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僕はエクレアさんに謝った。僕自身に後悔はなかったけど、僕のせいで最悪の状況にまで巻き込んでしまったエクレアさんには、感謝と同時に申し訳がなかった。でも彼女は気にしないでほしいと言ってくれた。
「それより、悪魔に見つかって逃げ帰ってきてしまいましたが、あなたはこれでよろしかったのですか?」
……良くはない。でも、あれ以上は無理だった。
「きっと『彼女』は悪魔ではなかったんだと信じるだけさ。ま、少し期待していただけに残念だけど」
苦笑と軽い口調に落胆の色を隠して、僕はそう返した。
翌日目覚めると、日は高く昇ったあとだった。食堂へ行くと、エクレアさんしかいなかった。司祭様は朝早くから出かけたということだった。
「昨日のこと、怒られたりはしなかった?」
「怒られたというよりは、『よくやりましたね』と」
「まあ他に言うこともなかろうて」
それにしても、とスープを飲みながら開いた食堂のドアの向こうを見て思った。上から射し込む光に照らされて、机や椅子、本棚が明るく浮かび上がり、わずかな風も感じられる。まるで昨日のことは夢だったんじゃないかと思えるぐらい、普通の朝だった。
僕がそう言うと、エクレアさんは軽く目を瞬かせて口元を緩めた。
「大丈夫ですよ。外に出てみれば、夢ではなかったと分かります」