午前中いっぱい西沢の看護をしていた英武が、仕事に戻って行った後を受け継いで輝は西沢の傍についた。
既に何日も目覚めないままで…動かない身体は弱っていくばかりだった。
毎日看護士が紫苑の身体を清めてはくれるが…風呂好きの紫苑はゆったりと湯に浸かりたがっているだろうなぁ…と輝は思った。
これじゃあ大好きなアイスクリームも食べられない…紫苑…起きなさい…。
好きなの買ってきてあげるから…。
ピクリとも動かない紫苑の手を握りながら…輝はあれこれと話しかけた。
ねえ…あの花籠はね…紫苑がよく写生に出かける公園で仲良くなった近所のお母さんたちからのお見舞いよ…。
紫苑…子どもに絵を描いてあげてたんだってね。
聞いたわよ…時々公園のお母さんたちとランチしてたんだって?
あんたは主婦か…?
ほら…あの水盤のは紅村先生がわざわざ活けて下さったのよ。
こちらのは花木先生からの…。
この部屋はまるでお花畑よ…。あなたを知るいろいろな方から送られてきたの…。
まさか二酸化炭素中毒になったりしないわよね…。
あんまり沢山あるから…ちょっと不安だったりして…。
カーテン開けとこうかしら…。
陽が傾きかけていた。
窓から見える空が薄く紅さして見えた。
今日も終わりねぇ…。
輝の唇から溜息がこぼれた。
扉を叩く音とともに滝川が仕事場から戻ってきた。
学校帰りのノエルが一緒についてきた。
今日は…と輝に声をかけると真っ直ぐに西沢の傍に駆け寄った。
「お疲れ…輝…有難うな…。 」
滝川はそう輝に声をかけた。
「あなたに礼を言われる筋合いはないけどね。
それより恭介…あなたちゃんと寝てるの? 顔色悪いわよ…。
今夜…私がついてるから…あなた…そこのソファベッドで横になりなさいよ…。
何かあったら起こすから…。 」
何時になく滝川のことも心配していてくれるようで、何だかくすぐったいような気分だった。
実際…滝川の疲れも目立ってきていた。
昼間はみんなで時間を割り振って交代で西沢についているが、夜はほとんど滝川が傍に付き添っていた。
時々有が代わってはいるのだが…有は夜にも仕事が入ることが多いので、どうしても滝川の方に負担がいってしまう。
亮やノエルには治療師の力が無いから重病人の体調が崩れやすい夜間の看護は任せられない。
西沢家の治療師…悦子も時々顔を見せてくれたが…先代の治療師が亡くなったばかりでまだ半人前だった。
「ノエル…冷蔵庫にチーズケーキがあるわよ…。
このふたりは甘辛両党だから…お菓子は常備品なの…良かったら食べて…。 」
有難う…とノエルは笑顔で答えたが…とても食べられる気分ではなかった。
西沢の傍に座ってじっと西沢を見つめていた。
「なあ…輝…人の子宮を使って新しい生命エナジーが合成できると思うか…?」
滝川は唐突にそんなことを輝に訊ねた。
ここしばらくあちこちの長老衆に生命エナジーを誕生させる方法について訊ねてみたが知っている者はいなかった。
「まず…普通じゃ無理ね…。 赤ちゃんとしてなら新しい生命エナジーを産めるだろうけれど…生命エナジーだけとなると…普通の女性では不可能だと思うわ。
それに私たちが生きるための生命エナジーは子宮で作っているわけじゃないでしょう…。」
そうなんだけど…ベースになる生まれたての無垢なエナジーが必要なんだ…。
「あいつ等も…そんなこと言ってたな…。
僕の身体あっちこっち調べて…新しい命の気を産めって…。
それを基にして大きな気を育むとか言ってた…。 」
思い出したようにノエルが呟いた。
滝川と輝は顔を見合わせた。
「ノエル…ちょっとこっちへ来て…。
輝…ほんの少しだけおまえのエナジーをノエルの子宮に入れてみて…。
試すだけだから…極々微量で…この位置が子宮のあるところ…。 」
ノエルの下腹を滝川がそっと指で示した。
分かったわ…と輝は頷いた。
傍に来たノエルのお腹に手を当てて…量の調節が難しいわね…と言いながら気を放った。
引き続いてすぐに滝川も自分の気をほんの僅かばかり同じ場所へ放ってみた。
滝川はそのままノエルのお腹に手を当てて様子を探った。
輝も少しだけノエルに触れて気の動きを感じ取ろうとしていた。
ノエルの子宮の中でふたつの気がぐるぐると活動を始めた。
それは確かに融合しようとしているように感じられた。
けれど…しばらくすると何かが邪魔をした。
突然…ノエルが顔を顰めた。
「痛い…お腹が…締め付けられるみたい…。 」
ふたつの気は融合半ばで動きを止めた。
気の勢いが弱まり…だんだんと薄れていった。
真っ蒼な顔をしてお腹を押さえ…ノエルはその場に蹲った。
「お腹ん中が剥がれそう…。 」
何かがお腹の中から流れ出してくるような感覚を覚えた。
あっと気付いた輝が慌ててバスルームからバスタオルを引っ張り出してきた。
急いでそれをノエルの身体の下へ広げた。
「恭介…流産よ…。 早く手当てしてあげて…。
ノエルの身体が危険だわ…。 」
滝川は急いで蹲ったまま動けないノエルをタオルの上に寝かせ、流産で傷ついたと思われる子宮の内部を手早く治療していった。
女性としては不完全なその子宮が…新しい気を宿す力を持っている。
微かな希望が滝川の中に芽生えた…同時に不安も…。
「済まなかったなノエル…苦しい思いをさせて…。 つらかったろう…ご免な。
だけど…これで取っ掛かりができた。
ノエルの子宮…条件さえ上手く合えば…新しい生命エナジーを生み出せる。
紫苑を救える…。 」
ノエルは驚いたような眼で滝川を見た。
今さっき味わったばかりのつらい痛みを忘れたかのように明るい笑顔を見せた。
「本当…? 紫苑さんを助けられる…? だったら…僕…こんなことくらいどうってことない…へっちゃらさ。
痛くても危険でも…何度でも試していいから…絶対に紫苑さんを助けてよ…先生。
紫苑さんの役に立つんなら…もう…この身体に文句言わない…。
命懸けで護ってくれた身体なんだ…。 」
紫苑が助かると聞いて嬉しそうなノエルを見ながら…滝川は複雑な気分だった。
ノエルに新しい生命エネルギーを生み出す力があることは分かった。
が…それに使用する男女のエナジーの量の加減が分からない。
おそらく量だけではない…男女の相性もあるだろうし…ノエルの身体や紫苑との相性もあるだろう…タイミングも考えなくてはならない。
何よりも…これ以上実験することは難しい。
何度も流産を繰り返せばノエルの身体は壊れてしまう。
切羽詰って急に思いついたとは言え、安易に実験したりしてノエルには申し訳ないことをしたと感じていた。
バイトを終えた亮が来るまで滝川はノエルを安静に寝かせておいた。
本当なら親に来てもらうのが当たり前なのだろうが…おそらくノエル自身が拒絶するだろう。
亮にことの次第を告げてノエルの世話を頼んだ。
西沢の回復に望みがでてきたことを満面の笑みで亮に話すノエルを見て滝川の胸が少し痛んだ。
男の子…ノエルには体験したこと意味が理解できてはいないだろうけれど…本来それはさらっと笑って済まされるようなことじゃない。
これが気ではなくて胎児であったなら、生涯消えない心の痛みと悲しみを伴うほどのこと…。
失われたものが気だからそれで済むという話でもない…。
気も…また命…。
とにかく早急に…ノエルの身体に負担をかけないような方法を考え出さなければならないと滝川は思った。
その夜ノエルは興奮してなかなか寝つかれなかった。
いつも悩みの種だったこの身体に…不思議な力が備わっている…。
命を救う鍵となるかもしれない力…。
紫苑の言葉を思い出していた。
『この世に意味のないものなんて…存在しないと僕は思っている。
ノエル…きみの身体にも必ず何らかの意味があるはずだ…。
・・・・・・僕にとってはきみの身体は大切な存在なんだよ・・・・・・。 』
ノエルの睫毛に絡んでいた涙が目尻を伝って頬を濡らした。
紫苑さん…待ってて…絶対…助けてあげるからね…。
「痛むの…? 」
亮がそっとお腹に触れた。いつもより腫れぼったく感じた。
「痛くは…ないけど…。 なんか…重い…。 腰とかも…。 」
亮はノエルがくすぐったくない程度の力で、ゆっくりお腹を擦ってやった。
「ご免な…僕にも治療の力があればいいのに…。 」
ノエルは…大丈夫だよ…と笑って見せた。
凝り固まったような腹部の重さは亮の手で擦ってもらうと少しは楽だった。
幼い頃…アイスやかき氷を食べ過ぎて腹痛を起こしては母親に擦ってもらったことを思い出した。
誰かを癒す時の人の手はなんて温かいんだろう。
「有難う…もういいよ…。 亮の方が疲れちゃうよ…明日手が動かないよ…。
僕…楽になったから…。 」
このくらい平気だよ…と亮は笑った。
「ノエルが寝つくまで擦ってやるよ…。
ちゃんと休めば…朝には回復してるはずだって滝川先生は言ってたけど…腰とかお腹とか調子悪いと眠れないだろう…。
本物の流産なら回復までにものすごく日にちがかかるんだってさ。
それに比べりゃ…ひと晩くらいノエルのお腹擦ってあげてもどうってことありませんって…。」
そんなに…大変なことなんだ…とノエルは改めて思った。
だけど…紫苑さんが受けた苦痛に比べれば…耐えられない訳がない…。
これしきの痛み何度受けたって構わないよ…。
僕の痛みのひとつひとつが紫苑さんの命に繋がっていくなら…。
滝川先生がきっと良い方法を見つけてくれるからね…。
それまで頑張って…紫苑さん…。
既に何日も目覚めないままで…動かない身体は弱っていくばかりだった。
毎日看護士が紫苑の身体を清めてはくれるが…風呂好きの紫苑はゆったりと湯に浸かりたがっているだろうなぁ…と輝は思った。
これじゃあ大好きなアイスクリームも食べられない…紫苑…起きなさい…。
好きなの買ってきてあげるから…。
ピクリとも動かない紫苑の手を握りながら…輝はあれこれと話しかけた。
ねえ…あの花籠はね…紫苑がよく写生に出かける公園で仲良くなった近所のお母さんたちからのお見舞いよ…。
紫苑…子どもに絵を描いてあげてたんだってね。
聞いたわよ…時々公園のお母さんたちとランチしてたんだって?
あんたは主婦か…?
ほら…あの水盤のは紅村先生がわざわざ活けて下さったのよ。
こちらのは花木先生からの…。
この部屋はまるでお花畑よ…。あなたを知るいろいろな方から送られてきたの…。
まさか二酸化炭素中毒になったりしないわよね…。
あんまり沢山あるから…ちょっと不安だったりして…。
カーテン開けとこうかしら…。
陽が傾きかけていた。
窓から見える空が薄く紅さして見えた。
今日も終わりねぇ…。
輝の唇から溜息がこぼれた。
扉を叩く音とともに滝川が仕事場から戻ってきた。
学校帰りのノエルが一緒についてきた。
今日は…と輝に声をかけると真っ直ぐに西沢の傍に駆け寄った。
「お疲れ…輝…有難うな…。 」
滝川はそう輝に声をかけた。
「あなたに礼を言われる筋合いはないけどね。
それより恭介…あなたちゃんと寝てるの? 顔色悪いわよ…。
今夜…私がついてるから…あなた…そこのソファベッドで横になりなさいよ…。
何かあったら起こすから…。 」
何時になく滝川のことも心配していてくれるようで、何だかくすぐったいような気分だった。
実際…滝川の疲れも目立ってきていた。
昼間はみんなで時間を割り振って交代で西沢についているが、夜はほとんど滝川が傍に付き添っていた。
時々有が代わってはいるのだが…有は夜にも仕事が入ることが多いので、どうしても滝川の方に負担がいってしまう。
亮やノエルには治療師の力が無いから重病人の体調が崩れやすい夜間の看護は任せられない。
西沢家の治療師…悦子も時々顔を見せてくれたが…先代の治療師が亡くなったばかりでまだ半人前だった。
「ノエル…冷蔵庫にチーズケーキがあるわよ…。
このふたりは甘辛両党だから…お菓子は常備品なの…良かったら食べて…。 」
有難う…とノエルは笑顔で答えたが…とても食べられる気分ではなかった。
西沢の傍に座ってじっと西沢を見つめていた。
「なあ…輝…人の子宮を使って新しい生命エナジーが合成できると思うか…?」
滝川は唐突にそんなことを輝に訊ねた。
ここしばらくあちこちの長老衆に生命エナジーを誕生させる方法について訊ねてみたが知っている者はいなかった。
「まず…普通じゃ無理ね…。 赤ちゃんとしてなら新しい生命エナジーを産めるだろうけれど…生命エナジーだけとなると…普通の女性では不可能だと思うわ。
それに私たちが生きるための生命エナジーは子宮で作っているわけじゃないでしょう…。」
そうなんだけど…ベースになる生まれたての無垢なエナジーが必要なんだ…。
「あいつ等も…そんなこと言ってたな…。
僕の身体あっちこっち調べて…新しい命の気を産めって…。
それを基にして大きな気を育むとか言ってた…。 」
思い出したようにノエルが呟いた。
滝川と輝は顔を見合わせた。
「ノエル…ちょっとこっちへ来て…。
輝…ほんの少しだけおまえのエナジーをノエルの子宮に入れてみて…。
試すだけだから…極々微量で…この位置が子宮のあるところ…。 」
ノエルの下腹を滝川がそっと指で示した。
分かったわ…と輝は頷いた。
傍に来たノエルのお腹に手を当てて…量の調節が難しいわね…と言いながら気を放った。
引き続いてすぐに滝川も自分の気をほんの僅かばかり同じ場所へ放ってみた。
滝川はそのままノエルのお腹に手を当てて様子を探った。
輝も少しだけノエルに触れて気の動きを感じ取ろうとしていた。
ノエルの子宮の中でふたつの気がぐるぐると活動を始めた。
それは確かに融合しようとしているように感じられた。
けれど…しばらくすると何かが邪魔をした。
突然…ノエルが顔を顰めた。
「痛い…お腹が…締め付けられるみたい…。 」
ふたつの気は融合半ばで動きを止めた。
気の勢いが弱まり…だんだんと薄れていった。
真っ蒼な顔をしてお腹を押さえ…ノエルはその場に蹲った。
「お腹ん中が剥がれそう…。 」
何かがお腹の中から流れ出してくるような感覚を覚えた。
あっと気付いた輝が慌ててバスルームからバスタオルを引っ張り出してきた。
急いでそれをノエルの身体の下へ広げた。
「恭介…流産よ…。 早く手当てしてあげて…。
ノエルの身体が危険だわ…。 」
滝川は急いで蹲ったまま動けないノエルをタオルの上に寝かせ、流産で傷ついたと思われる子宮の内部を手早く治療していった。
女性としては不完全なその子宮が…新しい気を宿す力を持っている。
微かな希望が滝川の中に芽生えた…同時に不安も…。
「済まなかったなノエル…苦しい思いをさせて…。 つらかったろう…ご免な。
だけど…これで取っ掛かりができた。
ノエルの子宮…条件さえ上手く合えば…新しい生命エナジーを生み出せる。
紫苑を救える…。 」
ノエルは驚いたような眼で滝川を見た。
今さっき味わったばかりのつらい痛みを忘れたかのように明るい笑顔を見せた。
「本当…? 紫苑さんを助けられる…? だったら…僕…こんなことくらいどうってことない…へっちゃらさ。
痛くても危険でも…何度でも試していいから…絶対に紫苑さんを助けてよ…先生。
紫苑さんの役に立つんなら…もう…この身体に文句言わない…。
命懸けで護ってくれた身体なんだ…。 」
紫苑が助かると聞いて嬉しそうなノエルを見ながら…滝川は複雑な気分だった。
ノエルに新しい生命エネルギーを生み出す力があることは分かった。
が…それに使用する男女のエナジーの量の加減が分からない。
おそらく量だけではない…男女の相性もあるだろうし…ノエルの身体や紫苑との相性もあるだろう…タイミングも考えなくてはならない。
何よりも…これ以上実験することは難しい。
何度も流産を繰り返せばノエルの身体は壊れてしまう。
切羽詰って急に思いついたとは言え、安易に実験したりしてノエルには申し訳ないことをしたと感じていた。
バイトを終えた亮が来るまで滝川はノエルを安静に寝かせておいた。
本当なら親に来てもらうのが当たり前なのだろうが…おそらくノエル自身が拒絶するだろう。
亮にことの次第を告げてノエルの世話を頼んだ。
西沢の回復に望みがでてきたことを満面の笑みで亮に話すノエルを見て滝川の胸が少し痛んだ。
男の子…ノエルには体験したこと意味が理解できてはいないだろうけれど…本来それはさらっと笑って済まされるようなことじゃない。
これが気ではなくて胎児であったなら、生涯消えない心の痛みと悲しみを伴うほどのこと…。
失われたものが気だからそれで済むという話でもない…。
気も…また命…。
とにかく早急に…ノエルの身体に負担をかけないような方法を考え出さなければならないと滝川は思った。
その夜ノエルは興奮してなかなか寝つかれなかった。
いつも悩みの種だったこの身体に…不思議な力が備わっている…。
命を救う鍵となるかもしれない力…。
紫苑の言葉を思い出していた。
『この世に意味のないものなんて…存在しないと僕は思っている。
ノエル…きみの身体にも必ず何らかの意味があるはずだ…。
・・・・・・僕にとってはきみの身体は大切な存在なんだよ・・・・・・。 』
ノエルの睫毛に絡んでいた涙が目尻を伝って頬を濡らした。
紫苑さん…待ってて…絶対…助けてあげるからね…。
「痛むの…? 」
亮がそっとお腹に触れた。いつもより腫れぼったく感じた。
「痛くは…ないけど…。 なんか…重い…。 腰とかも…。 」
亮はノエルがくすぐったくない程度の力で、ゆっくりお腹を擦ってやった。
「ご免な…僕にも治療の力があればいいのに…。 」
ノエルは…大丈夫だよ…と笑って見せた。
凝り固まったような腹部の重さは亮の手で擦ってもらうと少しは楽だった。
幼い頃…アイスやかき氷を食べ過ぎて腹痛を起こしては母親に擦ってもらったことを思い出した。
誰かを癒す時の人の手はなんて温かいんだろう。
「有難う…もういいよ…。 亮の方が疲れちゃうよ…明日手が動かないよ…。
僕…楽になったから…。 」
このくらい平気だよ…と亮は笑った。
「ノエルが寝つくまで擦ってやるよ…。
ちゃんと休めば…朝には回復してるはずだって滝川先生は言ってたけど…腰とかお腹とか調子悪いと眠れないだろう…。
本物の流産なら回復までにものすごく日にちがかかるんだってさ。
それに比べりゃ…ひと晩くらいノエルのお腹擦ってあげてもどうってことありませんって…。」
そんなに…大変なことなんだ…とノエルは改めて思った。
だけど…紫苑さんが受けた苦痛に比べれば…耐えられない訳がない…。
これしきの痛み何度受けたって構わないよ…。
僕の痛みのひとつひとつが紫苑さんの命に繋がっていくなら…。
滝川先生がきっと良い方法を見つけてくれるからね…。
それまで頑張って…紫苑さん…。
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