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(白い皮手袋をはめた燕尾服の仮面の店員が一礼する)
「いらっしゃいませ。当店にご来店いただき、誠にありがとうございます。人間の男性一名様ご案内です」
(無貌の店員、濃紺地に金字で何本かの線が引かれたカードを渡す)
「ただ今ご利用頂いているお客様の数が少なく、すぐの相席にはなりませんのでご了承ください。お飲物、お食事はご自由に取っていただいて大丈夫です。それでは相席になるまで、少々お待ちください」
(無貌の店員、六人がけの広い席へ案内し、去る)
(無貌の店員、長針が半周した頃に現れる)
「失礼します。間もなく相席になりますので、お席からお立ちにならずにお待ちください」
(床が揺れるほどの足音を立てて、ライオンの身体に人間の顔を持つ大きな生き物が現れた)
「ほう、今宵の我輩の相手は人間の小僧か。まあ悪くはないな。我が輩はスフィンクスと言う。小僧、名は? ……うむ、我が輩を見ても恐れぬとは、見た目によらぬ剛の者よ。名も人間にしてはきらびやかだ。よろしく頼むぞ、ジャミーロ。
……我が輩たちの言語で、整った、素敵な、という意味だ。我輩がそう呼んでやると言うのだ、光栄に思うがよいぞ。
……うむ、それではさっそく食事といこう。ジャミーロ、ついてくるがよい。我が輩が直々に見繕ってやろうぞ。ほれ、そこの肉などどうだ? 香草のよい香りがしておろう。むっ、初めて見るがこの魚は止めておけ。骨ばかりで食った気などせんぞ。それよりは……」
(巨大な身体のスフィンクス、店員に席へ戻される)
「むぅ……。よもや、この神々しく凛々しい身体が不幸を呼ぶとは。なんと罪深いことだ。おお、そうだ。罪といえばジャミーロよ。このような謎かけを知っているかな?
……うむ、いくぞ。『荷運びの刑に処せられた三人の罪人がいた。一人目の罪人はせかせかと、二人目の罪人はのんびりと、三人目の罪人は寝る間もあるほどゆっくり周回し、一人目の罪人は小言とともに三人目を何度も追い抜かす』。さあ、こやつらは一体何者であるか?
……おお! そうとも、お前は頭が良いな、ジャミーロ。答えは『時計の針』だ。では次の問題はどうだ?」
(それから、短針が一回動くほどの時間、一方的な謎かけは続いた)
「失礼致します。只今順番に席替えのご案内を致しておりますが、いかがでしょうか」
「ふむ? 我輩はべつにこのままでもかまわんぞ」
「まだ相席していらっしゃらないお客様もいらっしゃいますし、よければぜひ」
「なるほど、確かにお前の言うことにも一理ある。よいだろう、席替えとやら、してもかまわんぞ。ジャミーロ、お前と話すのはなかなか楽しかった。また会うときがあればよいな」