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気がついたら、声に出ていた。僕が口に詰めていていたはずの布は、いつの間にか風に翻弄されながら谷底へと落ちていった。
アダムに頭を思いっきり殴られ、エクレアさんには弾かれたような勢いで振り向かれ、僕自身はというとすぐに手で口を塞いだけど、時既に遅し。
悪魔たちはこぞって僕に手を伸ばしてきた。
瞬間、ダァンッ! と脳みそを揺らすような大きな音がして、悪魔たちが一瞬驚いたように動きを止めた。
「赤色因子をターゲットに固定。攻撃術式『愛(かな)しみの風よ、今ここに』展開」
布を吐き捨てたエクレアさんが、銃を目の高さまで水平に持ちあげて構えていた。
「世界に緋色の奇跡を見せつけよ!」
悪魔の服や皮膚に付着した赤い塗料から火の手が上がった。驚いているのかそれとも賞賛しているのか、悪魔たちが声をあげている隙に僕たちは走り出した。
「馬鹿者がっ! 何をしておるのだ、おぬしは!」
「わざとじゃないんだ。ずっと話しかけられてて、それを無視しようとして彼女のことばかりを考えてたらつい……」
「まんまと奴らの術中にハマっておるではないか! 言わんこっちゃないとはこのことよ!」
「お二人とも、とにかく救貧院へ急ぎましょう。祭壇の中ならきっとやり過ごせます。司祭様から、何か怖いモノに追われたらそこへ隠れるよう言われてるんです」