本文詳細↓
太陽はまたもう少し西に流れて、黄色やオレンジの光が端からにじみつつあった。
「『彼女』は危険な人なんですか? でも、僕が昔会ったときは全然そんな感じしなかった。だからかな、あなたにそう言われても、ピンとこないんです。『彼女』のことは、僕が直接『彼女』と話して、知りたい」
じゃあどうして女性に縋り付いたのか。言えなかったけど、僕はちゃんとその答えを知っていた。
……あの蒼い月夜が夢ではなかっのだと、はっきりさせたかった。それだけだ。
文献を探して、流れの商人に聞いてみて、旅人に言伝を頼んで、それでも十年以上何もなかった。ただの妄想だったら、そう考えて怖くならなかった日はなかった。けど、そんなまとわりつく悪夢の霧も、今日晴れた。
『彼女』は――天使ナイトウォーカーは、この世界に実在する。
「……ありがとうございます。『彼女』の名前を、教えてくれて」
姿勢を正して、僕はただ頭を下げた。女性は何も言わずに僕の頭から手を離した。
「時に、おぬしは魔女だな?」
もう用はないからと辞そうとしたら、肩の上で器用にふんぞり返りながらアダムが女性に訊いていた。
「ええ、エルゼノーラと申します。初めてお目にかかりますわね、《雲を歩き海を呑む放浪者》」