。哀しい日々。
鯉ぱくぱくと悲しい。ウクライナとロシアのことだろう。
○蔭山辰子特選
21 雨上がり駆け出す子供虹かかる 青島巡紅
明るい元気な子供たち。虹の色が目に浮かびます。
52 醒井や瀬音と霧と梅花藻と 三村須美子
53 高山植物無心に喜ぶ夫かな
54 伊吹山拒むや行くて霧の層
醒が井、伊吹山、びわ湖、なつかしい景色です。
○野原加代子特選
9 亡くなった人の追憶 蛍の明滅 金澤ひろあき
近所にある洛西小畑川公園に毎年蛍を見に行きます。蛍が飛び舞う姿は明かりが点いたり消えたりで、何とも言えない美しさを感じますが、同時に亡くなっている母や父が飛んでいるのではないかと面影が浮かびます。蛍の明滅は子どものころから慣れ親しんだ風情があります。私は父や母のように年老いてしまいましたが、父母を一瞬思い出す風景です。
○青島巡紅選
特選 2 和平交渉ぱくぱくぱくと鯉の口 金澤ひろあき
シリアスを笑いに変える。この句は川柳かも知れない。「ぱくぱくぱくと鯉の口」実に軽妙な言い回しなのに、妙にリアルにかつ皮肉に聞こえる。相互に自国の都合でしか語らない当事国の口そのものだ。利権が餌というわけで、調停役が餌撒く人だ。どんな問題にもシンプルな解答があるといった社会学者がいるが、現状では否である。
並選
5 幸せを絵に描いたら乳母車 金澤ひろあき
言い得て妙。母は生かすとは思わず嬰児も生かされているとも思わない。無償の不思議な平行線が何処までも続くことはない。その刹那が愛おしい。
6 胸の中通過列車ばかりが行く 金澤ひろあき
何かしたい、何かされたい、そのどちらもが特急か急行のように行き交う。自分ではどうすることも出来ない歯痒さが感じられます。
8 一緒に暮らさなかった年月が二倍になった 金澤ひろあき
家族と一緒に過ごした歳月、或いは一緒に暮らした相手との歳月、別離であれ、死による別れであれ、時の経つのは早いものだと気付かされる一瞬がある。
9 亡くなった人の追憶 蛍の明滅 金澤ひろあき
意識的に思い出しているのでない限り、ふとしたきっかけで思い出が単発或いは連続して蘇る。蛍火を持ち出したところに切なさと儚さを覚える。
11 しっぽ捨て敗者復活戦に出る 金澤ひろあき
尻尾を切り落とすのは逃げるためだが、この句では、肉を切らして骨を断つのような言い回しになっているところが面白い。
13 蝸牛のゆくストロベリームーン 野谷真治
アメリカ圏の6月の満月の呼び方。苺の収穫時期で月が赤く染まることが多いとか。別名「恋を叶えてくれる月」。蝸牛の恋はきっと成就したことだろう。そんなロマンスの夜。(雌雄同位体なので生殖器をお互いに受け入れ両方が卵を産みます。)
15 あまつぶつやつやつるんとつぼみ 野谷真治
言葉の音遊びだろうか。語呂は良い。酔い? フィルムのコマ送り、或いは4コマ漫画を見ている気になる。「あまつぶ/つやつや/つるんと/つぼみ」鉛筆の代わりに言葉で描いているのかもしれない。
16 一日語ることなく桜桃忌 野谷真治
6月13日。ファンなら知る太宰治の忌日。太宰忌とも。一日中黙して、彼の自殺に対して是も非もなく、そうなのだと答えのない自問自答の日となるのだろう。
32 初夏迎え生きていると深呼吸 野原加代子
巡る季節を当たり前として享受する年代とは真逆に年を重ねるとああまだここにいるありがたやとなりますね。
37 入道雲遠く空まで澄み渡り 野原加代子
僕の感覚で言うと宇治や城陽から車で京都市内に帰る時のそれである。特に朝一で墓参りを済ませ帰る時の大空は、この句の通りである。
40 梅干しの種舌で丸めて過ごす午後 三村須美子
口が淋しいときにふとしている。一人の時間の潰し方の一つとも取れるが、さて何をしようかと考えてちょっとした刺激が欲しいとそうしているとも読める。僕も意識的では無いがやっていることがある。
53 高山植物無心に喜ぶ夫かな 三村須美子
長年連れ添ってお互いに隠しているものがない、隠しきれない関係性はいいなと思う。
59 紫陽花の昼はと金の将棋かな 中野硯池
雨上がりの昼の紫陽花がより一層目を惹く色鮮やかを放っていることを詠っている。「と金」は将棋で「歩」が裏返って「と」と書いてある面になり、「金将」と同じ働きをする。駒の変化からすれば、上のような読み方が出来る。見事な言葉の選択です。
61 本堂の裏手に群れしシャガの花 中野硯池
作者の生き様が見え隠れする句です。矍鑠したお姿。飄々としたお姿。僕の勝手な理想を押し付けているだけかもしれませんが、死ぬ瞬間まで自分でいられる可能性を体現しているお一人に僕には見えるので。さて、シャガですが、葉っぱの形が鋭い剣を思わせ、人が踏み入らない日陰に花を咲かせます。それにちなんで「反抗」という花言葉があります。また、種も作らないにもかかわらず根茎が地下を這って沢山の花を咲かせることから「友人が多い」という花言葉もあるようです。
63 海鳥に臓物与へ沖膾 中野硯池
沖で取った魚を船中ですぐなますに作る。残ったはらわたは海鳥の餌とする。情景が目に浮かぶ。海原で食べる生きの良いなますは格別だろう。
○三村須美子特選
9 亡くなった人の追憶蛍の明滅 金澤 ひろあき
暗闇でゆっくり、ゆっくり移動しながらお互いを求めて明滅、その蛍を追いながら亡くなった人のことが思い出される情景が素直に表現されています。年を重ねるごと亡くなった親、こども、友のことが思われます。
※写真は高麗青磁の水差し。
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