差し出された智哉の手の上で…光の粒子のベールに覆われた胎児は…それを透してでもはっきりと分かるほどに眩く輝いていた。
生まれたばかりの生命の気の神秘的な輝きに思わず知らず溜息が漏れた。
「おめでとう…ノエル。 」
感極まった滝川が思わず祝福の声をあげた。
ノエルは嬉しそうに眼を細めてその児を見た。
「亮くんも…おめでとう…。 いい児だ…。 」
智哉にそう言われて…亮は何のことかと戸惑った。
みんなの眼が意味ありげに自分に向けられていた。
「この児…亮の赤ちゃんだよ…。 」
亮に向かって穏やかな笑みを浮かべながらノエルが言った。
あっ…。 やっと気がついた亮は真っ赤になって俯いた。
久々にこの病室にも笑い声が響いた。
「父さん…早く…紫苑さんの身体に…。 」
ノエルに促されて智哉は慎重に胎児を運んだ。
滝川はノエルの傍から離れて西沢の方へ移動した。
代わりに有がノエルの手当てを始めた。
ノエルの身体に然したる異常がないことを確かめて有はほっと安堵の息をついた。
「その児と同じ光の印がある場所に置いてあげて…。
さっき…太極が僕の中に来て…教えてくれた。
そうすればすぐに全身にエナジーの基が行き渡るだろうって…。 」
ノエルの指示に従って滝川は西沢の身体の上でゆっくりと回転している光の粒子の群れを示した。
粒子の群れはすでに西沢の身体に深く根を張っているようだった。
智哉は可愛い孫…をそっとその光の揺り籠の中へ置いた。
粒子の群れはベールに覆われた胎児を優しく包み込み、西沢の体内へとゆっくり導いていった。
全身に染み渡るという表現がエナジーの場合にも当てはまるなら…それはまさに西沢の身体の隅々にまで染み渡っていった。
エナジーの基が全身に行き渡るに従って、翳りを帯びて蒼白くくすんでいた肌が徐々に健康な色を取り戻し始めた。
不意に西沢が大きな息をした。
意識がなくなって以来…初めて見せた反応だった。
それまで…申しわけ程度に呼吸を続けているのかと思われるほど弱々しかったものが、その後はだんだんと普段どおりのしっかりした呼吸に変わっていった。
呼吸の回復とともに弱まっていた心臓も確かな音を奏で始めた。
それに伴ってすべての器官が再び正常な活動を開始した。
「何だか…ちょっとほっとするね…恭介。 」
英武が嬉しそうに言った。
「赤ちゃんの様子はどう…? 」
西沢の内部を診ていた滝川に怜雄が訊ねた。
「すでに紫苑の身体の生命エナジーの基盤になってるよ。
紫苑は少しずつ自力で回復を始めている…。
まだちょっと眼を覚ますまでには時間がかかりそうだけれど…。 」
それを聞いてみんな胸を撫で下ろした。
輝が応接室の扉を開けて紫苑の養父母や相庭親子に朗報を告げた。
応接室から歓声が上がった。
応接室にはいつの間にか急を聞いて駆け付けた旭や桂、直行と夕紀を連れた克彦、谷川店長や千春が来ていた。
「痛っ…! 」
西沢の回復する様子を見たくて起き上がろうとしたノエルが再び屈み込んだ。
亮が不安げにノエルの腰を擦った。
「心配ないよ…ノエル。 器官が正常に動いている証拠だ。
収縮痛といってね…子宮がもとの大きさに戻ろうとする時に起こるんだ。
きみのはそんなに長くは続かない…それほど子宮は大きくなってないからね。
お母さんたちは何ヶ月もいろんな痛みに耐えてきみたちを産んだんだよ…。
産んだからお終いってんじゃなくて…産んだ後にも痛いのは続くわけ…。 」
有が安心させるように説明した。
うんざりした顔でノエルは亮を見た。
「僕…やっぱり男のままがいい…。 こんなの何ヶ月も続いたら死んじゃうよ。
お母さんになるってほんと…しんどい…。 」
亮は笑いながらノエルの肩を抱きかかえ丁寧にお腹を擦ってやった。
収縮痛には効かないかも…とは思ったけれど…気持ちだけ…。
智哉は…少し複雑な想いでその様子を見ていた。
なんだかんだ文句を言いながらノエルの…妊娠…の媒介をし…出産…の手助けをしてしまった。
こんな馬鹿な体験をした父親は他にはないだろう…。
在り得ない孫の姿…までこの眼で見てしまったんだから…。
夕刻、西沢の容態がかなり安定してきたので、祥と美郷は取り敢えず回復しつつある西沢の穏やかな寝顔だけを見て帰途についた。
ただでさえ弱ってきている病身の美郷の体調を案じて、家の方で休みながら紫苑の目覚めを待つようにと怜雄が勧めたのだった。
応接室の他の面々も相庭親子を除いて一旦帰宅して連絡を待つことになった。
病室で待機する面々はそれぞれソファなどで仮眠を取った。
特にノエルは疲れきってソファベッドの上でぐっすりと眠っていた。
有が時折…ノエルを起こさないようにそっと子宮の様子を診てやった。
滝川は…ベッドの傍らの椅子に掛けて西沢の寝顔を見つめていた。
心配していた腎臓の障害も出さずに…よくここまで頑張ってくれたよ…紫苑…。
代謝が良くなったせいか少し汗ばむようになった西沢の額をミニタオルで拭いてやりながら…万物に感謝したい気持ちで一杯になった。
恭…介…と西沢の唇が動いた。
滝川が慌てて返事をすると…それはまだ西沢の見ている夢の続きのようで…目が覚めたわけではなかった。
それでも微動だにしなかった今までを思えば…滝川にとって涙が出るほど嬉しい変化だった。
「恭介…コーヒー…。 」
輝が分厚いカップを渡した。
有難う…と受け取って滝川は西沢に眼を向けながら飲み始めた。
輝は自分も椅子を持ってきて滝川の横に座った。
「あなたには負けるわ…。 心底…紫苑が好きなのね…。 」
熱いコーヒーを啜りながら輝は言った。
滝川は少しにやっと笑った。
「年季入ってるからな…。 」
不思議な男だ…と輝は思った。
敵地へ乗り込んだ時点ですでに敵わぬ相手と百も承知…この男は紫苑とともに死ぬことしか考えていなかった。
そのことが逆に紫苑を生かす力になった。
紫苑はこの男を死なせたくないばかりに生き延びた。
仮に乗り込んだのが自分だったら…と輝は考えた。
敵地へ乗り込む目的は紫苑を助けるため…で死ぬためじゃない。
最終的に紫苑と一緒なら死んでもいいかなって覚悟を決めるだろうけれど…最初から死のうとは思わないでしょうね…。
まず…ふたり仲良くあの世行きだったわね…ついでに人類も全滅…。
ふうっと息を吐いて輝は立ち上がった。
滝川からカップを受け取ろうと手を伸ばした瞬間…西沢の指が微かに動いた。
滝川の目がその指に釘付けになった。
何かを…探している…。
恭…介…かろうじて声と思われる息の音が滝川の名を呼んだ。
僕を…探している…?
恭…介…再び紫苑が滝川を呼んだ。
滝川はそっと西沢の手を取った。
「紫苑…ここだ…。 僕はここだよ…。 迷ってないで戻っておいで…。 」
西沢の手が握り返した。
滝川の胸が高鳴った。
「紫苑…。 紫苑…。 」
滝川が息を飲んで見つめる中で…西沢はゆっくりと目を開けた。
ぼんやりと天井を見上げて…大きく息をした。
「恭…介…背中が…痛い…。 」
ちょっと顔を顰め…弱々しく微笑みながら西沢は滝川を見た。
滝川は無言で何度も頷いて…西沢の身体を横向きに変えてやり、丁寧に背中を擦り始めた。
西沢は…眠っている間に強張ってしまった身体を動かそうと試みた。
何だか…上手く動かせなかった。
「すぐ楽になるからな…紫苑…。 動けるようになれば…痛みも取れる…。 」
擦りながら滝川は…何度も涙を拭いた…流れ出した涙は容易に止まらなかった。
コーヒーカップを両手に呆然と立ち尽くしていた輝は、ようやく我に返ると大声でみんなを起こした。
応接室にまでその声は響き渡り…相庭と玲人が飛び込んできた。
我先にとみんながベッドの周りに集まってきたので、滝川はリクライニング式のベッドを操作して背もたれを作り、西沢を少しだけ起き上がらせてやった。
怜雄も英武も涙ながらにお姫さま紫苑の頬にキスして回復と再会を喜んだ。
輝とキスを交わし、有や相庭に抱きしめられ、智哉と握手を交わした。
玲人もそっと大切なお人形を抱きしめた。
「紫苑さん…! 」
ノエルが西沢の首に飛びついた。あたり憚らず西沢の胸に甘えた。
西沢はまだ強張っている両の腕を持ち上げてそっと抱きしめてやった。
「ノエル…有難う…。 つらかっただろうに…。 」
有難う…って言いたいのは僕の方…。紫苑さんに助けて貰ったんだもの…。
言いたいことがいっぱいあったはずなのに…ノエルは何も言えなかった。
紫苑が生きて…そこに居る…それだけで何も言うことはなかった。
「紫苑…。 」
亮がそう呼びかけた。顔中涙でくしゃくしゃになりながら…。
えっ…と驚いたような顔をして西沢は亮を見た。
「紫苑…僕等の代わりに…ひどい目に遭わせてしまって…ご免ね…。 」
亮はやっとそれだけを声に出して言った。後は声にもならなかった。
西沢が嬉しそうに微笑んで滝川を見た。
ひと通りみんなとの再会が済むと…滝川はベッドを元に戻した。
西沢が疲れてしまわないように…。
少し休むようにと西沢に勧めた。
みんなに見守られて西沢は再び眠った。
この眠りは生きるための眠り…明日また目覚めるための眠り…。
西沢の身体の中で新しい生命のエナジーが着々と成長を続けていた。
次回へ
生まれたばかりの生命の気の神秘的な輝きに思わず知らず溜息が漏れた。
「おめでとう…ノエル。 」
感極まった滝川が思わず祝福の声をあげた。
ノエルは嬉しそうに眼を細めてその児を見た。
「亮くんも…おめでとう…。 いい児だ…。 」
智哉にそう言われて…亮は何のことかと戸惑った。
みんなの眼が意味ありげに自分に向けられていた。
「この児…亮の赤ちゃんだよ…。 」
亮に向かって穏やかな笑みを浮かべながらノエルが言った。
あっ…。 やっと気がついた亮は真っ赤になって俯いた。
久々にこの病室にも笑い声が響いた。
「父さん…早く…紫苑さんの身体に…。 」
ノエルに促されて智哉は慎重に胎児を運んだ。
滝川はノエルの傍から離れて西沢の方へ移動した。
代わりに有がノエルの手当てを始めた。
ノエルの身体に然したる異常がないことを確かめて有はほっと安堵の息をついた。
「その児と同じ光の印がある場所に置いてあげて…。
さっき…太極が僕の中に来て…教えてくれた。
そうすればすぐに全身にエナジーの基が行き渡るだろうって…。 」
ノエルの指示に従って滝川は西沢の身体の上でゆっくりと回転している光の粒子の群れを示した。
粒子の群れはすでに西沢の身体に深く根を張っているようだった。
智哉は可愛い孫…をそっとその光の揺り籠の中へ置いた。
粒子の群れはベールに覆われた胎児を優しく包み込み、西沢の体内へとゆっくり導いていった。
全身に染み渡るという表現がエナジーの場合にも当てはまるなら…それはまさに西沢の身体の隅々にまで染み渡っていった。
エナジーの基が全身に行き渡るに従って、翳りを帯びて蒼白くくすんでいた肌が徐々に健康な色を取り戻し始めた。
不意に西沢が大きな息をした。
意識がなくなって以来…初めて見せた反応だった。
それまで…申しわけ程度に呼吸を続けているのかと思われるほど弱々しかったものが、その後はだんだんと普段どおりのしっかりした呼吸に変わっていった。
呼吸の回復とともに弱まっていた心臓も確かな音を奏で始めた。
それに伴ってすべての器官が再び正常な活動を開始した。
「何だか…ちょっとほっとするね…恭介。 」
英武が嬉しそうに言った。
「赤ちゃんの様子はどう…? 」
西沢の内部を診ていた滝川に怜雄が訊ねた。
「すでに紫苑の身体の生命エナジーの基盤になってるよ。
紫苑は少しずつ自力で回復を始めている…。
まだちょっと眼を覚ますまでには時間がかかりそうだけれど…。 」
それを聞いてみんな胸を撫で下ろした。
輝が応接室の扉を開けて紫苑の養父母や相庭親子に朗報を告げた。
応接室から歓声が上がった。
応接室にはいつの間にか急を聞いて駆け付けた旭や桂、直行と夕紀を連れた克彦、谷川店長や千春が来ていた。
「痛っ…! 」
西沢の回復する様子を見たくて起き上がろうとしたノエルが再び屈み込んだ。
亮が不安げにノエルの腰を擦った。
「心配ないよ…ノエル。 器官が正常に動いている証拠だ。
収縮痛といってね…子宮がもとの大きさに戻ろうとする時に起こるんだ。
きみのはそんなに長くは続かない…それほど子宮は大きくなってないからね。
お母さんたちは何ヶ月もいろんな痛みに耐えてきみたちを産んだんだよ…。
産んだからお終いってんじゃなくて…産んだ後にも痛いのは続くわけ…。 」
有が安心させるように説明した。
うんざりした顔でノエルは亮を見た。
「僕…やっぱり男のままがいい…。 こんなの何ヶ月も続いたら死んじゃうよ。
お母さんになるってほんと…しんどい…。 」
亮は笑いながらノエルの肩を抱きかかえ丁寧にお腹を擦ってやった。
収縮痛には効かないかも…とは思ったけれど…気持ちだけ…。
智哉は…少し複雑な想いでその様子を見ていた。
なんだかんだ文句を言いながらノエルの…妊娠…の媒介をし…出産…の手助けをしてしまった。
こんな馬鹿な体験をした父親は他にはないだろう…。
在り得ない孫の姿…までこの眼で見てしまったんだから…。
夕刻、西沢の容態がかなり安定してきたので、祥と美郷は取り敢えず回復しつつある西沢の穏やかな寝顔だけを見て帰途についた。
ただでさえ弱ってきている病身の美郷の体調を案じて、家の方で休みながら紫苑の目覚めを待つようにと怜雄が勧めたのだった。
応接室の他の面々も相庭親子を除いて一旦帰宅して連絡を待つことになった。
病室で待機する面々はそれぞれソファなどで仮眠を取った。
特にノエルは疲れきってソファベッドの上でぐっすりと眠っていた。
有が時折…ノエルを起こさないようにそっと子宮の様子を診てやった。
滝川は…ベッドの傍らの椅子に掛けて西沢の寝顔を見つめていた。
心配していた腎臓の障害も出さずに…よくここまで頑張ってくれたよ…紫苑…。
代謝が良くなったせいか少し汗ばむようになった西沢の額をミニタオルで拭いてやりながら…万物に感謝したい気持ちで一杯になった。
恭…介…と西沢の唇が動いた。
滝川が慌てて返事をすると…それはまだ西沢の見ている夢の続きのようで…目が覚めたわけではなかった。
それでも微動だにしなかった今までを思えば…滝川にとって涙が出るほど嬉しい変化だった。
「恭介…コーヒー…。 」
輝が分厚いカップを渡した。
有難う…と受け取って滝川は西沢に眼を向けながら飲み始めた。
輝は自分も椅子を持ってきて滝川の横に座った。
「あなたには負けるわ…。 心底…紫苑が好きなのね…。 」
熱いコーヒーを啜りながら輝は言った。
滝川は少しにやっと笑った。
「年季入ってるからな…。 」
不思議な男だ…と輝は思った。
敵地へ乗り込んだ時点ですでに敵わぬ相手と百も承知…この男は紫苑とともに死ぬことしか考えていなかった。
そのことが逆に紫苑を生かす力になった。
紫苑はこの男を死なせたくないばかりに生き延びた。
仮に乗り込んだのが自分だったら…と輝は考えた。
敵地へ乗り込む目的は紫苑を助けるため…で死ぬためじゃない。
最終的に紫苑と一緒なら死んでもいいかなって覚悟を決めるだろうけれど…最初から死のうとは思わないでしょうね…。
まず…ふたり仲良くあの世行きだったわね…ついでに人類も全滅…。
ふうっと息を吐いて輝は立ち上がった。
滝川からカップを受け取ろうと手を伸ばした瞬間…西沢の指が微かに動いた。
滝川の目がその指に釘付けになった。
何かを…探している…。
恭…介…かろうじて声と思われる息の音が滝川の名を呼んだ。
僕を…探している…?
恭…介…再び紫苑が滝川を呼んだ。
滝川はそっと西沢の手を取った。
「紫苑…ここだ…。 僕はここだよ…。 迷ってないで戻っておいで…。 」
西沢の手が握り返した。
滝川の胸が高鳴った。
「紫苑…。 紫苑…。 」
滝川が息を飲んで見つめる中で…西沢はゆっくりと目を開けた。
ぼんやりと天井を見上げて…大きく息をした。
「恭…介…背中が…痛い…。 」
ちょっと顔を顰め…弱々しく微笑みながら西沢は滝川を見た。
滝川は無言で何度も頷いて…西沢の身体を横向きに変えてやり、丁寧に背中を擦り始めた。
西沢は…眠っている間に強張ってしまった身体を動かそうと試みた。
何だか…上手く動かせなかった。
「すぐ楽になるからな…紫苑…。 動けるようになれば…痛みも取れる…。 」
擦りながら滝川は…何度も涙を拭いた…流れ出した涙は容易に止まらなかった。
コーヒーカップを両手に呆然と立ち尽くしていた輝は、ようやく我に返ると大声でみんなを起こした。
応接室にまでその声は響き渡り…相庭と玲人が飛び込んできた。
我先にとみんながベッドの周りに集まってきたので、滝川はリクライニング式のベッドを操作して背もたれを作り、西沢を少しだけ起き上がらせてやった。
怜雄も英武も涙ながらにお姫さま紫苑の頬にキスして回復と再会を喜んだ。
輝とキスを交わし、有や相庭に抱きしめられ、智哉と握手を交わした。
玲人もそっと大切なお人形を抱きしめた。
「紫苑さん…! 」
ノエルが西沢の首に飛びついた。あたり憚らず西沢の胸に甘えた。
西沢はまだ強張っている両の腕を持ち上げてそっと抱きしめてやった。
「ノエル…有難う…。 つらかっただろうに…。 」
有難う…って言いたいのは僕の方…。紫苑さんに助けて貰ったんだもの…。
言いたいことがいっぱいあったはずなのに…ノエルは何も言えなかった。
紫苑が生きて…そこに居る…それだけで何も言うことはなかった。
「紫苑…。 」
亮がそう呼びかけた。顔中涙でくしゃくしゃになりながら…。
えっ…と驚いたような顔をして西沢は亮を見た。
「紫苑…僕等の代わりに…ひどい目に遭わせてしまって…ご免ね…。 」
亮はやっとそれだけを声に出して言った。後は声にもならなかった。
西沢が嬉しそうに微笑んで滝川を見た。
ひと通りみんなとの再会が済むと…滝川はベッドを元に戻した。
西沢が疲れてしまわないように…。
少し休むようにと西沢に勧めた。
みんなに見守られて西沢は再び眠った。
この眠りは生きるための眠り…明日また目覚めるための眠り…。
西沢の身体の中で新しい生命のエナジーが着々と成長を続けていた。
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