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「それにしても、『薔薇姫の呪い』だなんて、知らなかったにしてはあの町の人たちもなかなか面白くてよい名前をつけたものよね」
最後にエルゼノーラさんはそう言って笑った。
「あの魔法は、『薔薇のまじない』というのよ」
それがどうして面白くてよい名前なのか、と首を傾げて、すぐに思い当たった。
『呪(のろ)い』という字は、『呪(まじな)い』とも読めるんだった。
町に戻ってきたときには既に日も暮れて、夜の黒に変わる前のくすんだ空色の上に、ぽつんと白い月のキャンデーが置かれていた。
食事をしながらあの廃墟について訊いてみたけど、「そんなのあったんだ」という答えがほとんどだった。ただたまに、六回目の命の猫などは
「ワタシが生まれるずっとずっと前はこの町ももっと大きかったと言うし、その名残じゃなァい? 町の図書館で文献でも調べてみたらいかが?」
という答えもあった。いや、そこまでする気はなかったけど。
翌日は朝日が昇ると同時に町を出た。昨日エルゼノーラさんからプレゼントされた小さな花束は、旅の邪魔になるので宿の花瓶に置いてきた。一晩経っても萎びることなく、五本の薔薇は咲き誇っていた。
けど僕の心は重かった。ナイトウォーカーの居場所を訊いたときの答えが、まだしこりのように残っていた。