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なんとか二人で心臓を宥め、意を決して踏み出せば、砂礫かガラスか、靴の下で擦れた何かがジャリッと音を立てた。
「はじめまして。僕はトルヴェール・アルシャラールと言います。風の精霊エアリエルの導きでここまで来ました。こいつは僕の旅の連れのアダムです」
祭壇に腰掛けていた女性は僕より少し年上なだけにも見えるし、でも雰囲気は悠然としていて、まさに時の艶をまとった妙齢な、と呼ぶのがふさわしい女性だった。
「へえ、エアリエルの。いったいどんな導きかしら」
「はい。僕はある人を探していて、その人について聞いて……みたく、て……」
「トルヴェール?」
訝しそうなアダムの声も聞こえてはいた。でも、耳を通り抜けるだけで脳には記憶されなかった。そのとき僕の目は一体の像に吸い寄せられ、他の全ては溶けるように消えていったからだ。
教会の壁に沿って、人の姿をした石造りの何かの像が並んでいる。風雨に晒されたせいか、目鼻立ちや細やかな衣装の輪郭は曖昧になっていて、元は美しかったであろう彩色も剥げてしまっていた。
それでも僕には分かった。祭壇の最も近くに立つ、輝く翡翠の玉を瞳に埋め込まれた像。真昼と夕暮れの間に横たわる白い光を浴びたその像が、
『彼女』を模したものだということが。