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運良く旧世と懐古の町へ行くという音楽隊に出会えた僕たちは、彼らの馬車に乗せてもらった。道中、遠くに万年雪のかぶるケ・セルの山を望む他は、なだらかな緑の大地しかなかった。
「この三日、動くものもろくに見ておらんぞ。この先にちゃんと町はあるのだろうな?」
「もちろんだよ。アタシらが何年通ってると思ってるんだい。あそこは世界から取り残された、まさに旧く懐かしき町ってことさ」
退屈だとため息をつくアダムに、ほっほっほと見事な太鼓腹を揺らしてタヌキのおばさんが笑って答えた。
「そうそう! すすり泣くゴーストの泉とか、住む者を食っちまう屋敷とか、静かな町だけど意外にそういう話も多いんだぜ!」
「でも私、あの町だーい好き! かわいいお人形さんも多いし、 妖精の友達もたくさんいるし!」
「僕もあの町に行くの、楽しみにしてます。ラベンダーやゼラニウムの花がたくさん咲いてて、とってもきれいなんです……!」
ふわふわの獣耳を揺らした子どもたちが僕たちの周りに寄ってきてそう言った。彼らの目がきらきらと輝いているのとは対照的に、大人達は苦笑している。
「そいつらの言うように、あの町はメシも美味いし町並みも整えられてるし、俺らも好きなんだがなあ」
御者台に座る男性が重いため息をついた。
「先日おっしゃっていた例の呪い……ですか?」