徒然日誌(旧:1日1コラ)

1日1枚画像を作成して投稿するつもりのブログ、改め、一日一つの雑学を報告するつもりのブログ。

理の月、旧世と懐古の町にて 12

2019-12-21 10:33:58 | 小説









 本文詳細↓



 女性は何故かしばらくアダムを見て、それから僕の髪を撫でた。
 「そう、あなたは彼女に会ったことがあるのね。そして再会を渇望している……。私は人間という種族にも、あなたという個体にも、特に興味なんてないから、今のあなたを応援するべきなのか哀れむべきなのか、決めきれない。だけどせっかく来てくれたんだもの、何も無しというのもね」
 僕の目を覗き込んできた彼女の瞳は宝石のように美しく、意思がまったく読めなかった。
 「彼女の名前はナイトウォーカー。か弱い人間をただ愛でていたいだけの天使たちの中で、最も歪んだ愛し方をする異端の天使。それだけを教えてあげる」
 それはどこか、あの暗い谷の夜を思い出させた。
 「たとえば、他の天使たちが嘘の縦糸と真実の横糸でこの《世界》という巨大な布を織り上げているとすれば、ナイトウォーカーはそれに鋏を入れて切り刻もうとしている。きっと今もね。性悪でしょう? あなたはそんな彼女に禁断の知恵の果実を与えられたのよ。この意味が分かるかしら。絶望と狂乱と破滅を招くそれを、あなたは飲み込むことができて?」
 廃墟に吹く風は、どこか砂っぽかった。
 それに気づくまでに、僕はどれだけの時間を要したのだろう。
 「あなたの言うことは、よく分からない」
 ようやく出てきた最初の言葉は、そんなものだった。



コメント
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